ニュースレター(2025年6月6日)銀13年ぶり、プラチナ3年ぶりの高値急騰、金も追随して上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格と比較すると、1.9%高でトロイオンスあたり3340ドルと週間の上昇で、前週の下げ幅をほぼ取り戻しています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格と比較して9.5%高のトロイオンスあたり36.21ドルと2012年2月以来の高さとなっています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のこの価格から8.9%高でトロイオンスあたり1165ドルと、2022年2月以来の高さとなっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のこの価格から7.0%高でトロイオンスあたり1031ドルと2024年11月以来の高さで週間の上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週の貴金属市場では、銀およびプラチナの価格が急伸し、それに連動する形で金およびパラジウムも上昇しました。
銀とプラチナの急騰については、テクニカル的な節目となっていたレジスタンス水準を上抜けたことを契機に、テクニカル買いや短期筋の参入が加速したものと見られます。
加えて、米中貿易協議の進展や、米国の強い雇用統計を受けた景気回復期待が、工業用途の比率が高いこれらの金属に対する実需の回復観測につながったことも、相場を押し上げる要因となりました。
実際、中国経済の動向に強く連動する銅価格も今週大幅に上昇しており、リスクオンのセンチメントが商品市場全体に波及している様子がうかがえます。
今週は、こうした動きを踏まえ、年初来パフォーマンス(%)で見る金、銀、プラチナ、パラジウムの推移を示したチャートを前週に続きお届けします。
6月6日時点での年初来上昇率は、金が+28.0%、プラチナが+27.6%とほぼ並び、銀が+25.3%、パラジウムが+13.4%と続いています。
いずれもインフレヘッジ需要に加え、経済再加速を背景とした工業需要の見直しが意識される展開となっています。
今週の金相場について
週明け月曜日の金相場は、週末から続く地政学リスクおよび米中間の貿易摩擦激化への懸念が背景となり、ドル安が進行する中で堅調に推移。前週終値から3%超の上昇を見せ、トロイオンスあたり3392ドルと約1か月ぶりの高値を記録してロンドン時間を終えました。
この「地政学リスク」とは、ウクライナによるロシア国内施設への攻撃、米中の対立激化(特に台湾情勢および貿易政策)などが含まれます。本来は安全資産とされる米ドルが、ロシアのウクライナ侵攻初期以来となる約3年ぶりの安値を記録する一方、同じく安全資産とされる米国債も売られて利回りが上昇するなど、通常とは異なる相関関係の下で市場が動いていました。
火曜日の金相場は、世界的な株価上昇の影響を受け、トロイオンスあたり3333ドルまで一時下落した後、3359ドルまで戻して取引を終了しました。
株価の上昇要因としては、米政府がトランプ前大統領と中国の習近平国家主席による電話協議が今週中にも行われると発表したこと、加えて同日発表されたJOLT求人件数が市場予想を上回ったことが挙げられます。これにより、トランプ前政権下で導入された関税政策が経済に与える悪影響が限定的との見方が広がり、投資家心理が改善しました。
一方で、同日にOECD(経済協力開発機構)が発表した経済見通しでは、2025年の米国GDP成長率が従来予測の2.2%から1.6%に下方修正され、同年のインフレ率見通しは2.8%から3.2%へと引き上げられました。これにより、インフレヘッジ資産としての金に対する支援材料ともなりました。
水曜日の金相場は、銀が2012年以来、プラチナが2022年以来の高値を更新する中で、一時トロイオンスあたり3403ドルと4週ぶりの高値を記録。その後は利益確定売りなどで3362ドルまで下げて取引を終えました。
銀とプラチナの急騰は、これまで金に比べて出遅れていた面もあり、価格が一定の水準を超えたことで買いが買いを呼ぶ展開となりました。
金価格の下押しには、米株式市場がテスラのイーロン・マスクCEOとトランプ前大統領との関係悪化報道を受けて軟調となり、相対的に米国債が買われて利回りが上昇したことが影響したとみられます。こうした利回り上昇は、無利息資産である金にとっては逆風となりました。
同日発表された米新規失業保険申請件数が市場予想を上回ったことで、前日のADP全国雇用者数とあわせて、米労働市場の減速を示唆する内容となりました。
一方、欧州中央銀行(ECB)は同日、7会合連続となる利下げを決定。また、米中両国首脳による電話会談が実施され、レアアースの輸出規制などが議題に上ったと報じられましたが、これらのイベントの市場への影響は限定的にとどまりました。
本日(金曜日)の金相場は、注目された米雇用統計の発表を受けて上昇幅を縮小し、トロイオンスあたり3331ドル前後で推移しています。
非農業部門雇用者数は前月比13.9万人増と、予想の13万人を若干上回る結果となり、失業率は横ばいの4.2%。平均時給は前月比0.4%上昇し、こちらも市場予想(0.3%)を上回りました。前日までの弱含む雇用指標から一転して強めの結果が出たことで、市場には安心感が広がり、株式相場が堅調に推移。これにより、FRBによる年内の利下げ観測がやや後退し、ドルと長期金利が上昇したため、金は上値を抑えられる展開となっています。
この間、産業用途の比重が高い銀とプラチナについては、工業需要の見直しやテクニカルな買い継続を背景に、今週の上昇分を維持して推移しています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に5月27日までのデータが発表され、米欧の貿易協議が継続され、米国の消費者信頼感指数が良好であったもののパラジウムを除く貴金属価格が上昇していた際に、金を除く全ての貴金属で強気ポジションが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1.2%減で364.65トンと減少し、前週8週ぶりに2024年2月下旬以来の低さから増加していた増加幅を削っていたこと。価格は0.5%高でトロイオンスあたり3277ドルと2週連続で4月半ばの低値から上昇し、建玉は16.8%減と1月7日の週以来の低さへ下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、9.3%増で5193トンと2週連続で増加して4月1日の週以来の高さとなっていたこと。