金市場ニュース

ニュースレター(2024年8月23日)米FRBの9月利下げ観測で金価格は史上最高値へと上昇

週間市場ウォッチ

金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から0.5%高でトロイオンスあたり2498ドルと、前週金曜日に続き、LBMA価格として史上最高値の水準へと上昇しています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から4.6%高のトロイオンスあたり29.43ドルと2週連続の週間の上昇で5週ぶりの高さとなっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から0.7%安のトロイオンスあたり947ドルと週間の下げとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から0.3%安でトロイオンスあたり940ドルと2週ぶりの週間の下げとなっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属市場はFRBの近い将来の大幅な金利引き下げ観測で、ドル建て金価格が火曜日に史上最高値をつける中、銀、プラチナ、パラジウムも引っ張られたものの、週間としては金と銀のみが週間の上げを記録する方向で、金においては週終値の史上最高値を再び更新する方向となっています。

この背景は前週金曜日の弱い米経済指標に加え、週末から今週にかけてFRB高官がハト派的コメントを発し、そして本日はパウエルFRB議長が「金融政策を調整する時期が来た」と、9月に23年来の高い5.25-5.5%の政策金利の利下げを示唆したことからでした。

このために、ドルインデックスは年初来の低さへ下げており、ドルが対主要通貨で弱含んでいることから、日本円建て、ポンド建て、ユーロ建て金価格は上げ幅が抑えられています。

しかし、年初来の上げ幅はドル建てで20.2%であるのに対し、ポンド建てで16.7%、ユーロ建てで19.8%、日本円建てでは円建てで6月からは下げていますが、未だ24.1%と高いパフォーマンスを見せていいます。

主要通貨建て金価格チャート 出典元 ブリオンボールト

プラチナとパラジウムが低調なのは、工業用途需要の多さからも、中国はもちろんのことですが、米国経済の停滞懸念が頭を抑えている模様です。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は前週金曜日の史上最高値のトロイオンスあたり2509ドルから、ロンドン時間昼過ぎまでは一時2485ドルまで押し下げられていたものの、市場終了までに心理的節目の2500ドルを超えて2503ドルで終えていました。

この背景は、前週金曜日の米住宅データの悪化からも9月のFOMCでの利下げがほぼ確実視されて、より大幅な利下げ観測が広がっていたこと、地政学リスクの高まりなどの金のサポート要因がある中で、コメックスの金先物・オプション市場で前週火曜日までに4年ぶりの高さへとネットロングポジションが増加していることからも、金のセンチメントが好転していた模様です。

火曜日金相場はドル建てで史上最高値をトロイオンスあたり2531ドルと更新し、2513ドルで終えていました。

この背景は、金曜日のパウエルFRB議長のジャクソンホールでスピーチを前に、前週金曜日の弱い米経済データやこの数日のFRB高官のハト派的コメントでFRBによる利下げ、しかも大幅なものが近いという観測でしたが、先週金曜日の史上最高値から前日大きく下げることなく心理的節目の2500ドルを守っていたことで更なる上昇を見せていた中で、夏休み中の薄商いであることで動きが激しくなる下地があったためのようです。

また、同日イスラエルとハマスの停戦関連ニュースが伝えられていましたが、未だイランのイスラエルの攻撃の可能性は高いと伝えられており、中東等の地政学リスクの高まりはサポートとなっていました。

水曜日金相場は、ロンドン時間夕方のFOMCの結果を待つ中、前日終値から下げて推移していましたが、発表後にトロイオンスあたり2518ドルと上昇して2514ドルで終えていました。

FOMC議事録では、前月全会一致で金利を23年ぶりの高値の5.25-5.50%で据え置いたものの、利下げ開始議論がされ、9月利下げを示唆するものであったことから、ドルインデックスが2023年末以来いの低さへ下げ、長期金利は8月初旬の世界株価暴落時以来の低さへ下げていました。

