ニュースレター(2月12日)1239.75ドル:世界同時株安がリスクオフを進め金が急伸
週間市場ウォッチ
今週金曜日のLBMA金価格のPM価格はトロイオンスあたり1239.75ドルと前週同価格から7.2%上げています。
週明け月曜日は、中国が春節で休場の中世界同時株安が進み、リスクオフから米国債、ドイツ国債、円と共に金が買われ、過去8ヶ月で最高値のトロイオンスあたり1200ドルを超えることとなりました。
翌火曜日も、ドル安、原油安からリスクオ フが進み、日本と欧州株価が下げる中、トロイオンスあたり1196ドルあたりを推移することとなりました。なお、米国株価は前日の下げの反発で始まりましたが、持ちこたえ られず下落することとなりました。
ちなみに、金ETFの最大銘柄SPDRゴールドシェアの残高は703トンへと、昨年7月以来の水準へと増加していました。
水曜日は、市場注目のイエレンFRB議長の議会証言があり、「経済下振れなら利上げペース減速」と表明したことから、ロンドン時間午前中に欧州株が上げる中、今週の上げの反発や利益確定の売りなどで下げていた金相場は、再び上昇することとなりました。
木曜日に金相場は、過去12ヶ月の最高値のトロイオンスあたり1260ドルを一時超えて4.5%上げ、急伸することとなりました。これは、前日イエレンFRB議長が金利引き上げ延長を示唆したことから、ドルが過去数ヶ月で再低値を記録し、世界経済への懸念から世界同時株安が進んだことからでした。
同日、ドル・円は110.99円へと2014年10月末以来の水準へ急落後111円台後半へと戻しましたが、春節の休暇開けの香港株式は3.8%下げ、原油は14年ぶりの低さの26ドルへと3.5%下げ、米国10年物国債利回りは2012年8月以来の低水準の1.57%まで下げることとなりました。
本日金曜日は、作日の調整で株価も戻していることから金も多少下げ、トロイオンスあたり1240ドル前後を推移しています。
その他の市場のニュース
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大きく株価を下げているドイツ銀行の5年物CDSが、記録上は最も高い水準へと木曜日に上昇したこと。 -
関係者の話として、ロンドン貴金属市場協会(LBMA) が、新たな金取引のプラットフォームの案をLME、ICE、CME、AutillaとLSE、MarkitとABSへ提出することを依頼したとブルームバーグが伝えたこと。
ブリオンボールトニュース
今週は金価格が急上昇したこともあり、多くのメディアでブリオンボールトのリサーチ主任、エィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。
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英主要紙テレグラフ「投資家が世界株式が下げる中、金購入へ走った」
昨日ブリオンボールトでは、250キロ(約720万ポンド/8億1300万円)と5トン(約170万ポンド/1億9200万円)が取引されたことが伝えられています。
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米主要経済サイトMarket Watch「金先物が月曜日の急伸後に下げる」
ここでエィドリアンは、「2016年は株が上げると金が下げるというのが典型的なパターンとなりつつある。」とし、「中国が休暇中に株価が新たな低い水 準、金が高い水準を記録したからも、中国の経済成長への懸念よりも株価下落のパニックが強い影響を与えていることを明らかにした。」とコメントしています。
今週月曜日にBBCの朝の番組で今年の金の上昇基調についてインタビューを受け、エィドリアン・アッシュが今年金が他のアセットクラスと比較し、最も良いリターンを出しているという背景について解説しています。下記のリンクで36:30へ早送りをしてお聞きください。
今週の市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
ロンドン便り
今週英国では、ジュニアドクターのストライキとその関連のニュースが広く伝えられています。
英国では国民全てが無料で医療を受けられる国民保健サービス(NHS)という国営医療サービスがあります。これは、1948年に設立され、英国に合法的に滞在している外国人も利用することができます。この原資は政府一般歳入と国民保険であり、イングランドNHSでは処方薬費用は負担となっていますが、診察、入院、手術など医療に関わる費用は全く発生しません。
当然、医学、医療の進歩、人口の高齢化が進む中で、医療費が増加し、英国政府の財政難もあり、このシステム自体の改革が年々必要となっています。
そしてその一環として、昨年の総選挙で圧勝した保守党のマニュフェストの中で、NHSが土日の区別なく7日間稼働することを優先課題(土日の病院の死亡率が高くなっていたことから)としていたことからも、保守党政権は、この実現のために、英国医師会(BMA)と議論を続けてきていたのです。しかし、ジュニアドクター(研修医)の契約内容に合意ができず、昨年12月から数回に分けてストライキが実施されていたのでした。
今週は、政府とBMAの話し合いが今後決着する可能性は低いという第三者機関の提言のもとに、ジェレミー・ハント保健医療相は、政府からの最終提案で契約を行うことを通告したのでした。
新たな契約における問題点は、医師会の指摘では追加予算なく7日間稼働を行おうとしているということ、そのために医師の正規の労働時間帯が、月曜日(7時)から金曜日(19時)までから土曜日(17時)までに伸ばされ、それによる割増賃金減少という点でした。そのために、政府は基本給の増加を提案したのですが、話し合い当初からの経緯などでジュニアドクターの政府に対する不信感は強く、合意点を見いだせなかったようです。
そのため、この契約が強いられることで、国外に職場を求める医師も多くなるのではないかという懸念もあるようです。
原資が限られる中、無料で切れ目のない週7日間の医療を提供することを目指す難しさは、容易に想像がつきます。これを叶えるための道が、英国医療サービスの要となるジュニアドクターの見返りのない努力のみで行われることは避けるべきなのでしょう。ただ、難解な契約内容を読む限りでは、接点は近づいていたように思えるだけに、話し合い当事者の不信感からこのような結果になったようにも見えることが残念ではあるところです。
英国人が世界に誇る英国医療サービスの今後の動きついては、またここで報告をさせていただきます。