ニューレター(2019年8月23日)米金融当局者のハト派的コメントで下げたものの中国の対米追加関税とトランプ大統領の対中発言で金急騰
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1504.63ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.7%下げています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり17.16ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.6%の下となっています。なお、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では860.19ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から3.2%上昇しています。
今週金相場は、米金融当局の継続的利下げに慎重なコメントで下げたものの、本日の中国の米国製品への追加関税のニュースとそれに対するトランプ大統領の攻撃的な発言でトロイオンスあたり1500ドルを超えて急騰しています。それでは、日々の市場の動きを追ってみましょう。
週明け月曜日金相場は、先週末と週末にドイツと中国の金融当局が経済刺激策を行う準備があること明らかにしたことで、リスク資産へと資金が動き、トロイオンスあたり1500ドルを割って終えていました。
中国の緩和策は中国人民銀行が金利制度改革を発表したことで、ドイツは財務相が経済危機時に500ユーロ相当の追加支出が準備可能と述べたことで、それぞれ経済刺激策への期待が高まっていたことからでした。
また、同日午後にトランプ政権は、中国の通信機器大手、ファーウェイに対する輸出規制の一部猶予措置を3カ月間延長すると発表していましたが、この46の関連企業を19日から新たに制裁対象に加えることも発表し、米企業への影響に配慮して時間を稼ぎつつ、圧力をかけ続ける姿勢を示していました。
火曜日金相場は、世界株価が利益確定の売りなどもあり、前日までの上げ幅を戻す中で、トロイオンスあたり1500ドルを取り戻していました。
これは、同日ポンペオ米国務長官がファーウェイのみがセキュリティーリスクを持っている中国企業ではないと述べたことが伝えられてたことで警戒心が広がっていたことからでした。
また、イタリアのコンテ首相が連立与党内での対立激化を受けて辞意を表明したこともあり、米、ドイツ国債が買われて利回りが下げているように、安全資産の需要が高まっていました。
水曜日金相場は株式市場が全般上昇する中で、トロイオンスあたり1503ドル前後を推移していました。
これは、同日30年物国債をマイナス金利で発行したドイツが財政出動する期待や混迷を続けるイタリア政局も昨日コンテ首相が辞意を表明したものの、早期解散総選挙にならないということで市場心理が改善していることが背景にあったようです。
また、同日英国時間夕方に発表されるFOMC議事録を待つ中で、米国小売業の決算が良好であったことから、そして前夜トランプ大統領が更なる減税に前向きな姿勢を示したことから米国株も上昇していました。
木曜日金相場は、前夜のFOMC議事録を受けてトロイオンスあたり1500ドルを割っていたものの、ロンドン時間午後に再び1500ドルを超えてた後に、米金融当局者のコメントで押し下げられて1500ドルを割って終えていました。
前夜発表されたFOMC議事録では、利下げへの意見が別れていることが明らかとなり、今後の利下げを織り込んでいた市場の落胆もあり金相場は下げていました。
また、同日発表された欧州主要国の製造業PMIが軒並み予想を上回ったことで株価が上昇したことも金を押し下げていた要因でした。
しかし、その後発表された米国製造業PMIが、拡大と縮小の境である50を割って10年ぶりの低さの49.9であったことから、再び世界経済への懸念が広がり世界株価が下げて、金相場は1500ドルを超えて上昇をしていました。
金融当局者のコメントは、カンザスシティー連銀のジョージ総裁が今後の利下げへの慎重な姿勢を見せたこと、またフィラデルフィア連銀のハーカー総裁が、7月のFOMCでの利下げは「いくらか不承不承に」支持したとし、しばらくは現状維持が望ましいとの考えを示したことからでした。
本日金曜日は、先のような米金融当局者のコメントでドルが強含む中で金相場はトロイオンスあたり1495ドルまで下げていましたが、ロンドン時間午後に中国が米国製品750億ドル分に追加関税することが発表し、金相場が再びトロイオンスあたり1500ドルを超えて上昇し推移していました。
そして、パウエルFRB議長がジャクソンホール・シンポジウムでのスピーチで、「世界景気にはさらに減速の証拠がみられる」と指摘し、「成長持続へ適切な行動を取る」と追加利下げに含みを持たせたことも、金をサポートしていました。
その後ロンドン時間午後5時半ほどに、金相場はトロイオンスあたり1523ドルへと急上昇しています。これは、先の中国の追加関税のニュース後に、トランプ大統領が中国に対抗するとツィートしており、米中貿易戦争の激化が懸念で株価が下げ、ドルと米長期金利も下げていること等が要因である模様です。
その他の市場のニュ―ス
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに10.6トン増加し、855トンと、昨年5月18日以来の高さとなっていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、月曜日から水曜日まで動きは無かったものの昨日0.97%増加し、再び史上最高値を記録していること。 -
金銀比価は今週水曜日に88を割った以外は木曜日まで88台(銀割安)保っていること。 -
先日お伝えした中国が金の輸入に制限を付けているということについて、本日は業界関係者の話として、その制限が一部解除になったと伝えられていたこと。 -
今週水曜日からドイツとフランスへ訪問しているボリス・ジョンソン英首相とのミーティングで、メルケル首相とマクロン大統領が、アイルランド国境問題について30日以内に解決策を見つけることが可能と述べたことが伝えられたことから、合意なき英国のEU離脱への懸念が後退し、ポンドが強含みポンド建て金相場が下げていたこと。 -
