ニュースレター(2021年3月5日)パウエル議長発言、米雇用統計後に長期金利が上昇に転じ、 金はコロナ禍の上昇分を失う
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1697ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.6%安の9ヶ月ぶりの低さへと3週連続で下げています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり25.34ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から5%安と1ヶ月半ぶりの低さへ、やはり3週連続で下げています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1127ドルと前週LBMA価格から6.4%安で、2週連続の下げで1月ぶりの低さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週も米長期金利の上昇によって貴金属市場は押し下げられることとなりました。これにより、金はほぼコロナ危機以前の水準、銀は2月初旬のレディットでの投稿による上げ幅を失い、プラチナは2月初めの南アフリカの電力不足への懸念による上げ幅を失っています。
米長期金利が1年ぶりの高さへ上昇している要因は下記のようになります。
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27日に米食品医薬品局が1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンを緊急承認し、バイデン米大統領が「5月末までに米国の成人全員分のワクチンを確保できる」と述べたことによる早期経済回復観測。 -
米下院ですでに可決されている米追加経済対策の上院可決が週末にも行われる観測から、給付金支給やインフラ投資等で景気過熱化によるインフレーション上昇観測。 -
木曜日にパウエルFRB議長が債券市場の動向に警戒感を示しながらも、この抑制に対する具体的な措置に言及がなかったことによる失望感で国債が売却されたこと。 -
本日発表の米雇用統計が予想を上回ったことで経済正常化によるインフレ懸念。
先の要因で長期金利が上昇することで、ドルインデックスが11月末の高さへ上昇していることも金を押し下げている模様です。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は、ロンドン時間午前中に米国債利回りが先週の1年ぶりの高さから下げる中で、アジアの需要などもあり一時1.5%近く上昇して始まっていました。
しかし、先週大きく下げていた全般世界の株価が3営業日ぶりに大きく反発するなど、リスクオンとなる中で押し下げられて前週終値比下げてトロイオンスあたり1727ドルで終えていました。
この間、同日の中国の金価格はロンドン受け渡し金価格をトロイオンスあたり10ドルを超える上昇となっていたことから、世界最大の金消費国である中国の需要の高まりが示唆されていました。
火曜日金相場は、米長期金利が高止まりし、世界株価も前日の上昇からもまちまちとなっていたことから、4営業ぶりの上昇で1735ドルで終えていました。
そのような中、米国ドルが2営業日ぶりに下げていたことが金をサポートしていました。
なお同日は、中国の金融監督当局トップである郭樹清氏が、海外市場のバブル崩壊に懸念を示したことが伝えられており、S&P500種は昨年3月の低値から70%高上昇していることもあり、警戒感もでていたようです。
水曜日金相場は長期金利が再び上昇に転じたことからも、一時トロイオンスあたり1702ドルと8ヶ月ぶりの低さをつけていました。
なお、同日発表された金曜日の米雇用統計の先行指標のADP全国雇用者数は予想の17.7万人を下回る11.7万人でしたが、貴金属市場への影響は限定的となっていました。
木曜日金相場は長期金利が再び先週金曜日の水準へと上昇に転じたことからも、トロイオンスあたり1700ドルを割ってトロイオンスあたり1687ドルへと一時下げていました。
この背景は、同日行われたウォールストリート・ジャーナル主催のウェビナーでパウエルFRB議長が長期金利のボラティリティの高さへの懸念を示したものの、それにどう対応するかについて言及がなかったことで、国債が売られて長期金利が上昇し、株価が下げてドルが上昇したことからでした。
本日金曜日は、金相場は好調な米雇用統計発表された後にトロイオンスあたり1687ドルと9ヶ月ぶりの低さへ下げた後に1700ドルまで戻して推移しています。
先の動きは、市場注目の米雇用統計で、非農業部門雇用者数が37.9万人と、予想の18.2万人と前回修正値の16.6万人を上回り、失業率は、6.2%と前回と予想の6.3%から改善していたことで、経済正常化によるインフレ観測が広がり、米長期金利が再び1年ぶりの1.6%近くへと上昇し、ドルインデックスが上昇したことが背景となりました。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日23日に米長期金利が1年ぶりの高さながら一服して、金価格がトロイオンスあたり1800ドルを維持していた際に、全ての貴金属で減少していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、0.62%減の259トンと、米中貿易摩擦時の2019年5月末以来の低さへと減少していたこと。建玉は昨年9月末から100万枚を下回っており、2019年4月末以来の低さ。
