ニュースレター(2021年4月30日)FOMC、パウエル会見、バイデン施政方針演説を経て金は下落
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1769ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.7%安で3週ぶり下げとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり25.93ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から0.8%安と2週連続の下げとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1225ドルと前週LBMA価格から1.6%安と下げています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週は水曜日のFOMCの結果とパウエルFRB議長の記者会見、そしてバイデン大統領の施政方針演説が市場注目のイベントで、週前半は様子見で狭いレンジでの取引、そして発表後に大きく反応し、更に昨日の良好な米GDPの結果でも大きく反応して週を終える事となりました。
そこで、ここではFOMCの結果、パウエル議長の記者会見、バイデン大統領の施政方針演説の市場が注目した点と貴金属市場への影響をまとめてみましょう。
FOMC結果 ― 金融政策は予想通り現状維持の中で景気の現状認識を上方修正
パウエル議長の記者会見 ― 金融政策正常化の金融緩和減速及び縮小(テーパリング)を開始する条件の物価と雇用目標を満たすには「相応の時間」を要するとし、物価(インフレ)上昇は経済回復時に見られる一時的なものであるとしたこと。
バイデン大統領の施政方針演説 ― インフラ刷新を中核とする2兆ドル超の「米国雇用計画」と1兆8,000億ドル規模となる教育・育児向け支援の拡充策の「米国家族計画」。
FOMCの発表の影響は限定的であったものの、パウエル議長の金融緩和縮小は近い将来にないというコメントは貴金属にとってはプラスの内容でした。しかし、バイデン大統領の大規模な政策はさらなる多額の国債発行観測を広げて長期金利を上昇させる、貴金属市場にとってはネガティブなものとなりました。
そのような中で、工業用途の需要が6割と高い銀とプラチナの下げ幅が金を上回っているのは、市場が金に比べても小さいことからも、上げる際は上昇幅が大きいように、下げ基調であることで下げ幅を広げているボラティリティの高さからと思われます。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金価格は、今週水曜日のFOMC後の発表を待つ中で、ドルが横ばいで長期金利が多少ながら上昇する中で、先週終値比0.2%高のトロイオンスあたり1780ドルと上昇して終えていました。
火曜日金相場は、米長期金利とドルが多少ながら強含む中で、トロイオンスあたり10ドルの狭い範囲で動いた後に多少下げて1775ドルで終えていました。
なおこの間、同日発表された米消費者信頼感指数は、昨年2月以来の高さで消費者のセンチメントの改善が示され、コモディティ価格は銅の価格が10年ぶりの高さになるなど、経済回復への期待からも上昇していました。
水曜日金相場は、FOMC後の発表とパウエルFRB議長の記者会見を前に、長期金利が上昇する中でも午前中の下げをほぼ取り戻していました。
そして、FOMC後のパウエル議長の記者会見で、経済回復は認識したものの、インフレは一時的で金融緩和縮小は話すべき時期ではないというハト派的であったことから、さらなる上昇をして1783ドルで終えていました。
なお、その後のバイデン大統領の施政方針演説にでは、すでにその内容が事前に発表されていたのでこれに対する反応は同日は限定的となりました。
木曜日金相場は、前日のFOMC後のパウエルFRB議長会見後の上昇基調を受け継いで上昇で始まっていましたが、その後上昇する長期金利に反応して下げ、午後に発表された米経済指標で更に押し下げられて、一時トロイオンスあたり1756ドルと2週間ぶりの低さへ下げるなど大きな動きをしていました。
この動きの背景は、前日の利益確定の売りとパウエル議長の一時的ではあるものの経済回復はインフレを引き上げるというコメントで国債売却を進めて長期金利が上昇していたことからでした。
また、バイデン大統領の大規模なインフラ投資などは国債多額発行観測を広げて、需給バランス懸念からも国債が売却されて金利が2週間ぶりの高さへ上昇したとも分析されています。
そして、ロンドン時間昼過ぎ発表のドイツの消費者物価指数と米国GDPは予想を上回り、米GDPの上昇率は第1四半期では1984年以来のもので、また新規失業保険申請件数もパンデミック以来最も低いものであったことからも、インフレ懸念が高まりさらなる金利上昇となっていました。
本日金曜日金相場は、長期金利が前日の高さを維持し、ドルは月間では下げているものの強含んでいる中で、トロイオンスあたり10ドルの幅で動いて、ロンドン時間午後には1768ドル前後を推移しています。
なお本日発表の主要経済指標では、中国の製造業PMIが予想を下回ったこと、インドとブラジルのCovid-19感染者数が継続過去最高を更新続けていること等からも、アジア株価指数と米株価指数が下げるなど投資センチメントが悪化していることも、金利高止まりの中で金が堅固な動きをしている背景である模様です。
その他の市場のニュ―ス
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先週銀の需給レポートが発表され、銀の工業用と投資需要が増加することから、今年の銀価格を前年平均比33%高と予想していたこと。詳しくはこちらで。 -
