ニュースレター(2020年8月28日)FRBの2%超インフレ容認で金は激しい動きをした後に上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1958.6ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.78% 上げ、2週間ぶりの週間の上げとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり27.47ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から2.31%上げ、やはり2週ぶりの上昇となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では936.96ドルと前週金曜日のLBMA価格から4.11%と先週他の貴金属より大幅に下げた反動もあり、大幅な上昇で2週ぶりの上げとなっています。
今週金価格は、週前半木曜日のジャクソンホールにおけるパウエルFRB議長の講演を待つ中で狭いレンジで動く中で、ドルと米長期金利の動きに反応していましたが、木曜日のパウエル議長と臨時FOMCの発表後激しく動き、上昇傾向となっています。
そこで、昨日のFOMCの決定内容とそれを周到したジャクソンホールでのパウエウル議長の講演内容をまとめて、金の動きを解説してみましょう。
FOMC発表内容
これまでのインフレ目標を2%から「当面の間は2%を上回るインフレ率を目指す」と変更し、一定期間の物価上昇率を平均で2%としたこと。これにより、利上げは少なくとも2023年以降になる見通しとなり、ゼロ金利政策が長期に渡ることが明らかとなりました。
パウエル議長は先を周到する下記の発言を行っています。
「インフレ率の低下は、極めて深刻なリスクだ。平均物価目標を導入し、物価上昇が目標である2%を穏やかに上回ることも認める。」
そこで、市場が大きく動くことになりましたが、その背景について説明しましょう。
この発表による市場の動き
先の発表と発言でドルが下げたことで金は一時トロイオンスあたり1975ドルまで急騰することなりました。しかし、ゼロ金利が長期に渡るということで米国債のイールドカーブは長期のものが2ヶ月半ぶりの水準へ上がり、それとともにドルが強含むことで、金は1911ドルまで押し下げられることとなりました。
しかし、金はインフレヘッジと見られており、インフレ2%超を容認という方針は金にはサポートとなり、その後金は緩やかに上昇を続けて、本日ドルが再び2年ぶりの低さへ下げる中でロンドン時間夕方にはトロイオンスあたり1968ドルへと上昇しています。
なおドルが本日押し下げられているのは、安倍首相の辞任発表で円が強含んだことて相対的にドルが押し下げられてることも要因となっているようです。
その他今週金市場を動かしたニュースは、下記のようになります。
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米国の医薬品規制当局(FDA)は日曜日に、病院で他のコロナウイルス患者を治療するためにCovid-19から回復した人々からの血漿を患者に投与する治療法の緊急許可を出し、トランプ政権は、大統領選挙に先立って使用するために英国で開発された実験的なコロナウイルスワクチンを緊急使用許可することを検討しているとフィナンシャル・タイムズがレポートし、リスクオン基調を高めて金の頭を押さえていました。 -
その後同日米中閣僚が電話で会談し、貿易協議第1段階合意を確実にする手段を講じることを約束したと伝えられ、やはり翌火曜日に金を押し下げていました。 -
そして、米国株価は先のニュースと木曜日のFRBによる利上げが長期間無いというニュースで今週全般上昇をしており、米国の主要株価指数のS&P500種とナスダックが7日連続で史上最高値を更新し、MSCI世界株式インデックスも水曜日に過去最高を更新していました。リスク資産が上昇する場合、金は通常押し下げられますが、週後半のように中央銀行の金融政策でドル安や長期金利が下がることでリスク資産とともに上昇することもあります。
その他の市場のニュ―ス
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木曜日の金価格の世界指標のLBMAのPM価格が付けられる時間に、臨時FOMCの発表とジャクソンホールのパウエル議長発言で金が60ドルを超えて動いたことで、このオークションで価格が決まるまでに33回(16分間)を必要としたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週18日に金価格がトロイオンスあたり2000ドルをトライしている際に、金と銀で増加し、プラチナとパラジウムで減少していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比3.43%増の483トンと3週ぶりに増加していたこと。