金市場ニュース

ニュースレター(2021年5月7日)インフレ懸念、雇用統計悪化で金は12週ぶりの高さへ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1838ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から4.0%高で12週ぶりの高さとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり27.39ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から5.9%高と10週ぶりの高さとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1260ドルと前週LBMA価格から3.5%高と今週火曜日の急騰時の水準へ戻しつつあります。

今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要

今週貴金属相場は大きく上昇することとなりました。この背景は、長期金利とドルが下げたことからですが、その要因についてリストアップしてみましょう。


  1. 予想を下回る経済指標が早期経済回復観測を後退させたこと。

  2. 金利上昇発言をしたイエレン財務長官が発言修正し、複数のFRB関係者が一貫して金融緩和縮小の時期ではないとコメントをしていたこと。

  3. 金においては上値のトロイオンスあたり1800ドルを超えたこと。

そのような中で、今週は市場が予想する期待インフレ率のブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は2013年以来の高さへと上昇していました。本来インフレ懸念はインフレヘッジの役割を持つと見られている現物資産の貴金属をサポートするものですが、この数ヶ月はインフレ懸念はFRBによる金利引き上げ観測を広めて長期金利上昇、ドル高を引き起こしていましたが、先の点からも金利とドルが押さえられる中でのインフレ懸念が貴金属を押し上げることとなった模様です。下記に、金価格と長期金利とBEIのチャートを添付します。

金価格、長期金利、インフレ予想率の推移 出典元 LBMA、セントルイス連銀、ブリオンボールト

ちなみに、上昇時に金を上回って動く銀は今週も大きく上昇しています。これは、工業用途需要でコモディティ側面が注目されている部分もありますが、市場の規模が金よりも小さい事によるボラティリティの高さとも言えます。この上昇の勢いが金を引っ張ったとも一部アナリストは分析しています。

日々の金相場の動きと背景について

英国祝日明け火曜日金相場は、ロンドン午前中は前日の上げ幅を緩やかに失いながら推移し、その後再びトロイオンスあたり1800ドルをトライしたものの、イエレン財務長官のコメントで20ドルほど下げることとなりました。

まず英国が祝日であった月曜日の価格急騰は、同日発表された米国のISM製造業景況指数が予想と前回を下回り、早期経済回復観測の後退からも長期金利が下げたことからでした。

しかし、1800ドルをトライして超えられなかったことからも、利益確定の売りにも押されて上げ幅を削っていました。

その後、米株価が反落で始まったことからも金利が下げて金は再度1800ドルをトライしたところで、イエレン財務長官の「経済が加熱しすぎるのを防ぐために金利を上げざるを得ないかもしれない」というコメントで金利が上昇し、ドルが強含んだことで大きく下げることとなりました。

なお、同日恐怖指数とも呼ばれているVIXは3月末以来の高さへ上昇していました。

水曜日金相場は、前日イエレン財務長官のコメントによる10週ぶりの高さのトロイオンスあたり1799ドルからの30ドルほどという大きな下げ幅を緩やかに削りながら1785ドルで終えていました。

これは、前日市場を揺るがしたイエレン財務長官が、その後金利上昇発言について「個人的に予想したり推奨しているのではない」と事実上修正したことで、金利とドル高が是正されていたことからですが、その後エバンズ・シカゴ連銀総裁も「インフレが急騰するリスクは少ない」と述べたこともサポートしていました。

なお、同日発表の米ADP全国雇用者数は、7ヶ月ぶりの高さで74.2万人と予想の80万人は下回ったものの前回修正値56.5万人を上回り、早期景気回復期待が株価を押し上げて、金の頭を抑えていました。

木曜日金相場は、長期金利とドルが弱含む中で、心理的節目のトロインスあたり1800ドルを超えて、買いがさらなる買いを呼ぶ形で、2月16日以来の高値の1818ドルと先週終値比4%高、前日終値比1.6%高を一時付ける高さへ上昇していました。

これは、同日一月ぶりの低さへ長期金利が下げ、ドルも弱含んでいたことからでしたが、先の長期金利の下げは、前夜もローゼングレン・ボストン連銀総裁がインフレは一時的なものとパウエル議長のコメントに沿って述べていたこと、また米中、米露の地政学リスクも意識されたとも伝えられていました。

