ニュースレター(2021年11月19日)インフレ懸念で上昇した金相場は欧州コロナ感染拡大の移動制限のドル高で上げ幅を失う
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1861ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.04%高とかろうじて3週連続の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり24.79ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.8%安とLBMA価格ベースで2週ぶりの下落となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1037ドルと3.5%安と2週ぶりの下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属相場は、前週同様に市場のインフレ懸念と中央銀行による利上げ観測で綱引き状態でしたが、本日金曜日にオーストリアがCovid-19感染拡大による移動規制を月曜日から行い、ドイツやギリシヤにおいてもその可能性が出たことで、移動規制拡大懸念による購入の上昇と、相対的にユーロが対ドル下げたことでドルが再び16ヶ月来の水準へと強含み、貴金属価格は押し下げられる神経質な動きとなっています。
今週のチャートとしては、金とブレクイーブン・インフレ率の推移のチャートを下記に添付します。ここで、今週月曜日に金価格が5ヶ月ぶりの高値を付けた際に、市場の10年後のインフレ率予想(ブレークイーブン・インフレ率)が2005年以来の高さに上昇していたことがご覧いただけます。
なお、今週インフレヘッジで価格がサポートされていた金に対し、工業用途需要が高い銀とプラチナ、特にほぼインフレヘッジの需要がないプラチナは、移動規制による需要減少の懸念もあり上げ渋っており、金銀比価とプラチナディスカウントが上昇しています。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、前週の米消費者物価指数の急騰を受けて、主要通貨建てで先週達した数カ月ぶりの水準をほぼ維持して、ドル建てにおいては1864ドルで終えていました。
週末には、ミネアポリス連銀総裁、イエレン財務長官がインタビューで、インフレを一過性とするFRBの見方を踏襲していたものの、市場が10年後のインフレ率を予想するブレークイーブンインフレ率はやはり前週達した2.7%を超えて2005年以来の高さをほぼ維持するなど、金をサポートする環境となっていました。
火曜日金相場は、トロイオンスあたり1877ドルを一時付けて、1854ドルで終えていました。
同日は米小売売上高と鉱工業生産のデータが発表され、共に予想を上回り、小売売上高は3月以来の高さとなったことで、早期利上げ観測からも長期金利とドルが上昇し、金を押し下げることとなりました。
また、同日セントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁が、インフレを抑え込む利上げの必要に言及したこともドルを押し上げていました。
水曜日金相場は、前日の下げ幅をほぼ取り戻し、更に前日終値比0.8%上昇してトロイオンスあたり1869ドルで終えていました。
前日は米国小売売上高などの経済指標が良好であったことから、早期利上げ観測の広がりでドルと米長期金利が上昇で金は下げていましたが、同日発表された住宅着工件数は予想を下回り、サプライチェーンの毀損などの懸念からもドルと長期金利は高い水準ではあるものの下げたことが背景となりました。
また、同日発表された英国の消費者物価指数は予想を上回る10年ぶりの高さでイングランド銀行の利上げ観測が広がりポンドは強含み、ドルを押し下げた模様です。
なお、同日発表されたユーロ圏の消費者物価指数は高いものの予想と同水準となっていました。
木曜日金相場は、トロイオンスあたり14ドルほどの狭い範囲での動きでしたが、1859ドルと前日終値から0.5%下げていました。
この間ドルと長期金利は前日同様に高い水準から多少ながら下げていました。しかし、同日発表の新規失業保険申請件数が多少ながら予想を上回る中で、フィラデルフィア連銀製造業景気指数が予想を上回っており、前週からの上昇分の利益確定と、下げた際の購入とのもみ合いとなっていた模様です。
本日金曜日金相場は、ロンドン午前中にトロイオンスあたり1851ドルまで下げたものの、ロンドン時間昼過ぎに上昇に転じ、下げ幅を取り戻して1864ドルを付けた後に、再び下げ基調で1857ドル前後を推移しています。
これは、オーストリアがCovid-19感染の拡大から来週月曜日から10日間の移動制限を行うことを発表し、ドイツやギリシヤもまた、その可能性を示唆したことが背景の模様です。
この発表を受けて、一旦金は買われたものの、ユーロは弱含み、欧州株価も下げてドルが相対的に強まったことで、貴金属相場は押し下げられている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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今週発表のSilver Instituteが発表した銀の需給レポートでは2021年は6年ぶりの供給不足のとこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週のFOMCと米雇用統計後、米消費者物価指数データを翌日に控えて、全ての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、48%増で今年1月5日の週以来の高さの455トンへと上昇していたこと。また、建玉は前週から16%増でやはり1月5日以来の高さへと上昇していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比15%増の4,272トンと2週ぶりの高さへ増加していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、35%増で17.6トンと、10週連続でネットショート後5週連続でネットロングを増加させて、6月1日以来の大きさとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは9週連続のネットショートであったものの、18%減の7.4トンとなっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.9トン(0.09)増の977トンで、週間としては2週連続の増加傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は495.7トンで、8営業日連続で変化がなく、週間でも全く変化がないこと。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は17,052トンと前週金曜日と同水準で、今週木曜日までで全く変化がないこと。 -
