ニュースレター(2021年7月16日)ハト派的パウエルFRB議長コメントで金は一月ぶりの高さへ上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1825ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.1%高と4週連続で上げて、一月ぶりの高さとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり26.10ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.35%高と一週間ぶりの週間の上昇となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1129ドルと、前週LBMA価格から3.6%高と2週連続で上昇し一月ぶりの高さへ上げています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週は週半ばに行われたパウエルFRB議長の議会証言に市場は注目し、ここでインフレはこれまで通りパンデミック後の一過性のものとし、景気回復が完了するまでは量的緩和縮小の開始の時期ではないとハト派的なものであったことから、貴金属を押し上げることとなりました。
これは、先月のFOMC後に早期の利上げ観測が広がっていた中で、パウエル議長のコメントから低金利長期化観測が広がり、金利を産まない貴金属を保有する機会費用が引き続き低いとの判断、そして今週発表された米消費者物価指数などからも、インフレは記録的なものであり、金のインフレヘッジとしての需要の高まりというパーフェクトストームが背景となりました。
下記に金価格と米インフレ率とインフレ予想率(Breakeven inflation rate)の推移のチャートを添付します。
なお、銀は今週上昇しているものの、金銀比価が前週から多少上昇するなど金の上昇率に劣るものである中で、プラチナが他の貴金属よりも大きく上昇しているのは、プラチナの最大産出国である南アフリカの暴動による懸念とそれによる南ア通貨ランドが対ドル下げていることからでした。
日々の金相場の動きと背景について
週明け金相場は、ロンドン昼過ぎに1792ドルへと一時下げた後、前週終値比多少ながら下げる水準まで戻してトロイオンスあたり1807ドルで終えていました。
この要因として、前週長期金利が大きく下げる中で上昇しきれなかった落胆、そしてドルが強含んでいること、そしてインフレ期待率が下げていること等が挙げられていました。なお、週末にはFRBとECBによる、インフレは一過的であり大幅な金融緩和は経済を支えるためにも継続必要等のハト派的コメントが発表されていました。
火曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数発表後に大きく上下をすることとなりました。
この6月数値は、前年同月比5.4%と予想の4.9%、前回の5.0%を上回るもので、2008年以来の高さとなっていました。
そこで、近い将来のFRBによる金融緩和縮小観測が広がり、長期金利が上昇することで、金は押し下げられたものの、インフレ懸念はインフレヘッジとしての役割の金をサポートをするものでもあり、売り買いが交錯し、その後トロイオンスあたり1806ドルとほぼ前日終値に戻して終えていました。
水曜日金相場は、同日行われたパウエル議長の議会証言の内容がハト派的であったことから、長期金利とドルが弱含み、トロイオンスあたり1829ドルとほぼ4週ぶりの高さを一時付けて、前日終値比1%の1826ドルで終えていました。
同日注目されたパウエル議長の議会証言でのコメントは「雇用改善に時間がかかり、足元のインフレ加速も一時的」というもので、前日2008年以来の速いペースを記録していた米消費者物価指数で広がっていたFRBの金融緩和縮小観測が後退したことが、先の金反発の要因となりました。
木曜日金相場は、一時トロイオンスあたり1833ドルと、FOMCでより速いペースの金融緩和縮小が示唆されて急落した6月16日以来の高さまで上昇し、1829ドルで終えていました。
同日もパウエルFRB議長は議会証言を行い、前日同様インフレは一過的、金融緩和縮小の検討はするもののその時期ではないと、ほぼハト派的内容が金をサポートしていました。
この間、米長期金利は1週間ぶりの低値の1.3%を割っていたことは金を支えたものの、世界株価は3営業日連続で下げてドルが同日は多少強含んでいたことは金の頭を抑えていました。
本日金曜日金相場は、前日の上げ幅を多少失いながらも、長期金利が2日ぶりに多少上昇する中で堅調に推移し、トロイオンスあたり1820ドル前後を推移しています。
なお、本日発表の経済指標は、米小売売上高が半導体不足で減産している自動車を除き前月比1.3%と予想の0.4%を上回ったのに対し、ミシガン大学消費者態度指数は予想の86.5を下回る80.8と今週の他の指標のようにまちまちのものであることからも、動きづらい状況でもあるようです。
その他の市場のニュ―ス
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2022年1月から英国で適用されるバーゼル3で現物以外の金に対し、ネット安定的資金調達比率が適用されるとされてたものの、業界のロビー活動もあり英国規制当局は専門市場における金決済等に関しては必要は無しとの判断をしたこと。しかし、現物金地金とは異なるインターバンクで取引されるペーパーゴールドと言われる金はTier 1という判断としてはいないこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週6日に、長期金利が4ヶ月半ぶりの低さへ下げる中で、金価格が3週間ぶりの高さへ上昇した際に、プラチナを除く全ての貴金属で増加していたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、28%増の289トンと、4週ぶりに増加していたこと。