ニュースレター(2020年7月10日)コロナ感染拡大懸念で金はドル建てで9年ぶりの高値を付ける
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1803.35ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.72% 上げ、再び金曜日のLBMA金PM価格としては、2011年9月以来の高さで、5週連続の上昇となります。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり18.78ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から4.22%上昇し、昨年9月以来の高さとなっています。そして、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では842.14ドルと前週金曜日のLBMA価格から4.23%上げて、今年3月以来の高さとなっています。
金相場は今週トロイオンスあたり1817ドルと2011年9月以来の高値を付け、銀はトロイオンスあたり19ドルを超えて昨年9月以来の高値となりました。この背景はこれまでもお伝えしているように、①コロナ危機に対する主要国の景気刺激策と中央銀行の金融政策による長期の低金利観測と実質金利のマイナス化、②通貨安及びインフレ懸念、③高止まりする株価のボラティリティ高まりへの懸念、④地政学リスク(米中対立、米国大統領選、英国の移行期間後のEU離脱)ですが、直近では新型コロナウィルス感染拡大が経済再開遅延を起こすことの懸念を強めて安全資産への逃避を起こしているようです。それでは、今週の日々の動きに関しては下記をご覧ください。
週明け月曜日は、金相場が米国における新型コロナウィルスの感染拡大が伝えられる中で緩やかに一週間ぶりの高さのトロイオンスあたり1785ドルまで上昇し、銀相場が一時トロイオンスあたり18.40ドルと金を上回るペースの1.9%ほど上昇していました。
銀は工業用途が金の10%以下と比較しても50%を超えることから、経済活動のV字回復の期待などもあり、また中国株価が政府系メディアが株高を支持する論説を掲載したことで5.7%高と牽引して世界株価が上昇する中で、同日金を上回るペースで上昇して、金銀比価が3週間ぶりの低さとなっていました。
火曜日、金相場は直近の上値のトロイオンスあたり1790ドルを超えたことで、先週付けた2012年9月以来の高値の1789ドルを超えて1797ドルまで一時上昇していました。
同日は株価が、短期的な過熱感への警戒や利益確定の売りで全般下げ、また新型コロナウイルスの第2波の広がりも投資家センチメントを悪化させ、安全資産として金の需要が高まっていました。
また、同日発表されたドイツの鉱工業生産は予想を下回り、欧州経済を牽引しているドイツも経済回復を困難としていること、また欧州委員会が本日発表した実質成長率も-8.7%へと下方修正したことも懸念材料となっていました。
水曜日金相場はトロイオンスあたり1800ドルを超え、2011年以来の高さの1817ドルを一時付けていました。
この背景は、欧州株が下げていたこと、前日同様に直近の上値を超えたことによる上げ基調が強まったことからですが、ドルが同日弱含んでいた事も金を押し上げることとなりました。
なお、同日の株価の下げは、ジョンズ・ホプキンズ大学のデータで米国の新規感染者数が6万人を超え過去最多となったことが背景にあったようです。しかし、米国株価は同日反発したことで、利益確定の売りもあり金は1809ドルまで押し戻されて終えていました。
木曜日金相場は、前日節目のトロイオンスあたり1800ドルを超えたことで勢いもあり、また欧州株価が下げていたことからも1815ドルを付けた後に、米国の良好な経済指標や利益確定の売却で1804ドルへ押し戻されていました。
米国の経済指標は新規失業保険申請件数で、予想の137.5万件を下回る131.4万件となっていたこと、しかし、米国や世界の新型コロナウィルス感染拡大がピークアウトしていないことからも、米株価は同日テクノロジー株が多いナスダック以外は下げており、金はサポートされていました。
なお、この間銀価格はトロイオンスあたり19ドルを昨年9月以来初めて超え、過去5年間で6度目の高さとなっていました。
本日金曜日金相場は、利益確定の売却に押される中で、1800ドルを割ると買いが入っていましたが、Covid-19の治療薬のニュースで、トロイオンスあたり1794ドルまで押し戻されています。
それは、米製薬大手のギリアド・サイエンシズが、米国時間早朝に同社のコロナ治療薬「レムデシビル」を重症のコロナ感染者に投与したところ、通常の治療法に比べ死亡率が62%低下したと発表したことからでした。これを受けて主要米株価指標はすべて上昇に転じています。
その他の市場のニュ―ス
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今週ワールドゴールドカウンシルが今年前半期の金のETFへの資金流入量は史上最大で約42兆円で、重量にして734トンとこれまでの2009年の646トンも上回ったとと伝えていたこと。 -
昨年から今年に入り銀投資への資金の流入が顕著で、既にETFは年初から6月末までで25%増と、工業用途がCovid-19の影響で減少した分を埋める勢いとなっていること。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週30日に金価格が再び7年8ヶ月ぶりの高値を付けた際に、プラチナを除き全ての貴金属で増加していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比2.5%増の560トンと3週連続の増加で、引き続き2ヶ月ぶりの高さとなっていたこと。