ニュースレター(2021年6月11日)インフレによるFRBの金融政策変更懸念は後退したものの金は1900ドルを維持できず下落
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1882ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.4%安で2週連続の下落となっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり28.12ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から2.76%高と上げています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1157ドルと前週LBMA価格から0.2%安と2週連続で下げています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属相場は木曜日発表の米消費者物価指数を待つ中でレンジ内での取引となっていましたが、先の指標発表後大きく動き、金と銀とプラチナがそれぞれ多少異なる動きをして終えることとなりそうです。
まず、米消費者物価指数は予想を上回るものでしたが、FRBの政策を変更させるものではないFRB高官が繰り返している「一過性」のものという判断で、金、銀、プラチナ全て一旦下げたものの上昇をしていました。
その後の動きが下記のように異なっています。
金 – 心理的節目のトロイオンスあたり1900ドルを維持できなかったことで、下げが下げを呼ぶ動きで前週金曜日以来の低値を付けています。
銀 – LBMA価格の金曜日の値としては、昨年8月の7年ぶりの高さ以来の高さを付けていました。そして本日の高値トロイオンスあたり28.28ドルは6月1日以来の高さで、前週終値比でも上昇で終えることとなる傾向です。そこで、金銀比価は本日67台へとやはり6月1日以来の銀割安解消水準へと下げています。
プラチナ – 昨日今年3月以来の低値を付けて、その後他の貴金属同様に上昇に転じて入るものの、その上げ幅は限定的で金とのディスカウントはトロイオンスあたり700ドルを超えて、6年ぶりの高さを付けた2月の500ドルを割る水準から広がっています。
先のような異なる動きをした背景は、コメックスの先物・オプションやETF等の残高を見ると、金はインフレヘッジ等の役割が注目されて強気ポジションを積み増していたことからも調整が入っているようですが、銀は前週コメックスでは強気ポジションを減らし今週ETF残高も減らしていることからも、センチメント的には割安感が残っている模様です。プラチナは、よりコモディティの側面が強いことからもインフレヘッジの役割としての上昇をしていないということでしょう。
下記に今週の先の貴金属の価格の動きのチャートを添付します。
金価格チャート
銀価格チャート
プラチナ価格チャート
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場はロンドン時間午前中の価格の下げを午後緩やかに戻し、トロイオンスあたり1898ドルで終えていました。
これは、ドルと長期金利が先週金曜日の予想を下回る雇用統計後下げた水準からドルは下げ、金利はほぼ維持していることが要因となりました。
また、この間インフレは一時的とイエレン財務長官が先週後半に述べるなど、インフレの上昇の中でFRBによる金融緩和政策縮小に関しては、予想を下回った雇用統計からも近い将来無いという観測が広がっていたこともサポートしていました。
火曜日金相場は、心理的節目のトロイオンスあたり1900ドルを再びトライしたものの維持できず、1893ドルへ下げて終えていました。
この間長期金利は3営業日連続で下げていましたが、ドルインデックスは前日比上昇して推移していました。
水曜日金相場は、長期金利が3ヶ月ぶりに1.5%を割る中で、トロイオンスあたり10ドル以内の狭いレンジで取引となっていました。
これは、翌日の米消費者物価指数で予想を下回る数値の期待、また例え上回ったとしてもFRBの政策変更はないという観測からであったようです。しかし、米株価は史上最高値の水準で推移していた事からも、金への資金の流入は限られていました。
木曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数が発表されるまで緩やかに下げ、発表後トロイオンスあたり1870ドルまで下げた後に20分以内に1890ドルを取り戻し、前週終値比0.5%高の1898ドルで終えていました。
先の動きはほぼ米長期金利とドルインデックスの動きに反応するものでしたが、これは同日発表の市場注目の米消費者物価指数が予想の4.7%を上回り5.0%であったことからでした。
まず、この発表を受けて長期金利とドルインデックスは上昇したものの、FRBが量的緩和縮小を急ぐほどのものではないと受け止められて長期金利とドルインデックスが下げに転じたことにサポートされたからでした。
本日金曜日金相場は、前日の上昇基調を受け継いで始まったものの、トロイオンスあたり1900ドルを維持できず下げを始め、長期金利とドルも上昇へ転じたことで、ロンドン午後にトロイオンスあたり1882ドルと、前日比0.9%安へと下げています。
