ニュースレター(2021年10月8日)米雇用統計後金は上げ幅を失い、プラチナは一月ぶりの高さを維持
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1772ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.86%高と2週連続の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり22.55ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から2.0%高と4週ぶりの上昇となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1032ドルと6.19%高で3週連続の週間の上昇で一月ぶりの高さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属市場は本日発表の米雇用統計を待つ中で、レンジ内の動きをしていましたが、発表後大きく上下して、金は前週終値を0.2%下回り、銀は前週終値を0.9%上回り、プラチナは4.6%高と異なる反応で終えることとなるようです。
本日の米雇用統計の結果は下記に詳細を記載していますが、内容的には予想を下回ったもののFRBの金融政策を大きく変えるものではなく緩和縮小は早ければ11月にも開始されるという観測で3ヶ月ぶりの高さの金利の上昇が背景になっている模様です。
しかし、ドルは多少ながら弱含んでいることから貴金属の下げ幅も限定的のようです。
それに対し、銀とプラチナが金を上回るパフォーマンスを見せているのは、経済回復への期待、特にプラチナは、パラジウムも本日大きく上昇していることから、昨日まで1週間の休暇から戻った中国が購入を進めている可能性があるとも分析されています。
下記に過去20年間のプラチナ価格のチャートを添付します。パンデミック中の需要減少に加えて、半導体不足で自動車生産数が制限されていたこともあり、ディーゼル車の排ガス触媒の需要が需要全体の6割を占める工業用需要の筆頭でもあるプラチナは、7年ぶりの高値を付けた今年2月のトロイオンスあたり1340ドルをピークに価格を下げていました。しかし、今年のLPPM(ロンドン・プラチナ・パラジウム市場)の年次会議でのパネリストが「需要は無くなったのではなく、遅延しているからいずれは遅延分も含めて戻ってくる」と述べ、会議参加者の次回会議開催時(2022年10月)の予想価格は1345ドルとかなり強気となっています。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は、前週3ヶ月ぶりの高さへ上昇していた金利がその上げを一服し、ドルが3営業日連続で下げる中で、トロイオンスあたり1768ドル経上昇して終えていました。
同日は、小幅増産で合意したOPECプラス会議後上昇している原油価格を含むエネルギー価格の上昇でインフレが一過性という主要中央銀行の判断を市場が疑問視しつつあったこと、また中国の恒大集団の債務問題からも世界株価が下げていたことから、リスクオフ基調が金を支えることとなりました。
火曜日金相場は、株価が全般上昇する中で、インフレ懸念からも米長期金利は先週木曜日の3ヶ月ぶりの高さへ上昇し、ドルも3営業日ぶりに強含んでいたことから、前日の上げ幅を失って、トロイオンスあたり1759ドルで終えていました。
株価の反発は前日の下げで短期的な戻りを見込んだ買いとも分析されていましたが、上値はインフレ懸念や米債務上限問題で抑えられていた模様です。
そこで、金も金利上昇とドル高で頭は抑えられていましたが、インフレヘッジの金需要もあり、直近のサポートの1750ドルは堅固していました。
水曜日金相場は、長期金利が午前中の上昇分を失う中で、午前中の下げ幅を取り戻しトロイオンスあたり1764ドルと前週終値を上回る水準へ上昇して終えていました。
同日は市場注目の米雇用統計の先行指標と見られているADP全国雇用者数が予想の42.8万人を上回る56.8万人と上回り、欧州のエネルギー価格急騰、米原油先物価格が7年ぶりの高値を付けるなどインフレ懸念は高まっていたことで、早期の量的緩和縮小及び利上げ観測からも米長期金利が6月以来の高水準へと上昇していました。
しかし、米株価がインフレ及び早期利上げ懸念で反落したことで、安全資産の米国債が買われて長期金利が下げ、金を支えるとともに、インフレヘッジ及び安全資産需要も背景となっていました。
木曜日金相場は、翌日の米雇用統計を待つ中で、米長期金利が多少ながら前日終値から上昇する中で、1752ドルから1766ドルの比較的狭いレンジでの取引となっていました。
この間世界株価は全般上昇し、ドルは高い水準ながらも若干下げて推移していました。これは、米与野党が米連邦政府の債務上限について12月3日までの上限引き上げに合意し、ひとまず米国債の債務不履行を回避できるとの観測が広がったこと、急騰しているエネルギー価格がロシアが供給増を示唆したことや米政府が戦略備蓄放出検討とも伝えられて一服していたこと、また同日ECBがパンデミック時の緊急資産購入プログラム終了後の混乱を防ぐために新たな資産購入プログラムを検討中とも伝えられたこと等が好感されていました。
本日金曜日は、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は予想の50万人を大きく下回る19.4万人でしたが、失業率は前回5.2%、予想5.1%を下回る4.8%と改善していました。
これを受けて、金相場は一時的ではあるものの9月22日以来初めてトロイオンスあたり1780ドルをタッチする30ドルほどの上昇を見せることとなりました。
しかしその後、一時下げていた長期金利が上昇に転じたことで、金相場は1757ドルへと上げ幅を失って前週終値を下回る水準でロンドン時間夕方に推移しています。
これは、市場が非農業部門雇用者数は今年最も少ない数値(前月分が上方修正されたことから)であるものの、失業率は改善していることで、FRBによる金融緩和縮小に変わりはないという判断から債券が売られていることが背景の模様です。
その他の市場のニュ―ス
