ニュースレター(2018年10月5日)イタリア財政懸念と米長期金利急騰への懸念が金を押上げる
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の価格は1204.39ドルと、前週金曜日のLBMA金価格のPM価格(午後3時)から1.4%上げています。また銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり14.63ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から2.3%上げています。
今週はイタリア財政懸念で金が上昇し、その後米主要経済指標が良好であったことやパウエルFRB議長のタカ派的と取られるコメントで、米長期金利が急上昇して世界株価が下げ、金相場を押上げることとなりました。その一週間を曜日ごとにお伝えしましょう。
月曜日金相場は、週末米国とカナダが北米自由貿易協定の再交渉で合意し、中国が一週間ゴールデンウィークに入る中、緩やかに下げることとなりました。
この米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が結ばれたことで、カナダドルとメキシコペソが急騰し、ドルインデックスも高水準を推移し、円安による日経平均株価の1991年来の高さと、リスクオンムードが金を押し下げることとなりました。
ただ、イタリア財政を巡る懸念からも同日イタリア国債利回りは数年来の高さへと上昇していました。これはイタリアのポピュリスト政権が2019年度予算の財政赤字を国内総生産の2.4%と従来の3倍にすることを発表したことに対し、欧州委員会が承認しないであろうということが主要イタリア紙で伝えられていたこと等から警戒感が高まっていたことからでした。
火曜日金相場は、イタリアの財政懸念で欧州の主要株式が下げていたことから、トロイオンスあたり1208ドルへと一週間半ぶりの高さへと一時上昇することとなりました。
これは、同日イタリアの下院予算委員会のボルギ委員長が「イタリアは自国通貨があれば多くの問題ができると確信している」と述べたことが伝えられ、政権がユーロ離脱を主張する可能性が連想され、ユーロが売られ金融株も下げていたことからでした。そこで、ユーロ建て金相場は8月半ば以来、1月半ぶりの高さへと上昇していました。
なお、同日は英国の与党保守党大会も開かれていましたが、離脱派の大物の前外相のボリス・ジョンソン氏の演説などもあり、党内の混乱等からもポンドも下げ、ポンド建て金相場も1月ぶりの高さへ上昇していました。
水曜日金相場は、イタリア危機懸念が後退する中で、イタリアを含む欧米株価が上昇し、ドルインデックスが95を超えて4週間ぶりの高さへ上昇し、米国債2年物の利回りが2008年来の高さへとなる中、トロイオンスあたり1200ドルを割って下げることとなりました。
イタリア危機への懸念後退は、イタリア政府が予算の財政赤字目標を下げることで譲歩することが伝えられたことからですが、同時に同日発表のADP全国雇用者数(金曜日発表の米雇用統計の先行指標と見られている指標)も予想を上回っていたこと、米ISM非製造業景況指数が21年ぶりの高さとなっていたこと、パウエルFRB議長が米国経済が「際立って良好」と述べたことが伝えられたことも、金にとってはネガティブ要因となりました。
木曜日金相場は米長期金利が7年ぶりの高さに上昇し、株の割高感からも世界株価が下げる中、トロイオンスあたり1206ドルを一時付けたものの1199ドルで終えていました。
同日はペンス米副大統領が1月の米中間選挙に中国がスパイ活動などを通じ介入していると演説で主張すると伝えられ、また米国はロシアが2014年以来サイバー攻撃を繰り返し行ったとしてロシア情報機関員7人を起訴するなど政治リスクも再浮上していました。
本日金曜日は市場注目の米雇用統計で、非農業部門雇用者数が134,000人と予想の185,000人を下回りましたが、前回数値は201,000人から270,000人に上方修正されていました。また失業率は3.7%と予想の3.8%前回の3.9%を下回り49年ぶりの高さとなりました。
この発表を受けて米長期金利は7年ぶりの高さの3.20%を超える水準を維持し、金相場はトロイオンスあたり5ドルの幅で神経質に動いた後に、ロンドン時間午後4時には1202ドル前後を推移しています。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高が今週木曜日までで10.6トン減の731トンと2016年2月18日以来の低い水準となっていたこと。 -
先週末に発表されたコメックス貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日にFOMCの結果を待つ中で、金を除きネットショートポジションを減少(ネットロングポジションを増加)させていたこと。 -
コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に11週連続でネットショートで、その規模も3.93%増の240トンと過去3週間で最大となっていたこと。
