ニュースレター(2020年5月22日)金はドル建て以外の主要通貨で史上最高値を更新後調整の下落、しかし米中対立で堅固に推移
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1734.17 ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.07% 下げています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり17.03ドルと3月11日以来の高値で、前週のLBMA価格(午後12時)から4.80%上昇しています。そして、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では844.15ドルとやはり3月11日以来の高値で、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から9.92%上昇しています。
今週は、金相場が月曜日に、ドル建てでほぼ8年ぶりの高さ、そしてユーロ、ポンド、スイスフランク、日本円、中国人民元、等の主要通貨建てで史上最高値を付けた後、経済再開の期待からも週半ばには工業用途がともに60%ほどの銀とプラチナが金の上昇を上回って上げることとなりました。
月曜日は、世界株価が上昇する中で多くの主要通貨で史上最高値を記録することとなりました。
これは、世界主要中央銀行が例外的規模の金融緩和を行っている中、週末のFRBパウエル議長の経済先行きに対する見通しが厳しいものであったこと等、金融緩和や長引く低金利観測が広がっていることが背景となりました。
しかし、ロンドン午後には米国医薬品大手のモデルナが開発をしているワクチンの初期治験結果が良好であったことで調整が入り、リスクオン傾向の高まりからも、ドル建てではほぼ8年ぶりの高値の1765ドルから40ドル近く下げて終えていました。
火曜日と水曜日は金相場は、緩やかに上昇しながらも狭いレンジの動きとなりました。
水曜日はパウエルFRB議長の議会証言が控えていたこともありこれを見守る中で小幅な動きとなっていました。
ニューヨーク時間に行われたパウエル米FRB議長の議会証言は、週末のインタビューから変わりなく、長期の経済低迷を懸念しFRBが追加の資金供給に関して引き続き検討しているとしていましたが、市場を大きく動かすものとはなりませんでした。
水曜日の上昇の背景は、米国の小売業の決算結果が予想を上回っていたこと、米国50州で何らかの移動制限が解除され経済再開への期待が高まったこと、月曜日のモデルナ社のワクチンの良好な治験結果は専門家が翌日有効性を疑問視しましたが、同日はイノビオ・ファーマシューティカルズがワクチン実験の成功を伝えたこともリスクオンを進め、ドルの需要を落としていました。
また、ドイツと仏が5000億ユーロ規模の復興基金設立を支持することを今週合意したことで、ユーロが4日連続で強含んでいることも相対的にドルを押し下げていた模様です。
そこで、ユーロ建て金相場は月曜日の史上最高値から2.5%下げてトロオンスあたり1592ユーロへと下げていました。
木曜日金相場は、ドルが強含む中でトロイオンスあたり1717ドルまで下げていました。
これは今週月曜日に大きく上昇した金価格の利益確定であったようですが、ドルが強含んでいるのは、米中関係悪化への懸念が背景となりました。それは、トランプ大統領が前夜ツィッターで、中国の新型コロナウイルス対応に対して批判し、また大統領選の民主党候補のバイデンを支援する偽情報キャンペーンを中国が行っていると述べていること。
それに加え、前日米上院が米株式市場に上場する中国企業に経営の透明性を求め、上場維持を困難とする法案を可決したことからでした。
金曜日は、香港を巡る米中対立の懸念で世界株価が下げる中で、金相場は緩やかに上昇しトロイオンスあたり1735ドル前後を推移しています。
香港関係の対立とは、中国の全国人民代表大会が本日始まり、李克強首相がデモを抑え込むために統制を強める香港国家安全法を制定する方針を示したこと。それに先駆けて前日には米上院が香港の人権問題に関連して中国共産党幹部に制裁を科す法案の検討に入ったと伝わっていた事などです。
その他の市場のニュ―ス
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火曜日ポンド建て金相場は同日英国政府がEU離脱後の300億ポンドの関税削減計画を発表したことが好感されてポンドが対ドル強含んみ、トロイオンスあたり1420ポンドと月曜日の史上最高値の1458.7から2.57%下げていたこと。 -
今週コメックスの銀先物価格とロコ・ロンドン現物価格の差が50セント程へ広がっていることも、JBMA代表理事の池水氏によると需要の高まりを示しているとのこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週12日に貴金属価格がレンジ無いの動きから抜けきれない中で、金とパラジウムは減少し、銀とプラチナは増加していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比6.31%減の500トンと昨年6月以来の低さへ減少していたこと。