ニュースレター(2020年7月17日)新型コロナ感染拡大と米中対立懸念でリスクオンや利益確定の売却の中でも金は6週連続の上昇へ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1808.43ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.3% 上げ、再び金曜日のLBMA金PM価格としては、2011年9月以来の高さで、6週連続の上昇となります。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり19.17ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から2.13%上昇し、引き続き昨年9月以来の高さで6週連続の上昇となっています。そして、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では835.04ドルと前週金曜日のLBMA価格とほぼ同じ水準となっています。
今週金相場はトロイオンスあたり1800ドルを挟んでのせめぎあいで、新型コロナウイルスの感染拡大やそれによる移動制限の再導入で経済活動回復への長期化と米中対立の深まり懸念からも上昇するものの、ワクチン開発関連のニュースや良好な決算などによる株高等のリスクオンや利益確定の売却で下げる動きを繰り返していました。それでは、日々の細かなニュースは下記をご覧ください。
週明け月曜日は、金は先週の9年ぶりの高さの1817ドルに迫るべく、ロンドン時間午後に1813ドルまで上昇していましたが、押し戻されて1802ドルで終えていました。
そして、この間銀価格は金を上回るペースで上昇し、3.5%高のトロイオンスあたり19.38ドルを付けて19.13ドルで終えていました。
この背景は、前日新型コロナウイルス感染者数が再び過去最高を付け、米中対立がウィグル人権侵害への米国の中国制裁等で再び深まっていたことからですが、世界株価は中国株価に牽引されてアジア株が上昇するとともに、欧米株も上昇していました。
火曜日金相場はロンドン午前中にトロイオンスあたり1800ドルを割り込んだものの、その後下げ幅を取り戻して1809ドルと前日終値から上昇して終えていました。
午前中の下げは前日同様利益確定の売りに押されていたことからですが、やはり1800ドルを割ると買いが入り戻すという直近のパターンを見せていました。
この間、株価はアジア株が下げて欧州株もほぼ下げて終えていましたが、米国株は今週主要企業の決算発表もあり、もみ合いながら上昇で始まっていました。
アジア株の下げは前夜ポンペオ米国務長官が、南シナ海での中国の海洋進出に関して批判したことで、米中対立が深まる懸念からでした。
また、世界の新型コロナウイルスの感染拡大は続き、カルフォルニア州は再び営業制限が起きていることなども、景気回復が遅れるとの見方を広げて株価にとっては重荷、金相場にとってはサポートとなっていました。
水曜日金相場はロンドン昼過ぎにトロイオンスあたり1804ドルまで売り込まれたものの、午後に上昇に転じて1813ドルで終えていました。
同日は前日から開発中の2つのワクチン(米製薬会社モデルナと英アストラゼネカ/オックスフォード大学)の臨床試験で良好な結果が出たと伝えられていたことから、アジアから欧州株が全般上昇していた事で、金は頭を抑えられていました。
しかし、トランプ米大統領が前日中国の金融機関への制裁を可能にする香港自治法案に署名し、これに対抗し中国外務省が同日「強烈な非難」を表明したことも伝えられ、米中対立懸念などからも米国のテクノロジー株が集まるナスダック株価指数は下げて、金のサポートとなっていました。
なお、この間銀も昨年9月以来の高さのトロイオンスあたり19.35ドルまで上昇し、金銀比価は93.53と2月末以来の低さ(銀の割安が解消)となっていました。
木曜日金相場は、世界株価が全般下げる中で、ロンドン夕方にトロイオンスあたり1800ドルを割って下げていました。
同日は中国の経済指標でGDPと鉱工業生産は予想を上回っていたものの、小売売上高が予想を下回っていたことで中国経済活動の回復への懸念に加え、米中対立等でCSI300指数が2月末以来の5%近い下げを見せ、3日連続の下げでもあり投資家センチメントを悪化させていました。
そこでドルインデックスが上昇していたことで金を押し下げ、金価格は9年ぶりの高さであったことからもさらなる下げプレッシャーも入いることとなりました。
なお、同日発表の米新規失業保険申請件数は予想より悪化していたこともあり、米主要株価指数はすべて下げに転じていました。
