ニュースレター(2021年5月14日)予想を上回る消費者物価指数発表後も金は上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1838ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)とほぼ同水準で前週金曜日に達した13週ぶりの高さとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり27.24ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から0.5%安と下げています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1231ドルと前週LBMA価格から1%安と下げています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週金相場は、水曜日発表の米消費物価指数が予想を上回るもので、FRBの金融緩和政策早期縮小懸念が広がり、長期金利上昇しドルが強含む中で1週間ぶりの低さへ下げていました。しかし、FRB高官がパウエル議長同様に揃ってインフレは一時的で緩和早期縮小は無いというコメントもあり、実質金利がマイナスを記録する中でインフレヘッジ役割からも再び上昇へと転じることとなりました。なお、歴史的に金と実質金利は逆の動きをしていることは下記のチャートでもご覧いただけます。
それに対し、工業用途が6割と高い銀とプラチナは、週前半に金や他のコモディティ同様にそれぞれ10週、11週ぶりの高値を付けていましたが、その後発表された米経済指標が早期の経済回復期待を後退させるものであったこと等からも、他のコモディティ価格が史上最高値から下げたように、週間では下げることとなりました。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は前週の上昇基調を受け継いで一時トロイオンスあたり1845ドルと12週ぶりの高さを付ける堅調な動きをしていました。
この背景は、インフレ上昇による実質金利の下げが要因で、今年資金流出が見られていた金ETFの最大及び第2銘柄が共に前週資金流入を見る等センチメントの変化も見られていました。
火曜日金相場は、世界株価が全般下げ、長期金利が上昇する中で、トロイオンスあたり1818ドルまで一時下げた後に、1835ドルと前日終値近くまで戻していました。
同日の株価の下げは、コモディティ価格の上昇によるインフレ懸念、そして翌日の消費者物価指数の事前予想も2006年以来の高さであったことからも、FRBが利上げを待てるのかという懸念も背景となっていました。
そのために、長期金利は同日3営業日ぶりに1.6%を超えて上昇して金の頭を抑え、また、金も3ヶ月ぶりの高値であることも利益確定の売りも入りやすくなっていました。
しかし、インフレヘッジの役割からも、長期金利の上げの中で下げ幅を戻す堅調な動きもしていました。
水曜日金相場は、市場注目の米消費物価指数が予想を大幅に上回ったことで、長期金利とドルが強含み、トロイオンスあたり1813ドルへと一時下げるなど、下げ基調に転じていました。
同日発表された米消費者物価指数は、前年同月比4.2%と予想の3.6%も上回る12年7ヶ月ぶりの高さとなったことで、長期金利は一月ぶりの高さへと上昇し、ドルも3営業日ぶりの高さへと上昇していました。
しかし、インフレ懸念はインフレヘッジの役割を持つ金にとって必ずしもネガティブ要因に限らず、また同日クラリダ副議長が、前日のブレイナード理事に続き、インフレの加速は「一時的」との認識を改めて強調して、金融緩和政策継続の姿勢を示したことからも、金の下げ幅も限定的となっていました。
木曜日金相場は金利の上昇で一時トロイオンスあたり1808ドルまで下げたものの、その後金利が落ち着く中で1825ドルまで戻して終えていました。
同日発表された米国生産者物価指数は前日の消費者物価指数同様に予想を上回るものでしたが、新規失業保険申請件数が予想を下回り14ヶ月ぶりの低さと経済回復を示唆するものであったことからも、前週の米雇用統計が予想を大きく下回りセンチメントが悪化していた米株価が3営業日ぶりに上昇し、長期金利は高止まりながら上げを一服したことで、金は下げ幅を削っていました。
また、同日もウォラーFRB理事がインフレ上昇に関して、金融政策の変更を検討するには「更に数ヶ月のデータが必要」と他の高官同様にインフレは「一時的」とコメントしたことも金をサポートしていた模様です。
本日金曜日市場注目の米小売売上高は予想を下回り、今週再浮上したインフレ懸念が多少後退して長期金利が下げ、ドルも弱含むことで金相場はトロイオンスあたり1837ドルへと前日比0.7%上昇しています。
