ニュースレター(2021年10月29日)ドルと実質金利の上昇で金は今週の上げ幅を失う
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1773ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.92%安となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり24.02ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から1.46%安とLBMA価格ベースで3週ぶりの週間の下げとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1012ドルと4.68%安で5週ぶりの週間の下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週金相場は、インフレ懸念による需要の高まりでロンドン午前中までは前週終値比を上回って推移していましたが、昼過ぎにドル高と長期金利上昇に反応して、1.6%ほど急落することとなりました。
そのような中、銀とプラチナはインフレヘッジ需要は金のように無いことからも今週上げ幅は限定的でしたが、本日金の下げにつられて、同様に下げ幅を広げています。
本日の下げはドルが強含んでいることに加え、ブレーク・イーブン・インフレ率が下げて実質金利が上昇していることが背景にあるようです。金利を産まない貴金属は実質金利の上昇はネガティブ要因となります。
下記に金と実質金利を示すTIPS(米国物価連動国債)のチャートを添付します。ここで、金とTIPSの動きがほぼ逆相関であることがご覧いただけます。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は、先週金曜日にパウエルFRB議長の「近い時期の金融緩和縮小」というコメントでトロイオンスあたり1831ドルと一月半ぶりの高さから下げていた金相場は、同日再び心理的節目の1800ドルを超えて1807ドルで終えていました。
その背景は長期金利1.6%を超えてが高止まりしている中での、エネルギー価格高騰などによるインフレ懸念となりますが、パウエル議長、イエレン財務長官、世界銀行が相次ぎより長期的インフレを週末に認識したことなども背景となりました。
火曜日金相場は前日の上げ幅を失って、トロイオンスあたり1782ドルを一時付け、先週金曜日のようにその下げ幅を削りながら1793ドルで終えていました。
これは、長期金利とドルインデックスは上昇しているものの限定的であることからも、心理的節目の1,800ドルを維持できなかった落胆によるさらなる下げ、良好な決算結果等から史上最高値の水準へと上昇している株価市場へ資金が流出していることなどが要因となりました。
水曜日金相場はトロイオンスあたり1800ドルを割っていたものの、トロイオンスあたり1790ドルを挟んで15ドルほどの動きとなっていました。
なおこの間、将来のインフレ率を予測するブレークイーブンインフレ率の10年先の予測は2.69%と2006年5月以来の高さへと上昇していました。ちなみに、前回の最高値の際は、金相場は725ドルと前年比70%高と急騰していました。
木曜日金相場はロンドン午後に主要経済指標とECBの発表後神経質に動き、一時トロイオンスあたり1810ドルと前週金曜日以来の高さを付けたものの、その後上げ幅を失って1799ドルで終えていました。
同日発表された指標は米第3四半期GDPで年率2.0%と予想の2.7%、前回の6.7%を下回ったものの、今週の新規失業保険申請件数は予想を下回りパンデミック以来の低さであったことで、FRBの金融政策の観測が金融政策維持と変更に揺れることとなりました。
また、欧州中央銀行(ECB)は金融政策を維持しましたが、ラガルド総裁は物価は来年に低下すると述べたものの、「想定よりも長く続く」と認め、供給不足やエネルギー価格の上昇が長引いて景気減速や一段の物価上昇が進むリスクへの警戒も示し、ECBが金融政策を変更せざるを得ない観測でユーロが強含んでドルを押し下げたことは金をサポートしていました。
本日金曜日金相場は、ロンドン午後にトロイオンスあたり1772ドルと一週間ぶりの低さへ下げた後、多少ながら上昇してロンドン時間夕方に1778ドル前後を推移しています。
これは、本日世界株価が下げる中でドルが一月ぶりの低さから強含んでおり、また実質金利が上昇していることへ反応している模様です。
米株価の下げは、前日発表されたアマゾンとアップル社の決算結果がサプライチェーンの毀損からも予想を下回ったことで下げており、長期化するインフレの高さとFRB量的緩和縮小への懸念が背景となっている模様です。また、欧州株価も本日発表の消費者物価指数が予想を上回り、1991年以来の高さとなっていたことからも、ECBの金融政策変更懸念から下げています。
なお、本日の米国消費支出はほぼ予想の水準でしたが、3.6%と30年ぶりの高さとなっており、インフレ懸念、FRBによる利上げ観測を広げてドルを強含ませた模様です。
その他の市場のニュ―ス
-
今週木曜日に米国20年債と30年債のイールドカーブが逆転しており、これは2020年5月に20年債の発行を再開して以来初めてのこと。 -
今年第3四半期の金需給レポートがワールドゴールドカウンシルから今週発表され、需要は前年同四半期比7%減で、これは宝飾品と金地金や金貨の需要がそれぞれ33%、18%増となる中で、金ETFからの資金の流出が要因とのこと。 -
今週ワールドゴールドカウンシルが発表した金需給レポートでは第3四半期にトルコ中銀はネットで13トン金準備を売却と記されていましたが、日経新聞は9月に21トンの大量の金が、通貨安対策で売却されたと伝えていたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週米長期金利に反応しで狭いレンジで推移する中で、金とパラジウムは弱気基調で銀とプラチナは強気基調とまちまちとなっていました。
-
