ニュースレター(2021年2月26日)長期金利が2013年以来の速いペースで上昇し、金は8ヶ月ぶりの低さへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1743ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.4%安の8ヶ月ぶりの低さと2週連続の下げなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり26.69ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から0.96%安と1週間ぶりの低さへ下げています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1208ドルと前週LBMA価格から6.61%安で、3週ぶりの下げで、2週ぶりの低さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週金相場は米長期金利が2013年以来の速いペースで上昇し1年ぶりの高さとなったことで、本日ロンドン夕方に更に下げてトロイオンスあたり1728ドルと前週終値から3%と8ヶ月ぶりの低さへ大きく下げることとなりました。
金価格と米10年物国債の利回りの推移
過去10年間は金価格と米10年物国債利回りがほぼ逆相関関係となっていることが下記のチャートでも見ることができます。
この背景はコロナ危機後の経済回復期待による金利上昇が、さらなる追加経済対策等による経済加熱で主要中央銀行の過去にない規模の緩和的金融政策を変更せざるを得なくなる緩和縮小懸念、そして今週行われた国債入札が不振となるなど、さらなる大量国債増発による金利上昇懸念からも更にペースを早めたようです。
なお、工業用途の需要が6割を占める銀は、その市場の流動性が金よりも深くないことからも、本来金よりも価格の動きが激しいことで知られていますが、ロンドン時間夕方にトロイオンスあたり26.43ドルへと下げているものの、前週末終値比3%安と下げ幅を抑えています。
そして、やはり工業用途需要が6割ほどであるプラチナは、更に市場の流動性が限られていますが、前週終値比では7%安で1187ドルと、今月6年ぶりの高さへ上昇していたことからも、下げ幅を金と銀よりも広げています。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は、3営業日ぶりに金価格はトロイオンスあたり1800ドルを取り戻していました。
これは、コロナ禍後の経済回復からも世界最大金消費国の中国と第2位のインドの需要の高まりが背景にあり、この間銅は10年ぶりの高さ、原油は年初から23%高と上昇しており、これらの価格上昇によるインフレ懸念で株価は同日下げ、金のインフレヘッジの需要も高まっていました。
火曜日金相場はトロイオンスあたり1807ドルと前日の1.8%の上げ幅をほぼ維持して終えていました。
同日の上げもインフレ懸念が背景となっていましたが、米長期金利は1年ぶりの高さの1.3%台に高止まりし、3営業日連続で弱含んでいたドルインデックスも同日は多少ながら上昇していたこともていたことで、金の頭を抑えることとなりました。
この背景は、同日株価が全般下げていたことからも、ドルが安全資産として購入されていたことからでした。なお、同日注目のパウエルFRB議長の議会証言は、市場予想通り金融緩和継続を確認するハト派的なものであったことから、株価は下げ幅を多少取り戻していました。
水曜日金相場は心理的節目のトロイオンスあたり1800ドルを割り、前週終値比0.8%高ではあったものの、1798ドルで終えていました。
これは、同日ロンドン時間昼過ぎに米長期金利が1.4%を超えて昨年2月以来の高さに上昇したことに反応したことからでした。
同日はパウエルFRB議長の議会証言が前日の上院に続き下院で行われ、金融緩和維持を強調し、経済が目標を達成するには時間がかかるとの考えを繰り返したことで、国債価格の下げが止まり金利の上昇が抑えられ、ドル高も一時一段落していました。
なお、同日米食品医薬品局(FDA)がジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンについて「1回の接種でも高い効果がある」と緊急使用を支持したことから、経済回復観測からも工業用途の高い銀は前週終値比2%高でトロイオンスあたり27.85ドル前後を推移し、金銀比価は65を割って2月初旬以来の銀割安解消となっていました。
木曜日金相場は、米長期金利が一時1.61%と一年ぶりの高さで前日からも上昇したことから、大きく押し下げられてトロイオンスあたり1765ドルまで一時下げていました。
これは、同日行われた米国債入札が不振で利回りが23ベーシスポイント急騰したことからですが、同日発表の米新規失業保険申請件数も予想を下回っていたことで、インフレ懸念も高まり、FRBによる利上げ観測も広がることとなりました。
この間株価は割高感が意識されやすい高PER(株価収益率)銘柄やテクノロジー株を中心に下げていました。
本日金曜日金相場は、長期金利が1年ぶりの高さに高止まりする中で、ドルが一週間ぶりの高さへ上昇したことからも、前日終値比2.6%安でトロイオンスあたり1726ドルと昨年6月以来の低値となっています。
これは、昨日の米国債入札不振で米長期金利が2013年以来の速いペースで上昇したことからドルが上昇し、ドル建てコモディティは金を含めて全般下げることとなったようです。また、実質利回りがマイナス圏からプラス圏に近づいていることも、金利を産まない金を押し下げる要因となっている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日16日に金価格が長期金利上昇で一時心理的節目の1800ドルを割る中で、金とプラチナは減少し、銀とパラジウムが増加していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、21%減の260トンと2019年5月以来の低さへと大きく減少していたこと。この水準は過去5年間を23%下回るもの。建玉は昨年9月末から100万枚を下回っており、先週は2019年5月以来の低さ。