なお、同日非農業部門雇用者数の3月までの一年間の数値が下方修正されたものの、ほぼ予想の範囲内であったことから、市場への影響は限られていました。

このFOCM議事録の発表を経て、来月9月のFOMCでの0.5%の利下げ確率は38.5%と前日の29%から上昇し、年末の金利は4.32%と米消費者物価指数でインフレの鈍化が示唆された8月13日以来の低さで、1%の利下げ予想へと下げていました。

木曜日金相場は、ロンドン時間午前中は前日のFOMC議事録と米雇用統計の下方修正からも、9月や年末までのFOMCでのより大幅な利下げ観測で、火曜日の史上最高値を下回るもののトロイオンスあたり2500ドルを上回って推移していました。

しかし、ロンドン時間昼過ぎに発表された米失業保険申請件数がほぼ予想通りであったことで、利益確定や調整の売りが入り、ドルと長期金利が昨日の年初来と3週ぶりの低さから上昇すると共に、2500ドルを割って更なる売りで一時2471ドルまで下げて、ロンドン時間夕方に2487ドルまで戻して終えていました。

今週は中国への金輸入データが発表され、中国での需要減少から中国の金価格とロンドン価格の差が減少して輸入をするインセンティブが下がっていたことで、6月に続き7月も2年ぶりの低さへ下げていたというニュースは、金投資のセンチメントにとってはネガティブ要因ではあるようです。

本日金曜日は市場注目のジャクソンホールでのパウエルFRB議長の公演で「高金利は調整すべき時期」と述べたことが伝えられ、ドルと米国債利回りが下げて、金価格がトロイオンスあたり10ドル強上昇してた後に上げ幅を失ってロンドン時間夕方に2514ドル前後を推移しています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に8月13日までの一週間データが発表され、米生産者物価指数が予想を下回る数値でインフレ鈍化がみられて価格が上昇した際に銀を除く全ての貴金属でロングポジションが増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、18%増で683トンと3週ぶりに増加して金価格が史上最高値を記録した7月16日の週以来の高さに増加していたこと。価格は3.1%高でトロイオンスあたり2471ドルと火曜日のLBMA価格としては史上最高値を記録していたこと。建玉は8.8%増で3週ぶりに増加して2020年9月以来の高さへ増加していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、2.6%減で3772トンと4週連続で減少して3月5日の週以来の低さへ下げていたこと。価格は前週2.3%高で、トロイオンスあたり27.70ドルと、前週の4月30日の週以来の低さから上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、5月7日の週以来ネットロングから前週から2週連続でネットショートで2.1%減少して3.5トンとなっていたこと。価格は前週比9.6%高でトロイオンスあたり937ドルと前週の4月23日の週以来の低さから7月16日以来の高さになっていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、7.7%減で46.6トンと4週ぶりに減少して前週の2006年6月以来の高さから下げていたこと。価格は9.6%高でトロイオンスあたり937ドルと5週ぶりに上昇して、前週の2017年7月以来の低さから7月16日以来の高さに上昇していたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までで、週間としては2.9トン(0.3%)増で857.85トンと8週連続の週間の増加傾向で、1月2日以来の高さとなっていること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で0.91トン(0.25%)増で364.77トンと週間の増加傾向であること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で15.62トン(0.11%)増で14,491.92トンで、週間の増加傾向であること。
  • 金銀比価は、今週86台後半で始まり、火曜日にひと月ぶりの低さの84台半ばへ下げて、本日金曜日に84台後半で終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週火曜日に1556ドルと記録が残っている1990年3月以来最大へ上昇し、本日金曜日に1549ドルまで下げて推移していること。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換し、7月2日から数日、そして8月14日から数日ディスカウントに転換しているものの、今週9ドルのプレミアムで始まり、火曜日に26ドルへ上昇後、本日12ドルまで下げて終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)とロンドン金価格の差は今週ディスカウントとなり、7.46ドルと中国がコロナ禍のロックダウン中の2021年6月以来の大きさとなっていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は今週木曜日までで、前週平均比で、金は8%減で6月末の週以来の低さ、銀は3%増で8月9日の週以来の高さ、プラチナは1%増で8月9日の週以来の高さ、パラジウムは83%増で5月24日の週以来の高さとなっていたこと。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は6月27日から負の相関関係で-0.65と週間では負の関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は6月10日から負の関係へ転換し、-0.80と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は8月6日から正の関係で、0.57と関係を強めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週金価格は前週に引き続き、FRBの利下げ観測や地政学リスク、そして薄商いの中でジャクソンホールでのパウエル議長のスピーチを待つ中で、史上最高値を更新し、本日のパウエル議長が「(金融)政策を調整すべき得」と9月の利下げが示唆されて市場は動くこととなりました。

