ニュースレター(2025年6月13日)中東情勢悪化で金価格は急騰
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格と比較すると、2.9%高でトロイオンスあたり3437ドルと週間の上昇で、LBMAのPM価格としては最高値をつけています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格と比較して0.3%安のトロイオンスあたり36.09ドルと前週の2012年2月以来の高さから下げています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のこの価格から6.2%高でトロイオンスあたり1239ドルと、2021年5月以来の高さとなっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のこの価格から2.5%高でトロイオンスあたり1055ドルと前週同様に2024年11月以来の高さで週間の上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週の貴金属相場は、銀とプラチナに牽引されて上昇を始め、水曜日の米消費者物価指数(CPI)と木曜日の米卸売物価指数(PPI)においてインフレ鈍化が示唆されたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測がやや広がり、相場はさらに上昇しました。
さらに、本日金曜日早朝にはイスラエルによるイランへの攻撃が報じられ、イランが報復し、緊張が高まることで、安全資産としての需要から金が急騰。ドル建て金価格は、4月22日に記録した史上最高値であるトロイオンスあたり3500ドルにわずか4ドルと迫る水準まで上昇しました。日本円建てでは、史上最高値となる1グラムあたり15923円をつけています。
そこで本日は、主要通貨建て金価格の推移をチャートでご紹介します。ここでは2013年の価格を100として、指数化した上昇率を表示しています。日本円(赤)が最も大きな上昇率を示しており、次いでユーロ(青)、英国ポンド(ピンク)、米ドル(深緑)の順となっています。各通貨に対する金価格の上昇率は、通貨の下落幅の大きさに応じて増幅されていることが分かります。
一方、産業用途の比重が高い銀、プラチナ、パラジウムは、中東情勢の混乱による需要減への懸念から、本日は今週の上げ幅を一部削って推移しています。ただし、銀は近年の供給不足にも関わらず、これまで価格が抑えられていたことからも上げ幅を維持して、13年ぶりの高値圏にあり、プラチナも供給不足や中国からの需要増加に加え、ロンドン市場における現物の短期リースレートの急騰を背景に、4年ぶりの高値を維持しています。
今週の金相場について
週明け月曜日の金相場は、ロンドンで米中貿易協議が行われる中、前週に発表された米雇用統計が予想を上回ったことによって上昇していたドルと長期金利が下落したことから、前週終値よりやや上昇し、トロイオンスあたり3326ドルでロンドン時間を終了していました。
また、銀とプラチナは、前週からの上昇基調を引き継ぎ、それぞれ13年ぶり・4年ぶりの高値を記録したことも、貴金属全体の相場を押し上げる要因となりました。
火曜日の金相場は、米中協議の結果と翌日に控えた米消費者物価指数(CPI)発表を前に一時3348ドルまで上昇しましたが、最終的には上げ幅を縮小し、3327ドルで取引を終えました。相場はドルの値動きに反応する形となり、株式市場もイベントや指標発表を控えて小幅な値動きにとどまっていました。
そのような中、銀とプラチナは引き続き堅調に推移。銀は前日のトロイオンスあたり36.88ドルと2012年2月以来の高値から若干下げ、プラチナはトロイオンスあたり1227ドルと2021年5月以来の水準に達していました。
水曜日の金相場は、市場注目の米CPIが予想を下回ったことで、一時3360ドルまで上昇。ロンドン時間午後にはいったん上げ幅を縮小したものの、再び上昇し、3373ドルでロンドン時間の取引を終えていました。
発表されたCPIは、前月比0.1%(予想および前回は0.2%)、前年同月比は2.4%(前回2.3%、予想と同じ)でした。この結果を受けてFRBによる利下げ観測がやや広がり、ドルと長期金利が下落。これが金相場を押し上げた一因となりました。いったんは利益確定の売りが出たものの、再び買いが入ったようです。
同日ロンドンで行われていた米中貿易協議では、5月にスイスで合意された内容の履行で一致したと伝えられました。これにより、中国によるレアアースの輸出規制が緩和される可能性も示唆されていますが、市場は慎重な姿勢を崩していません。
