ニュースレター(2025年10月10日)金は4000ドル、銀は50ドルを超えて史上最高値を更新
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。
*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格が発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
- 金:ドル建て価格は7週連続で金曜日の史上最高値を更新。
- 銀:2011年4月の最高値を更新。
- プラチナ:2013年2月以来の高値を更新。
- パラジウム:2023年5月以来の高値を更新。
貴金属市場の動向(週間)
今週、貴金属市場では、金・銀が史上最高値を更新し、プラチナ・パラジウムも数年来の高値を記録しました。背景には、地政学リスクによる安全資産需要の高まりがありました。
主な上昇要因
- 米政府機関一部閉鎖の長期化懸念
- 日本の政局でハト派とされる高市早苗氏が自民党総裁に選出され、財政赤字拡大懸念が意識されたこと
- フランスで首相が任期一月未満で辞任、政局混乱への懸念
- 「貴金属を持たないリスク」やFOMO(取り残される不安)による投資家心理
上げ幅を削った要因
- 利益確定やポートフォリオリバランスによる売却
- イスラエル・パレスチナの第1段階停戦合意による安全資産需要の減少
そのような中でも銀相場は、今週ロンドンの現物市場で一月のリースレートが急騰(30%を超え)するという、急激な現物不足が起こっており、この影響で価格が大きく上昇しています。
銀相場のリースレート上昇の要因
- 米国の関税政策不透明により銀現物が米国に集まり、ロンドン市場が逼迫
- 工業用途(太陽光パネルなど)の需要増加で供給不足は7年目に突入
- 金と比較しても割安感からインドでの輸入需要が増加
今週のチャートは年初来のドル建て銀現物価格(水色)と、ロンドンの銀現物の一月のリースレート(緑点線)をお届けしましょう。今週のリースレートの上昇幅が、いかに特異な状況であるかが分かります。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
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金:トロイオンス$3,976まで上昇、年初来上昇率50%超
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背景:米政府機関閉鎖、円安・国債安、フランス政局不安
火曜日
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金:$3,990、LBMA価格$3,977で史上最高値更新、全ての主要通貨建てで高値更新
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背景:FOMO心理、米政府機関閉鎖懸念、FRB利下げ観測、中国の金準備増加、大手投資銀行の金へのアロケーション増
水曜日
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金:$4,059まで上昇後、$4,000前後に下落
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銀:$49.55で史上最高値に迫る
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背景:銀リースレート:11.21%に上昇、現物供給逼迫
木曜日
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金:$3,946~$4,057と大きく変動
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銀:$48.48~$51.24も大きな動きで、2011年以来の最高値更新
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背景:ハマスとイスラエルが停戦合意、ドル高進行、利益確定売り、銀リースレートが一時39%まで上昇する、銀現物逼迫状況
金曜日
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金:$3,985~$4,022で推移
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銀:$49.77~$50.11で推移
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背景:トランプ大統領の対中大幅関税発言、銀現物逼迫継続
その他の市場のニュ―ス
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中国の中央銀行は9月も11ヶ月連続で金準備を増加させていたこと。
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ブラジルの中央銀行は9月に16トン金準備を増加させ、これは、2021年7月以来初めて増加であったこと。
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コメックス(COMEX)のデータは、米政府期間が一部閉鎖されていることから発表されていないこと。コメックスの取引量においては、金は2020年3月以来の高さ、銀は価格が高値を続けていた今年4月半ば以来の高さ、プラチナは、8月末以来の高さ、パラジウムは、5月後半以来の高さと、急増していたこと。
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金ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに1.4トン(0.1%)減で1013.44トンと、前週の2022年7月13日以来の高さから下げ、3週ぶりの週間の減少傾向。