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コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比3.8%減の6,131トンと10月13日以来の低さへ減少していたこと。建玉はレディット以前の水準へ下げていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比1.2%減の13.5トンと11週間連続で減少し、引き続き昨年11月17日週以来の低さとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比27%減で3.8トンと2週ぶりに減少していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で15.2トン(1.4%)減で1078トンと昨年5月以来の低さで、8週連続の下げの傾向であること。しかし、今週少ないながら火曜日に残高をほぼ4週間ぶりに増加させていたこと。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週は週間で8.3トン(1.6%)減で511トンと昨年9月初旬以来の低さで、7週連続の減少傾向。また、1月19日以来増加していないこと。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週は週間で478トン(2.5%)減で18,678トンと4週連続の減少傾向であること。しかし、今週も少ないながら水曜日に残高増加を記録したこと。 -
金銀比価は、今週64で始まり本日は67と2月12日以来の銀割安傾向であること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週の平均は8.97と2019年9月以来の高さとなっていたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、集後半に価格が大きく下げることで増加したものの、金と銀はそれぞれ3%と39%減で、銀は0.3%増加していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も米長期金利の動きで市場は動くこととなりました。そこで、来週も今週同様に長期金利の動向に市場は注目し、それに影響を与える経済指標やワクチン普及関連や来週にも成立予定の追加経済対策等のニュースが重要となります。
主要経済指標としては、水曜日の中国と米国の消費者物価指数、木曜日のECB政策金利、米新規失業保険申請件数などに市場は注目することとなります。
それでは、詳細は主要経済指標(2021年3月8日~3月12日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年3月1日~5日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年3月8日~3月12日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年3月1日)長期金利が上昇の勢いを弱め、アジアのバーゲンハンター的需要からも金は8ヶ月ぶりの低さから上昇
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、入院されていたエジンバラ公が転院されて心臓関連の何らかの処置が行われたこと、ヘンリー王子とメーガン妃の今週末放映されるインタビュー番組の予告編で王室批判もインタビューに含まれているらしいこと、そして2018年に遡るメガーン妃のスタッフへのいじめ疑惑などと王室関連ニュースが、トップニュースで伝えられています。
そのような中で、ジョンソン政権のスナク財務相は今週3日に予算演説を行い、その内容が大きく伝えられていますので、簡単にまとめてみましょう。
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新型コロナのワクチン接種が順調に進んでいることから、国内経済は当初の想定よりも半年早い22年半ばまでにコロナ危機前の水準に戻るとの見通しを示した。ちなみに、英国GDPは昨年9.9%縮小と過去300年を超えて最も大きな落ち込みを記録。 -
先週お伝えしたロックダウンの段階的解除の期間、またそれを超えて景気を下支えするため、一時帰休労働者や自営業者への支援を9月末まで延長。小売りや接客業、娯楽関連企業の固定資産税控除も6月末まで延長。住宅購入者を対象した減税措置も継続。 -
法人税率は、約半世紀ぶりに2023年に現行の19%から25%に引き上げ。法人税率は引き上げ後も主要7カ国(G7)中で最も低いとのこと。(財務省のデータで2020年1月において、日本29.74%、ドイツ29.90%、フランス28%、米国27.98%) -
2021/2022年度の政府借り入れは2340億ポンドと、GDP比10.3%になるとし、当初予想の1640億ポンド(同7.4%)から大幅に引き上げ。そこで、英債務管理庁は今後1年2960億ポンドの国債を発行する計画。これは、ロイターによると市場予想の2470億ポンドを大幅に上回るとのこと。
英国の政府債務残高のGDP比は、2020年10月の段階でG7の中では最も高い水準の日本の266%よりはるかに低く108%と、ドイツの73%に次いで低いものの、英国政府の危機感は高く、今回もコロナ禍によって選択せざるを得なかったロックダウンによる経済打撃を回復させるために最大の努力を行うとしながらも、財政正常化へのロードマップも示す事となりました。
今回パンデミックに対応するために、本来保守党の2枚看板の「小さな政府」と「市場主義」を棚の上に置かざるをえなかったジョンソン政権が、ロックダウンを解除した後にどのように財政正常化へ導いて行くのかをしっかり見守りたいと思います。