ニュースレター(2021年11月12日)31年来のインフレで金は5ヶ月ぶりの高さへ急騰
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1859ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から3.2%高と2週連続の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり24.96ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から4.8%高とLBMA価格ベースで2週ぶりの上昇となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1075ドルと4.7%高と2週連続の上げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属相場は、市場注目の水曜日の米国消費者物価指数発表後、この数値が1930年来の早いペースであることを受けて、実質金利が史上再低値を付けたことで、数カ月ぶりの高さへ大きく上昇することとなりました。
インフレの高騰と実質金利の下落は、通貨の購買力の低下を意味して歴史的にインフレヘッジの役割を持つとされている金や銀の需要を高めることとなります。
また、今月のFOMCではパウエルFRB議長が、量的緩和縮小の開始は利上げを意味せず、未だ利上げを話す時期ではないとしていたことも、インフレ上昇による利上げ観測を後退させており、実質金利の低下は金利を産まない貴金属の機会費用を下げてサポートとなっています。
本日は、金価格(黄色)と実質金利(青)と米消費者物価指数(赤)のチャートを添付します。ここで金が昨年8月にトロイオンスあたり2075ドルと史上最高値を付けた際に実質金利が当時の過去最低のマイナス1.08%を付けていたことに対し、今週さらなる下げのマイナス1.17%(11月10日はマイナス1.24%)を付けていたことがご覧いただけます。また、今年10月の米国のインフレ率が1990年以来の高いものとなっていることも見られます。
なお、今週銀相場は金同様に上昇し、本日トロイオンスあたり25.38ドルと昨年8月以来の高さへ一時上昇し、プラチナ価格も水曜日に1095ドルを一時付けて昨年7月以来の高さとなっていました。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は前週金曜日米雇用統計後の賃上げ圧力からもインフレが意識された上げ基調を受け継ぎ、ドルが多少弱含み、長期金利は前週金曜日の一月ぶりの低さから多少上昇する中で、ドル建て金価格が2ヶ月ぶりの高さへ上昇、ユーロ建ては10ヶ月ぶり、ポンド建てで5ヶ月ぶりの高さを付けていました。
同日市場の注目はすでに水曜日発表の米消費者物価指数へ移っていましたが、同日は欧州天然ガス価格が10%弱上昇し、原油が再び上昇に転じるなど、エネルギー価格の上昇が際立っていました。
火曜日金相場は、トロイオンスあたり1819ドルと1832ドルの狭いレンジで動いていました。
この間、史上最高値の更新を続けていた欧米株価は若干下げ、米長期金利も9月末の水準へ下げて、ドルインデックスもほぼ一週間ぶりの低さへと下げていました。
そのような中で、実質金利はマイナス1.19%と記録的低さを付けており、金のサポートとなっていました。
なお、同日発表の米卸売物価指数は、前年同月比予想と前回同様8.6%と高いものでしたが、市場への影響は限定的となっていました。
水曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数の発表後、トロイオンスあたり30ドル急騰し、一時1868ドルを付けた後に多少上げ幅を失ったものの1850ドルと、5ヶ月ぶりの高さを維持して終えていました。
同日発表された消費者物価指数は前年同月比で市場予想の5.8%と前回の5.4%を上回る6.2%と1990年以来の高い伸びとなったことから、長期金利は8ベーシスポイント上昇したものの、実質金利は一時マイナス1.24%と史上再低値を付けたことで金を押し上げることとなりました。
また、1835ドルはレジスタンスラインであったことから、これを超えたことでさらなる上げを呼ぶことにもなっていました。
なお、同日ドルが16ヶ月ぶりの高さへと強含む中で金は急騰していたことから、対ドル弱含んだ主要通貨建て金相場は軒並み数カ月ぶりの高さを付けていました。それは、日本円ではgあたり6815円と昨年8月以来の高さを記録し、ポンド建てではトロイオンスあたり1376ポンドと今年1月以来の高さ、ユーロ建てにおいては、1609ユーロと昨年11月以来の高さを記録していました。
木曜日金相場は、前日の水準から緩やかに上昇して0.8%高のトロイオンスあたり1865ドルを付けていました。
同日債券市場はベテランズデーで閉まり、前日市場を動かした長期金利の動きが無い中で、ドルは多少ながら強含み、米株価指数はダウ工業株30種平均が3営業日続落となっていました。
金曜日金相場は、ロンドン午前中に前日の上昇分を失いつつ下げていましたが、午後に入り長期金利とドルが若干下げたことで、下げ幅を削ってトロイオンスあたり1861ドル前後を推移しています。
市場は、金相場が直近のレジスタンスラインであった1835ドルを守り、サポートラインとすることができるか、そのためには昨年の金相場をサポートし、今年は資金の流出が見られている金のETFへの資金の流入が必要ともされており、これらの動きにも注目しているようです。
その他の市場のニュ―ス
-
