ニュースレター(2024年6月28日)米インフレ指標は鈍化を示唆したものの、他の強い経済指標で金価格は上げ幅を削る
週間市場ウォッチ
今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2332ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から0.1%安で週間の下げとなっています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から3.5%安のトロイオンスあたり29.38ドルと週間で下落しています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.6%高のトロイオンスあたり1014ドルと2週連続の上昇で3週ぶりの高さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から1.7%安でトロイオンスあたり974ドルと週間の下落となっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属は本日金曜日の米FRBがインフレ指標として注目する個人消費支出(PCE)コア・デフレーターを待つ中で、金と銀価格はドルと長期金利の動きに反応して動いていました。
結局米インフレ数値は予想通り前回から鈍化して上昇に転じていたものの、他の指標のシカゴ購買部協会景気指数とミシガン大学消費者態度が予想を上回っていたことで、FRBによる近い将来の利上げ観測が後退してその上げ幅を多少失い、週間でLBMA価格で下げ、終値ベースでは若干上げ幅を維持する傾向ではあります。
なお、ドルと長期金利が動いた背景の一つには、今週の総計で1830ドル相当の大量の米国債入札を控えて、警戒感からも金利が上昇し、また、ドルの上昇は日本円が38年来の安値へ下げていたことからも押し上げられていたとも分析されています。
そこで、今週のチャートとしては、すでに今週月曜日の金価格ディリーレポートでもご紹介していますが、日本円建て金価格(深緑)と反転した日本円対ドル為替レート(赤)のチャートをお届けします。ここでは、円安が進む中で、円建て金価格が大きく上昇していることが見れます。年初から本日までの日本円建て金価格の上げ幅は27%と、ドル建て金価格の12%を大きく上回っています。
その間、プラチナとパラジウムはトロイオンスあたり1000ドルを試し、プラチナは超えた水準を維持し、パラジウムは維持できずに下げて週を終える傾向です。なお、週前半のパラジウムの急騰は先物・オプション市場でショートポジションが2006年に記録が始まって以来の高さになっていたことからも、そのカバーが入っていた模様です。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、大きなニュースが無い中、ドルの動きに反応してトロイオンスあたり2330ドルへと上昇して終えていました。
また、同日は、神田財務副大臣が政府介入の可能性を示唆していたにも関わらす、前週後半から日本円が対ドル160円を試す低い水準を推移していたことからも、日本円建て金価格は11967ドルへと上昇して終えていました。
火曜日金相場は、ドルと長期金利が若干上昇する中で、トロイオンスあたり2320ドルと今週の上げ幅を失って下げて終えていました。
これは、同日発表された指標のケース・シラー米住宅価格指数は前回修正値の7.5%を下回っていたものの、予想の7.0%を上回る7.2%で、米消費者信頼感指数も前回修正値を下回ったものの予想を若干上回り、リッチモンド連銀製造業指数は-10と前回の0と予想の-3を下回るなど、まちまちなものとなっていました。
しかし、FRBのボウマン理事は25日の講演で、「政策金利の引き下げが適切だという段階にはない」との見方を示し、FRBが早期利下げに慎重な姿勢を続けていたこと、また今週は690億ドル相当の国債入札があることから、その警戒からの長期金利上昇であったようです。
しかし、今週は金曜日にFRBが重視するインフレ指標のPCEコア・デフレーターが発表されることからも、狭いレンジで動いていました。
水曜日金相場は、ドルが昨年11月以来の高さ、長期金利が2週ぶりの高さに上昇する中で、トロイオンスあたり2300ドルの心理的節目の攻防が行われていましたが、この水準を若干割って2998ドルで終えていました。
なお、ドルと長期金利の上げは、今週の大量な国債入札予定が背景となりました。また、前日のボウマンFRB理事のタカ派的コメントも、市場のFRBによる利下げ遅延観測を広げることとなりました。
そして、今週末で第2四半期が終わることもあり、今四半期ドル建てで5.0%、ポンド建てで4.5%、ユーロ建てで5.9%、日本円建てで10.9%と大きく上昇した金価格の調整も入っていた模様です。
木曜日金相場は、ドルと長期金利が弱含む中で、今週の下げ幅をほぼ取り戻し、トロイオンスあたり2327ドルで終えていました。
ドルと長期金利の動きは、同日発表された第1四半期のGDP個人消費が予想を下回り、翌日発表のFRBが重視する個人消費支出PCEコア・デフレーターも予想を下回りインフレ鈍化の観測、そしてFRBによる利下げが近いという観測が進んでいる模様です。
また、同日発表の米耐久財受注も予想を下回り、米失業保険継続受給者が2021年11月以来の高さへと増加していたこと等からも、米経済の鈍化を示唆したことも金をサポートすることとなりました。
そして、同日の220億ドル相当の7年物国債の入札が順調であったことも長期金利を下げることとなりました。
本日金曜日金相場は、市場注目の米インフレデータが予想と同水準で前回からインフレが鈍化していたことで、前週金曜日以来の高値のトロイオンスあたり2340ドル近くまで一時上昇したものの、その後の経済指標が強いものであったことから、2332ドルまで下げて推移しています。
このインフレ指標は、個人消費支出(PCE)コア・デフレーターで、前年同月比2.6%と前回の2.8%から下げ、前月比も0.1%と前回修正値の0.3%から下げていました。
しかし、その後発表されたシカゴ購買部協会景気指数とミシガン大学消費者態度は共に前回と予想を上回っていたことで、先の上げ幅を削ることとなりました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、今週月曜日に6月18日のデータが発表され、まちまちな経済指標の結果の中で、FRBの早期の利下げ観測からも価格が上昇していた際に、資金運用業者は金と銀で強気ポジションは増加し、プラチナとパラジウムの強気ポジションは減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週から6.8%増で590トンと5月半ばまでの週以来の高さであったこと。価格は0.1%安のトロイオンスあたり2329ドルと下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、8.6%増の5001トンと増加して前週の3月半ば以来の低い水準から増加していたこと。