ニュースレター(2024年5月31日)金価格は米インフレデータ発表後に今週の上げ幅を失う
週間市場ウォッチ
今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2347ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から0.2%高で週間の上昇しています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から2.2%高のトロイオンスあたり31.26ドルと4週連続の上昇で、LBMA価格の金曜日の価格では2013年2月以来の高さとなっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から3.0%高のトロイオンスあたり1050ドルと週間の上昇となっていたこと。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から1.6%安でトロイオンスあたり956ドルと3週連続の週間の下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、LBMA価格ベースではパラジウムを除き上昇していますが、終値ベースでは、金は今週の上げ幅を全て失って下げ、銀はほぼ前週の終値の水準、プラチナは若干上げ幅を維持し、パラジウムは下げ幅を広げ2月半ば以来の低値となっています。
今週は、FRB高官による利下げに慎重なタカ派的コメントが続き、米国債入札が低調で長期金利が上昇するネガティブ要因がある中で、貴金属価格は堅調に推移していましたが、市場注目のFRBがインフレ指標として重視する米個人消費支出PCEコア・デフレーターが、予想とほぼ同水準であったものの、引き続き前年同月比2.8%とFRBの目標の2.0%を上回っていたことで、材料が出尽くしからも下げ幅を広げている模様です。
しかし、5月の月間の価格動向を見るとLBMA価格ベースで、金価格はドル建てで1.7%強で、ポンド建て以外の主要通貨で上昇しており、銀とプラチナにおいては、金が3月から上げ幅を広げていた際に動きが弱かったことからも、今月は遅れを取り戻すように、それぞれ17%とほぼ12%と大幅な上げ幅となっています。ちなみに銀の月間上げ幅は、2020年12月以来の速いペースのものとなります。
今週は5月の月間の増減をそれぞれの貴金属、金においては主要通貨建て、そして他の主要金融商品と比較したチャートをお届けしましょう。日本円が対ドル弱含んでいることからも、円建て金価格は4.65%高と、3月の9.1%、4月の8.4%には及ばないまでも、顕著な上昇率となっています。
今週の金相場の動きと背景について
英国祝日明けの火曜日金相場は、引き続きFRB高官によるタカ派的コメントと国債入札が低迷であったことからも長期金利が上昇していましたが、ドルが若干下げていたことから、トロイオンスあたり2363ドルまで一時上昇して、2359ドルと前週終値から上昇して終えていました。
水曜日金相場は、ドルと長期金利が上昇する中で、2338ドルまで下げて終えていました。
この長期金利の上昇の背景は、今週行われていた米国債入札が不調であったこと、また、同日も行われたFRB高官のタカ派的スピーチ、そして同日発表の米地区連銀経済報告(ベージュブック)への警戒感等であったようですが、ベージュブックに関しては経済が大半の地域で拡大したという多少タカ派的ではあったものの、影響は限定的でした。
なお、同日の440億ドル相当の米7年物国債の入札は、前日の2年債と5年債に続き低調となっていました。
FRBの高官のコメントは今年投票権を持たないカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁で、これまでのように利下げの前にインフレが著しく改善するのを待つべきというコメントを繰り返していました。
そこで、同日米株価もS&P500種が5300を下回るなどと若干下げて推移していました。
木曜日金相場は、ロンドン時間午前中にトロイオンスあたり2323ドルと5月初旬の低さまで一時つけた後に上昇し、2344ドルと前日終値から上げて終えていました。
午前中の金価格の下げは、今週の米国債入札不調からも米長期金利が前日の5月初旬以来の高さを推移していたことから押し下げられていましたが、ロンドン時間昼過ぎに発表された米第1四半期GDPが前回速報値の1.6%から1.3%へ下方修正され、米個人消費支出が3.6%と若干ながら前回の3.7%から下げていたことで、経済低迷とインフレ鈍化でFRBの利下げ観測が多少広がり、長期金利が下げたことで金価格は押し上げられていました。
しかし翌日にFRBがインフレ指標として注目する米個人消費支出PCEコアデフレーターが発表されることから、警戒感からも上値は重くなっていました。
本日金曜日金相場は、市場注目の米インフレ指標がほぼ予想通りであったことで、発表後一時トロイオンスあたり2359ドルまで上昇していましたが、その後早い段階で上げ幅を失ってロンドン時間夕方には2326ドル前後まで下げて推移しています。
この米インフレ指標は、個人消費支出(PCEコア・デフレーター)で、前年同月比2.8%と前回と予想と同水準で、前月比は0.2%と前回と予想の0.3%を若干下回っていました。また、その後発表されたシカゴ購買部協会景気指数は35.4と前回の37.9と予想と41.0も下回り、2020年5月以来の低い数値となっていました。
そこで、発表後は長期金利とドルが弱含み、金は上昇に転じていましたが、FRBの政策を大きく変えるものではないという判断となったようで、再びドルと長期金利が下げ幅を削る中で、金は下げ幅を広げることとなりました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に5月21日のデータが発表され、米国の予想を下回る消費者物価発表後、LBMA価格で史上最高値をつけた際に、銀を除く全ての貴金属でネットロングポジションが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、12%増の603トンと増加し、価格はこの際3.1%高でトロイオンスあたり2427ドルとLBMA価格ベースで最高値。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、9.4%減の5863トンと2週ぶりに減少していたこと。価格は11.3%高のトロイオンスあたり31.64ドルと3週連続で上昇してLBMAの火曜日価格で2013年2月以来の高さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、5月7日の週以来ネットロングで8.5%増の32トンと1月初旬以来の高さへ強気ポジションを増加させていたこと。