ニュースレター(2021年9月17日)来週のFOMCを前に金価格は5週ぶりの低値へ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1750ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.5%安と2週連続の下げで8月初めのフラッシュ・クラッシュ後の5週ぶりの低さとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり23.01ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から4.2%安とやはり2週連続の下げでフラッシュ・クラッシュ以来の低さとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では955ドルと2.2%安で2週連続の下げで9ヶ月ぶりの低さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属価格は、長期金利が7月以来の高さへと上昇し、ドルが一月ぶりの高さへと強含む中で、数カ月ぶりの低さへと下げることとなりました。
この背景は、今週発表された経済指標がまちまちであるものの、来週のFOMCで金融緩和縮小に対する発表が行われるという観測を広げていることからでした。
金相場は1700ドルから1900ドルの200ドルのレンジに留まっていることからも、新たな資金の流入が乏しく、これは世界最大の資産運用会社のブラックロックのファンドマネージャーが金へのエクスポージャーをほぼ取り除いたと伝えられていたことや、金ETFは8月にネットで資金流出となり、5月以来の低い残高量となっていたことからも見られています。
下記に、ワールド・ゴールド・カウンシルがまとめている世界の金ETFの地域別の毎月の残高増減のチャートを添付します。傾向として、金ETFの残高が増加すると金価格が上昇していることがご覧いただけます。
銀相場は、通常金と同様な動きをしますが、その上下幅はその金よりも小さい市場規模からも金と比べて大きく、今週も金以上の下げ幅を見せることとなりました。
プラチナは、前週後半にワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)が今年の需給バランスが供給過多となると発表していたこと、また半導体不足とコロナ禍による中国の自動車販売数減少が伝えられていたことからも、前週に続き下げて週前半から9ヶ月ぶりの低さへと大きく下げることとなりました。プラチナについては、金価格ディリーレポート(2021年9月13日)でも詳しくまとめています。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日、翌日の米消費者物価指数発表を前に、金と銀は狭いレンジの動きで、プラチナが午前中に一時9ヶ月ぶりの低値を付けていました。
そして、ロンドン昼過ぎに、ドルが弱含み、長期金利も下げたことで、金と銀とプラチナはそれぞれトロイオンスあたり1793ドルと23.74ドルと963ドルと前週終値を上回る水準で終えていました。
この背景は、前週下げていた米主要株価指数が同日は一部反発していたこと、翌日発表の消費者物価指数が前週生産者物価指数のように高い数値である観測によるFRBの金融政策変更への行き過ぎた反応に調整も入っていたようです。
火曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数が予想を下回ったことで、米長期金利が下げ、ドルも弱含んだことで、トロイオンスあたり1808ドルまで一時26ドルほど上昇し1803ドルで終えていました。
同日の米消費者物価指数は、変動の大きい食品やエネルギーを除くコア指数で前月比0.1%と予想と前回の0.3%を下回り、2月以来の低さ、そして今世紀平均の4割ほどと低かったことからも、FRBによる金融緩和縮小や利上げの早期開始観測が後退し、長期金利が8月末以来の低さの1.3%を割ったことで、金を押し上げることとなりました。
水曜日金相場は、前日6ヶ月ぶりの低さへ下げた米長期金利がロンドン昼過ぎに多少ながら上昇し、トロイオンスあたり1795ドルへと下げて終えていました。
金相場は前日0.6%上昇していたこと、また心理的節目の1800ドルを維持できなかったことで前日の上げ幅をほぼ戻すこととなりました。
ちなみに、前日の金上昇のきっかけとなった予想を下回る米消費物価指数に対し、英消費者物価指数は予想を上回りインフレの強さを示唆していました。
また、アルミニウムは13年ぶりの高さ、原油価格は6週ぶりの高さへと上昇しており、FRBが「一過性」と唱え続けているものの原材料高によるインフレ懸念は高まりつつあることも要因となっていました。
木曜日金相場は、米長期金利とドルが強含む中で、サポートラインのトロイオンスあたり1780ドルを簡単に割ったことで次のサポートラインの1750ドルを試す大幅な下げを見せ、1754ドルで終えていました。
これは、前日終値比2.3%の下げで、8月9日のフラッシュ・クラッシュ後の低い水準となっていました。
同日貴金属はロンドン午前中から下げ基調であったものの、ロンドン時間昼過ぎに発表された米小売売上高が予想を大きく上回り、FRBによる金融緩和縮小の観測が広がったことで、長期金利とドルが強含んだことで、更に下げ幅を広げることとなりました。
本日金曜日金相場は、ロンドン時間午前中には前日の大幅な下げの自律反発で上昇したものの、昼過ぎに米長期金利とドルが強含みその上げ幅を失って、直近のサポートラインのトロイオンスあたり1750ドルを試しています。