第1四半期の金需給レポートが今週発表され、需要は消費者の需要が回復したものの、ETFからの資金流出から前年同四半期比では13%増、しかし前四半期比では-4%。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週20日に、Covid-19の感染者数が増加し長期金利とドルが弱含む中で、パラジウムを除く金、銀、プラチナ全ての貴金属で増加していたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、16%増で215.5トンと上昇していたこと。そして、建玉は昨年9月末から100万枚を下回り、70万枚を12週下回っていること。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比19%増の5,351トンと3週連続で増加して8週ぶりの高さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.56%増の14トンと6週連続の増加で11週ぶりの高さとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.16%減で11.47トンと5週ぶりの減少となっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で4.7トン(0.46%)減で1017トンと先週14週ぶりの週間の上昇後に減少傾向。ちなみに、残高は7営業日変化を見せていなかったものの昨日減少していたこと。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で0.93トン(0.19%)減で496トンで、6週連続の減少の傾向。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で73.6トン(0.42%)減で17,651トンと12週連続の減少傾向であること。 -
金銀比価は、今週も価格が上昇傾向であった火曜日と木曜日に67台へと銀割安解消へと下げた以外は、ほぼ68台を維持していたこと。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週の平均は8.48と先週の8.75から多少下げていたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、木曜日までに金とプラチナで前週を上回っていたものの、銀は減少していたこと。また、銀を除き金とプラチナの平均は未だ前月平均を引き続き大きく下回っていること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は金曜日に米雇用統計が発表され、水曜日にはその先行指標のADP雇用者数が発表と市場は注目することとなります。
それに加え、木曜日にはECB政策金利発表が行われ、政策に変更はないと予想されているものの重要イベントとなります。
その他、長期金利に影響を与える可能性のある、主要国の製造業及びサービス部門PMIなどの経済指標やCovid-19感染者数関連ニュースへも市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2021年5月3日~7日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年4月26日~30日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年5月3日~7日)来週の予定をまとめています。 -
銀価格ディリーレポート(2021年4月26日)銀ETFと太陽光発電需要で2021年に銀価格の更なる上昇が予想される
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ボリス・ジョンソン首相と元上級顧問のドミニク・カニング氏との公の場での非難合戦に絡んで、首相官邸改装費の出どころが寄付金であったのか、その場合届け出が出されていたか等のニュースが日々トップニュースで伝えられています。
また、英国は来月6日に統一地方選挙が行われることからも、この選挙活動や地方政府の主要政党党首によるテレビ討論も行われていることからもニュースとなっています。
本日は、この統一地方選挙は長期的にはイングランド、スコットランド、北アイルランド、ウェールズの4つの地方行政区画で成り立っている英国の形を変える可能性もあることから、簡単にご紹介しましょう。
英国は中央政府とともに、スコットランド、北アイルランド、ウェールズは地方自治政府があり、教育などの特定の分野においてはスコットランド議会のように一時的な立法権を持っています。
そのような中で今回の選挙が重要であるのは、すでに2014年に独立を問う住民投票を行い、僅差(45%対55%)で独立反対が勝ったスコットランドにおいて、再びこの選挙でスコットランドの独立をマニュフェストに掲げるスコットランド民族党が、選挙結果次第では独立を問う住民投票実施を英国政府へ要求する意向であることからです。
直近の世論調査では、スコットランド民族党が第一党になるのが確実であるとのこと。これが更に単独過半数を取る票を獲得することができれば、スコットランド独立をスコットランドの人々が望んだことを意味するとスコットランド民族党党首のニコラ・スタージェン氏は述べ、民主主義の下に英国政府は再び独立を問う国民投票を認めるべきと述べています。ちなみに、2014年の国民投票は当時のキャメロン政権が実施を認め、その結果を尊重する覚書をスコットランド政府と結んでいました。
新型コロナウィルス対策は英国政府が全国的に率いているワクチン接種に対し、ロックダウン等の細かな規制とその解除の決定は地方政府に権限があり、スコットランド自治政府のスタージェン首相はこの対応が評価されて支持率を上げています。
しかし、スコットランド独立後に望むEUへ再加盟は、EUが前回の独立を問う国民投票時に否定していたこと、そしてEUがコロナワクチン普及に苦しんでいることは、独立を望む人々の中でも懸念となっているようです。
他の自治政府の北アイルランドやウェールズもそれぞれ歴史や問題があり、現段階では独立を望まないまでも、スコットランドの選挙結果は注目されており、英国政府にとっては重要な選挙であることには間違いありません。
EU離脱を推進してブレグジットを果たしたジョンソン政府が、同様に英国からの独立を望むスコットランドの人々にどのように訴えていくのか注目したいところですが、直近では先でご紹介したようにジョンソン首相の人なりなどが問わるニュースが一面を飾っており、その議論が十分に行われていないようで歯がゆい限りです。
スコットランド独立問題については、来週の統一選挙後にすぐに動き出せるものでは無いと思いますので、後日またここで取り上げてみたいと思います。