ニュースレター(2019年12月13日)重要イベント後のリスクオン基調の中で金価格は5週間ぶりの週の終わり値へ上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1473ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)と0.9%上昇し、銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり16.95ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)と再びほぼ同水準となっています。また、プラチナも本日午後3時の弊社チャート上では935.70ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から4.2%上昇しています。
今週金相場は多くの重要イベント消化し、リスクオン基調で株価が上昇する中で、5週間ぶりの週の終値の高さを付ける方向で推移しています。それでは、イベント満載であった今週の日々の動きを追ってみましょう。
月曜日金相場は今週の重要イベントであるFOMC、英国総選挙、米大統領弾劾審議、米中追加関税デットラインを前に、方向性を見出すことなくトロイオンスあたり1463ドル前後5ドルの狭いレンジでの取引となっていました。
火曜日金相場は、翌日のFOMCの結果を前に多くの金融市場が前日同様に方向性を掴めない中で、多少上昇しトロイオンスあたり1465ドル前後の狭いレンジで推移していました。
同日米中貿易協議関係では、米WSJ紙が「米政権が15日に予定している対中制裁関税【第4弾】の全面発動を見送る計画をしている」と伝える中で、その条件として米国は中国による農産物の大量購入を要求し、中国は既に発動済みの関税撤廃を要求しているとも伝えられ、未だ15日までに合意されるかは不透明と見られていました。
この間ポンド建て金相場は、今週木曜日の総選挙での与党保守党の優勢が伝えられて7か月ぶりの高さに上昇する中で、5か月ぶりの低さへと下げていました。
水曜日金相場は、FOMCの結果を市場は待つ中で、緩やかに上昇しトロイオンスあたり1470ドルまで上げ、発表後に1478ドルまで上昇して1474ドルで終えていました。
その後のFOMCの声明では予想通り金利は全会一致で据え置かれ、メンバーによる翌年の金利予想は利上げも利下げも無しと示唆されていました。
木曜日金相場は、まずロンドン昼過ぎにひと月ぶりの高さのトロイオンスあたり1486ドルを一時付けていました。
これは、同日発表された米国生産者物価指数が予想を大きく下回っていたこと、それに加え新規失業保険申請件数が2年ぶりの高さとなっていたことに反応したことからでした。
この背景は、前日FOMCで「FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化と2%前後の物価上昇率という目標との比較で経済情勢の実績と見通しを評価していく。」としていたことからも、滞るインフレ率の停滞が際立った模様です。
その後、トランプ大統領が「中国との大きな合意にとても近づいている」とツィートし、ウォールストリートジャーナルが「貿易協議の関係者からの情報として、米国サイドはこれまでの関税の半分(約3600億ドル相当)を撤廃と、新たな関税の撤廃を提案している」と伝えたことで、金はこの上げ幅をほぼ失って下げることとなりました。
なお、同日行われたECBの政策金利発表でも金利は据え置かれ、金融政策は維持され、「金利はインフレが確実に目標に届く段階までは現行またはそれ以下にとどまる。」とされていたことは、金のサポートとなりました。
そして、本日金曜日は、まず英国総選挙の結果がボリス・ジョンソン首相率いる与党保守党が過半数を大きく上回ったことから、ポンドが昨年5月以来の高さへ上昇し、ポンド建て金相場が5か月ぶりの低さへと下げていました。
また、前日より米中貿易協議の部分合意が本日発表されると伝えられていることと英国総選挙結果からも、世界株価が全般上昇し、史上最高値を更新する中で、トロイオンスあたり1473ドルと堅固な動きをしています。
その後中国政府によって、貿易協議の第一段階の合意が行われたと伝えられ、トロイオンスあたり1469ドルへと下げた後に再びその下げ幅を取り戻しています。
この合意ではすでに伝えられていたように、15日に予定していた対中制裁関税「第4弾」の発動を見送り、適用済みの追加関税の税率も段階的に引き下げ、中国は米農産物の輸入拡大のほか、金融市場の開放や知的財産権保護、為替政策の透明化も打ち出すとのこと。
そして、その後トランプ大統領の弾劾決議が下院司法委で可決したと伝えられています。しかし、下院本会議で弾劾追訴されたとしても、共和党が過半数を占める上院で追訴が行われるのは困難との見方が多いことからも、このニュースの市場への影響は限定的となっています。
その他の市場のニュ―ス
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プラチナ価格は今週に入り南アフリカの国営電力会社エスコムが火力発電所での故障から大規模計画停電を行うことを9日に発表したことから、鉱物採掘中断への懸念で、トロイオンスあたり937ドルと1月ぶりの高さへと上昇していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.004トン減少し886トンと、先週末同様の2か月半ぶりの低さとなっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで1.31トン増の360.9トンと史上最高値を付けていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.40%減少していること。 -
