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EV需要減速でプラチナの排ガス触媒需要は長期的に上昇

水素燃料電池需要に注目も、自動車業界は「懐疑的」となっている。
 
バッテリー式電気自動車の販売が世界的に減速していることから、自動車業界のプラチナとパラジウムの需要は堅調に推移していると、今年5月にロンドンで開催されたプラチナ・ウィークで専門家の意見が一致していた。
 
投資、宝飾品、工業用途のほかに、プラチナは現在、エンドユーザー需要の5分の2を、内燃機関から排出される有害物質を削減するための自動車触媒から得ている。この需要は、2015年の「ディーゼル・スキャンダル」によってディーゼル燃料乗用車の販売が打撃を受けたにもかかわらず、堅調に推移している。その理由は、排ガス規制が強化されたため、各自動触媒への金属装填量を増やす必要があったことに加え、ディーゼル・スキャンダルの後に起こったパラジウム価格の劇的な高騰によって、ガソリン・システムで姉妹金属のパラジウムがプラチナに取って代わられたためである。
 
白金族貴金属の内燃機関用自動車触媒需要 出典元 ジョンソンマッセイ
精錬と技術のスペシャリストであるジョンソン・マッセイ(LON:JMAT)の 新しい2024年需給レポートは、「将来の白金族金属需要の伸びは、環境と水素エネルギーのアプリケーションによって活気づけられるだろう」と述べている。
 
白金族金属(PGM)の旺盛な需要は、業界の供給サイドが新しい技術用途を発見し開発することに依存している。これは銅のような卑金属の生産者や金や銀の生産者が直面していない問題であると、米国の上場企業である鉱山会社Sibanye Stillwater (JSE:SSW)の南部アフリカ地域最高責任者であるRichard Andrew Stewart氏は同意している。
 
しかし、今のところ、ロンドンで開催されたプラチナ・ウィーク2024の参加者の間で、自動車市場におけるバッテリー・エレクトリックの普及拡大に関する質問が第1位であると述べている。
 
「もし2025年になっても、それがNo.1の質問であれば、私たち(白金族業界)は成功を収めることはないだろう。」
 
産業動向コンサルタント会社GlobalData(LON:DATA)のグローバル・パワートレイン分析ディレクターであるAl Bedwell氏は、火曜日の午後、ロンドン・プラチナ・パラジウム市場の会員を対象に、同業者団体の年次セミナーで、バッテリー・エレクトリックの販売がスローダウンし、過去10年間の3大主要市場における急激な成長と比べて「ほぼ0成長」だと講演した。
 
中国のEV販売台数は、GlobalDataの見通しでは2024年には11%の成長率にとどまる一方、米国は「つぎはぎ」の充電インフラに苦しみ続け、欧州はドイツの新規購入に対する政府補助金の「突然の廃止」によって打撃を受けている、とBedwell氏は述べていた。
 
世界の乗用車のバッテリー電気自動車市場の成長 出典元 GlobalData
 
「電気自動車への移行は 力尽きたのだろうか」と英国の放送局BBCは問いかけ、米国の上場メーカーであるテスラ(Nasdaq:TLSA)の販売台数の減少や、中国の大手BYDのEV販売の減速を指摘している。
 
「気候変動目標を達成するためには、もっと多くのEVを購入する必要がある」とBBCは続け、国際エネルギー機関(IEA)が世界の道路を走る電気自動車の数を今後10年間で10倍に増やすよう呼びかけていることを引き合いに出した。
 
採掘業界団体のワールド・プラチナム・インベストメント協会(WPIC)の 最新四半期需給レポートによると、「2024年にプラチナは、ディーゼルエンジンから排出される有害物質を削減するための自動車触媒に必要であり、ガソリンエンジンの自動車触媒に使用されるパラジウムの代替となるプラチナの需要が、2017年以来"最も強い年になると予測されている」という。
 
その上、WPICの今週の最新四半期レポートは、ドイツの精製グループHeraeusの報告書を作成するアナリストのSFAオックスフォードによる、データテーブルと予測において、水素エネルギー需要をより広い「その他産業」カテゴリーから独立した行として設定する動きに続いている。
 
専門アナリストのMetals Focusのデータを使用したWPICの予測では、2024年の工業用総需要は重量で15%減少し、昨年の化学工業とガラス工業の生産能力拡張が2024年に繰り返されないために、2020年のコロナ危機時の暴落以来、年間総需要が最低になると予測されている。
 
化学関連需要が33%減、そしてガラス関連需要が25%減としているのに対し、水素産業(燃料電池車を除く)の需要が128%急増するという予測は劇的と言えるだろう。しかし、2023年の114%増を考慮しても、今年の水素エネルギー部門からの総需要は、他の全工業部門における2024年の落ち込みの1/5以下しか相殺できないと予測されている。
 
GlobalData社のベッドウェル氏は、燃料電池乗用車の将来について「懐疑的」であり、火曜日のLPPMセミナー参加者に対し、生産台数が非常に少ないため、2024年に世界で生産されるFCEVはわずか12,000台にとどまるだろうと語った。
 
PGM精製と技術のスペシャリストであるジョンソン・マッセイ(LON:JMAT)は、2024年の小型水素燃料電池車の生産台数を50%増の1万5,000台と予測しているが、「補助金支援の欠如と水素補給インフラの持続的な不足(これが生産と販売の妨げになっているようだ)」のため、「ごくわずか」にとどまるとしている。
 
SFA Oxfordのデータでは、水素セクターのプラチナ需要が倍増した2023年と比べると、今年のプラチナ総需要は「伸び悩み」、わずか1/8しか増加せず、総需要は2.8トン未満にとどまると見ている。
 
Metals FocusのPGMフォーカスでは、2024年の水素需要は3.7トン程度と予測している。これに対し、鉱山からの供給は170トン、リサイクルからの供給は51トンとなっている。
 
WPICは、Metals Focusの数字について、「総供給量は、複数年にわたる減少傾向が続いており、2024年は、2013年からの時系列で最も弱い年になると予想される」と述べている。
 
Metals Focusは、 2023年の記録的な供給不足よりは小さいものの、2024年も需要に対するプラチナ現物供給の 深い供給不足を予想している。しかし、大量の在庫が「この供給不足の影響を相殺」するため、プラチナ価格は前年比横ばいにとどまると予想されている。
 
SibanyeのStewart氏は、ロシア以外のプラチナ族金属採掘の半数は、現在の価格では赤字であると述べた。しかし、生産量の減少だけでは価格は上昇しないとStewart氏は考えている。なぜなら、PGM市場は技術利用、関連法案、景気サイクルによって左右されるからためだ。
 
5月に金価格が史上最高値を更新し、銀価格がドル建てで2012年の水準に達するなか、プラチナはプラチナ・ウィーク中に1トロイオンスあたり1000ドルを超える12ヵ月ぶりの高値をつけたとはいえ、現在は2008年のピーク時の半分ほどの価格で取引されている。パラジウムは2022年の新年の記録から3分の2に下落している。

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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