金市場ニュース

ニュースレター(2025年4月11日)米中貿易戦争激化懸念で金価格は史上最高値を更新

来週のニュースレターは出張と感謝祭の休暇の関係で、21日月曜日にお届けします。

週間市場ウォッチ

今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、5.8%高でトロイオンスあたり3230ドルと上昇し、前前週まで3週連続で史上最高値を更新後に一週開けて再び高値の更新となっています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、0.1%安のトロイオンスあたり31.31ドルと若干下落し、前週の今年2月下旬の低さとなっています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から0.9%高でトロイオンスあたり944ドルと2月下旬の水準となっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から0.02%高でトロイオンスあたり922ドルと若干上げ、引き続き2月末の水準となっています。

今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属価格は、トランプ大統領の関税政策とそれによる米中貿易戦争激化への懸念から世界株価が急落する中で、ロンドン指標ベースで、金価格は史上最高値の更新、銀とプラチナとパラジウムは世界経済停滞への懸念もあり、若干の下げもしくは上昇となっています。

前週トランプ大統領が発表した追加関税は、中国を除き90日間停止となりましたが、米中の貿易戦争が静まる気配はなく、世界二大経済と世界経済へのスタグフレーションを含む悪影響への懸念が高まり、金が日本円とスイスフランと共に安全資産と購入されることとなりました。

今回の市場の動きで興味深いのは①通常安全資産として買われるドルと米国債が売られていること、②通常価格に敏感な中国の金需要が、最高値水準にも関わらず、中国の金価格とロンドン価格との差でありプレミアムと、上海黄金交易所(SGE)や上海先物取引所(SHFE)の金の取引量が、昨年春の中国経済への懸念から中国国内需要が高まり、金価格を押し上げていた水準へと急上昇していることです。

そこで、本日は中国上海黄金交易所(SGE)の人民元建て金価格とこのロンドン価格との差のチャートをお届けしましょう。今週に入り、水曜日にはこの価格の差がトロイオンスあたり50ドルを超え、昨日と本日は人民元建て価格で史上最高値を更新する中でも、20ドルから25ドルと高い水準を推移していることがご覧いただけます。

上海黄金交易所の人民元建て金価格とその価格とロンドン世界指標との差 出典元 ブリオンボールト

今週の金相場について

週明け月曜日に金相場はロンドン時間早朝に、世界株価が急落する中で、心理的節目のトロイオンスあたり3000ドルを割ったものの、ロンドン昼過ぎにはその水準を取り戻していました。しかしその再び3000ドルを割り込み、2986ドルで終えていました。

ロンドン時間午後の下げは、トランプ政権が貿易関税の発効を遅らせる可能性が一部メディアで伝えられたもののトランプ政権が否定し、また中国が追加関税を取り消さない場合はさらなる関税を課すというトランプ大統領のコメントが伝えられて株価が再び下げ幅を広げたことで、金の現金化が進むこととなりました。

金融市場を揺るがした、直近ではコロナ危機、そして世界金融危機等のショック時には、株価の下げによるマージンコールによる現金化で下げていましたので、今回も同様な動きとされていました。しかし3000ドル前後では中央銀行などによる買いが入るという市場専門家は述べており、同日は中国中銀が3月も3トン金準備を増加させていたことが明らかとなっていました。

火曜日は、世界株価が米国が関税政策に関して引き下げ交渉が可能であるという観測が広がり上昇したことで、金相場も一時トロイオンスあたり3022ドルをつけたものの、その後トランプ大統領が中国に対するさらなる関税で総計104%とすると発表したことで、再び株価が下げに転じて金もまた下げて2978ドルで終えていました。

当初の動きは、ベッセント米財務長官が米CNBCの番組で、およそ70カ国が関税引き下げの交渉を持ちかけていると述べ、関税交渉に前向きな姿勢を示していたことからでした。

なお、あくまで米国への対抗姿勢を強めている中国において、前週金曜日の祝日前から金の需要が急増していることが、上海黄金交易所(SGE)の価格がロンドン世界指標価格を大きく上回って、昨年金価格の上昇を主導していた頃のトロイオンスあたり50ドル程へと上昇して推移し、アジア時間の上昇の背景は中国の需要があるという分析もされていました。

