ニュースレター(2024年8月16日)多くの重要指標を経て金は史上最高値を更新
週間市場ウォッチ
金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から2.6%高でトロイオンスあたり2490.71ドルと上昇し、LBMA価格として史上最高値をつけています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から2.1%高のトロイオンスあたり28.15ドルと週間の上昇となっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から3.3%高のトロイオンスあたり955ドルと週間の上げで前週の4月末以来の低さから上昇しています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から2.2%高でトロイオンスあたり941ドルと2週連続の週間の上げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週重要経済指標が多い中で、貴金属相場はそのデータとそれによるFRBの利下げ観測で動くことになり、ドル建て金価格は本日取引時間内とLBMAのPM価格で共にトロイオンスあたり、2499ドルと2487ドルと史上最高値をつけることとなりました。
今週の市場を動かした要因は下記のようになります。
- 火曜日の米生産者物価指数でインフレ鈍化が進んだことが確認され、より早い大幅なFRBによる利下げ観測が広がり金価格上昇。
- 水曜日の米消費者物価指数が前日のデータほどインフレ鈍化を示していなかったことで、FRBの大幅な利下げ観測の後退で金価格が下落。
- 木曜日の米小売売上高と新規失業保険申請件数が良好なもので、FRBの大幅な利下げ観測がさらに後退し金価格が下落。
- 金曜日の住宅着工件数が4年以上ぶりの低い数値で再びFRBによる大幅な利下げ観測が多少戻り、金価格が大きく上昇。
- 夏休みで薄商いの中で、週末を前にイランによるイスラエル攻撃等の懸念もあり、ショートの手じまい等のポジション整理も起きている模様です。
今週のチャートはドル建て金価格(深緑)、市場のFRBの年末政策金利予想(青)、FRBの年末政策金利予想(赤)のチャートをお届けしましょう。
ここで、8月5日の世界株価の急落で市場の政策金利予想が4.2%と1%を超える利下げが年内の行われると予想後、昨日は年末の金利が4.5%強へ上昇し、利下げ予想は0.25%の利下げ3回へと下げ、本日再び4.4%程へ下げて、金価格もそれに応じて上下していることがご覧いただけます。
今週銀価格はチリの銅鉱山のストライキによる供給不足で銅価格が上昇することにサポートされて上げ幅を広げていました。またプラチナとパラジウムも多少その動きにサポートされ、また前週広がっていた世界最大の米国の景気停滞観測が後退したことも背景となり上昇している模様です。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、今週米消費者物価指数等の重要指標が週半ば以降に発表されることからも動きづらい状況の中で、中東やウクライナの地政学リスクの高まりからも、原油と天然ガス価格の上昇同様に上げ基調の中、ロンドン時間夕方にイランが24時間以内にイスラエルを攻撃することが一部ニュースサイト等で伝えられ、トロイオンスあたり2475ドルと、悪化した米雇用統計で株価が急落して、金の現金化が進む前の8月2日以来の高さまで上昇して終えていました。
火曜日金相場は、市場注目の米生産者物価指数が予想を下回ったことで、FRBによる早い大幅な利下げ観測が広がり、ドルと長期金利が下げて、トロイオンスあたり2475ドルへと一時上昇し、その後若干戻して2464ドルで終えていました。
生産者物価指数は、前月比0.1%、前年同月比2.2%と、共に予想の0.2%と2.3%を下回り、前回数値の0.2%と2.7%からも下げていました。
そこで、市場予想で9月の利下げは100%確実となり、0.5%の引き下げが54.5%へと前日から上昇していました。また、年末の利下げ幅は1%程と0.25%の引き下げを2回と0.5%の引き下げが一回と予想されていました。
なお、前日急激に高まった、イランのイスラエルの反撃が近いという地政学リスクは引き続き、金のサポートの背景となっていました。
水曜日金相場は、今週最大注目指標の米消費者物価指数(CPI)がほぼ予想と同水準、もしくは下回るものであったものの、前日の生産者物価指数(PPI)ほどのインフレ鈍化を示していなかったことで、トロイオンスあたり2438ドルへ一時下げて、2449ドルで終えていました。
この米CPIは前月比0.2%と前回の-0.1%を上回っていましたが予想通りで、前年同月比は2.9%と前回と予想の3.0%を下回っていました。コアに関しては前月比0.2%と予想通りで前回の0.1%を上回り、前年同月比は3.2%と予想通りで前回の3.3%を下回っていました。これは、前日のPPIが全て予想を下回っていたことと比べると鈍化が鈍いという見方のようで、FRBによる金利引き下げ観測は9月の0.5%引き下げは前日の53%から43.5%へと下げ、年末の金利予想も4.30%から4.33%へと上げていました。
そこで、米株価指数は上昇していましたが、金は利益確定の売却などからも下げることとなりました。
木曜日は米小売売上高と新規失業保険申請件数が強い米国経済を示したことで、市場のFRBによるより速い大きな利下げ観測を後退させ、ドルが8月上旬の弱い米雇用統計以前の水準まで急騰し、米長期金利も一週間ぶりの高さへ上昇したことで、金価格はトロイオンスあたり2432ドルまで一時下げていました。
その後、これらの急激な動きの調整と、金の下値の買いも入ったようでロンドン時間夕方に2457ドルまで上昇して終えていました。
本日金曜日金相場は、取引中とLBMA午後の価格で共に史上最高値を記録することとなりました。
これは、ロンドン時間午後に発表された米住宅着工件数が2020年5月以来の低水準となったことで、不動産市場の低迷によるFRBの早期の大幅な利下げ観測が若干戻り、ドルと長期金利が下げたことが背景の模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に8月6日までの一週間データが発表され、前日に世界株価が暴落した翌日に全ての貴金属でロングポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1.8%減で577トンと3週連続で7月2日以来の低さへ下げていたこと。価格は0.26%高でトロイオンスあたり2396ドルと若干上昇していたこと。建玉は2.4%減で3週連続で2020年9月末以来の高さから減少して7月2日以来の低さへ下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週0.1%減で3873トンと3週連続で減少して3月5日の週以来の低さへ下げていたこと。