ニュースレター(2021年12月17日)主要中央銀行の金融政策発表後、金は2週ぶりの高さへ上昇
来週欧米は24日はからクリスマス休暇に入るために、弊社ニュースレターは今週が今年最後で、年末30日に簡易版をお届けし、年初は1月7日から開始させていただきます。
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1807ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.6%高と2週連続の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり22.64ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から3.4%高とLBMA価格ベースで4週ぶりの上昇となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では939ドルと0.6%安と、LBMA価格ベースの週終値では昨年11月13日の週以来の低値となっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週は市場注目の主要中央銀行の金融政策が発表されて、それぞれ異なる水準ではあるものの、量的緩和縮小方向へ転換したことで、記録的な高値更新を続けていた株式市場への投資家心理が悪化しており、安全資産としてドル、米国債が買われ、長期金利が2ヶ月ぶりの低さへ下げる中で、金の需要が高まっている模様です。
この間、銀は金同様に安全資産的需要がある中で、金銀比価はFOMC前に昨年9月以来の高さの銀割安水準へ上昇後、本日7営業日ぶりの低さまで戻していますが、プラチナは中国の経済の停滞や半導体不足による工業需要減少の懸念で上昇幅が限られて、金とのディスカウントは年初以来の高さへと上昇しています。
それでは、本日はここで通常お届けする「今週のチャート」の代わりに今週の主要中央銀行の金融政策の主要なポイントを下記にまとめ、市場反応についてはそれぞれ括弧内で追記します。
FOMC(米中央銀行)
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11月のFOMCで決定した量的緩和終了時期を当初予定より3ヶ月早めて、2022年3月に米国債と住宅ローン担保証券(MBS)の購入額をゼロへ。(想定内) -
金利は0~0.25%に据え置いたものの、予想で来年3回利上げが中央値と、前回の0.5回から引き締めペースを加速。(想定内) -
インフレの「一過性(Transitory)」という文言を声明から削除。(想定内)
イングランド銀行
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政策金利を0.15%引き上げて年0.25%にすると発表。8950億ポンド(約135兆円)の資産購入プログラムは維持。(この利上げは前月予想されていたものの、行われず、今月オミクロン型感染拡大で見送られる観測もあり、市場の想定外。)
欧州中央銀行
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コロナ危機で導入した総額1兆8500億ユーロ(約240兆円)の緊急買い取り制度による新規資産購入を2022年3月末で打ち切る。(想定内) -
主要政策金利(0%)と中銀預金金利(マイナス0.5%)は当面、現在の水準に据え置く方針。(想定内)
日本銀行
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新型コロナウイルス禍に対応した資金繰り支援策の縮小を決め、コマーシャルペーパー(CP)・社債を計20兆円を上限に買い入れる措置を2022年3月末の期限通りに終える一方、金融機関に有利な条件での貸し出しの原資を供給する特別オペ(公開市場操作)は9月末まで半年間延長。(想定内) -
短期金利をマイナス0.1%、長期金利の指標になる10年物国債の利回りをゼロ%程度に誘導する長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)は現状維持を決め、上場投資信託(ETF)を年12兆円を上限に、必要に応じて買い入れる資産購入策の維持。(想定内)
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は、米長期金利が下げる中で主要通貨建てで全て上昇し、前週終値比0.3%高のトロイオンスあたり1788ドルで終えていました。
この背景は、今週FRBを含む主要中央銀行が金融政策を発表することからも、FRBが量的緩和縮小ペースを早めること、それによる早期利上げなどの観測で、記録的高値の水準から米株価がオミクロン型感染拡大の懸念もあり下げていることで、安全資産として長期国債と金が購入されていたようです。
火曜日金相場は、世界株価が全般下げる中で長期金利が上昇し、トロイオンスあたり1773ドルへと押し下げられて終えていました。
同日は市場注目の米卸売物価指数が前年同月比9.6%と前回の8.6%と予想の9.2%を上回ったことで、同日から行われているFOMCにおいて量的緩和縮小ペース加速、早期利上げが決定される観測が広がっていたからでした。
そのような中で、同日米株価市場はファイザー社の飲み薬が新型コロナウィルス変異型「オミクロン型」に効果があると発表したことで、当初反発して始まっていましたが、早期利上げ観測はテクノロジー株を大きく押し下げて、全般下げに転じていました。
水曜日金相場は、FOMC後の金融政策声明で緩和縮小終了の前倒しを決定し、FOMCメンバーが2022年に3回の利上げを予想していること受けて、トロイオンスあたり1754ドルへと一時下げた後に、1778ドルへと上昇して終えていました。
市場はFOMCにおいて、量的緩和縮小ペースと利上げペースの加速を予想していたことからも、内容はほぼ想定内という判断で、材料出し尽くし感で買いが入ることとなりました。
木曜日金相場は、前日FOMC発表前に付けた2ヶ月ぶりの低値のトロイオンスあたり1754ドルから2.4%上昇し、1797ドルと2週間ぶりの高さで終えていました。
この背景は、FOMCの内容が市場が予想していた以上にタカ派ではないということで、インフレは今後も高止まりするという観測、そしてドルと長期金利も下げていることからも、「噂で売って、ニュースで買う」という状況となっていました。
なお、同日発表されたイングランド銀行の政策金利においては、3年4ヶ月ぶりに0.15%上げて0.25%と日米欧の4主要中央銀行では初めて利上げに踏み切っていました。そのために、ポンドが対ドル強含んだことは、相対的にドルを下げることともなっていました。
また、欧州中央銀行は近い将来の利上げは無しとコメントしていますが、コロナ危機で導入した緊急買取制度による新規資産購入を来年3月末で打ち切ると予想通り発表していました。
本日金曜日金相場は、前日の上昇基調を受け継いで、トロイオンスあたり1800ドルを超えたことで、更に上昇してほぼ1月ぶりの1814ドルを一時付けた後に、ロンドン時間夕方に1807ドル前後を推移しています。