価格は3.8%高でトロイオンスあたり1054ドルとLBMA価格の火曜日価格で2023年5月以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、%5.4%減の34.9トンと4月下旬以来の低さへ減少していたこと。価格は6.1%高でトロイオンスあたり1030ドルと4月上旬以来の高さへ上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては全く変化がなく、832.21トンと5月14日以来の低さ。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.79トン(0.21%)減で380.67トンと2週連続の週間の減少傾向で、2020年3月20日以来の低さであること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで146.36トン(1.13%)増で12,869.86トンと2020年5月7日以来の低さで、週間の減少傾向であること。
- 金銀比価は、今週74台前半で始まり水曜日に73台後半と2021年11月以来の低さまで下げて、本日75台前半まで戻して終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1296ドルで始まり、木曜日に1286ドルと3月下旬以来の低さへ下げたものの、本日1311ドルへ上げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換し、68ドルで始まり、昨日89ドルと2017年6月以来の高さまで上昇したものの、本日79ドルへ戻して終える傾向。引き続き2017年9月以来の高さの水準。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が32.10ドルと人民元で最高値をつけていた翌週の4月半ば以来の高さへ前週の28.93ドルから上昇していたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は1%減で引き続き前週の史上最高値をつけた4月12日の週以来の高さで、銀も3%減でやはり前週の4月12日の週以来の高さ水準、プラチナは4%増、パラジウムは1%増で昨年11月末以来の高さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は5月3日から負の相関関係へ転換し-0.55と関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は5月15日から負の関係で本日は-0.55と関係をやはり弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は5月15日から正の相関関係で木曜日に0.80と今週その関係を若干弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は金曜日のFRBがインフレ指標として重要視する個人消費支出PCEコア・デフレーターに市場は注目し、FRBの政策金利利下げ時期観測で市場が動きました。
来週も、FRBの政策金利利下げの時期予想に絡む指標が重要となり金曜日の米雇用統計、その先行指標の水曜日発表のADP全国雇用者数、火曜日の米雇用動態調査(JOLT)求人件数、そして木曜日の欧州中央銀行の政策金利発表も注目イベントとなります。
詳細は主要経済指標(2024年6月3日~7日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年5月27日~31日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年6月3日~7日)来週の予定をまとめています。
- EV需要減速でプラチナの排ガス触媒需要は長期的に上昇
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、先週発表された7月に行われる総選挙の各党の選挙運動の様子、トランプ前大統領が大統領経験者として初めて有罪評決を受けたこと、また、米国とドイツが同国がウクライナに供与した兵器を使った限定的なロシア領攻撃を非公式に容認したことと、それに対してロシアがNATOと米国を批判したことなどが大きく伝えられています。
そこで、今週も英国総選挙関連のメディアが伝える与党保守党と野党労働党の選挙戦の話題をいくつか取り上げてみましょう。
与党保守党はスナク首相が今週火曜日に、18歳以上の国民を対象に、一年間の兵役もしくは警察や医療機関などの社会奉仕活動を義務付けると表明し、兵役復活と大きく伝えられていました。
しかし、発表後野党はもちろん、与党議員の中からも批判などが続き、その後対象者は兵役と奉仕活動のいずれかを選ぶことができ、兵役を希望した人は入隊試験に合格する必要があるために、徴兵制ではないと説明をするなど、選挙戦に向けてプラスの要因になりうるのか疑問が残るような内容となっています。
それに対し野党労働党においては、1987年に英国議会で初の黒人の女性議員となったダイアン・アボット議員が、昨年同議員が主要紙のアイルランド人、ユダヤ人、トラベラー(ジプシーのような人々)が直面する人種差別の記事で、彼らは黒人のような人種差別を経験していないと書いたことで、労働党がその内容を調査するまで党員停止処分を受けていましたが、7月の総選挙を前に労働党議員として出馬できるのかが未だ明確ではなく、アボット議員のサポーターと共に抗議運動を行っていることが大きく伝えられていました。
アボット議員はこの記事に関して即座に謝罪をしていましたが、一年を経て今週労働党には復帰できたものの、総選挙に出馬できるのかの結論が出ておらず、労働党本部の結論を前にアボット議員は抗議運動を開始していました。そこで、多くのアボット議員寄りの労働党議員が支持をし、副党首もまた労働党議員として出馬することに問題はないと述べる等、スターマ党首が来週の労働党内の全国執行委員会の議員選抜結果を待つというコメントに真っ向から対していました。
そこで、労働党首のスターマ氏も本日来週の結論を前に、アボット議員の出馬に問題はないという個人的コメントを発表しています。
与党と野党党首はそれぞれの選挙戦で思いもよらない党内の反発を受けることとなり、メディアはこのような選挙戦のドラマをここぞとばかりに伝えています。
今後の選挙戦では、それぞれの党のマニュフェスト等の党の政策にもう少しスポットライトが当たることを希望したいと思います。