価格は前週2.9%安で、トロイオンスあたり27.07ドルと4月30日の週以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、5月7日の週以来ネットロングであったものの、前週ネットショートへ転換して3.5トンと4月30日以来のネットショートの大きさとなっていたこと。価格は前週4.9%安でトロイオンスあたり910ドルと4月23日の週以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、3.2%増と4週連続で増加して2006年6月以来の高さで50.4トンとなっていたこと。価格は4.3%安でトロイオンスあたり855ドルと5週連続で下げて2017年7月以来の低さとなっていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までで、週間としては0.9トン(0.1%)増で847.78トンと7週連続の週間の増加傾向で、2月5日以来の高さとなっていること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで週間で2.82トン(0.76%)減で367.44トンと2020年1月23日以来の低さで、2週連続の週間の減少傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で36.9トン(0.25%)増で14,523.14トンと、2023年7月3日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向であること。
- 金銀比価は、今週87台前半で始まり、水曜日に88台後半まで上昇したものの、本日金曜日87台前半の低さへ下げて終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1502ドルと記録が残っている1990年3月以来最大で始まり、火曜日にさらに上昇して1524ドルまで上昇したものの、本日金曜日に1509ドルへ下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換し、7月2日から数日ディスカウントに転換しているものの、今週1ドルのプレミアムで始まり、木曜日再び1ドルのディスカウントとなったものの、本日は6ドルのプレミアムへ上昇して終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が2.04ドルと、中国がコロナ危機のロックダウン中の2022年6月17日の週以来の低さへ下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は今週木曜日までで、前週平均比で、金は13%減で6月末の週以来の低さ、銀は7%減で8月2日の週以来の低さ、プラチナは26%増で8月2日の週以来の低さ、パラジウムは21%減で8月2日の週以来の高さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は6月27日から負の相関関係で-0.62と週間では負の関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は6月10日から負の関係へ転換し、-0.64と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は8月6日から正の関係で、0.16と若干関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週貴金属市場は、米生産者物価指数、消費者物価指数、小売売上高、新規失業保険申請件数、そして本日の住宅着工件数の結果で、FRBによる政策金利引き下げ観測が動き、価格も反応することとなりました。
来週は水曜日にFOMCの議事録、そして金曜日にはジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長のスピーチがあり、9月のFOMCでの利下げに絡み、市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2024年8月19日~23日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年8月12日~16日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年8月19日~23日) 来週の予定をまとめています。
- 【金価格ディリーレポート】 地政学的緊張が高まる中、米国の重要経済データを週半ばに控えて、金は1週間ぶりの高値をつける
- 金価格ディリーレポート(2024年8月15日)強い米経済データで米連銀のより大きな利下げ観測が後退し金価格は下落
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、7月末にダンス教室で3人の子供が刺殺されたことがきっかけで起きていた英国内各地の暴動で逮捕された人々について、また引き続き激化するウクライナ戦争やイスラエルとハマスの紛争が大きく伝えられていますが、その他パリオリンピックの閉会式や競技者が帰国する様子、そしてストリートアーティストのバンクシーが8日連続で路上作品を発表していること等が大きく伝えられています。
そこで、本日はバンクシーとその作品についてお伝えしましょう。
バンクシーはイギリスを拠点とするアーティストで、その素性は明らかとされていません。通常彼(彼女)の作品は型紙を用いたグラフィティで、街中の壁に突然現れ、多くは反資本主義や反権力的なものが多くなっています。
彼が作品を発表し始めたのは2000年初頭で、商業的な作品は日本のファッションブランドの「モンタージュ」に提供されたTシャツの図案2種類と英国バンドブラーのアルバムのジャケット以外は無いとのこと。
英国内での作品が多い中、ニューヨークのメトロポリタン美術館やMoMA等の世界の著名美術館や、紛争地であるヨルダン川西岸地区のパレスチナ側の分離壁等と政治的意味を持つ作品も発表しています。
今回はロンドン市内で8月5日以来9日連続で、ヤギ、象、サル、オオカミ、ペリカン、猫、ピラニア、サイ、ゴリラ等の動物をモチーフとする作品を発表して、話題となっています。
この連作のオオカミは衛星放送を受信するアンテナに月に向かって遠吠えしているように書かれていましたが、数時間後に盗まれ、一部作品には落書きが行われたりしたようですが、ロンドンの人々の話のタネとなり、観光名所となっています。
私の自宅の近くには、最初の作品であるヤギのグラフィティがありましたので、先週末にランニングもかねて行ってみましたので、その写真をお届けしましょう。
日々暗くなるニュースが多い中で、ユーモアあふれる作品で、人々の心を和ませることが目的ではないかと個人的には思っていますが、これらの作品はバンクシーの人気からも価値も高く、ある一定の時点で保護されるのかもしれませんが、しばらくは多くの人々に楽しまれることでしょう。