金市場ニュース

ニュースレター(2021年10月15日)インフレ懸念で金は一月ぶりの高さへ急騰後上げ幅を失う

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1772ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.03%安と2週ぶりの下げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり23.25ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から3.1%高と2週連続の上昇となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1051ドルと2.18%高で4週連続の週間の上昇で2ヶ月ぶりの高さとなっています。

今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要

今週貴金属市場は、インフレ及びスタグフレーション(不況とインフレが同時進行)懸念でインフレヘッジとしての需要急増で金と銀が上昇したものの、本日金は昨日の一月ぶりの高値のトロイオンスあたり1800ドルから1.5%失って前週終値比では0.9%高で推移しています。

それに対し、銀は本日の下げ幅は1.1%と今週の上げ幅の2.9%を維持して推移しています。またプラチナは、インフレヘッジの需要は少ない中で今週順調に上昇し、本日も前日終値比同水準を維持して前週終値比2.9%高となっています。

インフレ懸念のきっかけは今週水曜日に発表の米消費者物価指数が30年ぶりの高さであったことからですが、それに加えエネルギー価格の高騰による企業の業績への悪影響による、スタグフレーションの懸念も高まったことからでした。

しかし、今週発表されている主要企業決算は良好であることから、スタグフレーションの懸念は後退し、インフレに関しても主要中央銀行が唱えている「一過性」へと落ち着きを多少取り戻したことも背景の模様です。

そこで、景気回復観測からも工業用途需要が高い銀とプラチナの価格は金よりも下げておらず、金銀比価が一月ぶりの低さの75台と銀割安解消傾向、プラチナディスカウントは3ヶ月ぶりの低さの715ドルほどへと下げています。

今週は米消費者物価指数と金価格の推移のチャートを下記に添付します。1980年代のインフレ上昇に伴う金の上昇、その後金融危機でその相関関係は崩れますが、再び上昇を始め、コロナ危機で再びその関係が崩れてはいるものの、昨年4月以降インフレ率が上昇していることが見ることができます。

金価格と米消費者物価の推移 出典元 セントルイス連銀

日々の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は、米国がコロンバス・デーで前週5ヶ月ぶりに1.6%を超えて金を押し下げた長期金利は債券市場が休場で動きがない中で、トロイオンスあたり1751ドルと1760ドルを挟む狭いレンジの動きとなりました。

先週金曜日の米雇用統計で非農業部門雇用者数は予想を大きく下回ったものの、賃金上昇でFRBによる量的緩和縮小観測が広がる中で、原油価格が7年ぶりの高値を付けるなどインフレ懸念は強く、ほぼ綱引き状況で動意薄となっていました。

火曜日金相場は、長期金利とドルが上げを一服する中で、トロイオンスあたり1769ドルを一時付けるなど前日終値から上昇して1760ドルで終えていました。

前日7年ぶりの高値を付けたWTI原油先物価格は上げ幅を多少失っていましたが高値で留まっており、サプライチェーン混乱やエネルギー価格高騰による企業の業績懸念からも、世界株価は全般下げていたことからも、金のインフレヘッジや安全資産的需要が金相場上昇の背景となりました。

水曜日金相場はトロイオンスあたり1795ドルを一時付け、前日終値比1.9%高と9月15日以来の高い水準を付けていました。

これは、同日の米消費者物価指数が前年同月比予想5.3%を上回って5.4%と30年来の高さとなったものの、変動の大きいエネルギーと食品を除くコア指数は4.0%と予想と同水準で、過度なインフレ懸念が薄れて米長期金利が10月7日以来の低さへと下げ、ドルも弱含んだことが背景となりました。

なお、同日発表のFOMC議事録要旨では、予想通り11月初めの次回会合で量的緩和縮小の開始を決めること、しかしこの政策転換は金利政策に関する直接のシグナルではないと予想道理明記されていたことで、その影響は限定的となりました。

木曜日金相場は一月ぶりに一時トロイオンスあたり1800ドルを付けた後、1795ドルと前日の1.8%の上昇から更に0.3%上昇して終えていました。

この間、米長期金利は2営業日連続で下げて8営業日ぶりの低さで、ドルも7営業日ぶりの低さとなっていました。

これは、同日発表の米卸売物価指数が前年同月比8.6%と予想の8.7%を下回り、週間の新規失業保険申請件数が今年3月以来の低い水準で、市場予想を上回る米主要企業の決算発表もあり、世界株価が全般上昇していることが背景となりました。

