ニュースレター(2020年5月1日)主要中央銀行の金融政策発表後、ウイルス治療薬とロックダウン解除への期待で金は1700ドルを割る
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1683.94 ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.86% 下げています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.9ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から2.71%下落しています。しかし、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では768.13ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.67%上昇しています。
今週は日銀、FOMC、ECBと主要中央銀行の金融政策決定会合が行われ、その結果を受けて市場は動いていました。それに加え、欧米諸国の新型コロナウイルスの移動制限解除のニュースも市場を動かしていました。そこで、まず中央銀行の製作発表の内容、そして移動制限解除の内容をまとめて、今週の金の動きをまとめてみましょう。
日本銀行
月曜日に国債購入をこれまでの上限の80兆円を撤廃して事実上無制限にすること、コマーシャルペーパーと社債の購入上限を20兆円と約3倍とし、ゼロ金利資金供給オペの担保範囲を拡大し、中小企業の資金繰りを支える新たな資金供給手段を検討することを発表していました。政策金利は短期政策金利を-0.1%、10年物国債金利を0%近辺に誘導する長短金利操作の枠組みは維持。
FOMC(米連邦公開市場委員会)
水曜日の会合後の発表で政策金利(0~0.25%)と量的緩和は据え置かれたものの、新型コロナウイルスのリスクを強く認識し、3月23日の臨時会合で決定した無制限の資産購入策の継続を全会一致で決定したこと、またパウエル議長が「力強く、宣誓的かつ積極的にあらゆる範囲の手段を使う」と述べていました。
ECB(欧州中央銀行)
木曜日の会合後の発表で銀行に長期資金を貸し付ける条件を最低-1%と緩和したものの、政策金利0%(中銀預金金利は-0.5%)と量的緩和7500億ユーロ(3月18日に決定)は据え置くとしていました。
欧米諸国の移動制限解除の計画
-
イタリア: 5月4日から建設業・製造業は事業活動開始、18日から小売業や美術館、6月1日からレストラン等ロックダウンの緩和を開始 -
スペイン:5月4日から島部で制限を緩和し、一週間後に残りの地域で緩和実施。 -
ドイツ: 4月27日に協会、競技場、美術館、一部の学校を再開。 -
英国:ピークは過ぎたとしたものの来週からロックダウン解除に向けた包括的な計画を発表するとした。 -
ニューヨーク州:5月15日から企業活動再開の可能性。 -
ジョージア州:4月24日からボウリング場やジムや理髪店の営業を解禁。
中央銀行による金融緩和はインフレ懸念を高めることからも金にとってはポジティブなものですが株式市場にとってもポジティブであるために株価が上昇することで頭を抑えられることもあります。また、新型コロナウィルス感染防止のロックダウン解除のニュースは、安全資産の需要減少観測が広がることとなり、金にとってはネガティブなものとなります。そのような中でも、経済の健康状態を示す経済指標において記録的な悪化を示すデータが出て長期的な経済停滞観測が広がる場合は、安全資産としての金の需要が増加することとなります。
それでは、今週の日々の動きを簡単に解説してみましょう。
月曜日は日銀の金融政策が好感されたものの株価の上昇に金相場は株価の上昇で頭を抑えられることとなりました。
また、ロンドン午後に更に下げたのは、新型ウイルスのワクチンが今年中に開発されるというニュースからもリスクオフを進めたことからでした。
火曜日金相場は、翌日のFOMCを待つ中で多少上昇して終えていました。
なお、同日FRBは前夜州や市などが発行する債券の買い入れ条件を緩和し、地方政府への支援策を拡大したことは株価を上昇させていましたが、金もサポートしていた模様です。
水曜日は市場注目の米国第1四半期GDPが発表され、-4.8%と2008年以来のマイナス成長となっていました。しかし、同日新型コロナウイルスの治療薬の臨床試験で有効性が示されたと伝えられ、先のニュースを打ち消して株価が上昇することで、金は押し下げられていました。
しかし、同日夕方のFOMC後にその内容を好感して金はトロイオンスあたり10ドルほど上昇することとなりました。
木曜日は、金融市場がECBの金融政策が市場予想を下回る内容であったことで、ドルが一時弱含んだものの、金相場は心理的節目のトロイオンスあたり1700ドルを割り、大きく売却されることとなりました。
これは、今月6%を超えて上昇していた金の月末のポジション調整もある中で、欧米の新型コロナウイルスの震源地と言われていた国々で感染者数が減少傾向となっていること、ロックダウン解除の計画が発表され始めていること、新型コロナウイルスの治療薬候補のレムでシビルの治験結果が良いというニュース等が好感されて安全資産の需要を減少させていたことからでした。
なお、同日発表された米国新規失業保険申請件数は383.9万件と予想の350万件を上回り、過去6週間の申請件数が3000万件を超えることになり、米個人消費支出も-7.5%と予想の-5%からも落ち込んでいたことで、前日上昇していた株価は同日アジア株を除き全般下げていました。
本日金相場は、多くの国々がメイデーの休暇で薄商いの中で、前日の下げ基調を受け継いで一時トロイオンスあたり1671ドルと一週間ぶりの水準まで下げて、ロンドン夕方に反発をして1700ドルに近づいています。
本日は昨夜トランプ大統領が新型コロナウイルスの中国の初期対応を批判し、同国に報復措置を検討しているとしたことで、米中対立再燃を嫌気され米株価が下げる中で、金を押上げている模様です。
また、昨夜発表のアマゾン社の決算が新型コロナ関連支出増加で純利益が減少していたことやアップル社が業績予想提示を見送ったこと、そして米大学の研究機関が新型コロナウイルスパンデミックは最長2年間は続く可能性が高いと指摘したこと投資家心理を悪化させているようです。
その他の市場のニュ―ス
-