また、同日の欧州中央銀行の金融政策発表では現行の金融政策が維持されたことで、金は利益確定売りも入ったとされていました。
本日金相場は、ドルが弱含み、米長期金利も下げる中で、トロイオンスあたり1809ドルへと上昇しています。
これは、昨日米国の新たな新型コロナウイルスの感染者数が7万7000人を超え、一部の州では移動制限が再度導入されることで、経済活動と労働市場の先行きへの懸念が高まっていることが背景の模様です。
また、ウィリアムズNY連銀総裁が米国経済回復には数年必要とすることからも、金利引き上げを議論する時ではないとコメントしたことも金のサポートとなっているようです。
なお、欧州株は、本日加盟国首脳が7500億ユーロ規模の復興基金の協議を行っていることから、この結果を見極める中でまちまちとなっていますが、米株価は昨日の下げから一転してほぼ全般上昇しています。
その他の市場のニュ―ス
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今年に入り金ETFへの資金流入が過去最高と記録的な水準(前半期で400億ドル)となっていることをお伝えしていますが、コロナ禍でコメックスとロコ・ロンドンの価格の差が100ドル近く広がって以来、コメックスの取引量が減少し、金ETFがその反面急増していることが明らかとなっていること。 -
また、LBMAのTrade Dataによると今年のロコ・ロンドン取引量が昨年比35%増加しコメックスと比較して10%上回り、6月の金取引量は一日平均が592億ドルであったのに対し、コメックスは349億ドルとなっていること。しかし、昨年まではコメックスがロコ・ロンドン取引量を上回っていたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週7日に金価格が再び7年8ヶ月ぶりの高値を付けた際に、全ての貴金属で増加していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比0.85%増の565トンと4週連続の増加で、引き続き2ヶ月ぶりの高さとなっていたこと。そして建玉は再び100万枚を超えていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比1.9%増の5,662トンと4ヶ月を超える高さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比15.4%増で14.07トンと前週の減少分をほぼ取り戻しているものの、過去平均を30%ほど下回っていること。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比27.7%増の4.72トンと2週間連続で増加して4ヶ月ぶりの高さとなっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で6.4トン(0.5%)増で1207トンと引き続き7年ぶりの高さであること。そして、17週連続の週間の増加の傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週は週間で3.12トン(0.67%)増で466.8トンと過去最大を更新し、17週間連続の週間の増加傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週168.03トン(1.07%)増で16,211トンと史上最大で、11週連続の週間で増加傾向であること。 -
金銀比価は今週火曜日に95台を付けた以外は94~93台を推移して銀割安傾向が緩和されていること。 -
今週上海黄金交易所(SGE)のディスカウント(ロコ・ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)は、今週の平均が27.93と再び直近の9週で最も高くなっていたこと。 -
それに対し、インドの金価格が今年始めてディスカウントからプレミアムへと前週切り替わっていたこと。これは、コロナ禍による移動制限で金輸入がほぼ行われていないことから。 -
コメックスの金取引量は今週は週平均量で前週比12%減少し、引き続きロックダウン後の低い取引量となっていること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も新型コロナウイルス感染拡大のニュースに対し、ワクチン開発関連ニュースと改善する経済指標等による経済活動V字、U字回復期待で市場もみ合い状況となっていますが、来週もこれらニュースは重要となります。
また、香港や中国内の人権問題やファーウェイ等を巡る米中対立関連ニュースへも市場は注目することとなります。