本日金曜日金相場は、前日の上昇分を失い、ロンドン時間午後に1.3%安のトロイオンスあたり1772ドルへと下げています。

これは、本日欧州中銀の高官がインフレは一過性(Transitory)であるとコメントするなど行き過ぎたインフレ懸念が後退したこと、昨日心理的節目の1800ドルを超えられなかったこと、3営業日連続で下げていた長期金利が多少ながら上昇しドルも強含んでいること、そして米主要企業決算結果が良好であったこと、本日発表の米小売売上高が予想を上回ったことから世界株価全般上昇していることでリスクオフ基調からも金からの資金の流出が要因の模様です。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に米雇用統計を前にインフレ懸念からも金利が3ヶ月ぶりの高さへ上昇する中で、金と銀でネットロングが増加し、プラチナとパラジウムでネットショートが増加していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、61%増の211トンと2週連続で2019年5月28日以来の低さから増加していたこと。建玉は5週ぶりに0.34%と若干増加していたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比32%増の720トンと2週連続で2019年6月11日以来の低さから増加していたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、10週連続でネットショートで、5.6%増の11.7トンと2週ぶりにネットショートを増加させていたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは4週連続のネットショートで、7.7%増の7.9トンとこのレポートが発表された2006年以来最大規模を4週連続で更新していたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で2.3トン(0.24%)減で983トンと、2020年4月3日以来の低さで、週間で4週連続の減少傾向となっていること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、週間で0.95トン(0.19%)減で495トンと2020年4月5日以来の低さで、3週連続の週間の減少傾向となっていること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で143.97トン(0.84%)増で、17,217トンと週間で増加傾向で、10月に入り4ヶ月ぶりにネットで増加傾向となっていること。

  • 金銀比価は、今週77台後半で始まり、本日76台へと一月ぶりの低さへと推移していること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。)

  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週700ドル台前半で始まり、多少上昇したものの、本日は730ドルと戻しつつあること。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週の平均は人民元価格がドル建て同様に上昇する中で、6.08と前週の平均7.39を下回る水準であったこと。

  • コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、週半ばに30年来の高さの米消費者物価指数の発表後インフレ懸念上昇したことで、金、銀、プラチナは全て前週比11%、16%、0.6%増で、銀とプラチナは未だ下回っているものの、金は前月平均を上回っていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は昨日の消費者物価指数の発表を受けて金相場は前日終値比1.8%近く上昇して終えましたが、来週も主要国のインフレ、また金融政策に影響を受ける指標等に市場は注目することとなります。

それは、月曜日の中国第3四半期GDPと小売売上高と鉱工業生産、米国鉱工業生産、火曜日の米住宅着工件数、水曜日の英国とユーロ圏の消費者物価指数、米地区連銀経済報告、木曜日の米国フィラデルフィア連銀製造業景気指数、新規失業保険申請件数、中古住宅販売件数、金曜日の日本消費者物価指数、ドイツとユーロ圏と英国と米国の製造業及びサービス部門PMI等となります。

詳細は主要経済指標(2021年10月18日~22日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続きエネルギー価格高騰による多くの業界への悪影響、サプライチェーンの毀損、ブレグジット後の北アイルランドとアイルランドの通商問題等が広く伝えられています。

そのような中で、今月末に英北部グラスゴーで開催される国連気候変動枠組条約国会議(COP26)を前に、チャールズ皇太子、ウィリアム王子、そしてエリザベス女王が気候変動に関する公式、非公式コメントをしていることがメディアで取り上げられていたのでお伝えしましょう。

まずチャールズ皇太子は月曜日BBCで放映されたインタビューで、気候変動問題をめぐる各国指導者の不十分な対応に不満を抱いていることに「共感する」と述べていました。

チャールズ皇太子は1970年代から環境保護活動に携わってきましたが、COP26がこれまでのように各国指導者らの「ただの話し合い」の場になることに懸念を示していました。

その後ウィリアム王子が創設した環境賞「アースショット賞」に関してインタビューを受け、人類は環境問題へ英知を結集して取り組むべきで、民間の宇宙開発企業や宇宙旅行に参加する大富豪に「地球を離れるのではなく、地球を救うことに集中すべき」とコメントしていました。

そして、本日は昨日エリザベス女王が出席していたウェールズ議会の開会時に議長のElvin Jone氏と不公式に話をしている際に、COP26会議について触れ、「話は行われても何も実行に移されないことがもどかしい」と話されていたことがビデオで偶然撮影されていたことが伝えられています。

COP26には、エリザベス女王、チャールズ皇太子夫妻、ウイリアム夫妻が参加予定であり、王室の環境問題への真剣な姿勢が明確となっています。

本来英国王室は、政治的コメントは差し控え、政治的中立を維持する立場を取っていますが、環境問題に関してはあらゆる可能な方法で関わっていくことを選択したようです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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