金銀比価は、今週74台から75台へと上昇して7営業日で最も高い水準となっていたこと。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週800台へと広がり、9月21日以来の高さとなっていること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、ディスカウントへと2日ほど転じていたものの、週間の平均はプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で0.55と前週の2.21から減少していたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、前週の米消費者物価指数のデータが31年ぶりの高さであったことで大きく価格が上昇時に急増していたことから、今週比較的狭いレンジでの取引となったことで、金、銀、プラチナで前週比15%、20%、1%減少していること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も市場はインフレ関連指標に敏感に反応していますが、来週はFRBが消費関連データとして注目している米個人消費支出データが水曜日に発表され、また今後のFRBの金融政策を予想する上でも同日のFOMC議事録等が重要指標となります。
その他、火曜日のドイツ、ユーロ圏、英国、米国の製造業及びサービス部門のPMI、米リッチモンド連銀製造業指数、水曜日の米第3四半期GDPと耐久財受注とミシガン大学消費者態度指数と新築住宅販売件数等へも市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2021年11月22日~26日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週火曜日に金相場が月曜日の5ヶ月ぶりの高さから大きく下げた際に、その動きを伝える米主要経済サイトのMarketWatchの記事で弊社リサーチ・ダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げていました。
ここでエィドリアンは、「投資資金の流れが金価格を動かしている。金が米消費者物価指数発表後に価格下落のトレンドラインを破り上昇に転じて5ヶ月ぶりの高さを付けた後に、利益確定の売却が起こるのは踊るくべきことではない。」と述べています。
「金のETFの残高は昨年6月の低さへ下げている中で、先週のコメックスのネットロングと建玉は今年始めの高さへと増加していた。このような投機的ポジションに動きが出るのは当然のことだ。」と続けています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年11月15日~19日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年11月22日~26日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年11月15日)FRB関係者とイエレン財務長官がインフレは「一時的」との見方を変えない中で、金価格が数ヶ月ぶりの高値を維持
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、日曜日にリバプールの婦人科病院前で起きた爆弾テロのことが広く伝えられていましたが、それとともに、ヨークシャークリケットチームで活躍したパキスタン系のクリケット選手による人種差別の告発が大きく伝えられていましたので紹介しましょう。
英国においてクリケットは発祥の地であることからも、プロのリーグもあり人気のスポーツです。また、英国の元植民地であった国々でもクリケットは人気があり、インドやパキスタン出身の選手も多く活躍しています。
このプロリーグでも有数なヨークシャー・カウンティー・クリケット・クラブの元選手でキャプテンも務めたのアジーム・ラフィク氏が、同クラブにおける人種差別を昨年9月に告発し、1年をかけて行われた同クラブの独自の正式調査の結果でもその事実が認められたにもかかわらず、何の処分が行われなかったことが先月メディアでまず大きく伝えられていました。
その後、国会議員や多くの分野の著名人からクラブ役員の辞任を求める声が上がり、同クラブのナイキ等の著名スポンサーが次々と降り、イングランド・ウェールズ・クリケット・ボード(ECB)が同クラブが基準を満たすまで国際試合開催の一時禁止を発表したことなどで、会長及び役員は辞任に追い込まれていました。
そのような中で、今週メディアで大きく伝えられていたのは、ラフィク氏が議員委員会に出席し、議員の質問に答える姿がニュースで実況中継をされていたことからでした。
英国ではパキスタン出身の人を侮蔑する呼び方として「パキ」というものがあります。ラフィク氏はこの名で呼ばれることはもちろんのこと、イスラム教に基づいた慣習のお酒を飲まないこと、ラマダーン中に日中食事をしないことなどで、差別を受けていたとのことです。
著名クリケット選手の数人がクリケット界に人種差別は無いと述べていたことに対し、ラフィク氏が「彼らは人種差別が起きていることすら気がついていない。それは、その状態があまりにも普通に受け止められていたからだ。」と述べたことは考えさせられるものでした。
差別を受けている側にとっては差別と感じることが、差別をしている側にとっては単なる冗談であり日常となっていること。これは、いじめ等にも当てはまることなのでしょう。
英国のクリケットの団体はこれを機に、あらゆる差別をなくすと宣言をしていますが、ラフィク氏がクリケット界にもたらすことになるであろう変革は、おそらく、英国に限らず全ての社会でも起こらなければならないことなのかもしれません。