また、同日のプラチナは1285ドルまで上昇。これは、短期リースレートが過去最高の16%近くまで上昇し、中国の需要増による現物の供給逼迫が背景にあると分析されていました。
木曜日金相場は、ドルが3年ぶりの低水準、長期金利が1週間ぶりの低さまで下落する中で、トロイオンスあたり3398ドルへ一次上昇し、3395ドルで終えていました。
ドルと長期金利の下落は、同日発表された米卸売物価指数が予想を下回ったことに加え、前日の米消費者物価指数と同様にインフレの鈍化が示されたためでした。また、米新規失業保険申請件数が予想を上回ったことも、FRBによる利下げ観測をやや強める要因となっていました。
さらに、一部の米メディアが「イスラエルが数日以内に、米国の支援なしにイランへの軍事行動を検討している」と報じたことから、地政学的リスクの高まりによる安全資産としての金への需要が強まっていました。
そして本日金曜日、金相場は中東情勢の緊迫化を受けて原油価格とともに上昇し、一時3446ドルと、4月につけた史上最高値まであと4ドルに迫りました。現在はロンドン時間の夕方に3442ドル前後で推移しています。
中東情勢では、本日のイスラエルによるイランへの攻撃と、ネタニヤフ首相が「必要に応じて何日も続ける」と発言したこと、さらにイランが報復をし、緊張が高まっています。
これを受け、供給懸念から原油価格が前日比13%高となり、約4カ月ぶりの高値を記録しました。
この間、今週高値圏にあった世界の株価は全般的に下落。安全資産への需要から、昨日3年ぶりの安値をつけていたドルインデックスも反発しています。そして、米長期金利は、昨日行われた国債入札が堅調で、6週間ぶりの低水準であった年率4.36%からは4ベーシスポイント上昇して推移しています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に6月3日までのデータが発表され、米中貿易協議が再開されるというニュースと良好な米雇用データ(JOLTS求人件数)で世界株価が上昇していた際に、プラチナを除く全ての貴金属のネットロングが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、11.3%増で405.93トンと増加し、4月15日までの週以来の高さとなっていたこと。価格は1.75%高でトロイオンスあたり3334ドルと3週連続で4月半ばの低値から5月6日週以来の高さへ上昇し、建玉は0.77%減と1月7日の週以来の低さへ下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、35.9%増で7058トンと3週連続で増加して3月25日の週以来の高さとなっていたこと。価格は前週比4.10%高で、トロイオンスあたり34.25ドルと2012年10月2日の週以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、5月20日からネットロングへ転換し、31.23%減の19.95トンと、前週の2月18日の週以来の高さから下げていたこと。価格は前週比2.49%安でトロイオンスあたり1058ドルと、前週の2023年5月9日の週以来の高さから下げていたこと。建玉は3週連続で増加し、12月半ば以来の高さとなっていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに4.66%減で23.88トンと3週連続で減少して、2月18日の週以来の低さへ下げていたこと。価格は1.93%高でトロイオンスあたり1005ドルと昨年11月26日までの週以来の高さへ上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに3.7トン(0.40%)増加して937.91トンと5月7日以来の高さで、4週連続の週間の増加傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.09トン(0.25%)増で434.77トンと5月22日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに19.79トン(0.13%)増で14,729.08トンと昨年12月6日以来の高さで、4週連続の週間の増加傾向であること。
- 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週91台半ばで始まり、火曜日に90台半ばと3月末以来の低さへ下げた後に、本日94台前半と一週間ぶりの高さへ上昇して終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2111ドルで始まり、水曜日に2074ドルと3月末以来の低さへ下げた後に、本日金曜日に2145ドルへ戻して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週127ドルのプレミアムで始まり、本日214ドルと2017年3月以来の高さへ上げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムで、週平均は15.89ドルと全集の12.54ドルの3月末以来の低さから上昇していたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