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コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比3.3%増の6,375トンへ2週ぶりに増加していたこと。そして、この水準は過去5年間の平均よりは42%上回っていること。建玉は昨年9月以来の高さ。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比1.7%減の13.6トンと10週間連続で減少し、昨年11月17日週以来の低さとなっていたこと。これは、5年平均を7.2%下回る。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比40%増で5.1トンと2週連続で増加し、5年平均の-1.1トンを上回るものであったこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で27.4トン(2.5%)減で1100トンと昨年5月以来の低さで、7週連続の下げの傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週は週間で2.43トン(0.45%)減で521トンと昨年10月以来の低さで、6週連続の減少傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週は週間で20トン(0.1%)減で19,214トンと3週連続の減少傾向であること。しかし、今週は2月16日以来初めて残高増加を記録したこと。 -
金銀比価は、今週64を昨日下回り、本日再び65を超える銀割高傾向であること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、今週春節の休暇後の木曜日から引き続き、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週の平均は8.06ドルと前週から上昇していたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、今週貴金属価格が大きく下げる中で、金とプラチナはそれぞれ13%と15%減で、銀は24%と増加していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も長期金利の上昇で金価格は大きく押し下げられていますが、来週も長期金利の動向とそれを動かす要因に注目が入ることとなります。
それは、バイデン政権の追加経済政策の成立関連ニュース、新たなワクチンやワクチン普及のニュース、米国債入札関連ニュース等が、大量国債発行観測や国債入札不振などは金利を押し上げる要因となります。
また、来週は米雇用統計が金曜日、その先行指標のADP全国雇用者数が発表されますが、これらが良好である場合、FRBによる金利引き上げ観測も広がり、金は押し下げられる可能性があります。
それでは、詳細は主要経済指標(2021年3月1日~5日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年2月22日~26日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年3月1日~5日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年2月22日)金価格は1800ドルを超えたものの、工業用コモディティーへは多額の投機的資金流入
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ジョンソン政権がイングランドのロックダウン解除のロードマップを示し、そのニュースが見出しを飾っています。そこで、本日はそれを簡単にご紹介しましょう。
まず、ロックダウン解除は下記のように4つのステップとされています。
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ステップ1.1(3月8日~)
全ての児童・生徒が学校へ戻り、一部大学も再開。屋外で同世帯ではない一人とエクササイズに限らず一緒に会うことができる。
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ステップ1.2(3月29日~)
6人または2世帯までの人々と屋外で会うことができる。そして、テニス等の屋外スポーツ施設が再開。
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ステップ2(4月12日~)
生活必需品以外のお店、美容院、ジム、レストランなどは屋外で飲食が再開。
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ステップ3(5月17日~)
2世帯が屋内で過ごせ、パブやレストランも屋内で6人までの集まりが可能。その他映画館や宿泊施設、屋内での運動教室再開。
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ステップ4(6月21日~)
ほぼ全ての制限が解除。
先が可能となるには、段階的ロックダウン解除の中で、①ワクチン接種普及が計画通りであること、②それに伴う感染率の低下、③新型コロナウイルスの変異種の状況、④医療機関に過剰な負担がかかっていないという4つの条件がチェックされることとなります。
そして、先の①の条件のワクチン接種普及計画によると、これまでの9月までから7月末までに成人の全ての接種を終えることが目標とされています。
すでに今月24日までに、英国では1869万人の人々が少なくとも一回目のワクチン接種を終えており、人口の27%以上と、世界でも米国に次ぐ数となります。これは、英国は多くの主要国とは異なり、2回のワクチン接種の間隔を3週間から12週間へと広げ、できるだけ多くの人々が少なくとも1回目の接種を早い段階で受けられることを目指していることからでもあります。
そのために、2月半ばまでに70歳以上の人々や何らかの基礎疾患を持っている人々、介護施設の入居者や医療・介護関係者は少なくとも一回目の接種を終えており、計画よりも早いペースで進んでいます。
そのためか、一日の感染者数も1万人を割り、死亡者数も7日間の平均が400名ほどと未だ高い水準ではあるものの、ピーク時の1月の1600人からは大分減少しています。
今週ロンドンは、2月にしては珍しく17度近くまで気温が上昇し、公園や街並みには水仙、雪割草、クロッカス、早咲きの桜などが一斉に咲き誇り、春の息吹を感じさせる気候となっています。
世界でも記録的に高い感染者数や死亡者数を出した英国も、閉ざされていた長いロックダウンの日々からいよいよ歩み出す事ができるようです。