これは、ニューヨーク市場明け後の動きでもあり、前日の予想を上回る米小売売上高でFRBによる金融緩和縮小観測の広がりからも、米主要株価指数が反落で始まっており、米国債とドルが買われている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に米長期金利が2ヶ月ぶりの高さへ上昇して貴金属価格が下げる中で、銀を除く全ての貴金属で減少していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、15.5%減の260トンと3週ぶりに減少し2週ぶりの低さとなっていたこと。また、建玉は2週連続で減少していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比44.2%増の2,786トンと3週連続で増加していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、6週連続でネットショートで、30.6%増の11トンと2週連続でネットショートを増加させていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比16.2%減で2.9トンと過去8週間で6回減少していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で1.8トン(0.2%)増加し999.9トンと、週間では6週ぶりの増加傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、週間で1.6トン(0.32%)増で499トンと、8月4日以来の高さで3週連続の週間の増加傾向となっていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で34.57トン(0.2%)減で、16,940トンと2週連続の週間の下げの傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週月曜日に75台で推移していたものの、本日76台と一月ぶりの高さへと上昇していること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、週間平均は5.65ドルと前週の4ドルから上げていたこと。これは、人民元建て金価格が4週ぶりの低さで、人民ドルが対ドル3ヶ月ぶりの高さへ強含んでいることも要因。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、今週金と銀が大きく下げる中で昨日大きく上昇し、週間では金、銀、プラチナ全てで前週を0.1%、7%、9%上回っていたこと。しかし、その量では銀は引き続き過去2ヶ月の月間平均を下回っていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は主要中央銀行の金融政策決定会合が行われ市場は注目することとなりますが、日銀とFOMCの結果が水曜日に発表され、イングランド銀行は木曜日に発表されます。
その他、火曜日の米住宅着工件数、水曜日の米中古住宅販売件数、木曜日にはドイツ、ユーロ圏、英国、米国の製造業とサービス部門のPMI、米国新規失業保険申請件数、金曜日の米新築住宅販売件数等も重要となります。
詳しくは主要経済指標(2021年9月20日~24日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週水曜日の下げを解説した米主要経済指標のMarketWatchの記事で弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。
ここでエィドリアンは「2021年のインフレは1970年代とは比べ物にならないが、(インフレヘッジの)金が未だ反応していない。これは、市場が中央銀行同様にインフレは一過性とみなしていることを示している。しかし、エネルギー市場の混乱が継続し、冬期の燃料危機が起こればインフレは一気に上昇し、現在の価格水準は後になってみれば安かったと思えるだろう。」と述べています。
朝日新聞社の月間誌Globeの特集記事「ウィスキー新時代」で、スコッチウイスキーについて伝える記事で弊社グループ会社のウイスキー・インベスト・ダイレクトが「伝統の製法とフィンテックのかけ算 スコッチウイスキーの新たな息吹」として取り上げられました。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年9月13日~17日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年9月20日~24日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年9月13日)火曜日の米インフレデータ発表を前に、金と銀はレンジ内である中で、プラチナが9ヶ月ぶりの低値へ
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では先週お伝えした全米オープンテニストーナメントでエマ・ラドゥカヌ選手が優勝したことから、その後のインタビューや英国帰国のニュースが伝えられています。
また、水曜日と木曜日にボリス・ジョンソン首相が内閣改造をしたこと、そして米、豪とインド太平洋の安定に向けた新たな安全保障協力の枠組みの設置で合意したことに関しても大きく伝えられています。
そのような中で、英国では今週新型コロナウイルス感染防止に向けた、2回のワクチン接種を終えた人に追加投与する「ブースター接種」について発表されていたので紹介しましょう。
英国のCovid-19感染者数は日々3万人以上で死者数も100人を割ることはありませんが、コロナ規制はほぼ解除されて、本日は旅行の制限の簡易化も発表され、2回のワクチン接種を終えている人々は、感染者数が比較的少ない緑のカテゴリーとなっている国から帰国後のPCR検査は必要がなくなるとのこと。
そのような中で、感染が広がりやすい冬を前に、医療提供体制の逼迫を防ぐために、医療専門家の助言を基に対応策として、50歳以上や医療関係者を優先に接種を始める方針が伝えられていました。
英国の人口の65%は2回の接種を終えており、接種が許されている16歳以上で2回の接種を終えているのは8割を超えているとのこと。
このような中、医療関係者の中でも世界保健機構(WHO)の科学者を含み「ブースター接種」については意見は別れているとのこと。それは、2回の接種で十分な効果があること、そしてワクチンの数は限られ、世界の貧困国における接種率が高まらない中で、先進国は保有しているワクチンをこれらの国へ提供すべきという理由からとのこと。
ちなみに、英国は世界でも米国の2億9千万回に次ぐ量の1億回のワクチンをCovax(新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組み)へ寄付することを今年6月に発表しています。
ワクチン争奪戦に始まり、ワクチン外交も進む中で、ピーク時には一日の死者数が2000人近くまで増加した英国で、ジョンソン政権がまずは国民を守ることヘ優先順位を付けざるを得ないことを非難するのは難しいと言えるでしょう。