そして本日も、世界株価は史上最高値を付ける上昇をしていることも、金を押し下げている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週4日に、良好な主要経済指標で金価格がトロイオンスあたり1900ドルを割った際に、銀を除く全ての貴金属で増加していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、ロングポジションが7週連続で増加し、ショートポジションが4週ぶりに増加する中で、2.3%増で404トンと前週に引き続き1月5日以来の高さへ増加していたこと。しかし、建玉は2週連続で減少していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比6.1%減の6,614トンと3週連続で減少して4週ぶりの低さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.01%増の13.68トンと4週ぶりの少ないながら増加となっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比12%増で12トンと3週ぶりに増加していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で1.2トン(0.14)増で1044.6トンと週間の増加傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で1.1トン(0.22%)増で503トンと2ヶ月ぶりの高さで6週連続の増加の傾向。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で77.89トン(0.43%)減で17,912トンと3週ぶりの週間の減少傾向であること。 -
金銀比価は、今週木曜日に6月1日以来初めて68台を割り、多少の銀割安傾向となっていること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対し先週に引き続きディスカウントを付けて(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)週間でマイナス16とその幅を広げていたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの取引量は、水曜日貴金属価格が米消費者物価指数で神経質に動く中で全て上昇していたものの、週間取引量は価格がレンジ内での動きとなっていたことからも全ての貴金属で下げていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週金融市場は米消費者物価指数に注目し、発表後反応することとなりました。
来週の重要イベントは水曜日に発表されるFOMC後と金曜日の日銀の金融政策決定会合後の金融政策発表と記者会見となります。
それに加え、引き続きFRBの金融政策に影響を与えると見られている指標金融市場を動かすと見られる指標の、火曜日の米卸売物価指数、小売売上高、ニューヨーク連銀製造業景気指数、鉱工業生産、水曜日の中国の小売売上高と鉱工業生産、木曜日のユーロ圏の消費者物価指数、米新規失業保険申請件数、フィラデルフィア連銀製造業景気指数等となります。
それでは、詳細は主要経済指標(2021年6月14日~18日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年6月7日~11日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年6月14日~18日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年6月7日)イエレンがインフレは社会にはプラスと述べる中で、金は10ドルの下げを取り戻す -
【銀投資家インデックス】銀投資はインフレ懸念が銀価格を8年ぶりの高さへ押上げて後退
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、インドで発見されたデルタ変異種の英国での感染者数が増加していること、それに伴い来週月曜日にジョンソン政府が発表予定の今月21日からの最終のロックダウン解除に関して、延期を求める科学者と予定通り行うべきというビジネス関係者のコメント等が広く伝えられています。
そのような中、本日から英国南西部のコーンウォールで行われる先進7カ国首脳会議(G7サミット)、それを前にして昨日行われた米英首脳会談に関して大きく伝えられています。
今回のサミットの主要議題としては、新型コロナウィルスの対応、そして気候変動問題とされています。
すでに、新型コロナウィルス感染収束のために世界の国々にワクチが行き渡るように、昨日の段階で英国はワクチンの1億回分の提供、そして米国は5億回分を約束しています。そして、G7として10億回分のワクチン提供合意を目指しています。
しかしBBCニュースによると、この英国コーンウォール地域でワクチンを接種を終えた人数とアフリカの貧困国でワクチン接種を終えた人数がほぼ同数と、すでにワクチン格差の広がりは指摘されており、チャリティー団体は先のワクチン提供数とジョンソン首相が目指す今年9月までに500回分、12ヶ月以内に9500万回分というタイミングは遅すぎるともコメントしています。
そのような中、ジョンソン首相は会議の冒頭の挨拶で次のように述べています。
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世界がパンデミックから立ち直るために、「社会全体が(格差無く)前進」し、「より良い世界を作り上げる」ことが重要。 -
G7として、よりクリーンで環境に優しい世界、そして気候変動の問題を解決するというビジョンで一致していることからも、(今回のサミットは)大きなチャンスである。 -
前回2008年の世界金融危機後のように、社会のあらゆる部分で回復が一様ではなかった過ちを繰り返さないことが肝心。
今回のG7サミットはパンデミック以降対面で初めて主要国首脳が集まる機会であり、バイデン大統領にとっては、就任以来初めての国外訪問でもあるようで、注目度の高さはこれまでに無いものと言えるかもしれません。
そこでジョンソン首相は、このG7サミットを機会に、パンデミック、気候問題、そしてより格差のない世界を作り上げることへのステップを明確にし、ブレグジット後も英国が世界のキープレイヤーであることを示すことを目指しているのであろう思いますが、それを達成できるのか、週末の動きに注目したいと思います。