金市場ニュース

金投資が21世紀を制した理由

金が株式、債券、銀に勝った3つの要因を検証してみましょう。
 
過去は未来への指針にはなりません。あるいは金融規制当局や他の投資家たちは、そう思わせたがっています。
 
しかし、金にとっては幸運なことに何らかのの指針となっています。少なくとも過去25年間は。
 
1999年までは、好まれず、売られていたこの貴金属は、今日までで21世紀で最もパフォーマンスの良い資産となっています。
 
現金、株式、不動産、コモディティなどの資産クラスにインフレを加えた21世紀のトータルリターンのチャート 出典元 ブリオンボールト
これが起こるために何が変わったのでしょうか?
 
その要因は多く考えられるでしょう。いくつかの要因は、より重要であり、これらが今後25年間に金地金に投資するかどうかに関わっているかもしれません。
 
そのために、最も顕著な要因の3つを選んでみましょう。
 
ロンドン貴金属市場協会(LBMA)の年末のセミナーで、アングロ・アメリカンのマット・ターナー氏とスタンダード・チャータードのスキ・クーパー氏とのパネルディスカッションで私は尋ねました。
 

 #1金の上昇の要因の1:中央銀行

グループとして、中央銀行の金需要は今日高まっています。しかし、1999年までには、金地金はかつてないほど中央銀行に嫌われていました。
 
その100年前、同じ中央銀行の政策担当者は、金こそが通貨資産のすべてであると決めていました。しかし、20世紀の戦争とその後の社会福祉社会形成それを止めることとなり、金は必要なものではなくなったのです。
 
1930年代には通貨としての金が消え、1950年代には多くの国の貨幣の裏付けからも消え、1970年代初頭にはついに、戦後全能を誇っていたアメリカのドルの裏付けから(したがって世界の他の国の貨幣からも)金が切り離されました。
 
それから四半世紀が経ち、中央銀行で金に対する愛着はおろか、貨幣資産としての金の記憶を持つ者はほとんどいなくなっていました。
 
そのため、ミレニアムが近づくにつれ、欧州を筆頭に西側諸国は金を売り、アジアをはじめとする「新興」諸国は自国の通貨危機や債務危機との戦いに忙殺され、誰も欲しがらない金に目を向ける中央銀行はいなくなったのです。
 
しかし、これは極端なことであり、新たな体制ではなかったのです。
 
中央銀行の金準備とドル建て金価格の推移 出典元 ブリオンボールト
 
そして、2000年代初頭に金価格がようやく底値を付けて上昇に転じた後、「世界的な」金融危機が欧米経済を襲ったとき、世界的な中央銀行の金の売却が強い購入に転じたのでした。
 
これはなぜなのでしょうか?まず、(究極の危機以外では)危機の最中に安全資産である金を売る国はありませんでした。そのために、欧米の中央銀行は金を売るのを止めたのでした。
 
同様に重要なのは、世界金融危機によってドル、ユーロ、円、ポンドの金利が暴落し、さらにはそれ以下にまで低下したのでした。
 
そのため、(グローバル化のおかげで、エネルギーや低価格の製造品の代金の支払いで、膨大な規模の欧米通貨を保有することとなった)新興国は、現在大きな基軸通貨が提供しているよりも優れた価値貯蔵手段である金でリスクを分散せざるを得なくなったのです。
 
その結果、金本位制を構築するための金購入が大量に行われた第一次世界大戦と第二次世界大戦の間以来、中央銀行による金購入が活発化し、金価格は史上最高を記録しました。
 
それでは、中央銀行が21世紀の金の攻勢を支えたことは良しとして、その他の理由はあるのでしょうか。
 

 #1金の上昇要因の2:金ETF

金への投資へのアクセスのブームは、控えめに考えることはできません。
 
世界最大のSPDRゴールドシェア(GLD)金ETFがニューヨーク株式市場に登場したのは、20年前のことでした。
 
GLDは、現在世界金融危機の際の3分の2まで減少したとはいえ、世界の金ETF保有量の4分の1を占めています。そして2004年当時、GLDはすでにオーストラリアや英国の投資家が行っていたことを米国の投資家も可能としました。
 