また、建玉も6週ぶりに2年3ヶ月ぶりの低さから増加していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比7%増の5,530トンと2週連続で増加していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.78%減で13.6トンへ減少していたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比31%増で11トンへと増加していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で5.8トン(0.56%)減で1034トンと4週連続の週間の減少傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日に2.97トン(0.59%)減で496.7トンと、6月2日以来初めて減少し、5月12日以来の低さとなっていたこと。そこで、週間でも2.97トン(0.59%)減と減少傾向。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で全く変化なく17,267トンと5週連続の週間の減少後に横ばい傾向であること。 -
金銀比価は、先週後半に引き続き、今週も69台を推移していてたこと。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対し、今週水曜日にディスカウント(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)を記録したものの、本日再びプレミアムに戻っていたこと。そこで、週間平均は1.19と前週の3.31ドルから減少していたこと。これは、人民元が対ドル弱含み、また人民元金価格が4週ぶりの高さを付けていたことが背景。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、銀以外は週間で増加していたものの、銀は昨日昨年6月からの記録上では最も低い数値で、大幅に減少していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は水曜日と木曜日に行われたパウエルFRB議長の議会証言に市場は注目しましたが、来週もFRBの金融政策に影響を与える指標は重要となり、また木曜日のECB政策金利発表とその後の記者会見もまた、為替市場、長期金利を動かす可能性がありますので、重要イベントとなります。
来週のその他注目指標としては、火曜日の米住宅着工件数、木曜日の米新規失業保険申請件数と中古住宅販売件数、金曜日のドイツ、ユーロ圏、英国、米国の製造業及びサービス部門のPMIなどとなります。
詳細は主要経済指標(2021年7月19日~23日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年7月12日~16日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年7月19日~23日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年7月12日)消費者物価指数及びパウエルFRB議長議会証言を前に金価格は下げる
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、先週日曜にに行われたサッカーの欧州選手権でイングランドがイタリアに敗退したこと、その後PK戦で外した選手へのSNS上での人種差別的コメント、それを非難し対象となった選手へのサポートをする人々について日々大きく伝えられています。
それとともに、来週月曜日からイングランドにおいて新型コロナウィルス規制がマスク着用の義務付けも含むほぼ全て解除される事から、その準備に入っている様々な業界や、医療関係者や科学者の反応が伝えられていますので、簡単にお伝えしましょう。
ここでもお伝えしていますが、英国はそれぞれイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの地方政府が新型コロナウィルス対策の詳細に関しては決定権があります。
そこで、7月19日から規制全面解除を行うのはイングランドであり、ボリス・ジョンソン英政権が決定をしています。
この全面解除を前に、イングランドでの感染者数は本日5万人を超え、1月以来の最多の数となったことが伝えられていますが、死者数は49人とワクチン摂取の普及が進んでいることからも、同水準の感染者数を出していた1月の1000人を超える数よりは大きく抑えられています。
なお、イングランドにおけるワクチン接種の成人の割合は、昨日の段階で1回目が87.5%で2回目終了は67.2%となっています。また年齢に応じてワクチン接種の優先順位がありますので、60歳以上は90%以上と年齢が高いほど接種率は高まっています。
そのような状況でも、重症化して入院する人々の数は3週間毎に倍増しているとイングランド主任医務官のクリス・ウィッティ氏は述べ、人々がロックダウン解除後注意深く動かなかった場合、この数が危機的数字になる可能性を今週警告していました。
イングランド政府の指針は、マスクの着用は義務では無いものの、公共交通機関等の混み合っている室内での着用はすべき、在宅勤務から会社勤務への移行は緩やかに行うべき、ナイトクラブ等はワクチンパスポートやCovid-19テストを利用すべきと、今後も注意深く行動すべきというものですが、それぞれの団体や業界や会社、そして個人の判断に任せています。
そこで、ロンドン市内を走る公共機関は、来週月曜日以降も利用者にマスクの着用を義務付け、大型スーパーも顧客にマスク着用を促していますが、これに従わなかった場合に法律上の罰則は無いことから徹底すのは難しいと言えるでしょう。
フリーダム・ディと呼ばれている7月19日が、後に振り返りイングランドにとってコロナ禍を脱した記念すべき日となるのか、それともCovid-19感染抑制を失わせた後悔すべき日となるのか。個人的には英国政府は大きな賭けをしているように見えるのですが、近い将来に科学的データが明確に応えることとなるのでしょう。