その他経済指標では、月曜日の日銀金融政策決定会合議事録要旨、火曜日の日本の消費者物価指数、水曜日の米国中古住宅販売件数、木曜日の新規失業保険申請件数、金曜日のドイツ、ユーロ圏、英国、米国の製造業及びサービス部門のPMI、米国新規住宅販売件数などが重要となります。
ブリオンボールトニュース
今週も多くの主要メディアで弊社データと弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています
米経済サイトMarketWatch「なぜ銀がほぼ4年ぶりの高値で取引されているのか」
ここでエィドリアンは、「銀の取引量は金の10%に過ぎません。ヘッジファンドや資産運用業者は、金の数年ぶりの高さに追いつくべく上昇を見せるかもしれません。」と述べています。
そして、金銀比価の数値が如何に銀割安となっているかを解説し、もしこの比価が過去4年間の上昇傾向のレンジの中でも低い数値の84(現在93ほど)となった場合は「8月末には金がトロイオンスあたり1800ドルを保つのであればトロイオンスあたり21.5ドル、1900ドルであれば22.6ドルとなる可能性がある。」と述べています。
英国主要経済サイトのThis is Moneyサイト「懸念する投資家が金を購入し金価格が1800ドルと9年ぶりの高さを付ける」
この記事では、弊社での金需要が3月から記録的であることを紹介しています。
英国主要日刊紙のガーディアン「金は今購入すべきか?」
ここでエィドリアンは「金は金利を生み出さない。それどころか保管料や保険料等の費用が発生する。しかし、金利がマイナスとなり、預金の購買力を失っている中では、歴史的に金の魅力は増す。」と述べています。
サンデー・タイムズ「金価格上昇が投資家を魅了する」
ここで、弊社における3月から6月の需要が4.5トンと、2011年の記録を更新し、今年11%増と顧客保有の金総量が43.6トンを超えたことを紹介しています。
そして、エィドリアンの「金をサポートする要因がこれほど多いことは珍しい。」とし、景気停滞が政府の記録的な債務を作り上げ、中央銀行が資金を流入させることで、インフレを引き起こす可能性があることなどが金の魅力を増しているという解説を取り上げています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2020年7月13日~17日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2020年7月13日~17日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2020年7月13日)金銀ETFの残高が増加する中でコメックスの強気ポジションの動きは鈍いものの、金は1800ドル、銀は19ドルを超える
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。
ロンドン便り
本日ボリス・ジョンソン首相は、さらなるロックダウン解除の指針を示し、クリスマスまでに平常の生活に戻るべく計画を行うと発表しています。
そこで、これまで可能な限り自宅勤務が奨励されていましたが、8月1日から安全に勤務が可能な環境を会社が準備できるのであれば、それぞれの会社の判断で出勤することが許され、公共交通機関を利用することができることとなります。
そして、ボーリング場やスケートリンクやビューティシャンなども再開でき、屋内の劇場やコンサートホールも、観客がショーシャルディスタンスを守ることで再開が可能とのこと。
9月には大学を含む学校が再開され、10月からはサッカー場などに観客が入れ、ビジネスイベントも、感染率が希望通りの水準へ抑えられている場合は可能となるようです。
いよいよ平常の日々が想像できるロックダウン解除マップが示されましたが、この間も地域的なクラスター発生、それによる局所的なロックダウンは行われており、先のステップは綱渡りのように踏み出す一歩一歩に集中して行わなければならないのでしょう。
ちなみに、ここでも以前英国の人々のマスク着用率の低さについてはご紹介しましたが、先週金曜日に英国政府はイングランドにおいては、公共交通機関利用時に加えて、今更とも思えますが、罰則付きで店内などの密閉空間での着用を義務付けています。
英国のマスク着用率は、今年4月の段階で欧米諸国やアジア諸国15カ国の中でも最下位の16%とのこと。ちなみに日本は77%で、マスク着用に最近まで懐疑的で、先週マスク着用を公の場で初めて行ったトランプ大統領の米国ですら38%とのこと。
今後ロックダウン解除のステップが順調に踏めることになるかは、国民一人一人の手洗い徹底やマスク着用の努力も必要と考えますが、この状況に関してはまた別途ここでご報告させていただきます。