ブリオンバンクとして1684年以来、世界の地金取引市場の中心で活動をし、現在も世界指標のLBMA価格を決定するオークションに参加しているマーケットメーカーでもあるスコシアバンクが、今週火曜日に貴金属ビジネスから撤退するとロイターが関係者の話として伝えていたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週24日に原油価格の急落で「Cash out(現金化)」が起こり価格が下げていた際に、全ての貴金属で減少していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比9.6%減の558.6トンと2週連続で増加後に減少して3週間ぶりの水準としていたこと。なお、建玉は前週同様に3週連続で100万枚を超えていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比8.6%減の2,102トンと3週間連続で減少して昨年6月18日以来の低さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比32%減で5.4トンと12週連続で減少して引き続き8月20日以来の低さとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比1.9%減の3.5トンであったこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までで8.2トン(0.7%)増で1056トンと引き続き7年ぶりの高さとなっていること。この間3月30日から減少していないこと。そして、6週連続の週間の増加傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で4.45トン(1.06%)増で422トンと過去最大となっていること。また、4月6日以来減少がなく、6週間連続の週間の上昇の傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で0.11%減少して、前週に続き週間で減少の傾向であること。 -
金銀比価は今週木曜日に111を付けて銀割安傾向が多少解消したことを除き112を推移していたこと。 -
今週上海黄金交易所(SGE)のディスカウント(ロコ・ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)は、今週の平均が43.91と前週の48.50、前々週の61.43から改善していたこと。 -
コメックスの取引量は今週木曜日までの週平均量で前週比10%減少し、引き続き昨年クリスマス前の週の取引量の低い水準であるものの、木曜日は4月最終日に金価格が大きく下げた際に4月14日以来の高さとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は中央銀行の金融政策発表が相次ぎましたが、来週もイングランド銀行の金融政策発表が木曜日に、そして米雇用統計の先行指標のADP雇用統計が水曜日、そして雇用統計が金曜日と重要イベントと指標が発表されます。
また来週も新型コロナウイルス治療薬やロックダウン段階解除等のニュースも市場は引き続き注目することとなります。
その他主要経済指標では、月曜日のドイツとユーロ圏の製造業PMI、火曜日の英国と米国のサービス業PMI、米国の貿易収支とISM非製造業景況指数、水曜日の中国Caxinサービス業PMI、ドイツとユーロのサービス業PMI、ユーロ圏の小売売上高、木曜日の中国貿易収支、ドイツの鉱工業生産、米国尾新規失業保険申請件数となります。
ブリオンボールトニュース
今週金相場が下げていることを伝える、米主要経済サイトのMarketWatchの記事で、弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
ここで、欧米で新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためのロックダウンが徐々に解除されることが好感されて金が下げているとし、エィドリアンの下記のコメントを紹介しています。
「直近の原油先物価格の急落がインフレ懸念を後退させ、金を押し下げている。それは、実質金利を押し上げるからだ。」
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
-
主要経済指標(2020年4月27日~5月1日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2020年5月4日~8日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2020年4月27日)金価格が日銀の新型コロナウイルスによるデフレを防ぐ無制限の量的緩和で下げる
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。
ロンドン便り
今週も新型コロナウイルス関連ニュース一色の日々が英国では続いていますが、ボリス・ジョンソン首相のフィアンセがが男の子を出産した嬉しいニュースも伝えられていました。
そのような中、本日は先日お伝えした、英国の国民保健システムで働く人々への寄付を募る活動をしていた、退役軍人のトム・モーア大尉が昨日100歳の誕生日を迎え、再び多くのメディアが取り上げていましたので、事後談をお伝えしましょう。
まず、ご自身の庭を100回往復することを達成すると宣言し寄付を求めていたモーア大尉が当初目標としていた額は1000ポンド(約13万円)でしたが、この寄付のページが閉じられる予定の昨夜の段階で6500%上回る3200万ポンド(約42億円)まで集まっているとのことです。
そして、モーア大尉は退役された際に大尉(キャプテン)という階級でしたが、この寄付金活動で名誉大佐(カーネル)の称号を与えられていました。
また、当日はボリス・ジョンソン氏からのビデオメッセージが送られ、100歳を迎える全ての人が受領するエリザベス女王からのお祝いのカードが、エリザベス女王からの個人的なメッセージ付きでこの地域を代表する方に届けられていました。
そして、彼宛のバースデーカードは世界各地から14万通がすでに届いて、ロイヤルメールは、ムーア大尉を記念した特別な郵便ポストを設置したとのことです。
当日は王立空軍による儀礼飛行が行われましたが、この飛行を見た後に彼が語った言葉が印象的でしたので、お伝えしましょう。
「私はこの飛行機が(戦争中に)怒りを持って飛んでいたことを見ています。今日は平和な中での飛行であることを心から嬉しく思います。」
ロックダウンの中で英国の人々がムーア大尉が歩行器を使って黙々と庭を往復する姿を見て人々は力をもらい、彼のの謙虚な姿や素朴な言葉に人々は明日への希望を見ているようです。