ニュースレター(2019年5月24日)貿易戦争悪化懸念からも安全資産の買いで上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1282.42ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.1%上昇しています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.55ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.5%上げています。なお、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上で803.54ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.4%下げています。
今週も米中貿易摩擦関連ニュースで世界株価が動く中で、ドルが高止まりしていたことからも金相場は昨日までは狭いレンジで動いていました。しかし、昨日の中国政府のコメント、欧米の経済指標の悪化で懸念が広がり、株価が下げると共に安全資産としての金の役割からも上昇することとなりました。それでは、日々の動きを追ってみましょう。
月曜日金相場はトロイオンスあたり1277ドルと、先週金曜日にドルインデックスが21週間ぶりの上げで、サポートラインの1280ドルを割った2週間ぶりの低さからほぼ横ばい状況となっていました。
同日は、米トランプ政権が先週中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)への輸出規制を決めたことから、グーグルが一部ソフトの供給を止め、半導体メーカーも追随すると伝えられたこと、またトランプ大統領が「戦争ならイランは終わり」と威嚇ツィートを出すなど、イラン情勢の緊張が高まっていたことで、ドルは高止まりしたものの、金相場も動きが取れない状況となっていました。
イラン状況の背景は、前夜イラクの首都バグダッドで政府機関や米国の大使館が集中し、厳重な警備が敷かれている「グリーンゾーン」に何者かがロケット弾を撃ち込んだこと、また、先週サウジアラビアの船舶がアラブ首長国連邦の沖合で攻撃を受けたこと等からイランの関与が疑われていたことからでした。
火曜日金相場は、世界株価が上昇する中で、トロイオンスあたり1269ドルへとほぼ3週間ぶりの低さへ一時下げていました。
同日の株価の上昇は、米商務省が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への事実上の輸出禁止について、一部の取引に猶予期間を設けると発表したことが好感され、前日4%近く下げたセミコンダクター関連会社が4日ぶりに上昇していることなどが要因となっていました。
なお、英国メイ首相は同日、6月上旬に計画しているEU離脱案の4度目の採決に向けて、議会に提出する法案の内容を発表し、離脱案の批准に先立って再び国民投票を実施するかどうか、議会の判断に委ねる条項を盛り込む方針を明らかにしていました。
水曜日金相場は、FOMC議事録要旨を待つ中で、トロイオンスあたり1274ドル前後の狭いレンジで推移していました。
同日も米中貿易摩擦が企業業績の悪化につながるとの懸念が米国株式相場の重荷になっているたために、ドルインデックスも98を超える高い水準で推移していました。
また、同日はセントルイス連銀のブラード総裁が、FRBの昨年12月の利上げは「多少やりすぎだった」かもしれないが、利下げは時期尚早だと述べたことが伝わり、同日夕方に発表されたFOMCの議事録でも特にサプライズはなかったことからも、ドルと長期金利を支えていました。
なお、英国ブレグジット関連では、前日発表した4度目の採決を目指す離脱法案への賛同が与野党から得られない中、メイ首相が来週月曜日の欧州議会選結果後退任するという憶測もあり、ポンドが対主要通貨全般下げていることも、ドルを支えていました。
木曜日金相場は世界株価が下げる中で、トロイオンスあたり1284ドルと一週間ぶりの高さへと上昇していました。
これは、同日中国商務省の報道官が「米政府が誠意を持って間違った行為を訂正した場合にだけ、貿易協議を続けることができる」と述べたと伝わり、米中の貿易交渉が長引き、世界経済が一段と減速するとの懸念が強まったことからでした。
また、同日発表のドイツやユーロ圏の製造業購買担当者景気指数(PMI)が市場予想を下回り、英国のEU離脱を巡る不透明感も意識され、米製造業PMIは好不況の境目とされる50は上回ったものの、9年8カ月ぶりの水準に低下したことで、安全資産として円、米長期国債が買われると共に、金も買われた模様です。
本日金相場は、世界株価が全般上昇する中で、トロイオンスあたり1283ドルと昨日からは下げているものの、週間としては上昇して終える方向で推移しています。
昨日米中貿易摩擦への懸念で全般下げていた世界株価が上昇しているのは、トランプ米大統領が記者団に対し「(中国政府が)多くの企業が中国から出て行くのを喜ぶとは思えない」と述べ、中国の譲歩で交渉は早期に妥結すると主張したことが、懸念をやわらげた模様です。
また、本日英国時間午前中にメイ英国首相が6月7日に辞任することが伝えられ、英国ポンドは対主要通貨で強含んでおり、ドルインデックスは前日終値比0.2%下落していたことも、金をサポートしているようです。
その他の市場のニュ―ス
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プラチナ価格が今週トロイオンスあたり800ドルを割り、今年2月以来の低値を付けたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに2.6トン増加し738トンと、先週に続き週間の増加傾向を見せていること。 -
金銀レシオは、今週は先週の26年ぶりの高さの88.8を多少下げたものの、木曜日まで常に88を超える高水準で推移していること。 -
先週末発表のコメックス貴金属先物・オプションの資金運用者のポジションは、先週月曜日に中国の米国製品への追加関税による貿易戦争への緊張から株価が大きく下げた翌日火曜日に、金を除きすべての貴金属で弱気ポジションを増加させていたこと。 -
コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2週間連続の増加で前週比234%増の205トンと過去7週間で最高の量となっていたこと。 -
コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日も7週連続でネットショートで、そのポジションは少ないながらも0.4%増加し、2,324トンとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションも、先週火曜日に27.02%減の20.82トンと4週連続で減少し、今年4月2日以来の低さとなっていたこと。 -
また、コメックス・パラジウム先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションも12.53%減の25.25トンと2週間連続で減少し、昨年9月25日以来の低さとなっていたこと。 -
インド総選挙で、モディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)の勝利が選挙管理委員会の公式発表を待たずに23日夕方に勝利宣言したこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週の市場注目ニュースは、引き続き米中貿易摩擦関連のものや来週月曜日に明らかとなる欧州議会選挙の結果等となります。
その他経済指標では、火曜日ユーロ圏の消費者信頼感、ケースシラー米住宅価格指数と米国消費者信頼感指数、水曜日のドイツの失業率と失業者数、米国リッチモンド連銀製造業指数、木曜日の米国第1四半期GDP、個人消費、コアPCE、金曜日は日本の失業率、鉱工業生産、中国製造業PMI、ドイツ消費者物価指数、米国個人所得、個人消費支出、シカゴ購買部協会景気指数、ミシガン大消費者信頼感指数等となります。
ブリオンボールトニュース
プラチナ価格がトロイオンスあたり807ドルと3か月ぶりの低さへと下げる中で、今週弊社ユーザーがスマートフォンアプリでは史上最高額の132,000ドル(1456万円)相当のプラチナを購入していました。
また、ロシア中銀が金準備を急増させていることを伝える、英国日刊紙Expressの「ロシアが世界の金準備増加を牽引-これは世界経済にどのような意味を持つのか?」で弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。
この記事では、第一四半期に世界の中銀が145.5トン金準備を積み増し、前年比でも68%増で、2013年以来の四半期として最大の積み増し量あることを伝え、ロシアは55.3トンこの間積み増したことを紹介しています。
そして、ロシアは米国長期国債を減少させていることにも触れ、これは、ドル資産からの脱却(de-dollarise)としています。
この日刊紙はエィドリアンをこの分野の専門家と紹介し、「黄金律は、金を保有している人(国)が力を握るということです。そして、金は50年以上も通貨システムの公的な役割がないにもかかわらず、米国が世界第一の金保有国であることは、偶然に起きたことではありません。」とし、「金は他の資産価値が下げるときに上昇することからも、ロシアの中銀は他の中銀同様に、金が提供するセキュリティーとリスク分散のために、金を保有しているのでしょう。」そして、「ロシア政府は米国の影響力を軽減させるためにドル資産を減らしているのでしょう。さらに、ロシアは主要金産出国で、経済制裁を受ける中でも、金を直接自国通貨で購入することができるために中銀は金準備を増加させることができるのです。」と続けています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年5月20日~24日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年5月27日から31日)来週の予定をまとめています。 -
プラチナ投資の急増が2019年の供給過多を削る -
金投資家はゴードン・ブラウン英元財務大臣とは異なる金の売買を行う (金投資家インデックス4月数値についての記事))
ロンドン便り
本日は、先でもお伝えしましたが、英国メイ首相が6月7日で辞任することを表明しました。そこで、この辞任発表後の主要メディアの報道ぶりをご紹介しましょう。
メイ首相辞任については、当然という見解が多くみられていますが、前日から辞任観測が伝えられていたことからも、メディアは早朝から首相官邸の前で待ち構えていました。そして、メイ首相のスピーチは生中継で伝えられていましたが、発表が終わり次第、BBCや英国主要日刊紙ガーディアン紙はメイ首相が辞任発表の演説の終わりに涙ぐんだことを見出しで伝えていました。
また、多くのメディアはメイ首相辞任への主要閣僚や野党党首のコメントを掲載し、メイ首相に反旗を翻した閣僚や野党スコットランド国民党の党首も含めて、メイ首相の努力を称えているのに対し、ジェレミー・コービン野党労働党党首は「テリーザ・メイが辞任したのは正しかった。」とし、新たな保守党党首に「総選挙」をすべきというコービン氏自身のツィートが紹介されています。
そして、すでに次の保守党党首、つまりは首相の候補者になるであろう議員の詳細を伝えてますが、現段階で最も高い可能性で首相になると見られているのは、元外務大臣でロンドン市長も勤めた、離脱派大物のボリス・ジョンソン氏とのこと。そして、ボリス・ジョンソン氏は既に立候補することを明言しています。
なお、保守党党首の指名は6月10日から始まり、この指名は2名の保守党議員の推薦が必要とのこと。そして、立候補者が3名以上であった場合は、2名になるまで保守党議員で投票を行い、上位2名が保守党員の投票の対象になるとのことです。そして、このプロセスは6月末までに終えることを保守党幹事長のブランドン・ルイス氏は述べ、7月末までに次期首相選出が予定されているようです。
サッチャー元首相に次ぐ、第2の女性首相として、また内務大臣時代の活躍ぶりからも「氷の女王」として期待をされたメイ氏でしたが、国民投票で決まったEUからの離脱を成し遂げることなく、首相を辞任せざるを得なく残念であったようです。
しかし、英国ポンドがメイ氏辞任のニュースを経て強含み、英国株価が上昇したように、多くの人々にとっては、英国のEU離脱の混乱を打開するためには必要なステップであったようです。