金市場ニュース

ニュースレター(2025年5月16日)貿易戦争停戦とインフレ鈍化のリスクオン、金価格は5週ぶりの安値に

週間市場ウォッチ

今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格と比較すると、4.2%安でトロイオンスあたり3183ドルと週間の下落で、5週ぶりの低さとなっています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格と比較して1.7%安のトロイオンスあたり31.98ドルと上昇しています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のこの価格から0.1%安でトロイオンスあたり986ドルと5週ぶりに若干下げています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のこの価格から1.7%安でトロイオンスあたり962ドルと2週ぶりに下げています。

の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週の貴金属相場は、月曜日に米中貿易戦争の90日間の停戦が発表され、リスクオンの流れが強まって株価が大きく上昇する中、安全資産としての需要が減少し、金を筆頭に大きく下落しました。

また、今週発表された米消費者物価指数と卸売物価指数が予想を下回り、インフレの鈍化が見られる一方、米小売売上高などの指標は軒並み下落しており、FRBの利下げ観測がやや広がっています。ただし、これも株価の上昇を後押ししているため、金価格の上値を抑える要因となっているようです。

このため、安全資産よりも工業用途の側面が強いとされる銀、プラチナ、パラジウムについては、貿易戦争激化懸念の後退により安全資産としての買い需要が限られたこともあり、今週の下げ幅は金と比べて小幅にとどまっています。

なお、米議会下院の与党・共和党は今週、トランプ減税の恒久化を含む大型法案を公表し、26日までの可決を目指すとしています。この法案により、政府債務上限が現在の約36兆ドルから4兆ドル引き上げられるとされており、財政悪化への懸念は金需要の一因と考えられています。

そこで今週は、米国の債務に関する金利支払い額(赤線)が、パンデミック以降に急増し、米国防衛費(青線)を上回って推移していることを示すチャートをご紹介します。

米国債務の金利支払額と米防衛費の推移 出典元 セントルイス連銀

今週の金相場について

週明け月曜日の金相場は、米中の貿易戦争の停戦報道を受け、安全資産としての需要が後退したことで、一時トロイオンスあたり3,208ドルと5月1日以来の安値を記録しました。その後やや戻し、終値は3,236ドルとなりました。

この間、世界の株価は急騰し、S&P500種指数は年初来の下げ幅をほぼ取り戻しました。米国債価格も同様に回復し、米ドルおよび長期金利も1か月ぶりの高水準まで上昇しました。

この背景には、米中貿易戦争の停戦に加え、インドとパキスタンの紛争も先週土曜日に停戦が発表されたことや、ウクライナ戦争においてウクライナのゼレンスキー大統領が今週木曜日にトルコでプーチン大統領との直接対話を呼びかけたことなども、若干の要因と見られています。

火曜日の金相場は、前日に大きく上昇した米株価の上昇ペースが鈍化し、ドルがやや下落、長期金利がやや上昇する中で、金価格は前日比で小幅に上昇し、トロイオンスあたり3,254ドルで取引を終えました。

同日発表された米消費者物価指数は、前年同月比で2.3%と、前回および予想の2.4%をやや下回りました。これにより、トランプ政権の関税政策によるインフレの影響はまだ見られていないことが示唆されました。

株価は前日ほどではないものの、ダウ工業株30種平均以外の主要指数が上昇し、FRBの利下げ観測は大きく後退。金相場は様子見の展開となりました。なお、同日発表されたFOMCの6月会合での据え置き予想は9割を超え、7月会合でも6割強が据え置きと見ており、1か月前には1割未満だった据え置き予想が大きく変化していました。

水曜日の金相場は、心理的節目とされるトロイオンスあたり3,200ドルを割り込み、3,186ドルと4月10日以来の安値で取引を終えました。これは、引き続き米中停戦によるリスクオンのセンチメントと、FRBの利下げ観測後退が影響したためであり、ダウ平均株価以外の主要指数が上昇を続けたことも、金価格を押し下げる要因となりました。

また、同日発表されたFRB年末時点での金利予想は3.9%と、利下げ観測が高まり始めた2月20日以来の高水準となり、長期金利も同様に上昇していました。

木曜日の金相場は、米卸売物価指数が前日の消費者物価指数同様に予想を下回り、インフレ鈍化が再確認された中で、米小売売上高も予想を下回ったことでFRBの利下げ観測が若干広がり、長期金利が下落する中で、金価格は3,236ドルまで上昇して取引を終えました。

卸売物価指数は前月比で-0.5%と、過去5年間で最大の下落となり、前回の改定値0.0%および予想の0.2%を下回りました。前年同月比でも2.4%と、前回改定値3.4%および予想の2.7%を下回りました。

金曜日の本日、金相場は世界株価の上昇を受けて再び下落し、トロイオンスあたり3,200ドルを割り込み、現在は3,189ドル前後で推移しています。

株価上昇の背景には、トランプ大統領による新たな貿易関連の発言が今週見られなかったことで、懸念が後退していることがあるようです。S&P500種指数は、今年2番目の週間上昇幅となる5%の上昇が見込まれています。