しかし建玉は前週に4週ぶりに100万枚を超えたものの、再び100万枚を割っていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比22.5%増の5,557トンと4ヶ月ぶりの高さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比14.44%減で12.2トンと7週間ぶりの低さとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比858%増の3.7トンと、2006年にこのフォーマットでデータが発表されて以来最小規模から、3ヶ月ぶりの高さとなっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日に2週間ぶりに1.8トン(0.1%)下げたものの、週間で9.4トン(0.8%)増加し1200.8トンと、16週連続の週間の増加の傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週は週間で5.43トン(1.18%)増で462.5トンと過去最大を更新し、16週間連続の週間の増加傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週278トン(1.8%)増で15,892トンと史上最大で、10週連続の週間で増加傾向であること。 -
金銀比価は今週火曜日に98台を付けた以外は95~97台を推移して銀割安傾向が緩和されていること。 -
今週上海黄金交易所(SGE)のディスカウント(ロコ・ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)は、今週の平均が23.44と再び直近の8週で最も高くなっていたこと。 -
コメックスの金取引量は今週は週平均量で前週比29%増加し5月末以来の高さではあるものの、引き続きロックダウン後の低い取引量となっていること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は新型コロナウィルス感染拡大懸念等もあり、ドル建て金価格が9年ぶりの高さへ上昇しました。そこで、来週も感染拡大及びワクチンや治療薬関連のニュースに市場は敏感に反応することとなります。
また、来週は日銀の金融政策決定会合後発表が水曜日、欧州中央銀行の政策金利発表が木曜日にあり、この結果とその後の記者会見で、両中央銀行が経済先行きをどのように見ているのか、またさらなる政策示唆などを市場は注目することになります。
その他経済指標では、火曜日の中国の貿易収支、ドイツの消費者物価指数、英国の月次GDPと鉱工業生産、ユーロ圏の鉱工業生産、ドイツとユーロ圏のZew景況感調査、米国の消費者物価指数、水曜日の英国消費者物価指数、米国ニューヨーク連銀製造業景気指数と鉱工業生産、そして米地区連銀経済報告、木曜日は、中国の第2四半期GDPと小売売上高、英国失業率と失業保険申請件数、米国小売売上高とフィラデルフィア連銀製造業景気指数と新規失業保険申請件数、金曜日のユーロ圏の消費者物価指数、米国の住宅着工件数とミシガン大学消費者態度指数等となります。
ブリオンボールトニュース
今週銀相場は昨日トロイオンスあたり19ドルを超えていますが、Investing.comの銀相場が19ドルを目指すという記事で、私がまとめた月曜日のレポートで紹介した弊社のデータが取り上げられています。
この記事では、私のレポートを引用し弊社の3月から5月の顧客による銀購入量が過去最高となり25%増となったことが紹介されています。
今週月曜日に金相場がドルが弱含んだことからも1週間ぶりの高さへ上昇したことをレポートする主要米国経済サイトのMarketWatchの記事で弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
この記事でエィドリアンは、「地金価格は社会不安や地政学上の紛争では上昇しない。しかし、それらが金融危機や景気低迷を引き起こすのであれば、押し上げられる。」とし、「金が(このような環境下で)最高値を付けるのを引き止めるものがあるとは思えない。」述べています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2020年7月6日~10日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2020年7月13日~17日)来週の予定をまとめています。 -
銀価格ディリーレポート(2020年7月6日)金銀比価が下げ、銀投資需要が銀の供給過多を解消する勢いである中、銀価格20ドルを予想 -
【金投資家インデックス】個人投資家の金購入がコロナ危機が継続する中で記録的水準へ
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。
ロンドン便り
イングランドは先週お伝えしたパブ等のレストラン再開に続き、今週更なる緩和が発表され、今週末から野外劇場での芝居やオペラが可能となり、25日屋内のジムや水泳プールが再開できると発表されています。
ただ、屋内公演再開は、未だ協議が行われているということで、私の好きなクラシックバレエを見れるのはまだ先になりそうです。
そのような中、今週は中国通信機器最大手ファーウェイの英国5G 参入容認の方針を変更し排除を検討していると伝えられ、中国の駐英大使が「中国を敵とみなすなら、それがもたらす結果を受け入れなければならない」と強く警告していることも伝えられていますのでご紹介しましょう。
ご存知のように米国はファーウェイを「安全保障上の脅威」と正式に先月末認定しました。それに対し、英国のボリス・ジョンソン首相は今年1月に、テリーザ・メイ前政権が認めたように、5G ネットワークの一部で開発への参画を認めていました。
しかし、米当局者はファーウェイ製品の設置で中国側に機密情報が漏れる恐れがあるとして、英国がファーウェイ参入を認める場合、将来的に英国と機密情報を共有できなくなるかもしれないと警告していたことからも、これまでの方針を変更せざるを得なくなっている模様で、英通信大手は排除自体は避けられないと見ているようです。
経済的な利益からもキャメロン政権とメイ政権は中国との関係を強めてきていましたが、ジョンソン政権は、中国の香港国家安全維持法制定をめぐり「『一国二制度』を覆すものだ」と非難し英国の立場を明確に示すなど、対立もいとわずとしています。
中国に対してあまりにも弱腰であった英国が、香港のために立ち上がったように、5Gにおいてもファーウェイ排除へと踏み出すのか注視していきたいと思います。