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コメックス銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションも、先週火曜日に11週連続でネットショートとなっていたこと。そして、その規模は3週連続で減少し、6595トンと5.9%減。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、先週火曜日に25週連続のネットショートではあったものの、36%減の19トンと3週連続でそのポジションを減少させていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、24.25トンネットロングで、前週比38.95%増と、6月26日以来の高さとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週の重要指標は、木曜日の米国消費者物価指数となりますが、その他、月曜日の中国のサービス部門のPMI、火曜日の英国の鉱工業生産とGDP、米国の卸売物価指数、金曜日の貿易収支、ミシガン大学消費者信頼感指数となります。
ブリオンボールトニュース
今週は弊社が毎月まとめている金投資家インデックスの9月数値が発表され、日本語で金の情報を網羅しているゴールドニュースサイトでも[金投資家インデックス] 金価格の下げは 既存の顧客を金投資へと向かわせたものの資金気顧客は25%減少]と取り上げていただきました。この分析記事は弊社サイトの「金投資は価格の下落にもかかわらず大きく動かず」でもご覧いただけます。
米主要経済サイトのMarketWatchの「イタリアの予算への懸念から、ドルが上昇する中で金がほぼ2週間ぶりの高さへ」の記事で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
ここでエィドリアンは、「貴金属へ弱気であった人々は、イタリアの巨大な債務が突然見出しに戻ってくる中で、痛い思いをしている」とし、「本日の貴金属価格上げのスピードからも、価格の下げを見込んだ派生商品取引をしていたヘッジファンドや他の投機家によるショートカバーが入っていたことが推測できる。」とコメントしています。
なお今週は、弊社グループ会社ウイスキーインベストダイレクトが貯蔵しているウイスキーのAuchentoshan 2013年を主要スコッチウイスキー会社が購入を希望し取引が成立したために、このウイスキーに投資をしていたお客様が当初価格リットル £3.90が2年半後に£6.05(55%増)となり良い収益を上げることとなりました。
ウイスキーインベストダイレクトでは、個人投資家の方がスコッチウイスキーに1リットルから投資することを可能としていますが、主要スコッチウイスキー会社も仕込んだウイスキーを売却し、熟成後に購入というように市場に参加しています。この詳細については、こちらをご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
このところ政治関連ニュースがここでは続いていますが、今週も先週日曜日から与党保守党の党大会が行われていたために、このニュースが日々大きく伝えられていることから今週もご紹介させていただきます。
今回の保守党大会は、英国のEU離脱が来年3月末に迫りながらも、EUとの交渉は遅々と進んでおらず、保守党内の亀裂も見えていることからも、この大会でメイ首相がその基盤を固めることができるのか等とメディアの注目が集まっていました。
特に次期首相候補とも言われている、強硬離脱派のリーダー的存在でもあるボリス・ジョンソン前外相が火曜日に演説し、メイ首相がまとめ提案したEU離脱後のEUとの新たな経済パートナーシップ案(チェッカーズ案)を強く非難し、離脱派党員と議員から拍手喝さいを受けていたことからも、メイ首相の党首としての演説は今回が最後になるのではないか等と様々な思惑が飛び交っていました。しかし、彼は今回の演説の中で次期首相として名乗り上げることもなかったことから、メイ首相への大きな打撃とはならなかったというのが、主要メディアの解説ではあったようです。
そして、翌水曜日にはメイ首相がアバというグループののダンシングクィーンという曲と共に踊りながらステージに登場し、ほぼすべてのメディアが取り上げるほど多くの人々を驚かしたのでした。そして演説では、ジョンソン氏の強硬離脱案については一蹴し、「完璧な離脱を遂行する」と宣言し、内政に関しては緊縮財政を終えてすべての人々のために資本主義を機能させる事を宣言し、「私たちの前には最良の日が待っている」と力説するなど、大方の評価はジョンソン氏を上回るものというものでした。
昨年の保守党大会では、メイ首相は演説途中で声が出なくなり、彼女の後ろに書かれていた保守党のスローガンの文字も途中で落ちる等惨憺たるものだったことから、今回の演説の初めにメイ首相は冗談で、声が出なかったら許してください、そして後ろの文字は落ちないように隅々まで調べてありますと自分で笑い飛ばしていましたが、今回演説後にメイ首相の夫のフィリップ氏がステージに登壇した時の二人の笑顔は、無事演説を間違いもなく終えられた満足からくるものであったようにも見受けられました。
ひとまず、党大会という越えなければならないハードルは乗り越えたように見えるメイ首相ですが、次のハードルはEU首脳との離脱に関する交渉が行われるEUサミットの今月18日となります。
党首として党内EU離脱強硬派を制御できかねているメイ首相がどこまでEU首脳と交渉を進めることができるのか懸念が募りますが、来年3月の離脱後に2年間の移行期間を得ることができる基本合意に至る道筋が見えることを祈りたいと思います。