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今週欧州天然ガス指標価格が年初来で6倍の史上最高値を記録し、米国原油価格がバレルあたり80ドルと2014年以来の高さを金曜日に付けたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に米国長期金利が6ヶ月ぶりの高さへ上昇していた際に、パラジウムを除き全ての貴金属でネットロングが増加していたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、1.3%増の131トンと、前週に続き2019年5月28日以来の低さとなっていたこと。この間、ショートポジションは23%増加し、ロングポジションは15%増加していたこと。建玉は5週連続で減少していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比290%増の547トンと2週ぶりに増加していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、9週連続でネットショートだったものの、47%減の11トンと2週連続でネットショートを減少させていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは3週連続のネットショートで、39%増の7.3トンとこのレポートが発表された2006年以来最大規模を3週連続で更新していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で全く動きがなく986.5トンと、2020年4月7日以来の低さで、週間で2週連続の減少後横ばいの傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、週間で2.08トン(0.42%)減で495トンと9月2日以来の低さで、2週連続の週間の減少傾向となっていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で15.64トン(0.09%)増で、17,105トンと3週連続の週間で増加傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週木曜日に77台と9営業日ぶりに下げた以外は78台を推移していること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週800ドルから徐々に下げて、プラチナ価格がトロイオンスあたり1000ドルを超える中で本日は760ドルほどと8営業日ぶりの低さとなっていたこと。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週木曜日まで祝日であったため、本日は10.34と前週の平均10.10を上回る水準であったこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、本日の雇用統計を前に価格がレンジ内で動いていたことからも、金、銀、プラチナは全て前週比25%、36%、24%減と直近の週平均を下回る水準であったこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は本日の米雇用統計がFRBによる金融政策への影響からも重要指標で市場は注目していましたが、来週もまた、同様な理由で水曜日の米消費者物価指数とFOMC議事要旨が重要となります。
その他経済指標では、木曜日の中国消費者物価指数、米国卸売物価指数と新規失業保険申請件数、金曜日のニューヨーク連銀製造業景気指数と米国小売売上高とミシガン大学消費者態度指数等となります。
詳細は主要経済指標(2021年10月11日~15日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
ドイツの主要経済サイトDas Investment.comの「ドイツの個人投資家は金保有を維持」という記事で弊社の金投資家インデックスの数値が取り上げられました。
ここで、ドイツのみの金投資家インデックスは9月に2ヶ月ぶりの高い数値の58.1を付けてていたこと、ドイツを除く金投資家インデックスの54.3との違いが明らかとなっていたことが紹介され、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュの 「ドイツの金投資家需要は引き続き堅固なものがあり、これはマイナス金利に起因しており、通貨価値低下や金融市場のボラティリティへの長期的な保険としての需要と言えるだろう。」というコメントが伝えられています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年10月4日~8日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年10月11日~15日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年10月4日)「一過性」インフレが30年ぶりの高さで主要金ETFが残高を減少させる中で金価格は堅調に推移 -
【金投資家インデックス】金投資家がパンデミック以来初めて購入を上回る売却を行う
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、史上最高値を記録した天然ガスを含むエネルギー価格高騰に関して、そして今週開催されていた与党保守党の党大会について大きく伝えられていました。また、今週英国への入国規制も大幅に緩和されたことから、これについても広く伝えられていました。
そのような中、先週日曜日に世界6大マラソンの一つのロンドンマラソンが春から秋へと延期されて2年ぶりに一般ランナーも参加されて開催されていましたので、お伝えしましょう。
昨年のロンドンマラソンは、パンデミック中であったことからも、エリートランナーのみの周回のコースとなりましたが、私も参加したバーチャルマラソンは4万人近い参加者数でギネスブックに最多参加者のバーチャルマラソンの世界記録として認定されていました。
今年のロンドンマラソンは従来の4月開催が10月に延期され、レースサイドの応援はできるだけ控えてということにはなっていましたが、一般ランナーも参加できる従来のコースで行われていました。
今年は5万人がロンドンマラソンのコースを走る権利を得て、5万人がバーチャルでコース以外を走ることになっていたようですが、最終的には8万人ほどが参加予定とBBCは伝えていました。
エリート選手は男子がシサイ・レマ(エチオピア)が2時間4分1秒で初優勝し、女子はジョイシリネ・ジャブコスゲイ(ケニア)が2時間17分43秒で初制覇し、英国のシャーロット・プードゥーは10位で英国女子としては史上3位の2時間23分26秒と英国陸上の明るいニュースとなりました。
ロンドンマラソンは、世界の主要マラソンでも抽選ではなかなか走ることができない人気が高いレースですが、チャリティーのために一定の寄付(3000ポンド/45万円ほど)を募ることを条件に得ることができる枠が全体の75%ほどで、毎年多額の寄付が集まっています。
昨年は一般参加がバーチャル以外はできず従来の方法が行えませんでしたが、2019年の寄付総額は6640万ポンド(101億円)と、開催される1日のイベントで集める寄付金の世界記録を13年連続で更新しているとのこと。
そして、チャリティー枠で参加する人々は、寄付をより多く募るために、様々な工夫を凝らして参加しますが、それは漫画のキャラクターの仮装であったり、二人三脚のようにより走ることが難しい工夫をしたものなどです。
今年は、二人で犬の着包みを着たランナーは二人の着包みを着たランナーとしての最速記録の3時間17分12秒で、6人つながって走るランナーとしては、4時間34分52分でやはり記録を残し、3万ドル(約450万円)を集めたとのこと。
ちなみに、私の走り仲間は日本から参加し、今年のロンドンマラソンの最高齢者(87歳)として完走をしたことが英国主要紙のインディペンデントで紹介されていました。
私もいつの日かバーチャルではなくロンドン市内を駆け抜けるロンドンマラソンに参加できることを祈って、本日も来年の抽選に応募したところです。