金地金を所有することなく、金価格に投資をすることができるというものです。
 
金ETFは金によって裏打ちされています。そして、そのつながりは、ETFを支えるために保有される金の量も上下することとなり、価格に連動することを意味しました。
 
いずれにせよ、ETFの需要は金地金価格の方向性と強く明確な関連性を示しています。
 
ドル建て金価格と世界の金のETFの残高の推移 出典元 ワールドワールドゴールドカウンシル
 
通常、米国のファンドマネージャーは、ポートフォリオに現物ではなく、証券化された投資のみを保有することができるため、特に有形資産は利用できません。
 
ETFが登場する前は、この投資資金では金の先物やオプション契約のみが利用できていました。
 
そこで、金価格へのエクスポージャーを得るために、レバレッジ・リスクを買い、高額なデリバティブ手数料を支払う必要があったのです。
 
もしくは、金鉱株を買わなければならなりませんでした。金鉱株は金ではなく、経営リスク、株式リスク、政治リスク、その他さまざまなリスクを背負っています。
 
つまり、皮肉なことに、2000年代初頭にサブプライム・ローンのCDSや致命的なCDO-squaredのような危険な資産を形成したのと同じ技術革新のラッシュが、あらゆるリスクをヘッジしたい投資家に、金を裏付けとするETFを取引するチャンスを与えたのでした。
 
株式市場で取引される金建ての負債証券で、それを通じて金投資を可能にするという特定の目的のために作られた信託の債務です。
 
そこで、よりシンプルな金の所有権を望む人々は、21世紀初頭にも新しい金商品を手に入れることができました。それが、ブリオンボールトのサービスであったのです。
 
現在、貴金属現物に直接投資するために、世界中で11万人以上の人々に利用されており、現在では、これらのユーザーのために50億ドルの貴金属をブリオンボールトでは管理しています。
 
また、1980年を頂点とする金の長い弱気相場から2000年までの間に、(地元の銀行支店を含む)昔ながらのディーラーが空けた穴を埋めようと、新しいコイン・ショップやオンラインのショップが続々と登場していました。
 
しかし、富裕層、特に金地金を所有することにそれほど関心のない富裕層にとって、ETFはファンドマネジャーが金地金に投資する方法を一変させたのでした。そして、ETFの規模は地金価格と顕著な連動性を示することとなったのです。
 
2004年から2022年にかけて、ETFの12ヵ月間の相関は平均+0.84だった。
 
この数値は、ETFの動きが完全に一致していれば+1.00、正反対であれば-1.00となります。
 
金ETFと金の相関関係 出典元 ブリオンボールト
 
しかし、先のチャートが示すように、金価格と金ETFの間のこの強い関係は、ロシアのウクライナ侵攻の頃に崩れました。
 
なぜなら、西側の対モスクワ制裁は、中央銀行をさらに金に安全性を求めさせ、価格を支え、上昇させる一方で、西側の資金運用者は恐怖を感じず、保有量を減らし、代わりに利益確定売却を行ったからです。そして、ロシアの全面的なウクライナ侵攻の際、個人の金地金投資家も同様な動きをしていました。
 
ETFへの資金の流入と金価格の間のこの断絶は、中国の悲惨な不動産と株式市場のパフォーマンスがこの春の中国の個人需要の急増に拍車をかけたため、その後も続いていました。
 
これについてはまた日を改めて説明しましょう。それは、中国は重要であり、同様にインドの金需要についても別途まとめることとしましょう。
 
とりあえず、最も重要な2つの金価格を牽引する要因は先のようになります。
 

 #1金の上昇要因の3: 恐怖と嫌悪

ドットコム・クラッシュ、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)、イラクの大量破壊兵器、ハリケーン・カトリーナ、7.7(ロンドン同時爆破事件)、サブプライム、ノーザン・ロック、リーマンショック、ムンバイ同時多発テロ、ユーロ圏危機等と、21世紀の最初の10年間は、政府と市場の両方に対する国民の信頼を失墜させるイベントが続きました。
 
コロナ危機というパンデミック、それに続くインフレの高騰、ロシアのウクライナ侵攻、ハマスのイスラエル攻撃、ガザの地区への攻撃、ロシアによる核ミサイルの「実験」、そして西側諸国の政府債務(ひいては支出)がいかに持続不可能であるかについての警告の高まりなど、疑念と恐怖は深まるばかりです。
 
世界は「歴史の終わり」を楽しむどころか、「終わりの時」のような感覚を味わっています。ミレニアムと呼ばれた時代を記念して開かれた 大規模なパーティーと、 聖書の一部の読み方に見られる「千年王国」の終末との対比を考えると、皮肉なものです。
 
いずれにせよ、目に見えない未知のリスクが、どんなに用心深くても、すべての人の貯蓄と安全を脅かすようになっている。
 
もしかしたら、人工的に作り出せない、破壊できない、債務不履行とならない価値を持つ金が助けになるかもしれない。
 
今世紀に入ってから、金は確かにそのように機能してきたのだから。
  
                           
  

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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