ニュースレター(2019年12月6日)金相場は米中貿易協議への懸念で上げ、良好な米雇用統計で上げ幅を失う
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1461ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)とほぼ同水準で、銀価格もまた、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり16.95ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)とほぼ同水準となっています。また、プラチナも本日午後3時の弊社チャート上では893.34ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)とほぼ同じレベルとなっています。
今週金相場は、二転三転するトランプ政権の米中協議のコメントでひと月ぶりの高さへ上げたものの、予想を大幅に上回る雇用統計でその上げ幅を失ってさらに下げています。それでは、日々の動きを追ってみましょう。
月曜日金相場は、ロンドン時間午前中は同日発表された中国の製造業データが3年ぶりの良好な数値であったことから、リスクオンが進み、長期金利が上昇する中で押し下げられていました。
その後、ロンドン時間午後に米国のISM製造業景況指数が前月と予想から悪化したことから、さらに金価格を押し上げてトロイオンスあたり1465ドルと前週末終値を上回って一時上昇していました。
火曜日金相場は、リスクオフ傾向が強まる中で一月ぶりの高さのトロイオンスあたり1481ドルへまで一時上昇していました。
これは、同日トランプ大統領が米中貿易協議の一部合意に関して「米大統領選後まで待つという考え方を気に入っている」と述べたこと、また、トランプ政権が前日ブラジルやアルゼンチンから輸入する鉄鋼などに追加関税に加え、同日米通商代表部(USTR)は24億ドル分の仏製品に最大100%の制裁関税を検討すると発表したことも、貿易戦争の激化による経済への悪影響の懸念から、安全資産の金、米国債、日本円等へ資金が流入していました。
水曜日金相場は一時トロイオンスあたり1484ドルと11月7日以来の高さへと上げたものの、その後1475ドルで終えていました。
同日上昇したのは、前日のトランプ大統領のコメントで米中貿易協議が長期化することへの懸念、またフランスのデジタル税への報復で米国が追加関税を課すことで貿易戦争の拡大が懸念されている中で、米国雇用統計のADP全国雇用者数が予想を下回ったことが要因となっていました。
しかし、その後ブルームバーグが「米中は貿易協議の第1段階で一部の制裁関税を撤回するとの合意に近づいている」と伝えたことで、楽観論の広がりからドルが強含み、欧米株価が上昇する中で金が多少押し戻されることとなりました。
木曜日金相場は、ドルが多少ながら下げる中で、緩やかに上げてトロイオンスあたり1480ドルを一時付けていました。
同日は、米中貿易協議関連で中国商務省の報道官が「緊密なコミュニケーションをとっている」と述べたと伝わり、米中合意が先送りされるとの過度の懸念はやや和らいでいました。
しかし、今週トランプ大統領のコメントなどで二転三転していること、ダウジョーンズが米中が農産物購入規模で以前対立していると伝えたことで慎重な動きを見せていました。
なお、同日の米貿易収支は予想から改善し、新規失業保険申請件数も予想を下回り、7か月ぶりの低さとなっていました。
本日は市場注目の米雇用統計が発表され、市場注目の米雇用統計は非農業部門雇用者数が26.6万人と予想の18万人と前回修正値15.6万人も上回り、失業率は3.5%と前回及び予想の3.6%から下げて1969年以来の低い水準で、平均時給は前年比3.1%と予想の3%を上回っていました。
そこで、金相場はこのニュースを受けてトロイオンスあたり1467ドルへと10ドルほど下げてその後もドルが強含み、米株価が今週の下げ幅を取り戻し長期金利が上昇する中で、1461ドルへと下げています。
なお、本日はクドロー米国家経済会議委員長が米中協議が合意に近いと述べたことも伝えられていること、そして中国も12月15日のトランプ大統領の新たな中国製品への関税発動が近づく中で、米国からの大豆と豚肉の一部への関税は課さないと述べたことも、米中貿易協議への懸念を後退させて、安全資産としての金にとってはネガティブとなっている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で7トン減少し888トンと、2か月半ぶりの低さとなっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで1.5トン増の360トンと史上最高値を付けていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.40%減少していること。 -
金銀比価は今週木曜日までにLBMA価格では水曜日に86.16まで下げたものの、その後87台へ乗せて上昇していること。 -
また、今週の上海黄金交易所(SGE)のロンドン価格との差のプレミアムは、本日は3.65と下げているものの、週間の平均は5.68と先週の3.16らも上げ、4週間ぶりの高さとなっていること。 -
今週月曜日に発表されたコメックスデータによると、先週火曜日に金相場が米中貿易協議関連コメントで動いていたものの引き続きレンジ内に留まる中で、金を除き全ての貴金属で強気ポジションが増加していたこと。 -
コメックスの金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは火曜日に8.9%減の640トンとなっていたこと。 -
コメックスの銀先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に20%増の7,605トンとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、14%増で43トンとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションの資金運用者のネットロングポジションは、3.8%増の41.3トンとなっていたこと。 -