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、0.77%減の215トンと3週ぶりに減少していたこと。建玉は3週連続で若干ながら増加していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比294%増の3,049トンと4週連続で8月3日以来の高さへ増加していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、937%増で9.6トンと、10週連続でネットショートから前週ネットロングに転換して更に増加させていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは6週連続のネットショートで4%増の6.8トンとなっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で4.1トン(0.4%)増で982トンと、10月12日以来初めての増加で、週間としては5週ぶりの増加傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、12営業日連続で変化なく、週間でも2週連続の変化なしの傾向。なお、残高は引き続き495トンと2020年4月5日以来の低さとなっていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で5.75トン(0.03%)増で17,005トンと、週間で増加傾向であるものの、引き続き10月は月間でネットで減少傾向となっていること。 -
金銀比価は、前週の8月初旬以来の低さの73台から74台へと上昇して推移していること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週も750を超える水準で前週から上昇して推移していること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、3.49と前週の平均8.29を下回る9月3日の週以来の低い水準であったこと。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、今週木曜日までに長期金利に反応する比較的狭いレンジの動きであったことから、金は前月平均を上回っているものの、銀とプラチナは前月平均を下回る水準での取引量となっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も貴金属相場は市場のインフレ期待とFRBによる量的緩和縮小観測の綱引き状態ですが、来週はFOMCが水曜日、イングランド銀行が木曜日に政策金利発表を行い、米雇用統計が金曜日に発表されることから重要イベントが続くこととなります。
その他指標では、月曜日に中国のCaixin製造業PMI、ドイツとユーロ圏と英国と米国の製造業PMI、そして米国のISM製造業景況指数、水曜日には中国のCaixinサービス部門PMI、ドイツとユーロ圏と英国と米国のサービス部門PMI、ユーロ圏の失業率、米国ADP全国雇用者数とISM非製造業景況指数、木曜日の米国貿易収支と新規失業保険申請件数等も重要となります。
詳細は主要経済指標(2021年10月25日~29日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週私は、日本貴金属マーケット協会提供のプラチナフォーカスのYouTube番組で欧州貴金属事情を話す機会をいただきました。よろしければご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
-
主要経済指標(2021年10月18日~22日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年10月25日~29日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年10月25日)パウエル、イエレン、世界銀行がより長期で高いインフレを予想する中で金は1800ドルを取り戻す
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では今週水曜日に発表された新年度予算案、今週末に開幕する国連気候変動枠組み条約台26回締約国会議(COP26)について、そしてその歓迎会をエリザベス女王が健康上の理由で欠席すること等が大きく伝えられています。
そのような中で、昨日フランスが英国と漁業権を巡っての対立からも漁船1隻を拿捕したことが伝えられ、緊張が高まっているのでご紹介しましょう。
この発端は、英国が欧州連合(EU)を離脱したことで、自由貿易協定(FTA)で漁業権は話し合われ北アイルランド(国境)問題とともに、最後まで合意が危ぶまれた案件で、合意後も英国とEU双方に不満が燻るものとなっていました。
合意内容は、英国が望んでいた英海域の漁獲高の80%奪還は叶わず、毎年交渉はあるものの25%へ大きく引き下げられ、英国はEU漁船を自国海域から排除する「主権」を有するものの、EUにも報復関税などで対抗する「抑止力」が認められるというものでした。
今回の漁船拿捕は、英国とEUの協定でフランスの漁業者が英国やジャージー島周辺海域での漁業の許可を得るには同海域での漁業歴を明らかにする必要があり、その手続に時間がかかる、もしくは許可が得られなかったことに対する報復であるとのこと。
フランスはすでに11月2日までに漁業権をめぐる合意が形成されない場合、英国漁船やトラックへの検査を厳格化すると発表し、また英仏海峡の島への電力供給を断つ事もできると警告しています。
今年5月にフランス漁船による抗議運動が高まった際は英政府は海軍軍艦2隻を派遣すると発表するなど、英国政府は強い姿勢を示していました。
今回リズ・トラス外務大臣は駐英フランス大使を召喚して説明を求めるとし、やはり強い姿勢を崩していません。
漁業は関連産業を含めても英国経済全体に占める割合は0.1%と低い中で、2016年のEU離脱時に漁業関係者の全面的な支持を受けていたことからも、また「主権をEUから取り戻す」ことがブレグジットのスローガンであったことからも、英国政府にとっても安易には妥協できないところではあるようです。
それに対し、フランスのマクロン大統領は来年の大統領選をにらみ、やはり漁業問題では強硬論を展開することは票を集めるには不可欠であるようです。
今回の件は、両国の内政に絡んで互いに強硬論を唱える必要があり、漁業に携わる人々の生活が振り回されることになってしまっているようです。