価格は0.4%安のトロイオンスあたり29.13ドルと4週連続で下げて5月半ば以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、5月7日の週以来ネットロングで10.2%減の9.1トンと3週連続の下げで5月初旬以来の低さへ減少させていたこと。価格は0.6%高でトロイオンスあたり966ドルと前週の4月末以来の低さから若干上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、0.4%増の50.0トンと2006年6月から始まった記録上で最大となっていたこと。価格は2.0%安でトロイオンスあたり872ドルと2017年7月末以来の低さ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては2.88トン(0.4%)減で829.05トンと6月18日以来の低さで、週間の増加傾向となっていること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで全く変化なく378.53トンと前週までの2週連続の週間の減少で、2020年3月2日以来の低さであること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで137.79トン(1.0%)増で13,600.47トンと4月9日以来の高さで、4週連続の週間の増加傾向であること。
- 金銀比価は、今週78台後半で始まり水曜日に80台前半と5月半ば以来の高さへ上昇し、本日80を割って終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1324ドルで始まり、木曜日に1306ドルと5月末以来の低さまで下げたものの、本日1321ドルへ上昇して終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換していたものの、、今週4ドルのディスカウントで始まり、火曜日にプレミアムへ再び転換し、本日45ドルで終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が26.51ドルと前週の25.30ドルの4月末の週以来の低さからは若干上昇していたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は今週木曜日までで、前週平均比で、金は15%減で2月上旬以来の低さ、銀は12%減で5月上旬以来の低さ、プラチナは20%減で6月半ば以来の低さで、パラジウムは5%増であること。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は6月17日から正の相関関係であったものの本日負の相関関係へ転換し-0.15となっていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は5月14日から負の関係で本日-0.38と前週より強いものの、前日からは関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は6月10日から負の関係で-0.47と今週S&P500種が史上最高値へと上昇する中で、その関係を強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米FRBが重視する個人消費支出(PCE)コア・デフレーターに市場は注目していましたが、FRBの高官のコメントや、大量の米国債入札も市場を動かしていました。
来週もFRBや他の主要中央銀行の利下げ時期観測に関わるイベントや経済指標へ市場は注目することとなり、それは、金曜日の米雇用統計とその先行指標とみられている水曜日の米ADP全国雇用者数とFOMC議事録、そして火曜日のユーロ圏の消費者物価指数、パウエルFRB議長とラガルド欧州中銀総裁の発言、米雇用動態調査委(JOLTS)求人件数も重要となります。
それに加え、フランスの下院選挙の第1回目が週末30日に行われ速報がその夜に出ることからも、これも市場に影響を与える可能性があります。
詳細は主要経済指標(2024年7月1日~5日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年6月24日~28日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年7月1日~5日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年6月24日)金価格は堅固に推移し、パラジウムは急騰し、日本の財務官は為替介入を示唆
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では引き続き7月4日に行われる総選挙の選挙活動やTV討論会について、そして天皇皇后両陛下の英国訪問のようすについて、また昨夜行われたバイデン米大統領とトランプ前大統領のTV討論会やサッカーのUEFAユーロ2024年についても大きく伝えられています。
そこで、今週は天皇皇后両陛下の英国訪問の様子をお伝えしましょう。
お二人は22日土曜日に英国に入られ、23日と24日は非公式の行事が行われ、25日と27日までが公式行事で、明日29日に帰国のご予定です。
英国メディアではほぼ毎日お二人の動向等が伝えられていましたが、25日の国賓としての歓迎式典のホースガーズ(近衛騎兵隊本部)からバッキンガム宮殿までの馬車でのパレード、そしてその夜の晩餐会はニュースでもトップニュースの一つとして大きく伝えられていました。
特にチャールズ国王が晩餐会でお二人がオックスフォード大学で勉強されたことからも、「Welcome Back to Britain(英国へお帰りなさい)」とスピーチの最初に話されたことは心温まるエピソードでした。
私は英国日本人会の副会長を2022年から務めていますので、24日の非公式行事の日本人コミュニティーが主催したレセプションでご挨拶をさせていただく光栄な機会をいただきました。
同日は主催日本人コミュニティー5団体のジャパンソサエティ、英国日本人会、英国婦人会、日本クラブ、在英日本商工会議所の関係者400名が招待され、それぞれの団体の代表である24名が、それぞれ日本人コミュニティーでの役割を簡単に説明させていただきました。
前回日本の皇室の方が英国の国賓として来英されたのは1998年の上皇ご夫妻のご訪問以来となり26年ぶりとのこと。
前回はパレードの際に第二次世界大戦時の日本軍捕虜の英兵の方々が、当時の天皇陛下の車列に背を向けて抗議をしたことが大きく伝えられていました。
これは、当時英国で暮らす日本人にとってはショックなことでしたが、その後日英政府と日本人コミュニティーが和解の道を模索して、ブレア政権が元捕虜や遺族に特別慰労金を支給し、民間では日本人による多くの団体が、捕虜の方を日本へ招待する、また元日本兵との和解の会や、追悼の儀式を設ける等の活動を続けていることからも、このようなわだかまりは現在ではほぼなくなっていると言えるでしょう。
今回の天皇皇后両陛下の英国訪問を機に、今後も日英の絆をより深めるために、英国で過ごす日本人コミュニティは、先人たちに学び努力を続けることを改めて心に誓ったことでしょう。