【金投資家インデックス】「パニックなき金購入ラッシュ」の中で新規投資家数が3倍に急増
史上最高値、そしてコロナ禍以来の新規ユーザー数記録更新。
金価格が9月にトロイオンスあたり4,000ドルに迫る史上最高値を更新する中、金現物投資が急増している。世界有数のオンライン貴金属市場を提供するブリオンボールトでは、5年前の新型コロナ危機下のピーク以来、最多の新規ユーザー数を記録していました。
世界12万人の顧客に代わり、72億ドル(約53億ポンド、61億ユーロ、1兆円)相当の貴金属を保管するブリオンボールトでは、2025年9月の新規口座開設数が2020年8月以来の最多となっていました。新規顧客数は前月比で87.6%増、前年同月比では213.5%増(3倍以上)に急増していました。
ブリオンボールト設立20年間でも、これほどの新規顧客数を記録したのは、2008年の世界金融危機、2011年の欧州債務危機、そして2020年のコロナ危機下の移動制限の際といった大きなショックが金融市場を襲った際を除けば初めてのこととなります。
今回の金の急騰は金融市場にパニックがない状態で起きているのが特徴となります。
「安全資産」とされる金は、株式市場やビットコインが史上最高値を更新する中で、9月にわずか1カ月で400ドル上昇するという過去最大の月間上昇幅を記録し、新高値を更新しました。現金離れとインフレ・ヘッジの動きが重なり、これは通貨価値の下落(デベースメント)や政府債務の膨張への長期的な不安を反映しています。
このような理由から、ほとんどの投資家が金を購入する一方で、一部の既存投資家は記録的な高値を受けて利益確定の売却を行い保有量を減らしていました。
9月のブリオンボールトの金投資家インデックスは、8月の7カ月ぶりの低水準ら1.0ポイント上昇し54.9を記録し、6月の4年ぶり高水準以来の高さとなっていました。
この指数は、月間の「買い手」と「売り手」の数を比較するもので、両者が完全に均衡していれば50.0となります。パンデミックが始まった2020年3月には過去最高の65.9を記録し、4年後の利益確定売りの波では過去最低の47.5をつけていました。
今回の上昇で、指数の12カ月移動平均も54.7と2022年初以来の高水準となり、長期平均値と同水準に達しました。
では、そのような危機的状況でない中で、なぜ新規購入者と金価格がこれほど急増したのでしょうか?
モルガン・スタンレーのような大手金融機関が「投資家は十分な金を保有していない」と公言すれば、ETFでも現物でも資金が流入するのは当然でしょう。
小口の金貨・金地金市場でも、新たな買いが入っていますが、既存保有者による利益確定売りも依然として多い状況です。
ブリオンボールトでは、投資家が24時間いつでも売買可能な、専門市場で売買されている大口の金現物を安全に保管し、コストを抑えて取引ができますが、9月は3カ月連続で「買い」と「売り」がほぼ相殺」されていました。
その結果、ブリオンボールト顧客全体の保有金量は44トン弱で横ばいながら、評価額は過去最高の54億ドル(約40億ポンド/46億ユーロ/8,000億円)に達しました。
ブリオンボールトの顧客による銀保有量も全体で0.2%減の1,155トンとなりましたが、その評価額は過去最高の17億ドル(12億ポンド/14億ユーロ/2,518億円)に達しました。
工業用途が多い銀は、9月にすべての通貨建てで月間平均価格の史上最高値を更新し、ドル建てでは2011年4月の高値を突破(+12.1%、ポンド建て+11.6%、ユーロ建て+11.1%)しました。
銀投資家インデックスも3.4ポイント上昇して55.1となり、4月以来の4年ぶり高水準を更新。過去3年間でわずか6回のみである、金投資家インデックスを上回ることとなりました。
春にトランプ大統領の対中貿易関税発表を受けて上昇した金・銀価格は、今再び上昇しています。背景には、トランプ政権による米連邦準備制度理事会(FRB)の金利政策への圧力があります。
ただし、金相場の上昇は「ドル」だけではありません。世界各国の通過建てで同様に新高値を更新しており、トランプ氏の大統領復帰が今年の貴金属相場の急騰を引き起こしたのは確かですが、その政策が浮き彫りにしているのは、インフレに備える投資家と貯蓄者の必要性であって、彼が原因そのものというわけではありません。