建玉は前週同様に6週連続で100万枚を超えていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比35%増の2126トンと前週の減少分を回復していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比2.65%増で10.3トンと3週連続で増加し、6週間ぶりの高さとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比35.5%減の1.83トンであったこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までで1.5トン(0.1%)減で1112トンと、少ないながらも8週間ぶりに週間での下げとなる模様であること。しかし、その残高は引き続き2013年4月22日以来の高さとなっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間3.12トン(0.72%)増で437トンと過去最大となっていること。また、引き続き4月6日以来減少無し。そして、9週間連続の週間の上昇の傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で6.08%増加して、3週連続の週間で増加傾向であること。 -
金銀比価は今週100と101台を推移し、2月ぶりの低さ(銀割安傾向がやや解消)としていること。 -
今週上海黄金交易所(SGE)のディスカウント(ロコ・ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)は、今週の平均が16.09と過去8週間で最も低くなっていること。 -
コメックスの取引量は今週木曜日までの週平均量で前週比5%増加し、引き続き低い水準であるものの3月末のロックダウン以降では最大。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も新型コロナウイルスのワクチン開発関連ニュースや移動制限解除関連ニュース、そして米中貿易摩擦関連ニュースで市場は動きました。そこで、来週もこの関連ニュースに市場は注目することとなります。
その他主要経済指標としては、月曜日のドイツの第1四半期GDPとIFO企業景況感指数、火曜日の米国ケース・シラー米住宅価格指数と消費者信頼感指数と新築住宅販売件数、水曜日のリッチモンド連銀製造業指数と米地区連銀経済報告、木曜日のユーロ圏消費者信頼感、ドイツの消費者物価指数、米国の第1四半期GDPとGDP個人消費とコアPCEと耐久財受注と新規失業保険申請件数、金曜日の日本の失業率と鉱工業生産、ユーロ圏消費者物価指数、米国の個人所得と個人支出と個人消費支出(PCEデフレーター)とシカゴ購買部協会景気指数とミシガン大学消費者態度指数などとなります。
ブリオンボールトニュース
今週は、コメックスの金先物価格とロコ・ロンドン金現物価格の乖離も含めて、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)主催の取引データに関するウェビナー(英語)で弊社リサーチ取締役のエィドリアン・アッシュがモデレーターとして参加しました。
このウエビナーでは価格乖離の背景を解説し、取引データを使いその後の市場を精査していますが、コメックスの金先物取引量が乖離が拡大した3月末から急激に減少し、その反面ロコ・ロンドン価格での金現物取引量が急増していることがご覧いただけます。
そして、金先物取引に代わり、現物市場のフォワード取引が急増していることも見られているとのことです。
ここでは、コメックスとロコ・ロンドン取引が金市場の大部分を占めていることもチャートでご覧いただけます。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2020年5月18日~22日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2020年5月25日~29日) 来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2020年5月18日)厳しい経済見通しで金はドル建てで7年半ぶり高値、主要通貨で史上最高値を記録
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。
ロンドン便り
今週も英国は、ロックダウン解除へ向けてのステップの6月1日から段階的に行われる学校再開巡り教育の権利か安全かという議論が日々行われる中、英国内の地域政府が独自のロックダウン解除のステップを発表しこれらをメディアが伝えています。
英国はご存知のように、北アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イングランドと4つの地域の連合王国となります。
そして、古くは独立した国として存在し、戦った歴史もあり、未だにそれぞれの地域の人々の愛国心はまずはその地域にあり、その次に連合王国というように見受けられます。
特にスコットランドは現スコットランド行政府の自治政府首相はスコットランドの独立を支持するスコットランド国民党の投手のニコラ・スタージョン氏であることからも、今回のロックダウン解除へのステップは、ことごとく連合国政府のそれとは多少ながらも異なる方法を打ち出しています。
違いが見られる点を下記にリストアップしてみました。
スタージョン・スコットランド首相がインタビューでなぜイングランドの3段階のステップではなく、4段階でなければならないのかを聞かれた時に、珍しく彼女が言葉に詰まっているのを見ました。
それぞれの自治政府は彼らの存在感を示したい、また地域的な感染率や事情も異なるとは思いますが、それぞれの地域政府がイングランド政府と異なるステップを踏むことがどれだけ重要なのかについて、歴史的背景などを十分に理解しかねることからも、個人的には少し首をかしげる部分も無くはありません。