金銀比価は今週木曜日までにLBMA価格では水曜日にほぼ4か月ぶりの高さ(銀が割安)の88.15を付けて、日々87台を超えていたこと。 -
また、今週の上海黄金交易所(SGE)のロンドン価格との差のプレミアムは、週間平均で6.07と先週の4週間ぶりの高さの5.68からも上昇していたこと。 -
今週月曜日に発表されたコメックスデータによると、先週火曜日にトランプ大統領が部分合意を来年大統領選後まで待つ可能性に触れて金相場が上昇する中で、金とパラジウムは強気ポジションが増加し、銀とプラチナは減少していたこと。 -
コメックスの金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは火曜日に10.32%増の705.6トンと4週間ぶりの高さとなっていたこと。 -
コメックスの銀先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に8.1%減の6,989トンとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、0.31%減の42.8トンとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションの資金運用者のネットロングポジションは、5.19%増の43.4トンとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週の主要イベントであるFOMC、英国の総選挙が終わり、米中貿易協議の部分合意も本日発表されました。発表前には、合意事項に違えることあれば、追加関税についての状況を原状に戻すスナップバック(snapback)と呼ばれる新たな条項が入るとも伝えられていましたので、引き続き米中貿易協議への注目は続くことになる可能性もあるようです。
その様な中で、クリスマス休暇に入る前の来週の注目指標は、月曜日の中国の小売売上高と鉱工業生産、ドイツとユーロ圏と英国と米国の製造業及びサービス業のPMI、火曜日の英国失業率、米国住宅着工件数と鉱工業生産、水曜日の英国とユーロ圏の消費者物価指数、木曜日の日銀とイングランド銀行の金融政策決定会合、金曜日の中国の人民銀行の政策金利発表、英国と米国の第3四半期GDP、米国個人消費支出と個人所得と支出、ロイターミシガン大学消費者信頼感指数などとなります。
ブリオンボールトニュース
英国の総選挙関連のニュースと市場の動きを伝えるヤフーファイナンスの記事で弊社のリサーチダイレクターのコメントが取り上げられています。
ここでは、多くの人々は労働党が政権を取ることを懸念しているとし、その場合金を購入するはずだと述べた上で、弊社からの回答として下記を紹介しています。
「2019年12月の新規顧客数は、ノーザンロックの取り付け騒ぎが起こる前の2007年夏以来の低さとなっている。そして、英国の顧客からの金の需要はほぼこれまでの平均と変わらず、パニックは全く起きていない。」
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年12月9日~13日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年12月16日~22日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2019年12月9日)金価格はFOMCとECB金利発表、英総選挙、米大統領弾劾審議、米中追加関税デットラインを前に「方向性が掴めず」 -
【金投資家インデックス】金投資のセンチメントが7年ぶりの長期の上昇傾向を維持
ロンドン便り
今週英国はこれまで以上に、伝えられるニュースは総選挙一色となっていました。結果はご存知の通りボリス・ジョンソン首相率いる与党が、1987年のサッチャー政権以来の大勝と、全野党議席を78席上回る議席を獲得しました。それに対し野党第一党の労働党の議席は1935年以来最も少ない議席数の203となっています。
それぞれの党のマニュフェストには英国のEU離脱を含む医療、社会保障、教育などの多くの公約が組み込まれていましたが、結果的には英国のEU離脱が焦点となったようです。
それは、2016年の国民投票の結果の英国のEUからの離脱を撤回することを公約としていた自由民主党は党首のジョー・スィンソン氏が議席を失い、議席数を減少させていること。
そして野党第一党の労働党の英国のEU離脱関連の公約は、政権を獲得した場合はEUからより良い離脱協定案を勝ち取り、それを再び国民投票にかけ、離脱の有無を問うとしていたことからも、自由民主党ほどの強硬残留派ではないものの残留派と見られていたようです。
そこで、ジョンソン首相はこの選挙結果を受けて、EU離脱の信認を受けたとし、来年1月31日の離脱を必ず遂行することを誓っていました。
離脱後のEUとの貿易協議は困難なものになるとは思いますが、2016年6月の国民投票の結果から3年半を経て、英国のEU離脱への道筋が少なくとも有権者によって明確に示されたようです。
今回の総選挙の投票率は67.4%と前回よりも1.49%下げたとのことですが、有権者の3百万人が総選挙告知から総選挙までの5週間で登録したとのことです。これは、前回2017年の際よりも875,000人以上上回ったとのこと。そして、そのうちの3分の2が35歳以下とのことですので、まさにこれからの英国の方向性を決めるとも言えるこの選挙で政治への関心も高まっているのでしょう。
ジョンソン首相は本日エリザベス女王に選挙結果を報告後に、首相官邸前で行った演説で、英国のEU離脱に関する異なる意見を持つ人々からも分裂が進んだこの国を一つにまとめることを誓っています。今回過半数を獲得したジョンソン政権が、EU離脱のみならず公約でも掲げたように社会的弱者にも耳を傾け、すべての人々にとってより良い社会を築くことに力を入れてくれることを祈りたいと思います。