そして建玉は7週連続で100万枚を超えていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比37.8%増の4917トンと3週ぶりの増加となっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比4.42%減で22.9トンとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比3.57%減の10.25トンとなっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.9トン(0.1%)減で1251トンと再び少ないながらも週間の減少の傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週は週間で0.59トン(0.12%)増で504.56トンと過去最大を更新し、23週間連続の週間の増加傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週81.08トン(0.45%)減で17,762トンと、先週に続き週間として減少傾向であること。 -
金銀比価は今週71~72台を推移し、引き続き銀割安傾向が3年ぶりの水準まで解消していること。 -
今週上海黄金交易所(SGE)のディスカウント(ロコ・ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)は、今週の平均が64.21と2週連続の過去最大更新を止めて、そのディスカウント幅を狭めたこと。これは、昨日人民銀行が人民元を対ドル7ヶ月ぶりの高さに設定したことが背景。 -
コメックスの金取引量は今週前半に価格がレンジ内で動いて減少していたこともあり、週平均量で前週比5%減少していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はジャクソンホールのパウエル議長の講演が注目されていましたが、同時に開催されたFOMCの発表内容とパウエル議長の講演内容で市場が大きく昨日動きましたが、今週も主要国中央銀行の金融政策に関わるニュースや指標が注目されることとなります。
その主要なものとしては、金曜日の米雇用統計、その先行指標と見られている水曜日のADP全国雇用者数、そして同日の米地区連銀経済報告(ベージュブック)、木曜日の米新規失業保険申請件数や火曜日と金曜日の米ISM製造業と非製造業景況指数、そして週を通して発表される主要諸国の製造業とサービス部門PMI等となります。詳しくは主要経済指標(2020年8月31日~9月6日)で詳細をご覧ください。
それに加え、新型コロナウイルス関連、そのワクチン開発や治療薬、米中貿易協議等のニュースも引き続き重要となります。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2020年8月24日~28日) 今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2020年8月31日~9月6日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2020年8月24日)コロナ治療法の認可や中央銀行への期待でドルが下げ株価続伸の中で金は上昇 -
金価格ディリーレポート(2020年8月27日)金価格は、2%インフレ目標の変更が期待されるパウエルFRB議長の講演を待つ中で前日の上げ幅を失う
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。
ロンドン便り
本日の安倍首相辞任のニュースは、英国でもトップニュースの一つとして伝えられています。7年8ヶ月という長期政権、連続在任日数も歴代トップと紹介され、アベノミクスを推進し、外交も米国との関係を強めるなど成果を出していたと伝えられています。
そのような中、今週は少し趣を変えて、英国のクラシック音楽の祭典「プロムス」がニュースになっていたのでご紹介しましょう。
このコンサートは毎年主にロンドンのロイヤルアルバートホールで8週間に渡り開催されて、夏の風物詩となっています。1895年に始まり、ロイヤルアルバートホールのアリーナ席は立ち見席で、そのチケット代も当日券は6ポンド(800円ほど)と通常はクラシックコンサートを訪れない一にとっても魅力のあるものにということが当初から企画の中にあったようです。
そして最も人気のある最終日には、愛国的な曲の「ルール・ブリタニア」やエルガーの「威風堂々」に歌詞をつけたものを、人々は英国国旗を振りながら合唱します。
しかし、今年は新型コロナウイルスの影響で無観客で9月12日にテレビなどで放送されるとのことですが、月曜日BBCは声明で「イベントの伝統や精神を尊重しながら、非常に異例な現下の状況に適応する」ために、その歌詞の内容が帝国主義的との批判もあることから、歌詞なしで行うと発表していました。
その後、ジョンソン首相はこの決定に「信じられない。われわれは自らの歴史や伝統、文化に対して恥じらうのをやめるべきだ」と批判し、賛否両論が起こり、週半ばにはBBCはUターンをして、来年以降は通常通りに歌詞付きで行うとしています。
自国の帝国主義であった歴史を正しく伝えることと、伝統とされている愛国歌を歌うことは共に相容れられるものであると思います。そして、異なる意見を持つ人々が互いの意見を聞きながらオープンに議論する必要性も、英国のEU離脱やブラック・ライヴズ・マターや米国大統領選などの人々を分断する社会環境があるからこそ、強く感じたニュースとなりました。