ドイツではECBのマイナス金利政策からも、ドイツの一部商業銀行で10万ユーロ以上の口座へマイナス金利が課されていたが、今週は顧客の貯蓄規模に関わらず、ミュンヘンの商業銀行がすべての口座に0.5%のマイナス金利を課すことを予定し、他の2行も予定、もしくは導入しているとブルームバーグが伝えていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週の重要イベントは水曜日に発表されるFOMC政策金利発表となります。ここでは金利据え置きがほぼ確実視されていますが、発表される声明や同日行われるパウエル議長の記者会見の内容で、今後の利下げ見通しが動くことになります。
また、木曜日に行われるECB政策金利発表もユーロ/ドル為替市場を動かす可能性があり、ラガルド新総裁の金融政策への傾向にも市場は注目することとなります。
そして、木曜日ロンドン時間夜から発表される総選挙結果も、与党保守党が過半数を取れるのか、また野党労働党が政権を取る場合は、ポンドが大きく動く可能性がありますので注目のイベントとなります。
その他経済指標では、火曜日の中国消費者物価指数とドイツとユーロ圏のZEW景況感調査、水曜日の米国消費者物価指数、木曜日のドイツ消費者物価指数、米国の生産者物価指数、金曜日の米国小売管理と小売売上高等となります。
ブリオンボールトニュース
今週月曜日に英国主要日刊紙のオブザーバーの経済面のMoney Observerが「金の投資を始めるには遅いのか」という記事で弊社リサーチダィレクターのエィドリアン・アッシュのコメントを取り上げています。
ここでは、金は2019年の投資資産の高いパフォーマンスを見せているとして、英国株価インデックスFTSE100が10月半ばの過去12か月に2%上げているに対し、金は21%上昇していると伝えています。
そして、実質金利の低下、中央銀行が金準備を記録的なペースで増加させていること等を挙げて、金上昇の背景を解説し、エィドリアンの「1970年以来の10年間単位では英国株価が下げた際に80%金は上昇し、それは5年単位で株価指数が10%以上下げた際も含んでいる」というコメントを取り上げています。
また、長年私がサポートしているがんの患者と家族をサポートする施設の英国発祥のマギーズ・キャンサー・ケアリング・センターへ、弊社が毎年子供関連のチャリティー団体へ寄付をしている制度で今年1500ポンド(約21.3万円)を寄付させていただきました。このことをマギーズセンターのサイトでもご紹介いただいています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年12月2日~6日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年12月9日~13日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2019年12月2日)良好な中国製造業データが安全資産を押し下げる
ロンドン便り
今週英国は、来週木曜日に迫る総選挙の各党の選挙活動が日々伝えられていますが、先週金曜日にロンドンブリッジで起きたテロ事件の詳細、そして容疑者や犠牲者関連のニュースも多く伝えられていました。
その様な中で、私は今週ロンドン貴金属市場協会(LBMA)が主催した、金価格100周年を祝う年次セミナーと夕食会に参加してきましたので、その模様をお伝えしましょう。
今年は、世界指標であるLBMA価格が始まって100周年を迎えるために、9月にはこの価格が始まったロスチャイルドの社屋で記念のセミナーが行われ、ここでもお伝えしました。
今回はセミナーと夕食会は共に英国の貴金属試金及びホールマーク(純分認証極印)を行うGoldsmiths CompanyのGoldsmiths’ Hallで行われました。
Goldsmiths Companyは1339年からこの場所で営んでいるとのことですが、その後ロンドン大火後1835年に建て直され、第2次世界大戦後1990年台に大規模な修復が行われて現在に至っているとのことです。
セミナーでは、Goldsmiths Companyの試金責任者のRobert Organ氏が試金やホールマークの歴史と現状をお話くださいました。
欧州の国々は長くホールマークを行って貴金属のスタンダード化をしてきましたが、1973年に主な欧州諸国でホールマーク条約が結ばれ確立したとのこと。
その数は金価格の高騰もあり、年々減少方向ではあるものの、現在英国では年間9百万個の貴金属が試金、ホールマークされているとのことです。
そして、TD SecuritiesのGlobal Head of Commodity StrategyのBart Melek氏が金相場の見通しを「TD Securitiesは金に強気です」と解説されました。
同社は来年末までに金相場を1640ドルと予想し、それはイールドカーブの逆転、経済成長の滞り、米連邦準備制度理事会を含む世界の主要中央銀行の金融政策の転換、米中貿易摩擦、経済データが示す景気の停滞と、香港や中東を含む地政学リスクなどと、数多くの要因が挙げていました。
その後行われた夕食会はイングランド銀行と日本銀行からのゲストの方々と共に、総勢300人近い金業界の主だった方々が一堂に会しました。ここでは、歴代のLBMAの会長と現CEOのRuth Crowell氏がスピーチをし、ゲストスピーカーとして、UBSやMitsui等の多くのコモディティ部門を率いた貴金属業界の大御所とも言えるAndy Smith氏がスピーチを行いました。
多くの参加者は来年の貴金属市場へ強気の見解をお持ちでしたが、私はLBMAの雑誌のAlchemistで金価格の歴史について解説している大学教授のFergal O‘Connor氏の隣であったので、中央銀行の金融政策や混乱するレポ市場などについて意見をお聞きする機会もいただきとても有意義な時間を過ごすことができました。
当日の夕食会が始まる前の写真を下記に添付いたします。