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銀ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週木曜日までに282.29トン(1.86%)増の15,452.23トンと10月1日以来の高さで、前週2週ぶりに週間の現象を記録後、週間の増加傾向。
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金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週81台前半で始まり、本日は78台と2024年7月以来の低さへ下げて終える傾向であること。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
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金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2329ドルで始まり、本日2361ドルまで上昇して終える傾向。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
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プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は341ドルと2016年11月初旬以来の大きさで始まり、本日174ドルと8月初旬以来の低さへ下げて終える傾向。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
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上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、今週中国が木曜日に一週間の長期休暇で戻り、木曜日と金曜日の平均は、前週の52.66ドルのディスカウントから更に悪化して54.85ドルと、2020年9月のコロナ危機下で移動制限が行われた際以来の高さへと大きくなっていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週の貴金属市場は、米国政府機関の一部閉鎖、日本で高市早苗氏が自民党総裁に選出され、金融政策がハト派と見られること、フランスの首相が就任から1か月足らずで辞任したことなどへの懸念から、安全資産需要が高まり、貴金属価格は上昇しました。その後、イスラエルとハマスの第一フェーズ停戦合意を受けて価格は下落し、本日はトランプ大統領による中国への関税引き上げ警告など、地政学関連ニュースで相場が動きました。
経済指標では、米政府機関の一部閉鎖の影響で雇用関連データの発表が見送られ、来週発表予定の米消費者物価指数や卸売物価指数も遅延する見通しです。そのため、火曜日のパウエルFRB議長の講演は注目されますが、米政局、イスラエルとハマスの停戦関連、米中貿易戦争関連ニュースへの市場の関心も高まることが予想されます。
詳細は、主要経済指標2025年10月13日~17日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週は、心理的節目の金は4000ドル、銀は50ドルを超えたことで、日本経済新聞、時事通信社等のメディアでブリオンボールトのリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュや私のコメントが引用されています。詳細は、弊社の最新のニュースページをご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2025年10月6日~10日)今週のの結果をまとめています。
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主要経済指標2025年10月13日~17日)来週の予定をまとめています。
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金価格ディリーレポート(2025年10月6日)金ETFへの資金流入で金価格は1970年代以来の年間の上昇率で4000ドルから1%安の水準に急騰
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週の英国では、イスラエルとパレスチナのハマスによる第一フェーズの停戦合意、保守党の年次大会、インドと英国の2国間包括的戦略的パートナーシップなどが大きく報じられています。ここでは、特に保守党の年次大会での発表内容とその反響について簡単にまとめます。
保守党は昨年7月の総選挙で大敗し、14年間続いた政権を労働党に譲りました。その後の補欠選挙や地方選挙でも議席を失い、世論調査では労働党やリフォームUKに加え、自由民主党にも支持率で劣る状況が続いています。党内では党首ケミ・バデノック(Kemi Badenoch)への批判も高まっていました。
今回、マンチェスターで開催された年次大会で、バデノック党首は党の再建と次期選挙に向けた戦略を発表しました。主な内容は以下の通りです。
- スタンプ税の廃止
主住宅に対するスタンプ税を完全に廃止し、住宅購入の負担軽減と市場活性化を目指す。 - 経済政策の強化
「健全な経済管理」を強調し、福祉削減や公務員削減、債務削減を進めるとともに、ドナルド・トランプ米大統領の移民政策を参考にする方針。 - 移民政策の強硬化
不法移民に対する大量追放を提案。「イギリスに不法入国した者は即時拘束・追放され、再入国不可」と明言。
保守党の現在の支持率は17%と低迷しています。大会では右派色を強める姿勢が見られましたが、党内ではリーダーシップへの疑問や右傾化への懸念もありました。一方で、保守党支持者や一部メディアは概ね好意的に受け止めています。
しかし、強硬な移民政策を掲げるリフォームUKが支持を拡大しており、保守党支持層を取り込む動きが見られます。労働党も進歩的政策を進める中で、保守党の右傾化に対抗しています。今回発表された政策が、バデノック党首の支持率向上にとってターニングポイントとなるか、今後の動向が注目されます。