ニュースレター(2022年12月2日)パウエルFRB議長のコメント、米インフレデータ、米雇用統計を経て、金は8月半ば以来の高さへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1785ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.88%高と2週ぶりの高さへ上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から6.16%高のトロイオンスあたり22.65ドルと6ヶ月ぶりの高さへ上昇しています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.08%高のトロイオンスあたり1009ドルとほぼ5か月ぶりの高さへ上昇しています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は4.14%高のトロイオンスあたり1887ドルと上昇しています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週は再来週の13日と14日に行われるFOMCの前のブラックアウト(FRB関係者の金融政策に関する踏み込んだ発言が禁じられる)期間が土曜日に始まることからも、水曜日のパウエルFRB議長の発言に市場が注目していました。
ここで、利上げ期間は長期に渡るとしたものの、12月のFOMCで0.5%の利上げへと利上げ幅を緩める可能性が示唆され、また、昨日のFRBがインフレ指標と注目する個人消費PCEコア・デフレーションが予想を下回ったことも、利上げ減速観測をさらに進め、貴金属は株価同様に大きく上昇することとなりました。
しかし、本日の米雇用統計は予想を上回るもので、先の観測が若干後退することで、昨日の上げ幅を多少削ったものの、ドル建てで金はで8月半ば以来の高さ、銀は5月初旬以来、プラチナはすでに今週達していた11月半ば以来、パラジウムは前週の高さへと上昇しています。
金のテクニカル的分析において、直近のレジスタンスの1800ドルを破り、200日移動平均も今年6月以来初めて上回って前日終えたことに注目し、これらは強気市場を固める中で必要な要因と解説するMKS Pamp社のNicky Shields氏コメントが興味深かったので、このチャートを本日はお届けします。
赤い線が1800ドル辺りのレジスタンスで、黒の線が200日移動平均で今年6月以来金価格はこの線を下回って推移していたことが見られます。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は英国午前中に中国のコロナ規制に関する抗議活動からのリスクオフで米国債が買われる中で長期金利が10月初旬以来の低値をつけてドルが8月半ば以来の低さへ弱含んだことからも、金は1週間ぶりの高さのトロイオンスあたり1763ドルまで上昇していました。
その後、ドルと長期金利が上昇に転じたことで上げ幅を失い1741ドルで終えていました。
これは、同日FRB高官がタカ派的コメントを発したことからですが、それは、タカ派的として知られているセントルイス連銀のブラード総裁が、インフレ抑制のための金利について5~5.25%へ引上げる必要と2024年までその水準を保つべきとこれまでのスタンスを繰り返し、ウィリアムズNY連銀総裁も同様に金利引き上げと長期間その水準を保つことに言及したことからでした。
火曜日金相場はドルが前日の上げ幅を失う中で上昇し、前週終値のトロイオンスあたり1751ドルへと戻して終えていました。
同日は中国衛生当局の発表などからも厳しいゼロコロナ政策の微修正期待で株価が全般戻しリスクオン基調からも、ドルが若干弱含んでいた模様です。
しかし、前日のFRB高官のタカ派的コメントでさらなる利上げとその長期化観測は広がっており、長期金利が上昇していることで金の頭は重いものとなっていました。
水曜日ドル建て金相場は、パウエルFRB議長の講演を待つ中で一時トロイオンスあたり1764ドルまで上昇して、その上げ幅を失って推移していました。
これは、中国が「ゼロコロナ政策」を緩和する観測でリスクオン基調もありドルが多少弱含んでいましたが、ロンドン時間昼過ぎに発表された米雇用統計の先行指標と見られているADP全国雇用者数が予想を下回ったものの、米GDPは予想を上回り、JOLT労働調査は引き続き予想を上回るなど、FRBによる利上げペース減速観測が後退していました。
しかし、パウエル議長がインフレ抑制のために利上げの必要性は繰り返したものの、その上げ幅を早ければ12月にも緩ませる可能性を示唆し、ドルと長期金利が下げたことからも、トロイオンスあたり1778ドルへと前日終値比1.5%と大きく上昇して終えていました。
木曜日金相場は、前日のパウエルFRB議長の発言がハト派的と解釈される中で、同日発表されたFRBが注目するインフレ指標が予想を下回り、インフレがピークアウトした観測が広まりドルが8月以来の低さへ下げて、長期金利は前日下げた3.6%を若干下回る水準を維持する中で、心理的節目のトロイオンスあたり1804ドルを一時つけて、前日終値比1.3%上昇して1800ドルで終えていました。
この指標とは、個人消費支出PCEコア・デフレーターで、前月比0.2%と今年2番めに小さな上げ幅となっていました。
本日金曜日金相場は、市場注目の雇用統計の結果が予想を上回り、前日までのFRB利上げ減速が後退し、ドルと長期金利が上昇したことで、前日の上げ幅を多少失いながら、ロンドン時間夕方にトロイオンスあたり1790ドル前後と8月半ばの高さで推移しています。
雇用統計の結果は、非農業部門雇用者数が前月比26.3万人増と予想の20万人を上回り、失業率は5.1%と予想の5.3%と前回の5.2%を下回り、平均時給は前月比0.6%と予想の0.3%と前回修正値の0.5%を上回っていました。
そこで、水曜日のパウエルFRB議長の12月にも利上げ幅を0.5%に緩めるというコメントと昨日のインフレ指標がピークアウトの可能性を示唆したことで下げていたドルと長期金利が上昇へと転じたことで、金は上げ幅を多少失うこととなりました。
その他の市場のニュ―ス
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今週月曜日に発表された先週火曜日のコメックスの先物とオプションのポジションは、FOMC議事録が発表する前日にドルインデックスと米長期金利が若干下げる中で、全ての貴金属で強気ポジションを減少させていたこと。 -
