金市場ニュース

ニュースレター(2020年5月15日)米中対立と経済停滞長期化懸念で金価格はレンジを割って7年半ぶりの高値を試す

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1739.17 ドルと4月14日以来の高値で、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.06% 上げています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり16.24ドルと3月半ば以来の高値で、前週のLBMA価格(午後12時)から8.41%上昇しています。そして、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では775.43ドルと4月29日以来の高値で、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.30%上昇しています。

金相場は今週前半は、欧米諸国のロックダウン解除による経済活動の回復期待とコロナ感染第2波への懸念や悪化する経済指標の綱引き状態で、この3週間ほどのトロイオンスあたり1670ドルから1730ドルのレンジ内を割ることができずに推移していました。しかし、週後半に米中対立への懸念やFRB総裁のコメントで経済低迷が長引く懸念などもあり、昨日そのレンジを割ったことで、さらなる上値を追う様相となっています。それでは、日々の動きを追ってみましょう。

月曜日と火曜日の金相場はトロイオンスあたり1700ドルを挟むレンジ内の動きとなっていました。この状況を、あるアナリストはヘッジファンドは諦めてポジションを解消していると見ていました。その間、金ETFへの資金の流入はとどまることが無く、世界各地のETFが全て増加して4月末の段階で史上最高値をすでに付けていることもWGCの最新のレポートで紹介されていました。そして、本日金曜日も金ETFは全体で15日連続で残高を増加させていることが伝えられています。

米中対立への懸念を高めたニュースは、トランプ政権が中国企業の株式を含むファンドに連邦政府職員の資金を投じることに関する「全ての措置を停止」するよう伝えたこと、トランプ大統領が昨日中国との貿易協議再開について「関心がない」と発言したこと、中国共産党機関紙・人民日報系の新聞が中国側のアドバイザーが米国との貿易合意破棄の可能性をあらためて検討することを当局者に提案していると報じた事などでした。

水曜日金相場はロンドン昼過ぎに行われたパウエルFRB議長のスピーチに注目する中で、緩やかにトロイオンスあたり1717ドルまで上昇していました。

これは、前夜再びトランプ大統領がFRBへマイナス金利導入のプレッシャーをかけている中で市場がパウエル議長がマイナス金利に言及することを期待していたからですが、その可能性は同日のスピーチでこれまで通り否定していました。

しかし、パウエル議長は米景気の下振れリスクを強調し、財政出動など追加対策を取る必要があると主張したことから、欧米株価が大きく下げてリスク回避の資金が入り、金相場は1719ドルで終えていました。

なお、前夜米政府の新型コロナ対応に携わる国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長の米上院での証言で、経済活動の「性急過ぎる再開」がもたらすリスクについて警告したことも、投資家心理を悪化させて金相場をサポートしていました。

木曜日金相場はトロイオンスあたり1736ドルを超えて、これまでのレンジを割って4月に達した7年半ぶりの高値へ向かって上昇していました。

同日の上昇の要因は、トランプ大統領が中国との対立を深めるコメントを出したこと、それに加え同日発表の新規失業保険申請件数が予想を上回ったことが要因となりました。

トランプ大統領のコメントは、中国側が希望しているコロナ危機で米国製品購入額が合意額に達していない貿易協議第一段階合意内容を見直すことはないとしたこと、中国企業で米国会計ルールに従っていない企業への監視強化する、それに加え習近平国家主席と「今は話したくない」とし、関係を立つ可能性も示唆したことで懸念を高めるものとなりました。

なお、同日発表された新規失業保険申請件数は前週修正値の317.6万件を下回ったものの予想の250万件を上回る298.1万件と、3月下旬からの申請数は3600万件を上回り懸念を高めることとなりました。

なお、前日発表された英国の第1四半期GDPが3月にマイナス5.8%と、1997年に記録を初めて最悪で英国ポンドは弱含んでいた事からも、ポンド建て金相場はトロイオンスあたり1423ドルと史上最高値を更新していました。

本日金曜日金相場は、前日の上昇基調を受けてさらなる上値を追っておりトロイオンスあたり1745ドルと2012年11月以来の高値の4月の1747ドルを試しています。

なお、本日はドルは高止まりしているものの、本日発表の米国小売売上高が史上最低で米中対立懸念もあり、米国2年物と5年物国債の利回りは史上最低値を付けて、10年物も利回りを下げていることも金をサポートしているようです。

その他の市場のニュ―ス


  • 木曜日にソシエテ・ジェネラルがコメルツ銀行の株式とコモディティ部門を買収することが伝えられていたこと。

  • 今週HSBCが、ロックダウンでコメックスの金先物価格とロコ・ロンドンの金現物価格に差ができ(トロイオンスあたり70ドル)、一日に200億円超失ったことが伝えられていたこと。

