非伝統的金融政策とその効果
専修大学経済学部教授で、金融政策の専門家である田中隆之経済学博士が、中央銀行が行う金融政策の中の非伝統的金融政策を詳細にわたり解説しています。なお、この原稿は昨年11月21日に行われた講演のためにまとめられたものであるため、今年2月14日の緩和措置にはついては触れられていません。
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1 非伝統的金融政策の整理
(1) 伝統的金融政策とは
- 中央銀行が、短期金利(コールレート)をコントロールすることで、中長期金利の変化を引き起こし、貸出の増減(信用の拡張・収縮)によって経済活動に影響を与える
- 短期金利のコントロールは、公開市場操作(短期国債の売買)で中央銀行当座預金残高を増減させることによって行う
- この20年ほどの間に、米・欧・日本で確立した
(2) 伝統的金融政策の波及経路

(3) 非伝統的金融政策の整理
(ア)「ゼロ金利制約」とは~コールレート(翌日物)がゼロに達し(②が機能せず)、伝統的金融政策が展開できない状況
(イ)非伝統的金融政策とは~伝統的金融政策の②が機能しないなか、別の手段で③、または④を機能させる金融政策
(ウ)非伝統的金融政策

A 時間軸政策
- 将来の短期金利を低水準に維持するという政策コミットメントを行う
- 狙い:市場の短期金利の先行き予想を低めて、長期金利の引き下げをはかる(金利の期間構成に関する期待仮説に依拠)
- ②が作用しないので③を直接喚起
- 量的緩和時の日銀が実行、ある程度機能
- 金融システム安定化策の意味はない

B 中央銀行当座預金の増額
- ゼロ金利の実現に必要となる以上のベースマネー(超過準備)を供給
- 中央銀行のB/Sの右側(負債サイド)を活用
- 狙い:ポートフォリオ・リバランス効果~市中銀行に大量の準備を供給することで、貸出・有価証券投資を誘発
- ②が作用しないなか④を直接喚起
- 量的緩和期の日本では、効果がみられなかった
- 市中銀行の流動性対策(金融システム安定化策)として機能
C 特定の金融資産の購入
- 民間のリスク資産や長期国債を買う
- 中央銀行のB/Sの左側(資産サイド)を活用
- 狙い:信用スプレッド(リスクプレミアム)の低下による長期金利の低下
- ②が作用しないので③を直接喚起
- 効果は限界的
- 一般企業の資金繰りを意識した流動性対策、(金融システム安定化策)として機能

D インフレ期待形成策
- 「将来インフレが来ても金利を上げずにインフレを放置する」という政策コミットメントを行う
- 狙い:インフレ期待の形成で実質金利を引き下げ
- 実質金利=名目金利-期待インフレ率 というフィッシャー方程式に依拠
- ②が作用しないので③(実質)を直接喚起
- 「通貨の番人」としての信任の厚い中央銀行ほど、この約束を市場に信じ込ませるのは難しい(提案者クルーグマンが撤回)
(エ) マネタイゼーション(国債の中央銀行引き受けによる財政拡張)について
(その効果)
- 財政拡張政策としての需給ギャップ縮小効果
- 貨幣供給を確実に増やすことができる(マネタリスト的な意味での金融政策)~準備供給政策を行ってもマネーストックが増えない状況をクリア
- デフレ脱却、景気刺激の効果は大きい
(その難しさ・危うさ)
- 政府と日銀の連携が必要
(日銀が単独で国債の大量購入を始めれば、政府にこの政策を促すメッセージとなる)
- 先進国最大の政府債務残高をさらに増加
- マネタイゼーションが行われることが明らかになった時点で、(デフレ克服を通り越した)高いインフレが訪れる可能性
- →制御の難しいインフレが来ても、現状よりもマシというほどデフレが悪化すれば、実施も
2 非伝統的金融政策の論点
(1) プルーデンス政策との関係
- 金融安定化策(危機対応)としての政策発動と、狭義の金融政策(総需要喚起)としての政策発動を、分けてアナウンスする必要 → 「出口政策」が取りやすくなるのでは?
(2) 財政政策との境界
- 非伝統的金融政策は財政政策に接近
① 個別企業支援になる恐れ(ミクロ資源配分への関与)~CP、社債、ETF、J-REIT購入
② 中央銀行のバランスシート棄損→損失リスク(納税者負担)
(3) 副作用
- 市場機能の縮小~無担保コール市場の規模縮小
- 金融仲介活動の収益圧迫~イールドカーブのフラット化
3 日本における非伝統的金融政策の展開
(1) 非伝統的金融政策~これまでの展開
Ⅰ ゼロ金利政策(1999.3~2000.8)
Ⅱ 量的緩和政策(2001.3~2006.3)
Ⅲ 2008年以降の緩和策(2008.10~)
ⅰ)金融システム安定化策としての流動性供給(~2010.3)
企業支援特別オペ/社債・CPの買入れ
ⅱ)総需要調整(喚起)策としての非伝統的金融緩和(包括緩和)
①時間軸政策(政策コミットメント)
②日銀当座預金残高増(固定金利オペ)
③非伝統的金融資産の買入れ(資産買い入れ枠設定:国債、CP、社債、ETF、J-REITを購入)
④成長強化基盤支援資金供給
~①、②、③の狙いは長期金利の引き下げ
図表5 政策金利の推移と非伝統的金融政策



