ニュースレター(2026年1月23日)トランプ政権下の地政学リスクが金、銀、プラチナを史上最高値へ押し上げる
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上のLBMA価格が決まる時間の価格と前週のLBMA価格を比較した一週間の変動率は以下の通りです。

*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
- 金:ドル建て価格は週間の上昇で、金曜日のLBMA午後の価格で4 週連続で史上最高値。週間の上げ幅は、コロナ禍の2020年3月以来の高さ。
- 銀:週間の上昇で、LBMA金曜日価格で8週連続で史上最高値。
- プラチナ:週間の上昇で、LBMA金曜日価格で3週連続で史上最高値。
- パラジウム:週間の上昇で、LBMA金曜日価格で2022年11月以来の高値。
貴金属市場の動向(週間)
今週の貴金属相場は総じて大幅に上昇し、パラジウムを除く主要金属が史上最高値を更新しました。
背景には、トランプ大統領を巡る一連の政治・地政学リスクの高まりがあります。グリーンランド領有を巡り、軍事行動も辞さないとする強硬姿勢はいったん後退したものの、先行き不透明感は解消されていません。今年に入ってからは、週末ごとに市場のリスク認識を高める政治・地政学イベントが相次いでおり、安全資産としての貴金属需要が一段と強まっています。
とりわけグリーンランド問題は、冷戦後に形成されてきた国際秩序を揺るがす事象として受け止められており、米国資産(米国債・米ドル)一辺倒からの資産分散が進む中で、貴金属への資金流入が顕著となっています。
こうした流れは、トランプ第2期政権の政策運営そのものが背景となっています。トランプ大統領が就任した昨年1月20日から、本日のLBMA価格決定時点までのおよそ1年強での上昇率は、**金が+82.1%、銀が+223.0%、プラチナが+188.0%、パラジウムが+107.6%**と、いずれも歴史的な上昇となっています。

過去を振り返ると、就任後およそ1年でこれほど急激な貴金属価格の上昇が見られたのは、1973年に始まったリチャード・ニクソン大統領第2期の初期(翌年にウォーターゲート事件で辞任)を除けば例がなく、現政権下での貴金属相場は、歴代政権と比較しても際立った局面にあります。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
週明けの市場開始とともに、金と銀はトロイオンスあたりそれぞれ4,690ドル、94.67ドルと史上最高値を更新しました。
週末にトランプ大統領が、グリーンランド取得に反対する欧州8カ国に対し追加関税を課す方針を示したことで、欧米間の対立激化への警戒感が高まり、リスクオフの流れが強まりました。
株式市場は軟調に推移し、安全資産需要が拡大。ドルは主要通貨に対して弱含みましたが、円建てを含む主要通貨建てでも金・銀はいずれも史上最高値を更新しました(円建て金:1gあたり23,770円、銀:481円)。
年初来では、金が+8.34%、銀が+29.59%と、昨年同時期(それぞれ+4.86%、+5.47%)を大きく上回る上昇ペースとなっていました。
火曜日
金・銀相場はこの日も上昇を続け、ロンドン時間終盤には金が4,786ドル、銀が95.87ドルとなりました。LBMA価格ベースでは、年初来で金は13営業日のうち7回、銀は9回と、高い頻度で最高値を更新していました。
トランプ大統領がグリーンランド問題で強硬姿勢を崩していないことや、欧州への追加関税が経済に及ぼす悪影響への懸念から、米国資産離れが進行。米ドル・米国債・米国株が売られる中で、貴金属が安全資産として選好されました。
加えて、日本では緩和的政策継続への懸念から国債が売られたほか、デンマークの年金基金が米国債からの撤退を検討しているとの報道も、リスク回避姿勢を強める要因となりました。
水曜日
金相場は一時4,888ドルまで上昇し史上最高値を更新、銀も95.32ドルまで上昇しました。しかしその後、トランプ大統領が出席していた世界経済フォーラム(ダボス会議)において、グリーンランド領有問題に関する強硬姿勢が後退したとの報道を受け、リスク選好が回復しました。
トランプ大統領は武力行使を否定し、追加関税についても当面見送る姿勢を示しました。これを受けて株式市場は上昇し、米国債が買われ長期金利は低下。安全資産として積み上がっていた金・銀には、短期的な利益確定売りが入り、金は4,757ドル、銀は90.42ドルまで調整しました。
木曜日
前日の下落後、金・銀相場は再び上昇に転じました。金は4,965ドル、銀は97.17ドルと、いずれも史上最高値を更新して取引を終えました。
短期的な政治リスクはいったん後退したものの、中長期的には国際秩序の不安定化が意識されており、押し目では安全資産需要が引き続き顕在化していました。
この日発表された米新規失業保険申請件数は20万件と前回修正値を小幅に上回り、米第3四半期GDPは4.4%と市場予想を上回りました。PCEコア・デフレーターは前月比0.2%、前年同月比2.8%と、概ね市場予想通りの結果となり、FRBの金融政策見通しに大きな変化は見られませんでした。
金曜日
週末を前に貴金属相場は一段高となり、ロンドン時間夕方までに金は4,987ドル、銀は100.88ドル、プラチナは2,750ドルと、それぞれ最高値を更新しました。
トランプ大統領がグリーンランドを巡る強硬姿勢を一部緩めたものの、政策運営の不透明感は依然として高く、「平和委員会(Board of Peace)」設立を巡る動きや、その枠組みにG7諸国が含まれていない点なども、新たな懸念材料として意識されています。
1月に入って以降、政権は毎週末のように市場のリスク認識を高める政策・発言を打ち出しており、週末をまたいでリスク資産を保有することへの警戒感から、貴金属のロングポジションを維持する動きが強まっています。