水曜日金相場は、トランプ大統領が2日に発表した追加関税が発動する中で、中国市場を除き世界株価は下げて始まったもののその後大きく上昇する中で、一転上昇に転じてトロイオンスあたり3086ドルで終えていました。

同日は前日のトランプ大統領の中国への104%の関税の発表に対し、中国もまた報復関税を34%から累計84%へ引き上げると発表して貿易戦争激化への懸念から、当初株価が下げていましたが、その後全般上昇に転じて、ナスダック総合は12.2%高と2008年10月13日以来の一日の上げ幅、S&P 500種も9.5%高と大きく上昇していました。

そのような中、米国債を持つリスクが意識されて国債が大きく売られ、国債利回りが6週間ぶりの高さへと上昇していたことへの懸念からも、金の安全資産の需要の高まで価格が押し上げていました。

今回のトランプ大統領の関税政策によって、通常安全資産と見られているドルと米国債が買われることなく下げている状況もまた、金の需要を高めていた模様です。

木曜日金相場は、前日のトランプ大統領の相互関税の上乗せ部分を一時停止するということで急騰した株価が、米中の貿易戦争激化懸念からも再度下げたことで、安全資産の需要からもトロイオンスあたり3189ドルと、史上最高値を更新して終えていました。

前日に中国を除いて上乗せ分は90日間停止されたものの、中国への関税は145%、中国の米国製品への関税は84%ということからも、貿易戦争による、世界経済への悪影響への懸念が広まることとなりました。

この間、同日発表された米消費者物価指数は、全般予想を下回っていましたが、貿易戦争によるインフレ高等の観測からも、市場への影響は限定的となっていました。

そして米国ドルは、昨年9月以来の低さとなり、2022年以来の大幅な下げ幅となっていました。

本日金曜日金相場は、前日の上昇基調を受け継ぎ、ロンドン時間夕方にトロイオンスあたり3243ドルと史上最高値の更新を続けて上昇しています。

この背景は、中国が米国の中国製品への145%の関税に対抗して、米国よりの輸入品への関税を125%へと引き上げたことからも、貿易戦争激化懸念からも、本来安全資産として買われるドルが2022年3月のロシアのウクライナ侵攻時以来の低さへ下げ、米10年物国債が売られて利回りが2月半ば以来の高さへと上昇し、金が日本円とスイスフラン同様に安全資産として購入されている模様です。

本日発表のミシガン大学消費者態度指数は予想を下回り、インフレ予想は一年先が6.7%と前月の5.0%から上昇し、スタグフレーションの懸念が高まっていることを示唆していました。