図表8 非伝統的資産買い入れ枠の増額(2011.10)

(2) 日銀がまだやっていないこと
①インフレ期待形成(政策コミットメント)
・クルーグマンが1998年に日本に対し提言/その後撤回(2009年)
・期待インフレ率引き上げによる実質金利低下
(実質金利=名目金利-期待インフレ率)
②日銀による財政のファイナンス(国債のマネタイゼーション)
以上
(補論1)世界金融危機後の日米金融政策の展開
1 財政金融政策とプルーデンス政策
(1) 財政・金融政策(総需調整政策=景気刺激策)
プルーデンス政策(金融システム安定化策)
(2) 金融危機(や資産価格の大幅下落)を伴う景気後退には、プルーデンス政策の発動が不可欠

2 2007~08年の世界金融危機・世界同時不況後の日米金融政策
(1) 世界金融危機におけるアメリカの危機対応策
(ア) 流動性供給(FRB):プルーデンス政策(リクイディティ対策)~TAF(ターム物金利入札型貸出制度)(2007年12月~)
(イ) 政策金利引下げ(FRB):総需要喚起策(マネタリー政策)
(ウ) 財政出動(政府)~本格化はオバマ政権成立後の2009年2月以降:総需要喚起策(財政政策)
(エ) 住宅ローンの貸手(金融機関)への、金利据え置き・差し押さえ延期要請(政府):プルーデンス政策(リクイディティ対策)
(オ) 不良債権の買取り(政府):プルーデンス政策(ソルベンシー対策)
(カ) 金融機関への資本注入(政府):プルーデンス政策(ソルベンシー対策)



(2) 世界金融危機後のアメリカの非伝統的金融政策
(ア) 信用緩和
・MBS(住宅ローン担保証券)の買入れ(2008年12月~)
・GSE債(政府関係機関債券)の買入れ(2008年11月~)
(イ) 量的緩和第1弾(QE1:2009/3~2010/3)
・長期国債の買入れ(2009年3月~)
(ウ) 量的緩和第2段(QE2:2010/11~2011/6)
・長期国債の買入れを、11年6月までに純増で6000億ドル行った
(エ) 時間軸政策の導入~実質ゼロ金利を2013年半ばまで維持と宣言(2011.8.9)
(オ) ツイスト・オペ~短期国債4000億ドルを売り、同額の長期国債を市場から購入

(3) 世界金融危機後の日本の非伝統的金融政策
(ア) 一連の金融システム安定化策(危機対応)~企業支援特別オペ(10年3月)、CP買い入れ(買い切り。08年12月~09年12月末まで)、社債買入れ(買い切り。09年2月~09年12月末まで)を導入
(イ) 固定金利オペ(「新型オペ」)の導入(09年12月)~当初:期間3ヵ月・資金規模10兆円、10年3月:資金規模20兆円に、10年8月資金規模を30兆円に(期間6カ月を10兆円追加)
(ウ) 成長基盤強化支援資金供給の導入(10年6月)~当初:上限3兆円、11年6月新たな資金枠(資本性資金供給、動産・債権担保融資対象)5000億円。
(エ) 「包括緩和」の導入(10年10月)
① 政策金利誘導目標水準の引き下げ(コール翌日物金利:0.1%→0~0.1%)
② 「物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続」(時間軸政策)
③ 5兆円規模の基金創設(従来の固定金利オペ額と合せ35兆円)で、国債、CP、社債、ETF(指数連動型上場投資信託)、J-REIT(不動産投資信託)を購入



(補論2)欧州危機
1 現状~財政危機、金融危機、通貨危機
- IMF、EUの支援で、ギリシャはじめ財政危機国の緊縮、再建が必要
- EFSFの拡充~財政支援と、銀行支援のために拡充する必要
2 展望
- 悪化の恐れ~イタリア等大国の財政危機の可能性
- 長引く可能性~財政再建の確認に時間を要する
以上
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