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、FOMCを前に、金と銀がネットロングポジションを減少させる中でプラチナが増加、パラジウムはネットショートを増加させていたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週8月3日以来の高さへ増加後に2%減の307トンと減少していたこと。建玉は4週ぶりに0.05%と少ないながら減少していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比18%減の3,723トンと5週ぶりに前週の7月13日以来の高さから減少していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、17%増で13トンと、10週連続でネットショート後4週連続でネットロングを増加させて、6月15日以来の大きさとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは8週連続のネットショートで13%増の9トンと、再び2006年6月にレポートが発表されて以来の最大規模となっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.6トン(0.06)増の976トンで、週間としては増加傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、週間で0.65トン(0.13%)の減少で、前週5週ぶりの週間の増加後に週間の減少傾向となっていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は16,929トンと前週金曜日と同水準で、今週木曜日までで全く変化がないこと。 -
金銀比価は、今週74台前半へと減少して、10月26日以来の低さとなっていたこと。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週770台まで広がり、10月29日以来の高さとなっていること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)であるものの、人民元建て金価格が5ヶ月ぶりの高さに上昇したことからも、週平均は2.21と前週の5.12から減少していたこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、今週米消費者物価指数のデータが31年ぶりの高さであったことで、金、銀、プラチナで前日比70%、108%、120%増加するなど急増し、週間で金と銀は前月平均を上回ったものの、プラチナは引き続き前月平均を下回る水準での取引量となっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米消費者物価指数が31年来の高さへ伸びていたことから、ドル建て金相場は5ヶ月ぶりの高さへ上昇しましたが、来週も主要国の消費者物価指数が発表され、市場は注目することとなります。
それらを含む主要経済指標は、月曜日の日本の第3四半期GDP、中国の小売売上高、鉱工業生産、米国ニューヨーク連銀製造業景気指数、火曜日ユーロ圏第3四半期GDP、米国小売売上高と鉱工業生産、水曜日の英国とユーロ圏の消費者物価指数、木曜日の新規失業保険申請件数、金曜日の日本の消費者物価指数等となります。
詳細は主要経済指標(2021年11月15日~19日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
-
主要経済指標(2021年11月8日~14日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年11月15日~19日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年11月8日)天然ガスと原油価格が上昇しインフレの「一過性」が疑問視される中で、ユーロ建て金価格が10ヶ月ぶりの高さへ
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では先週に続き、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)関連ニュースが大きく伝えられていますが、11月11日は第一次世界大戦終結を記念するリメンバランス・デーで、今週日曜日はリメンバランス・サンデー(追悼の日曜日)であることから本日はご紹介しましょう。
まず、リメンバランス・デーは、Armistice Day(休戦の日)とも呼ばれ、第一次大戦の休戦協定が1918年11月11日午前11時に行われたことから、エリザベス女王の祖父のイギリス国王ジョージ5世によって定められた記念日で、毎年11月11日午前11時に2分間の黙祷が行われています。
近年では第2次世界大戦、その他の戦争の戦没者を追悼し、それとともに兵役に服した軍人を称える日ともなっており、リメンバランス・デーという名が一般的に使われています。
なお、リメンバランス・サンデーは11月11日に近い日曜日で、今年は11月14日となっています。
同日は、毎年ロンドンのホワイトホールにある戦争記念施設のザ・セノタフ(The Cenotaph)で追悼記念式典が行われ、英国王室、英国政府、英国軍関係者、そしてベテランと呼ばれる退役軍人や戦没者の家族が式典に参加します。
ここでもお伝えした、COP26に体調不良で欠席したエリザベス女王も、この式典には参加することが昨日はニュースで伝えられていました。
数年前までは、式典出席者を代表して屋外のザ・セノタフの前にに献花をしていたエリザベス女王ですが、95歳という高齢でもあり近年は慰霊碑を臨む建物のバルコニーから参列し、チャールズ皇太子、ウイリアムズ王子が代理で献花をしています。
昨年はパンデミック下であったことから、規模を大幅に縮小して行われた式典は、今年は通常通りの形式で退役軍人などを含めて1万人規模に戻るとのこと。
本日のニュースではアフガニスタンの戦没者の子供達もまた、退役軍人と共に記念式典に参加することが伝えられていましたが、未だ世界の紛争地で負傷し命を落とす人々もいることを忘れることなく、当日は改めて世界の平和を祈ろうと思います。