今週の主要イベント及び主要経済指標
今週貴金属市場は、近年供給不足となっている銀とプラチナの価格に牽引される形で動き、水曜日の米消費者物価指数と木曜日の卸売物価指数、そして米中貿易協議にも市場は注目し動いていました。
来週も米国の関税関連政策には注目が行くこととなりますが、最大の重要イベントは水曜日の米FOMC後の政策金利とメンバーによる四半期ごとの経済成長率、インフレ率、政策金利予想等を表すドットプロットチャートの発表となり、それに加えて火曜日の日銀、木曜日のイングランド銀行の政策金利発表も重要となります。
詳細は主要経済指標(2025年6月16日~20日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年6月9日~13日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年6月16日~20日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年6月9日)脱ドル化が加速する中で金は3300ドルを維持、米国債入札に注目
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週の英国の報道では、ガザ地区のパレスチナの人々への救援物資不足や、イスラエルによる新たな救援物資配給方法の問題、ロンドン行きインド旅客機の墜落事故、さらには本日のイスラエルによるイラン核施設攻撃など、国内外の重大なニュースが大きく伝えられています。
英国内のニュースとしては、水曜日に発表された労働党政権の支出計画や、明日14日にチャールズ国王の公式誕生日に合わせて発表される叙勲者名簿についても注目されています。特に、サッカー選手として著名なDavid Beckham(デービッド・ベッカム)氏がナイトの爵位を授与されることやラグビーリーグ初の叙勲者となるBilly Boston(ビリー・ボストン)氏のことが話題となっています。
そこで、今週は暗いニュースが多い中、この叙勲者名簿についてご紹介します。
この叙勲者名簿は、6月に行われる国王の公式誕生日祝賀に合わせて公表され、国民や英連邦諸国の顕著な功績を讃えて、叙勲や爵位などが授与されます。本来は6月14日に公表される予定ですが、以下のお二人については事前に発表されています。
■ サー(Knight Bachelor)
- ビリー・ボストン(伝説的ラグビーリーグ選手)
ラグビーリーグの選手としては唯一、ナイト爵を受勲予定です。健康上の理由から事前に発表されました。
■ サー(Knight Bachelor)
- デービット・ベッカム(元イングランド代表サッカー選手)
115回の国際Aマッチ出場や慈善活動(特にユニセフ)、自然保護や養蜂推進など幅広い分野で評価され、ナイト爵位(knighthood)が授与される見通しです。
その他の注目される叙勲者としては、医師やチャリティ活動、地域貢献者などが多数含まれており、The GazetteやBBC、Woman & Homeの報道によると、多くのMBE、OBE、CBEの授与者が名を連ねています。地域活動、健康支援、文化振興など、多様な分野の功労者が光を当てられることになります。
ベッカム氏は、元スパイス・ガールの一員で、著名ファッションデザイナーのビクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)氏と結婚していることもあり、日本でも広く知られていますが、ボストン氏についてはあまり知られていないかもしれません。そこで、彼について少しご紹介します。
ボストン氏は1934年生まれでウェールズ出身です。父親はシエラレオネ系、母親はアイルランド系とのことです。彼が選手として活躍していた当時、白人ではない選手は少数であり、ラグビーユニオンでは十分に活躍できないと判断し、1953年にプロフェッショナルのラグビーリーグに転向しました。所属していたWiganチームでは史上最多のトライを記録し、英国代表としても国際試合で活躍しました。
これまでラグビーユニオンの選手は多数爵位を受勲しているものの、ラグビーリーグでの叙勲はボストン氏が初めてです。エスニシティの壁を乗り越え、ラグビー界に多大な貢献をした彼の栄誉を歓迎する声が広がっています。