これは、本日日本銀行もコロナ禍に対応した資金繰り支援策の縮小を決めたことで、今週の主要中央銀行、FOMC、イングランド銀行、欧州中央銀行が何らかの量的緩和縮小を行うことによる市場の流動性の減少懸念で世界株価が全般下げて、安全資産として米国債が買われて2週ぶりの低さへ米長期金利が下げていることが背景の模様です。
そこで、ドルも同様な需要で買われて上昇していますが、金の安全資産的需要、また金利の下げに反応をしている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週金曜日の米消費者物価指数の発表を待つ火曜日に、パラジウムを除く全ての貴金属で強気ポジションが減少していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、11%減で291トンと3週連続で昨年9月15日の週以来の高さから50%減少させていたこと。ロングポジションのみでは8%減で、ショートポジションも2%減となっていたこと。また、建玉は前週から4.4%減で、3週連続で昨年11月17日の週以来の高さから下げていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比35%減で2,778トンと3週連続で60%減少させて6月15日の週以来の高さから減少していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、3週連続で減少し、6トンのネットショートへ転換していたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは13週連続のネットショートであったものの、11%減の7.6トンへと減少していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で4.9トン(0.5%)減の978トンと11月18日以来の低さで、週間として3週連続の減少傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.46トン(0.5%)減で493トンと昨年8月3日以来の低さで、週間として3週連続で減少傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で229トン(1.35%)増加して16,742トンと、昨年7月20日以来の低さで、週間で減少傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週80台から水曜日に昨年9月以来の高さの81台まで上昇後、本日再び6営業日ぶりに80台を割っていること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週840台から本日860台後半へと、年初の高さまで上昇していたこと。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対しプレミアムで、週間の平均は9.26と、前週の8.90から9月末以来の高さへと上昇していたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す) -
コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、木曜日までの平均は金、銀、プラチナで前週比19%、22%、47%へと増加していること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は中央銀行の金融政策が立て続けに発表されていますが、来週は金曜日がクリスマスイブで欧米はほぼ休暇に入りますが、引き続き主要国の金融政策及びインフレ関連指標は重要となります。
そこで、水曜日の日本の金融政策決定会合議事要旨、米国第三四半期GDP、GDP 個人消費、コアPCE、木曜日の個人消費支出等が重要となります。
詳細は主要経済指標(2021年12月20日~24日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年12月13日~17日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年12月20日~24日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年12月13日)主要中央銀行の金融政策の発表を前に、イールドカーブの平坦化が進む中で、金価格は上昇 -
【金投資家インデックス】貴金属投資家は価格上昇時に金と銀を売却
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、オミクロン型の感染者数が2日おきに倍増しているとのことで、パンデミックが始まって以来の感染者数で本日の段階で9万人を超えていること、それに関する政府の対応、それに加えて本日開票結果が発表された補欠選挙で、与党保守党が200年維持してきた議席を野党自由民主党に敗れたことなどが大きく伝えられています。
そこで、本日はジョンソン政権をも揺るがしつつある英国のコロナ現状についてお伝えしましょう。
今週ジョンソン政府は当初1月末を目標としてた18歳以上の人々への3回目のワクチン接種を今月末までに終えるためにあらゆる措置を取ること、この間追加の移動規制はしないものの、人混みに出る際はテストをして出かける等、個々が気をつけることを呼びかけています。
また、すでにスコットランドやウェールズでは導入されているワクチンパスポートの提示がイングランドにおいても義務付けられる事となりました。
これは、①ナイトクラブ、②野外での4000人以上が集まる座席のない会場、③500人以上の観客が入る屋内の座席のない会場、④1万人以上のあらゆる会場で、すでに2回のワクチン接種を終えていること、もしくは、健康上の理由でワクチン接種ができない人は、48時間以内にPCRやラテラルフロー検査を受けて陰性証明書を提示する必要があるというものです。
そこで、ワクチン接種を受けるために長蛇の列ができていること、また政府が無償で提供しているラテラルフロー検査キットが品不足となっていることも伝えられています。
なお、今週月曜日に英国下院で、このイングランドにおけるワクチンパスポートを含む新型コロナウィルス対応策が議論され、野党の支持を受けて可決されたものの、与党保守党の99人の議員が反対票を投じる等と、ジョンソン政権下では最大の造反となったことも大きく伝えられていました。
また、今月お伝えしている昨年移動規制時に首相官邸で行われたとされるクリスマスパーティーの対応への非難等もあり、本日の補欠選挙での保守党大敗にも表されたように、ジョンソン首相の支持率は24%と就任以来の最低の水準へ急落しており、保守党内のジョンソン首相の求心力低下をさらに進めることになるとも報道されています。
そこで、パンデミック当初の対応の出遅れの非難をワクチン接種の成功でかわしたように、ジョンソン首相にとってはワクチン接種3回目のペースを上げてオミクロン型対応で結果を出すことはより重要となっている模様です。
それでは、年末に簡易版ニュースレターをお届けしますが、素晴らしいクリスマスをお過ごしください。