金市場ニュース

ニュースレター(2021年12月3日)パウエルFRB議長発言で金価格は4週ぶりの低さへ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1771ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.6%安と2週連続の下げで、4週ぶりの低値となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり22.35ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から5.4%安とLBMA価格ベースで3週連続の下落で、2ヶ月ぶりの低値となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では944ドルと3.5%安と3週連続の下げで10週ぶりの低値となっています。

今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要

今週貴金属相場は、オミクロン型感染の広がりとFRBの金融政策観測で大きく動くこととなりました。

オミクロン型感染懸念では、株価が下げることで現金化が起こり金も売られる事となり、パウエル議長の議会証言での金融緩和縮小のペースを上げる必要があるということ、またインフレを「一過性」と表現することを止めるというコメントで、早期の利上げ観測が広がったことも金を押し下げることとなりました。

そこで、先月は月間で増加に4ヶ月ぶりに転じていた金ETFの最大規模のSPDRゴールドシェア(GLD)とiShareゴールド(IAU)が、共に水曜日と木曜日に2日連続で残高を減少させ、銀の最大銘柄のiShareシルバーも週間で3週ぶりに減少傾向などと、貴金属へのセンチメントは悪化しているようです。

そこで、今週は参考までに月間のSPDRゴールドシェアとiShareゴールドの残高の推移のチャートを下記に添付します。ここで、見られるように、昨年8月に金価格が2075ドル(チャートの価格は月間平均であるために1968ドル)と最高値を付けた際に金ETFの残高が急増していることが見られ、金へのセンチメントが高まっていたことが見られます。その後、ワクチンの良好な治験結果が発表された11月以降残高減少が進み、今年は5月、6月、11月を除いて残高を削っています。

金価格とSPDRゴールドシェアとiShareゴールドの残高の推移 出典元:LBMA、SPDRゴールドシェア、iShareデータからブリオンボールトが作成

なお、銀とプラチナは工業用途であることからも、オミクロン型感染の広がりによる移動制限による工業需要減少懸念、そして金よりも市場が小さいことから下げ基調の場合はより大きく下振れをすることとなり、週間の下げ幅を大きくしています。

日々の金相場の動きと背景について

月曜日、前週金曜日の新型コロナ変異種オミクロン型懸念による金融市場の急落時の上昇を維持できなかった金相場は、株式市場が落ち着き、長期金利とドルが金曜日の下げ幅を取り戻しつつある中で、更に下げ幅を広げて再びテクニカルアナリストが重要と見ている1781ドルを試し、1785ドルで終えていました。

火曜日金相場は、モデルナ社CEOのワクチンの効果に関する発言、そしてパウエルFRB議長の議会証言で神経質に動くこととなりました。

まず、モデルナ社のパンセルCEOがオミクロン型に対する既存のワクチンの有効性がかなり低いと述べたこと、また他社の抗体カクテル療法の有効性も低いこともが伝えられ、リスク資産が売られる中で金はトロイオンスあたり1808ドルまで一時上昇していました。

しかし、その後パウエル議長の議会証言で、「インフレに関する『一過性』の表現をやめる時が来た」とし、「数カ月早いテーパリング終了を検討」と述べたことから、長期金利が上昇し、ドルが強含んだことから、金は1777ドルへと大きく下げて終えていました。

水曜日金相場は、株式市場が落ち着きを取り戻す中で、トロイオンスあたり1793ドルまで一時上昇したものの、1781ドルへと押し戻されて終えていました。

前日市場を大きく動かし、同日も行われたパウエルFRB議長の議会証言では、前日同様にインフレが明らかに上昇していると述べたものの、ほぼ前日の内容と変わりがないという判断で市場への影響は限定的となりました。

また、同日のADP全国雇用者数は前回修正値の57万人を下回ったものの予想の52.5万人を上回る53.4万人で、米ISM製造業景況指数は前回60.8と61を上回る61.1となっていました。

そこで、株式市場同様に金市場もまた前日の反応を行き過ぎたものという認識で調整が入っていたものの、ニューヨーク時間に米国におけるオミクロン型感染が確認されたことで、米株価が大きく下げて、現金化の流れで金が売られることとなりました。

木曜日金相場は、前日のニューヨーク時間の急落から株式市場が落ち着きを取り戻す中で、トロイオンスあたり1762ドルへと一時下げて1月ぶりの低値を付けた後に、1771ドルで終えていました。

前日大きく下げた米株価も、自律的反発や安値買いからも同日は3日ぶりに反発していました。そして、翌日の米雇用統計を前に発表された同日の新規失業保険申請件数は予想の24万件を下回る22.2万件であったこともリスク資産をサポートしていました。

そこで、金は上げ幅を抑えられ、米FRBの速いペースでの金融緩和縮小観測などからも、更に押し下げられることとなりました。

金曜日は、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は予想の55万人と前回修正値の54.6万人を多くく下回る21万人であったものの、失業率が4.2%と前回4.6%と予想の4.5%を下回るまちまちのものであり、FRBの金融政策を変えるものではないという観測から、市場への影響は限定的となりました。