本日金曜日金相場は、米雇用統計が予想を大きく下回ったことで、金利が下げてドルも弱含んだことから発表直後にトロイオンスあたり30ドルほど急騰し、1843ドルと12週ぶりの高さを付けていました。

雇用統計は、非農業部門雇用者数が26.6万人と前回修正値の77万人と予想の97.8万人を大きく下回り、失業率も前回6.0%と予想の5.8%を上回り6.1%と増加というものでした。

これにより、インフレ懸念が後退し、FRBによる金融緩和縮小懸念も後退したことで、長期金利が下げてドルが弱含むこととなりました。

ブリオンボールト・リアルタイム価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週27日に、FOMCの結果を市場が待つ中で、金を除く銀、プラチナ、パラジウム全ての貴金属で増加していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、19%減で196トンと減少していたこと。そして、建玉は昨年9月末から100万枚を下回り、70万枚を13週連続で下回っていること。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比8.5%増の5,805トンと4週連続で増加して9週ぶりの高さとなっていたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.53%増の14トンと7週連続の増加で12週ぶりの高さとなっていたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比16%増で13トンと11月10日以来の高さとなっていたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で2.3トン(0.22%)増で1019トンと再び週間の増加傾向で、3週間で2度目の週間の上げ。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で0.24トン(0.05%)減で495.5トンで、少ないながら7週連続の減少の傾向。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で33.5トン(0.19%)増で17,684トンと12週ぶりの週間の増加傾向。

  • 金銀比価は、今週も価格が上昇傾向であった水曜日と本日66台の銀割安解消へと下げた以外は、ほぼ67台を維持していたこと。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週の平均は9.84と、人民元金価格が3ヶ月ぶりの高さの中でも、先週の8.48から増加していたこと。

  • コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、今週全ての貴金属価格上昇する中で、木曜日までに金、銀、プラチナで前週を上回っていたこと。特に昨日の金の取引量は2ヶ月ぶりの高さ。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週金相場は長期金利が下げていることもあり、直近の上値のトロイオンスあたり1800ドルを超えて更に上昇していますが、来週も長期金利の動きとそれに影響を与えるニュースや指標が重要となります。

それは、Covid-19感染者数、FRB関係者の経済先行きやインフレ関連コメント、そして経済指標では火曜日の中国と水曜日の米国の消費者物価指数、木曜日の米国卸売物価指数と新規失業保険申請件数、金曜日の米小売売上高等となります。

詳細は主要経済指標(2021年5月10日~14日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では今週ロンドンで行われていた先進7カ国外相会議と、先週もここでお伝えした昨日行われた地方選挙に関して大きく伝えられています。この開票は本日行われていますが、結果はコロナ感染予防からも通常通りのスピードでは開票ができないからも、別途またお伝えしましょう。

そのような中で、本日英国政府は5月17日のロックダウン段階解除で可能となる海外渡航についての詳細を発表していますので、簡単にお伝えしましょう。

まず、海外渡航先は英国政府が、コロナ感染者数などから下記のように3つのカテゴリー(緑、黄色、赤)に分け、3週間毎に見直しがされるとのことです。

緑(ポルトガル、イスラエル、オーストラリア、ニュージーランド等の12カ国)

黄色(緑と赤のカテゴリーではない日本や米国を含む国々)

赤(ブラジル、インド、トルコ、フィリピン等の30カ国を超える国々)

そして、それぞれのカテゴリーの国から帰国した人々は次のような制限が入ることとなります。

英国のコロナ下における海外渡航カテゴリー

今回制限の少ない緑のカテゴリーにより多くの国が含まれることを観光業界は希望していましたが、夏の旅行先として英国の人々に人気のある欧州地中海諸国はポルトガルのみであることからも、厳しすぎるというコメントを出しているようです。

日本はこれまで同様に黄色ですが、感染率が未だピークアウトしていない状況では仕方ないというところでしょう。

コロナによる死者を12万人以上出した英国としては、国境を開けることに慎重にならざるを得ず、今はただより多くの国々でのワクチン接種が進み、安心して海外旅行や国外の家族と会えるようになる日々がいずれは来ることを信じ、気をつけて過ごそうと思います。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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