トランプ大統領が香港の状況を米中貿易協議と初めて公式につなげ、もし香港の抗議デモが暴力鎮圧されたならば米中合意は難しくなるとも述べていたこと。 -
先週末に発表されたコメックスデータによると、貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週火曜日にトランプ大統領が中国向け追加関税第4弾の一部の実施時期を9月1日から12月15日まで延期したことで、リスク資産へ資産が流れる中で、全ての貴金属で強気ポジションが減少していたこと。 -
コメックスの金先物・オプションの資金運用業者の建玉は、先週火曜日は100万枚を再び越え、再び史上最高値をつけていたこと。しかし、コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週2.5%減少し864トンであったものの、いまだ過去4番目に高い水準であったこと。 -
コメックスの銀先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日に9週連続でネットロングであったものの、23.8%減の5,873トンと2週連続で減少していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、4週連続でネットロングではあったものの、10.2%減で10.9トンとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションの資金運用者のネットロングポジションは9.2%減の31.2トンとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米国FOMCメンバーのコメント等で利下げ観測に絡んで相場が動いていますが、来週も引き続きFRBやECB等の利下げや金融緩和への観測が市場を動かすこととなりそうです。
また、週末にはG7サミットがフランスで行われ、米中貿易戦争関連でコメントが出れば、市場を動かすこととなります。
そして、経済指標では先週からドイツ関連指標の悪化が市場懸念ともなっていますので、米国と共にドイツ、そしてECBの金融政策に絡みユーロ圏の指標も重要となり、月曜日のドイツIFO企業景況感指数、米国耐久財受注、火曜日のドイツ第2四半期GDP、米国S&Pケース・シラー住宅価格指数とリッチモンド連銀製造業指数、水曜日ドイツ失業率と消費者物価指数、米国第2四半期GDPと個人消費支出、金曜日のドイツ小売売上高、ユーロ圏失業率と消費者物価指数、米国の個人支出と個人所得とシカゴ購買部協会景気指数とミシガン大消費者信頼感指数などとなります。
ブリオンボールトニュース
今週も金価格が大きく動いていることから、多くの主要メディアで弊社リサーチダィレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
CNBCのTV18 Newsの金相場の動きと先行きに関するインタビュー
ここではエィドリアンが金相場の見通しについてインタビューを受けています。
ここで、この夏の金の動きは債券市場の動きによるものとし、短期的には債券と共に急激に上昇した金は調整が入る可能性はあるとした上で、$1500を底値$1525が高値の抵抗線と述べています。そして今後の価格の見通しの問に関しては、債券、テクノロジー株が代表とする株価のバブルがいずれは崩壊するだろうとし、その際に資金は金へと向く可能性は高いと述べた上で、2011年9月の1920ドルの高値へ行く可能性は無いとは言えないとしています。
米主要経済サイトMarketWatch「国債利回りが上昇し、金が週間ぶりの低値を付ける」
ここで、金相場が昨日下げていたことに関して、「金と債券が短期間に上昇したことかr真央、多少調整が入るのは当然のこと」というエィドリアンのコメントが取り上げられています。
ブルームバーグ「スイスからの金の輸出が6年ぶりの高さへ」
ここで、7月のスイスから英国への金の輸出が90.7トンと、6月の7.4トンから急増していたと伝え、その背景に世界の金保管場所がロンドン郊外に集中していることを説明し、エィドリアンの「主なETFはその保管場所をロンドンに置いている。」を紹介しています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年8月19日~23日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年8月26日~30日)来週の予定をまとめています。
また、今年に入り定期的に弊社リサーチダィレクターのエィドリアン・アッシュに代わり、弊社ディリーレポート(英文)をまとめていますので、今月からその翻訳版を下記のように市場分析ページに掲載しています。
ロンドン便り
今週はボリス・ジョンソン英国首相が就任後初めてドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領を訪問していたことから、この関連ニュースが多く取り上げられていました。
特にアイルランドの国境問題に関して、メルケル首相に「2年以内に解決策が見つけられると言うなら、30日以内に見つけることもできるはずだ。」というコメントは、ポンドを対ドル3週間ぶりの高さへと動かすなど、市場に好感されるものとなりました。
また、昨日ジョンソン首相がドイツに次いで訪れたフランスでは、マクロン大統領もまた、メルケル首相の発言を受け、向こう一か月で解決策を見出すことを支持していました。
しかし、マクロン大統領はこれまでの厳しいスタンスは変えておらず、EU側が協議を続けることは支持しながらも、大幅に譲歩することは拒否しています。
このジョンソン首相とマクロン大統領のパリのエリゼ宮(仏大統領府)での会談を伝えるニュースでは、会談中にテーブルに足を掛けるジョンソン首相の写真も紹介されており、批判もあるようですが、どうやらマクロン大統領の「このテーブルは足置きにも使えます」というジョークに答えたものであったとのこと。
英国では、「ボリス」という呼び名が定着している、どちらかというと尊敬されているというよりも、親しまれている(もしくは軽く見られている)ジョンソン首相ですが、その天真爛漫な楽観主義が欧州主要国の首脳を動かすこととなるのか、10月31日まで残すところ2か月強の期間に注目したいと思います。