そこで、金は今週LBMAの午後3時の価格ベースで、5.8%高と、2022年3月初旬のロシアがウクライナに侵攻後、経済制裁で金と銀が含まれたことで価格が急騰した最以来の上げ幅となっています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に4月1日までのデータが発表され、トランプ大統領の関税政策発表前日に、パラジウム以外の全ての貴金属でネットロングポジションを減少させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、8.4%減で549トンと2週連続で減少し、2024年5月半ば以来の低さへ下げていたこと。価格は3.6%高でトロイオンスあたり3133ドルと史上最高値をつけ、建玉は3.0%増であったこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、9.5%減で6448トンと週連続で減少して3月初旬以来の低さへ下げていたこと。価格は前週比1.6%高で、トロイオンスあたり33.97ドルと上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、12.4%減で4.9トンと3月初旬以来の低さとなっていたこと。価格は前週比0.5%高でトロイオンスあたり989ドルと上昇していたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに16.7%減で29.7トンと3週連続で減少して2月18日の週以来の低さとなっていたこと。価格は1.4%高でトロイオンスあたり993ドルと5週連続で上昇して、2月4日の週以来の高さとなっていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに16.9トン(1.8%)増加して949.71トンと2022年9月22日以来の高さで、5週連続の週間の上昇傾向であること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.87トン(0.4%)増で428.78トンと2023年9月1日以来の高さで、2週連続の週間の上昇傾向であること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに100.45トン(0.7%)増で13,981.46トンと3月25日以来の低さで、週間の増加傾向であること。
  • 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週99台後半で始まり、水曜日に100を超え、本日は102台半ばと、コロナ危機最中の2020年5月半ば以来の高さで終える傾向であること。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2107ドルで始まり、昨日2168ドルと史上最高値をつけ、本日更に2270ドルと最高値を更新して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週4ドルのディスカウントで始まり、その後プレミアムに転換して、本日18ドルト3月26日以来のプレミアムの大きさで終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)は、週間平均で31.61ドルと、中国主導で金価格が上昇していた昨年6月初旬以来の高さへ、前週の13.33ドルから上昇していたこと。この間人民元建て金価格は昨日と本日史上最高値をつけ、週間の取引量も2020年8月以来の高さとなっていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は4月1日から負の相関関係へ転換していたものの、今週後半に実質金利が1月半ば以来の高さへ上昇する中で、本日から正の相関関係へ転換して0.17としていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は4月3日から負の相関関係へ転換し、本日ドルインデックスが2022年3月以来の低さへ下げる中で、-0.63と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は3月13日から負の相関関係で、木曜日までで-0.12と関係を弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週も金融市場はトランプ大統領の関税政策関連コメントに注目し、動くこととなりました。来週もまたこの傾向は続きますが、欧米は18日金曜日から感謝祭の4連休の休暇に入ることとなります。

そのような中、木曜日に欧州中央銀行の政策金利が発表され重要イベントとなりますが、水曜日のユーロ圏の消費者物価指数、米国小売売上高と鉱工業生産、木曜日の米住宅着工件数、新規失業保険申請件数も発表され、これらにも市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2025年4月14日~18日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、トランプ大統領の関税政策と中国を含む各国の対応について、ウクライナ戦争中のウクライナへの欧州のサポート体制について、英国関連のニュースとしては、チャールズ国王とカミラ女王のイタリア公式訪問、そして、本日はスナク前首相が、英国で首相退任時に「上院議員(貴族院議員)」として推薦した人物のリストについても伝えられています。

そこで、日本にはないこの首相の「辞任叙勲」と呼ばれている慣習について、その制度と仕組みをご紹介しましょう。

まず、上院(House of Lords)とは、世襲貴族・聖職者・一代貴族(Life Peers)などから構成されます。現在の主な構成メンバーは「一代貴族」で、これは生涯のみその地位を持ち、子孫に引き継がれることはありません。

退任する首相は、これまでの慣例として「辞任叙勲リスト(Resignation Honours List)」を提出でき、一代貴族として上院に任命すべき人物の名前を含めることが可能です。

通常推薦の対象は以下のような人物となります。

  • 長年の側近や政府関係者
  • 政治的貢献者(党の資金提供者なども含む場合あり)
  • 個人的な信頼の厚い人物

推薦から任命までの流れは、首相が「辞任叙勲リスト」を作成し、首相府の倫理・報酬委員会が審査をし、国王の承認後、任命された人々が「上院(貴族議員)」となります。

本日は、この任命された人々のリストが発表され、スナク前首相の側近で、教育相、環境相などの主要閣僚を経験したマイケル・ゴーブ氏、元運輸相のマーク・ハーパー氏、元スコットランド担当相のアリスター・ジャック氏等が任命されています。

今回の上院議員推薦に関しては、大きな問題は指摘されていないようですが、ボリス・ジョンソン元首相が任命した上院議員は、経験不足の身内とも言える人々が多く含まれたことで、身内びいきの人事と批判されていました。

そこで、多くは首相の推薦で任命されることから、民主的正当性がないと見られている英国の上院を改革または廃止しようとする動きは、何十年にもわたって繰り返し議論されています。現在上院の人数は約780人と世界最大の立法機関ともなっており、スターマー首相は、上院を廃止し、新たな民主的な二院制とすることを公約の一つとしています。

上院廃止の議論は、2022年にブラウン元首相(労働党)も掲げたものの、実行なく終えています。今回スターマー首相が何等かの動きを作ることができるのかは興味深いところです。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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