また、週前半に史上最高値を更新していた鉄鉱石等のコモディティ価格が下げているのもインフレ懸念によるFRBの早期金融緩和縮小を後退させ、世界株価を全般押し上げていることも、長期金利、ドルを下げて金をサポートしている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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今週前半に鉄鉱石と銅が史上最高値を更新するなどとコモディティ価格が全般記録的水準へ上昇していたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週4日に、前日金利の下げで上げた上昇分を多少削る中で、プラチナを除く金、銀、パラジウム全ての貴金属で増加していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、5%増で206トンと増加していたこと。そして、建玉は昨年9月末から100万枚を下回り、70万枚を14週連続で下回っていること。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比16%増の6,753トンと5週連続で増加して14週ぶりの高さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.6%減の14トンと7週ぶりの減少となっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比3.6%増で13.8トンと2月25日以来の高さとなっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.9トン(0.08%)減で1024トンと再び週間の減少傾向で、4週間で2度目の週間の下げ。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で0.58トン(0.12%)増で497トンで、2週連続の増加の傾向。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で28.86トン(0.16%)増で17,599トンと14週連続の週間の減少傾向。 -
金銀比価は、今週火曜日まで66台であったものの、水曜日から67台へと多少の銀割傾向となっていること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、人民元価格が一月ぶりの高さである中、人民元が対ドル強含んでいることもあり、今週の平均は10.52と3月半ば以来の高さとなっていたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、木曜日までに金とプラチナで前週を上回り、銀は下回っていたこと。金の取引量の今週平均は1月初旬以来の高さ。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米消費者物価指数が予想を大きく上回りインフレ懸念とFRBが金融緩和を予定より早く縮小する懸念で長期金利が上昇して市場を動かしていますが、来週も経済の早期回復やインフレ関連数値へ市場は注目することとなります。
そこで、重要指標としては水曜日の英国とユーロ圏消費者物価指数、FOMC議事録要旨、木曜日の米新規失業保険申請件数、金曜日のユーロ圏、英国、米国の製造業及びサービス部門PMI等となります。
詳細は、主要経済指標(2021年5月17日~21日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年5月10日~14日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年5月17日~21日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年5月10日)インフレ予想が実質金利を更に下げる中で金ETFへ資金が流入し、金価格が1840ドルを超える
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では先週行われた選挙結果について、そして英仏の漁業権をめぐるジャージー島沖合での対立、イスラエルとパレスチナの衝突激化、そして本日はインドの変異種による感染が英国の一部で広がっていることが大きく伝えられています。
そこで本日は、ここでもお伝えした統一地方選挙でのスコットランドの結果を簡単にまとめましょう。この結果は予想通りスコットランド民族党(SNP)が最多64議席を押さえたものの、単独過半数には1議席届きませんでした。しかし、独立支持の緑の党の協力を得ることで過半数となるために、独立を問う住民投票を行うための法案を可決させ、2023年後半に実施する計画とのことです。
それに対しジョンソン政権は、コロナ対策そしてその後の経済回復が優先されるべきと住民投票実施は否定的であることを明確にしています。
そのような中で、興味深かったのは先のニュースに対する為替市場の反応で、英国ポンドが2ヶ月半ぶりの高さへと月曜日上昇していたことでした。これは、アナリストの分析ではSNPが単独過半数をとれなかったことでスコットランド独立が遠のいたという観測、また来週月曜日からさらなるロックダウン解除も入ることからとのことでした。
なお、他の統一地方選挙が行われたウェールズ自治政府とイングランドの結果も簡単にお伝えすると、保守党は労働党が長年押さえていたイングランド北部の下院補欠選で57年ぶりに議席を獲得し、イングランドの地方議会選でも躍進することとなりました。
そして、ウェールズではコロナ対策を率いたマーク・ドレイクフォード自治政府首相の功績が認められ、労働党が地方議会を抑えることとなりました。
つまりは、ジョンソン政権も含め、ワクチン普及で成功を収めたそれぞれの自治政府首相が率いる党に票が集まったということのようです。
パンデミック当初は、ロックダウンや感染者のクラスターを抑え込むこと等が後手後手にまわり、欧州でも最多の死者数を一時記録するなど、多くの批判を受けていたジョンソン政権でしたが、ワクチン接種普及の成功でその人気を挽回し、自治政府首相もその恩恵を受けたということのようです。