来週はFRBがインフレ指標として重視する米個人消費PCEコア・デフレーターが金曜日に発表され、市場は注目しますが、その他、月曜日の米耐久財受注、木曜日の米第二四半期GDP、失業保険申請件数、それに加えてFRB高官の利下げに関連したコメントも重要となります。

詳細は主要経済指標(2024年8月26日~30日))ご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続きハマスとイスラエルの停戦協議について、ウクライナ戦争ではウクライナがロシア領土内へ侵攻及び攻撃をしていること、そして米大統領選が大きく伝えられていますが、英国内ニュースとしては、7月末の3人の子供が刺殺され、その後英国全土での暴動のきっかけともなった英国西部のサウスポーとへチャールズ国王が慰問のために訪問したこと、そして英国の著名起業家とその家族が乗った大型ヨットがイタリア南部のシチリア島沖で沈没した事故が主要ニュースとして報道されていました。

そのような中、本日伝えられていた英国の4つの連合王国のひとつのウェールズでのサイクリングロードレースが同地の交通規制でルートを変更しなければならなくなったことが伝えられていますので、英国を形成する連合王国の仕組みとあわせて本日のニュースをご紹介しましょう。

日本で一般的に英国の呼び名であるイギリスは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域から成り立って、正式名称はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdome of Great Britain and Northern Ireland)となります。

トニー・ブレア政権時の2000年にイングランド以外の3つの地域に地域議会が創設され、それぞれの連合王国の国に議会と自治政府が設けられました。

スコットランドが一時的な立法機能を持つことに対し、ウェールズは二次的立法性、つまりは英国国会で制定された法律の実施にあたり、その地域特性に合わせた立法権を持ちますが、イングランドとウェールズは基本同じ制度が適用されています。北アイルランドはアイルランド問題(英国に留まることを望むユニオニストと、英国から離れてアイルランド共和国との統合を除くナショナリストとの対立)もあり、スコットランドとも異なる位置づけとなります。

そこで、ウェールズにおける国防、外交、法律や税法はイングランドと同じであるものの、細かな法律は異なったものがあり、今回ニュースで取り上げられたレースを開催上の問題は、昨年9月にウェールズ内での市街地での制限速度が交通事故の削減と騒音低減のために時速20マイル(32キロ)へと30マイル(48キロ)から下げられたことから発生したのでした。

この変更によりウェールズ国内の道路の35%がこの制限を受けることになり、速度制限のない自転車に、レースのサポートをする自動車がついていけないということとなり、レースコースの変更や短くしなければならなかったとのこと。

昨年9月に導入された時速20マイル制限速度のために、すでに標識など設置のために3250万ポンド(約61億円)の予算が使われたようですが、その後ウェールズ国民の強い反対を受けて、500万ポンド(約9億6000万円)の予算で見直しを行うとのこと。

公共交通網が日本ほど整っていない自動車社会である英国の自動車との共生が、環境問題も含めて今後どのような方向へ向かうのかは個人的にも興味深く見ていきたいと思います。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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