その他の市場のニュ―ス
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コメックス(COMEX)のデータは、米司法省がパウエルFRB議長への刑事捜査をしたことに対して議長が真っ向からトランプ政権を批判し、金価格が史上最高値をつけていた1月13日までのデータが前週末に発表され、金はネットロングを2週ぶりに増加させて、9.9%増の427.71トンと2週ぶりの高さに増加していたこと。2025年のネットロングの平均は465.8トンで、2024年は555.8トン。
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銀の先物・オプションは3週ぶりにネットロングを若干増加させ4.8%減の2,340トンと、2024年2月27日の週以来の低さとなっていたこと。2025年の平均は、5,132.4トン、2024年は4,231.0トン。
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プラチナはネットロングを0.8%増の16.31トンと、4週連続で増加させて12月9日の週以来の高さ。2025年平均は、16.2トン、2024年は9.4トン。
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パラジウムは、2週のネットショートから再びネットロングへ1月6日の週に転換したものの、24.7%減の0.62トン。2025年の平均は19.3トンのネットショート、2024年は32.6トンのネットショート。
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木曜日までのコメックスの取引量においては、トランプ政権のグリーンランド問題もあり、貴金属が大きく上昇した今週一週間で、金が週間で前週比45.3%増加して2020年1月10日の週以来の高さ、銀も18.5%増でコロナ禍の2020年8月半ば以来の高さ、プラチナは8.8%増で、1月2日までの週以来の高さ、パラジウムは、14.67%減で12月5日の週以来の低さとなっていたこと。
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金ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに6.01トン(0.55%)減で1079.66トンと週間の減少傾向で、前週の2022年5月22日以来の高さから減少していたこと。年間ベースでは2025年は、198.04トン(20.81%)増と4年ぶりの年間の増加。2024年は6.59トン(0.75%)減少。2023年38.53トン(4.4%)減、2022年57.2トン(5.9%)減、2021年195トン(6.8%)減。
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金ETFの第2規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.17トン(0.24%)増で494.15トンと、2022年9月6日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向。年間ベースでは、2025年は101.09トン(23.35%)増と4年ぶりの年間増。2024年は5.91トン(1.29%)減、2023年は50トン(11.6%)減、2022年42トン(8.9%)減、2021年36トン(7.0%)減。
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銀ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週31.02トン(0.20%)増で16,104.08トンで2週ぶりの週間の増加傾向。年間ベースでは2025年は2120.59トン(14.45%)増と2年連続で増加。2024年は720.44トン(5.3%)増。2023年は936.56トン(6.4%)減、2022年は1937トン(12.2%)減、2021年は867トン(4.2%)減。
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金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週50台前半で始まり、火曜日に50を切って2012年以来の低さになった後に、木曜日に51台半ばへ上昇後、本日は50台前半に下げて終える傾向。2025年の平均は87.85。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
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上海黄金交易所(SGE)とロンドン金価格の差は週平均で、今週史上最高値を木曜日以外はつける中で、月曜日と水曜日にディスカウントとなり、週間の平均は、前週の5.88ドルのディスカウントから、0.86ドルのディスカウントとなっていたこと。2025年の平均は、2.85ドルのプレミアム。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はトランプ大統領の世界経済フォーラム(ダボス会議)におけるグリーンランド領有を巡るコメントに市場は反応することとなりました。
来週もトランプ政権の動き市場は注目しますが、主要経済指標としては、水曜日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が重要イベントで、その他月曜日の米耐久財受注、木曜日の米新規失業保険申請件数、金曜日の米卸売物価指数などへ市場は注目することとなります。
その他、主要経済指標の発表スケジュールの詳細は、主要経済指標(2026年1月26日~30日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2026年1月19日~23日)今週のの結果をまとめています。
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主要経済指標(2026年1月26日~30日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週の英国では、トランプ大統領によるグリーンランド領有に関する発言、国際経済フォーラム(ダボス会議)でのスピーチ、そして本日報じられたFox Newsのインタビューでの発言が相次いで注目を集めています。
とりわけ問題視されているのが、トランプ大統領がFox Newsのインタビューで、アフガニスタン戦争における英国軍の関与について「NATO加盟国は部隊を送ったと言うが、前線よりずっと後方にいたようだ」と述べた点です。
これに対し英国防衛省は、「英国軍は米国と共に持続的な戦闘作戦を行ってきた」と強調し、457人の戦死者と多数の負傷者を含む犠牲に言及。発言は事実に反すると強く反発しました。
また、保守党のケミ・ベーデノック氏、自由民主党党首のエド・デイヴィー氏、さらにトランプ大統領と関係の深いリフォームUK党首ナイジェル・ファラージ氏も、この発言を即座に批判しました。アフガニスタンに2度従軍した経験を持つプリンス・ハリーも、「同盟国の貢献は尊重されるべきだ」と強い反論を示しています。
スターマー英首相も当初は沈黙していたものの、本日夕方には「侮辱的で、率直に言ってひどい」と述べ、トランプ氏は謝罪すべきだとの認識を示しました。
アフガニスタン戦争は、2001年の米国同時多発テロを受け、NATOの集団防衛条項(第5条)が初めて発動された戦争であり、2001年から2014年にかけて英国からは15万人以上が派遣されました。こうした経緯を踏まえ、これまでトランプ氏を刺激する発言を避けてきた英国政府も、今回は異例とも言える厳しい姿勢を取っています。
こうした中、ダボス会議でマーク・カーニー元英中銀総裁で現カナダ首相が語った「世界秩序は移行期ではなく、断絶のただ中にある。大国が経済統合を武器として使い始め、関税は交渉手段となっている」との発言、そして中堅国の連携と自律的対応の重要性を訴えたスピーチは、改めて人々の心に残るものとなりました。