また、本日発表されたミシガン大学の消費者態度指数は予想を下回り、インフレ期待が上昇していたものの、市場への影響は限定的でした。

なお、今年の金価格の底堅さを支えてきた中国の需要ですが、本日の上海黄金交易所におけるロンドン価格との差はトロイオンスあたり9ドルを割り、史上最高値を記録していた4月半ば以来の低水準となるなど、前日の50ドルから大きく縮小していることが示唆されました。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に5月6日までのデータが発表され、中国と英国が祝日から戻った火曜日に金価格が上昇していた際に、パラジウム以外のすべての貴金属で強気ポジションが削られていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、3.1%減で349.31トンと7週連続で減少し、2024年2月下旬以来の低さへ下げていたこと。価格は2.6%高でトロイオンスあたり3391ドルと上昇し、建玉は4.7%高となっていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、3.2%減で4704トンと3週ぶりに減少して前週の4月初旬以来の高さから下げていたこと。価格は前週比0.6%安で、トロイオンスあたり33.03ドルとやはり前週の4月初旬以来の高さから下げていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、4月8日からネットショートへ転換し、前週火曜日までに9.4%増で3.7トンと、3週ぶりに増加して前週の昨年の3月初旬以来の大きさから増加していたこと。価格は前週比0.4%安でトロイオンスあたり983ドルと3週ぶりに下落して、前週の4月初旬以来の高さから下げていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに10.2%減で38.0トンと2週ぶりに減少して前週の昨年8月末以来の高さから下げていたこと。価格は1.6%高でトロイオンスあたり961ドルと2週連続で上昇して、3週ぶりの高さとなっていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに10.3トン(1.1%)減少して927.62トンと4月8日以来の低さで、5週連続の週間の下落の傾向であること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.5トン(0.1%)減で438.99トンと5月8日以来の低さで、6週ぶりの週間の下落傾向であること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに49.49トン(0.4%)減で13,971.47トンと5月8日以来の低さで2週ぶりに週間の減少の傾向であること。
  • 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週100台半ばで始まり、水曜日に4月初旬以来の低さの98台前半まで下げた後に、本日99台半ばまで戻して終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2235ドルとで始まり、昨日2193ドルと4月10日以来の低さまで下げた後に、本日2222ドルへと上昇して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週14ドルのプレミアムで始まり、火曜日に40ドルと4月末の高さまで上昇後に、本日26ドルへ下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムであったものの、本日9ドル弱まで下げたことで、週平均は33.55ドルと前週の47.49ドルという昨年4月に中国が金を押し上げていた際以来の高さからは下げていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は5月8日から負の相関関係へ転換し-0.24と前週よりは関係を強めていたものの、週前半からは弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は4月3日から負の相関関係へ転換し、-0.65と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は5月14日から負の相関関係へ転換し、木曜日までで‐0.36と関係を強めていたこと。

今週の主要イベント及び主要経済指標

今週貴金属相場は、前週末に行われた米中貿易協議後に関税が90日間停止される間、大幅に引き下げられたことで大きく下げて始まりました。その後も関税関係のニュースとウクライナ戦争を含む地政学関連ニュースにも反応して推移しながら、米国の消費者物価や卸売物価指数経も市場は注目することとなりました。

そこで、来週も関税及び地政学リスク関連ニュースは重要となりますが、その他、月曜日にはユーロ圏、水曜日には英国の消費者物価指数、そして木曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMIなども市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2025年5月19日~23日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週の英国では、下記の国際情勢が大きく報道されています。

・米中貿易戦争の停戦に関するニュース
・ウクライナ戦争の停戦を巡るロシアとウクライナの協議
・イスラエルによるガザ地区への攻撃の激化

このような国際的な関心が高まる中で、英国国内でも複数の重要なニュースが伝えられています。たとえば、スターマー英首相に関連する複数の不動産への放火事件が発生し、本日、その容疑でウクライナ人男性が逮捕されました。また、昨年11月に英国議会下院で第一段階を通過した安楽死を巡る法案が、引き続き審議されています。さらに、欧州各国の代表アーティストが参加する「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」にも注目が集まっています。

こうした中、英国政府が発表した新たな移民政策が、大きな波紋を呼んでいますのでご紹介しましょう。

今週月曜日(12日)に発表された「移民制度の管理回復」ホワイトペーパーでは、以下のような変更が提案されました。

ホワイトペーパーの主な提案内容:

  • 定住資格取得までの居住期間の延長:現行の5年から10年に延長
  • 社会的ケア労働者へのビザ発給の停止
  • 技能労働者ビザの対象職種の制限:大学卒業レベルの職種に限定
  • 低技能職向け一時ビザの導入:期間限定で、定住資格取得の道なし
  • 卒業生ビザの滞在期間短縮:2年から18か月へ
  • 人権法第8条の適用制限:庇護申請者への適用を制限
  • ビザ取り消し権限の拡大:懲役に至らない犯罪でも取り消し可能に
  • 庇護申請者の年齢確認の厳格化
  • ビザスポンサーへの罰則導入:ビザ保持者が移民規則に違反した場合

直近の地方議会選挙では、不法移民への強硬姿勢などが評価され、Reform UKが大きく票を伸ばしました。同党の党首ナイジェル・ファラージ氏は、今回の新政策を「不十分で欺瞞的」と批判し、さらに厳格な対策を求めています。

また、先の選挙で議席を大きく減らした保守党も、Reform UKと同様により厳しい措置を支持する立場を示しています。

一方、与党・労働党内部では意見が分かれており、左派からは、「過去の保守党政権の“見せかけの残酷さ”を模倣している」との批判が出る一方で、移民に関する課題を抱える英国北部や中部の労働党議員からは、より厳しい移民政策と地域への投資を求める声が高まっています。

経済界や医療・社会福祉分野からは、移民に依存している実情がある中で、新たな政策が人材確保や維持に悪影響を及ぼすのではないかという懸念が強まっています。

政府は、政治的支持を得るために厳格な政策を打ち出す一方で、地域経済や特定産業、そして医療サービスなど、移民によって支えられている分野への影響を考慮しなければなりません。

このように、今後も政府はバランスを取りながらの“綱渡り的な政策運営”を強いられることになりそうです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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