価格は前週比1.2%高で、トロイオンスあたり32.90ドルと前週の4月半ば以来の低さから上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、5月20日からネットロングへ転換し、199.4%増の29.05トンと、2月18日の週以来の高さとなっていたこと。価格は前週比5.9%高でトロイオンスあたり1085ドルと、2023年5月9日の週以来の高さとなっていたこと。建玉も12月半ば以来の高さとなっていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに10.9%減で25.05トンと2月18日の週以来の低さへ下げていたこと。価格は1.0%安でトロイオンスあたり986ドルと2月初旬以来の高さから下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに5.4トン(0.60%)増加して935.64トンと5月14日以来の高さで、3週連続の週間の増加傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.93トン(0.22%)増で431.74トンと5月28日以来の高さで、3週ぶりの週間の増加傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに368.78トン(2.57%)増で14,672.53トンと昨年12月9日以来の高さで、3週連続の週間の増加傾向で、週間の増加量は昨年9月末の週以来の高さであること。
- 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週100台前半で始まり、大きく下げて本日93と4月初旬以来の低さへ下げて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2294ドルで始まり、本日金曜日に2188ドルと4月10日以来の低さへ下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週75ドルのプレミアムで始まり、本日145ドルへと2017年5月以来の高さへ上げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムであったものの、週平均は12.54ドルと3月末以来の低さへと前週の17.26ドルから下げていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
今週の主要イベント及び主要経済指標。
今週の貴金属市場は、トランプ前大統領の関税政策への注目が続く中、米国の雇用関連指標に反応しつつ、工業用途比率の高い銀やプラチナの上昇にも連動するかたちで推移しました。
来週は、その翌週に予定されているFOMC(米連邦公開市場委員会)会合を控え、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策判断に影響を与えると見られる経済指標に市場の注目が集まる見通しです。特に、水曜日発表の米消費者物価指数(CPI)、木曜日の卸売物価指数(PPI)、そして金曜日に公表されるミシガン大学消費者信頼感指数に含まれる1年・5年先のインフレ期待などが重要視されることになるでしょう。
詳細は主要経済指標(2025年6月9日~13日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年6月2日~6日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年6月9日~13日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年6月2日)米中緊張と地政学リスクが高まる中、ドルが下落して金価格は2%急騰
- 【金投資家インデックス】金投資、過去最高値更新にもかかわらず上昇傾向を継続
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週の英国では、ガザ地区における食料支援物資の配布を巡る混乱、激化するウクライナ戦争、さらにトランプ前大統領とテスラCEOイーロン・マスク氏によるSNS上での応酬などが大きく報じられています。一方、国内ニュースとしては、スコットランドで行われた補欠選挙で労働党が議席を獲得したこと、そしてリフォームUKが保守党を上回る得票率を記録したことが注目を集めています。
そこで本日は、このスコットランドの補欠選挙の結果がなぜこれほど大きく報道されているのか、その背景も含めてお伝えしましょう。
スコットランド・ハミルトン、ラークホール&ストーンハウス地区の補欠選挙は、スコットランド国民党(SNP)のクリスティーナ・マッケルヴィー議員の死去により空席となっていた議席を巡って行われました。
結果は、労働党のデイヴィー・ラッセル氏が得票率31.6%で当選。SNPは29.4%で2位、ポピュリスト政党であるリフォームUKが26.1%で3位に入り、現在英国議会で第2党の保守党は得票率6%で4位に沈みました。
スコットランド議会では、長年にわたりスコットランド独立を掲げるSNPが与党の座を占めており、129議席中62議席を保持しています。しかし、次のような理由により支持率が急速に低下しています。
- 2023年、長年党首を務めていたニコラ・スタージョン氏の夫が党資金の不透明な使途を巡って捜査を受け、党の信頼性が大きく揺らいだ。
- スコットランド独立を巡る住民投票(IndyRef2)の実現が困難となり、党の看板政策に対する実効性に疑問が持たれている。
- 医療、教育、公共交通などの公共サービスの質の低下に対する不満が高まり、政権運営への批判が強まっている。
- 2024年にスコットランド緑の党との連立が解消され、政権の安定性が損なわれたほか、党内分裂や離党者の増加が続いている。
このように、スコットランド政治は今、大きな支持構造の変化を迎えています。今回の選挙結果は、労働党の復権、リフォームUKの台頭、そしてSNPの弱体化を象徴する出来事となりました。2026年に予定されている議会選挙に向けて、スコットランド国内の勢力図に大きな影響を与えると見られています。
そして今回、4位に沈んだ保守党は、現時点でスコットランド議会においては31議席を保有し第2党の立場にありますが、先月の地方選挙に続き、再びリフォームUKに得票率で下回る結果となりました。これは、スコットランドに限らず、英国全体の保守党にとっても厳しい情勢を示唆する結果と言えるでしょう。