金の投資需要:なぜ金価格が上昇しているのか
今年に入り金価格が上昇しています。その要因は何なのでしょうか。
金の投資は皆さんのレーダーに探知されているでしょうか?ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュがここで問いかけています。
年初からの金融市場の混乱の中で、金貨価格は既に年初来13%上昇しています。ここでは、金価格の動向に影響を与えている要因を考えてみましょう。
本日ワールド・ゴールド・カウンシルによって発表された金の需給の最新レポート(Gold Demand Trend)のデータによると、2015年後半に、金価格が過去6年間で最も低い水準へと下げていた際に、世界の宝飾品需要は、過去11年間でも最も高い水準まで上昇していました。
本日の金市場の動向を見ると、昨年後半とは一転して、1980年以来の強い上昇基調を見せています。この間、世界の株式市場は急落をしています。
それでは、金価格に影響を与えるほど金を売買しているのは誰なのでしょうか。これは、下記の金価格と金ETFの最大銘柄SPDRゴールドシェアの残高の推移がほぼ一致していることからも、これらを利用する大規模な資金運用業者であることが明らかでしょう。
それに対して、本日発表された最新の金需給レポートで、世界最大の金の消費国であるインドの人々の需要を見てみると、2015年にインドの消費者は、昨今の記録では過去3番目の高い水準の需要となっていました。そして、ワールド・ゴールド・カウンシルによると、インドの宝飾品の需要は、「2015年後半に前半期の下げを取り返した」ことから、2010年以来の高い水準になったとのことです。
確かに、2015年の金価格は2010年の水準まで下げていました。
実際「11月と12月は特に消費が活発であった」とインドの需要についてワールド・ゴールド・カウンシルはコメントし、「ダンテ-ラス(Dhanteras:結婚シーズンの始まりのディワリ/光のフェスティバルの初日)は、金価格が下落した直後であった。」とし、「価格に敏感な消費者が購入機会と見たようだ。」と続けています。
このレポートで、インドと金消費を競い合っている中国の需要を見てみると、昨年宝飾品需要は、第4四半期の価格の下げでスローダウンし下落しています。しかし、第4四半期の需要は前年同四半期比では、1%のみの下げとなっていました。
また、世界第三の金宝飾品消費国の米国は、前年同四半期比3%増と、8四半期連続で需要が増加を続けています。
この第4四半期の平均金価格は、2009年の第4四半期以来の低水準となっていました。
宝飾品の需要は、確かに金価格の上昇を助けることでしょう。例えば2013年の価格の急落時には、欧米の投資家が売り、アジアの消費者が購入することで、トロイオンスあたり1180ドルを底値としました。
本日発表された最新の金需給のレポートでは、金投資の需要についても明記されており、2015年通年では1.1%増、重量で1,011トン増と、世界の総需要の4分の1となっていました。
それに対し、金の強気市場が始まった2002年の段階では、金投資の需要は全体の8分の1でした。この個人投資家の金投資需要の増加は、世界の金市場の重要な一つの鍵となるものです。
また、もう一つの金投資の重要な要因は、SPDRゴールドシェアの動向で見ることができる資金運用業者の需要です。これは、2010年から2012年の記録的な高い水準から継続的に下落を続けていましたが、2016年に入り、金融市場の混乱の中急増しています。
スイスの投資銀行のUBSの貴金属ストラテジー部門のグローバルヘッドであるEdel Tully氏は、先週米国で過ごした際に、現在の顧客や今まで全く動きのなかった顧客やFXや株や債券部門の顧客も、金投資についての話をしていたと述べています。
「言葉を変えると、すべての人が金について話をしていたのです。このような金への興味の高さは、この数年にはなかったことです。」と続けています。
金の派生商品取引もまた、金の投資として考慮されます。この取引は、現物の需給にほぼ関わりませんが、日々の価格に影響を与えています。それは、もし金の先物の価格が上昇していれば、例え、先物のコントラクトが常に現物を動かすことなく決済されていたとしても、金現物の価格も上昇するためです。
2015年には、その反対の現象が起こりました。それは、資金運用業者が、米国規制当局のCFTCがデータをまとめ始めた2006年以来初めて、金価格が下げることに賭けるネットショートへとポジションを取ったというものでした。
そのため、この現象と金ETF残高の減少が加わったことを、ワールド・ゴールド・カウンシルは、「欧米の投機的投資家が価格を押し下げ、消費者による金の需要を高めた」と本日発表されたレポートでコメントしています。
金価格は、消費者や貯蓄者が金を買うことを望んで購入することによっては動かされません。この価格を動かすものは、他の投資商品が選択肢とならないために金を購入する資金運用業者などの人々の需要であるのです。
金は債券ではなく株式でもありません。そして、特に工業用として役立つものでもありません。実際に工業用需要は2015年に5%減少し、総需要の13分の1でしかありません。
今や市場は債券、株式、工業用コモディティで溢れています。そのために、これらの金融商品が下落する中、金が今また富を保全する手段として見直されるのです。そして、ボラティリティや損失が広がる中で、2010年から2012年の金融危機後に金価格が最高値を記録した後に金を売却した資金運用業者が、再度金へと戻りつつあるのです。
このようなことから分かるように、金価格の動向を決定するのに最も重要な要因は、他の投資商品の価格動向であるのです。