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週5日に貴金属価格がロックダウン解除の楽観的傾向と米中関係緊迫に挟まれて方向を見いだせない中で、金と銀は減少し、プラチナとパラジウムは増加していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比6.7%減の534トンと減少していたこと。建玉は前週同様に5週連続で100万枚を超えていたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比28.6%減の1575トンと2019年6月18日以来の低さへ減少していたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比22.3%増で10トンと2週連続で増加していたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.9%増の2.84トンであったこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までで12.6トン(1.2%)増で1104.7トンと2013年4月19日以来の7年ぶりの高さとなっていること。そのため、8週連続の週間の増加傾向であること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間1.55トン(0.36%)増で431トンと過去最大となっていること。また、引き続き4月6日以来減少無し。そして、8週間連続の週間の上昇の傾向であること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で1.42%増加して、2週連続の週間で増加傾向であること。

  • 金銀比価は今週109と110台を推移していたものの、本日106を付けて一月ぶりの低さ(銀割安傾向がやや解消)していること。

  • 今週上海黄金交易所(SGE)のディスカウント(ロコ・ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)は、今週の平均が31.67と過去5週間で最も低くなっていること。また、本日は27.62と一月ぶりの低さ、これは人民元が対ドル一月ぶりの安さとなっていることから。SGE価格は史上最高値。

  • コメックスの取引量は今週木曜日までの週平均量で前週比5%増加しているものの、ロックダウン以来の低水準(年末の水準)であること。

来週の主要イベント及び主要経済指標

来週も新型コロナウイルスの関連ニュース、それは主要国のロックダウン解除や新型コロナウイルスの感染収束、もしくは第2波があればそのニュースに市場は注目することとなります。

また、今週パウエルFRB議長のコメントで市場が動いたように、来週火曜日と水曜日のパウエル議長の米国上院・下院の議会証言で今後の経済への見通しや金融政策への示唆があるのか等も市場は注目することとなります。

その他経済指標としては、コロナ危機の経済への影響を示す数値へ市場は注目することとなりますが、月曜日の日本の第1四半期GDP、火曜日の英国失業率、ドイツとユーロ圏のZEW景況感調査、米国の住宅着工件数、水曜日の英国とユーロ圏の消費者物価指数、ユーロ圏消費者信頼感、米国のFOMC議事録、木曜日の英国と米国の製造業とサービス業のPMIと、米国のフィラデルフィア連銀製造業景気指数と新規失業保険申請件数と中古住宅販売件数、金曜日の英国小売売上高、ドイツとユーロ圏の製造業とサービス業のPMI等となります。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。

ロンドン便り

ロンドンは3月23日からのロックダウンの段階解除が先週日曜日に発表され、今週水曜日からそのステップが始まりましたので、簡単にご紹介しましょう。

まずスローガンが「Stay home, Protect NHS, Save lives(外出を控え、国民保健サービスを守り、人々の命を救う。)」から、「Stay alert, Control the virus, Save lives(警戒を怠らず、ウイルスを制御し、人々の命を救う。)」へと変わっています。

外出規制はこれまで通りあるのですが、一日一回に限られていた運動のための外出が無制限となり、ゴルフやテニスなど家族でのスポーツが可能となり、公園での日光浴等が社会的距離を保って許されるなどと緩やかになっています。しかし、住まいを同じくする人々意外との接触は、屋外で社会的距離を保って1対1のみとなっています。

そして、ウイルス感染が予定通り制御されている条件で下記の日程も示されました。

第1段階:5月13日(水)から在宅勤務が不可能な職業(建設業や製造業等)は社会的距離を維持した上で出勤が奨励。

第2段階:早ければ6月1日から店舗の段階的な再開や小学校の生徒を段階的に学校へ戻す。

第3段階:7月からホスピタリティ産業や公共の場を再開。

すでに、段階への動きが急激すぎるという意見や、ホスピタリティ等は遅すぎると異なる意見が活発に出ていますが、少なくとも小さなステップが踏み出されたことは、個人的には嬉しく思っています。

ロックダウンをすることは経済への悪影響を考えれば大きな決定だったかと思いますが、英国はそれ以外の選択肢がなかったことは国民全てが感じているように思います。ここからどう解除の道を人々の合意のもとに進めることができるのか、ジョンソン政権の力量が試されるところです。

英国の中で自治権を持つスコットランド、ウェールズ、北アイルランドは異なるステップを踏むことを宣言しています。そして、本日ジョンソン政権は地域ごとの感染レベルが異なることからも、そのようなステップが必要であることを認めています。

一つの国でありながら、歴史的背景で自治権が認められている地域とのコミュニケーションを保ちながら、英国全土が無事それぞれの地域に見合ったスピードでロックダウン解除を終えることを心から祈っています。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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