なお、前月市場が重要視した平均時給は前回の4.9%と予想の5.0%を下回る4.8%となっていましたが、すでにFRBはインフレを一過性と見るべきではないとスタンスを変えていることからも、これに関しても大きな反応はでなかった模様です。

そこで、金相場は前日終値から多少ながら上げてトロイオンスあたり1775ドルで推移しています。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週のバイデン大統領がパウエルFRB議長を再任後に価格が急落した翌日火曜日、パラジウムを除く全ての貴金属で強気ポジションが減少していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、28%減で369トンと前週の昨年9月15日の週以来の高さから減少させていたこと。ロングポジションのみでは昨年最高値2075ドルを付けた週以来の高さから20%減で、ショートポジションは7%増加していたこと。また、建玉は前週から15%減で、前週の昨年11月17日の週以来の高さから下げていたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比16.7%減で4,648トンと前週の6月15日の週以来の高さから減少していたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、63%減で9トンと、前週の6週連続でネットロングを増加させて5月18日の週以来の大きさから下げていたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは11週連続のネットショートであったものの、21%減の3.6トンと減少していたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で6.7トン(0.7%)減の986トンで11月22日以来の低さで、週間として3週ぶりの減少傾向となっていること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.99トン(0.2%)減で496トンと11月18日以来の低さで、週間として2週ぶりに減少傾向であること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で85トン(0.5%)減少して17,000トンと、11月11日以来の低さで、3週ぶりに週間で減少傾向となっていること。

  • 金銀比価は、今週77台から79台へと上昇して9月30日以来の高さとなっていること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。)

  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週800台前半から火曜日に850と9月15日以来の高さまで上昇して再び前半へと戻していること。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対しプレミアムで、週間の平均は7.08と前週の3.90ドルから6週ぶりの高さへと上昇していたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)

  • コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、木曜日までの平均は金、銀、プラチナで前週比52%、38%、25%減少し、それぞれ前週の20ヶ月、5ヶ月、2ヶ月ぶりの高さから下げていること。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週はオミクロン型とインフレ懸念によるFRBの量的緩和縮小ペース加速関連ニュースで市場は動いていますが、来週もこれらのニュースは重要で、特に木曜日の中国と金曜日の米国の消費者物価指数へ市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2021年12月6日~10日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

ブリオンボールトにおいて個人投資家によって保有されているプラチナが2トンを超えたことを機会に、プラチナ業界のマーケティング団体であるワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシルが弊社リサーチ取締役にインタビューをしています。

ここでエイドリアンは、将来のプラチナ需要について問われ、既存の排ガス浄化触媒としての需要に加え、水素エネルギー需要への期待などからも新たな投資は増加するだろうと答えています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、オミクロン型感染者が確認されたこと、またオミクロン型対応で渡航規制が入ったこと、そして国内の規制強化に関する議論などが広く伝えられています。

そこで、本日は英国の対応について、また追加、昨年コロナ禍の真っ只中でジョンソン首相官邸が行ったと問題視されているクリスマスパーティに関してもお伝えしましょう。

まず渡航規制に関しては、下記のようになります。


  • オミクロン型が当初確認されたアフリカ南部の南アフリカを含む10カ国が規制が最も厳しいレッドリストへと指定される。

  • 先の国からの帰国が許されている人々は英国もしくはアイルランド人、もしくは英国滞在ビザを所有している人々のみ。

  • 帰国時はワクチン接種2度終了していても、政府が指定するホテルで10日間の隔離。この間の2回の新型コロナ検査費を含む費用(2,285ポンド/34万円)は滞在する人々が支払う。

先の国以外からの帰国者も、オミクロン型が確認される前に緩和されていた自宅でできるラテラルフローテストからより厳格なPCRテストを受けることが義務付けられています。

しかし、国内においては、公共交通網と商店などの場でのマスク着用の義務付け以外は、基本規制はなく、クリスマスパーティも自宅でテストを受けて参加することで良しとされています。

しかし実際は、多くの企業や団体はクリスマスパーティは延期もしくは中止しているのが現状のようです。

そのような中で、昨年厳しい移動規制が行われ、家族ですら同居していない人と会うことが許されていなかった英国で、首相官邸において首相は参加していなかったものの、スタッフのクリスマスパーティが行われていたと伝えられ、メディアや野党労働党が厳しく非難しています。

ジョンソン首相は、現段階ではクリスマスパーティが行われたことを否定も肯定もしていませんが、規則は破られていないと述べています。

昨年の厳しい規制下でも医療機関や学校等で働く最低限の社会インフラ維持に携わる人々はキーワーカー(Key Worker)と呼ばれて、事務所へ出社することが許されていましたので、首相官邸で働く人々もこのカテゴリーであったと推測しますが、そこで飲み食いするパーティーをしたのであれば規則を破っていると見られても仕方が無いでしょう。

来週以降、この件で何らかの動きがあるのか、それともこのままオミクロン型対応等のニュース等で忘れられてしまうのか、個人的には興味深いところです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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