コメックス金の先物・オプションのネットポジションは2週連続でネットロングであったものの、21.6%減の99トンと減少していたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比1.6%安で1743ルと下げ、建玉は前週比17%減で、2016年7月以来の低さへ下げていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、3週連続でネットロングで、21%減で1,964トンと減少していたこと。この間LBMA銀価格は3%安で21.27ドルと下落していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションは、17週のネットショート後に7週連続でネットロングで、そのポジションは2.5%減の30.4トンと減少していたこと。LBMA PMプラチナ価格は3.3%安で997ドル。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは6週連続でネットショートで60%増の0.83トン。LBMA PMパラジウム価格は9.8%安で1879ドル。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに2.3トン(0.3%)増で907トンと、週間の減少傾向。11月は月間で1.4%減少で、7か月連続の月間の減少を記録。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.6トン(0.1%)減で450トンと14週連続の週間の減少傾向。11月は月間で1.6%減少で、7か月連続の月間の減少を記録。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに80.17トン(5%)減の14,853トンで、2週ぶりの週間の減少傾向。11月は月間で0.9%減で2か月ぶりに月間の減少を記録。 -
金銀比価は、週初めの82台から79台へと4月以来の低さへ下げて終える傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。) -
プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、週初めに774で始まり徐々に減少して昨日744まで落ちた後に764で終える傾向。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。 -
プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、今週881で始まって858台へ昨日下げていたものの、本日再び873に戻していること。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。 -
上海黄金交易所(SGE)のロンドン金価格との差は、本日人民元建て金価格が2020年9月以来の高さへ上昇する中で、平均は10.54ドルと前週の11.36ドルから下げていること。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。 -
コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は4%増、銀は7%地増、プラチナは50%増である中で、パラジウムは56%減と、前週の2月末以来の高さから下げていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は水曜日のパウエルFRB議長の発言で市場は動き、木曜日のFRBが注目するインフレデータの個人消費支出PCEコア・デフレーター、本日の米雇用統計と重要指標に反応していますがが、来週も主要中央銀行の金融政策に影響を与える指標、例えば金曜日の米卸売物価指数等に市場は注目することとなります。
なお、12月のFOMCは13日と14日に開催され、関係者が発言を控えるブラックアウト期間が今週土曜日からとなります。
詳細は主要経済指標(2022年12月5日~9日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2022年11月28日~12月2日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2022年12月5日~9日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2022年11月28日)金価格は中国の抗議デモで原油と銅価格が下げる中で、1週間ぶりの高値をつけたものの下落 -
2022年の金関連の印象的な3つのチャート -
2023年の金価格を考える上で需要と供給は重要なのか
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、カタールで行われているサッカーのワールドカップが大きく伝えられていますが、その他中国のゼロコロナ政策への抗議運動、ウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃の北米訪問、またウィリアム皇太子のゴッドマザーが人種差別主義的コメントを発したことで王室関連名誉職から辞任したことについて等が伝えられています。
そのような中で、毎年英語辞書で著名なコリンズ、メリアム=ウェブスター、オックスフォード社が行っているそれぞれの年を代表する言葉について伝えられているのでご紹介しましょう。
コリンズ社「permacrisis(パーマクライシス)」
これは、長期間において不安定と不安な状況が、特に壊滅的な出来事によって続くことを意味するとされています。それは、今年のウクライナ戦争、環境問題、政治の混乱、エネルギー危機、高インフレ等を描写するものとされています。
メリアム=ウェブスター「Gaslighting(ガスライティング)」
長期に渡り心を操作し、大きく間違った、欺瞞的な行動とされています。この言葉が過去4年ほどの間に辞書で確認する数が急激に増えたとのこと。このような行動は、人間関係においての加害者や政治家やフェイクニュース発信者等が行うものと定義されています。
オックスフォード「metaverse(メタバース)」、「#IStandWith 」もしくは「Goblin mode(ゴブリンモード)」
今年オックスフォード社は始めて、今年の言葉を先の3つに絞った上で一般の人々に選択してもらうという試みを行っています。
「Metaverse(メタバース)」はご存知のように、コンピューターの中に構築された3次元の仮想空間やそのサービスを示し、フェイスブックが社名変更したメタ(Meta)が力を入れている分野です。
「#IStandWith 」は、ウクライナ戦争などのある運動や大義に連帯を表明する際にSNSなどで使われるもので、このハッシュタグはTikTokでは280万回再生されているとのこと。
Goblin mode(ゴブリンモード)」は、ある人が怠惰で貪欲で自己中心的であり、そうすることで社会規範を拒否していると表現するために使われるとのこと。言葉自体は2009年頃から使われているものの、パンデミックのロックダウン後により使われるようになったとのこと。
オックスフォード社は本日2日を投票の締切としていますので、先の一つの言葉がその結果を経て今年の言葉となるようです。
昨年のオックスフォード社が選んだ言葉がVaxと予防接種(Vaccine)に関連するもの、そしてコリンズ社はNFT(非代替性トークン)とパンデミックやテクノロジー関連であるのに対し、今年はより非社会的な行動を表す言葉の「Gaslighting(ガスライティング)」や「Goblin mode(ゴブリンモード)」が選ばれていることは、社会の暗さを映し出すようで懸念を感じるところです。