金市場ニュース

ニュースレター(2024年5月17日)米インフレ鈍化でFRBの利下げ観測再燃で金価格は史上最高値に次ぐ高さへ

週間市場ウォッチ

今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2402ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から1.3%高で2週連続で上昇して、LBMA価格では史上最高値をつけています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から3.6%高のトロイオンスあたり29.68ドルとやはり2週連続の上昇で、LBMA価格では2013年2月以来の高さとなっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から7.8%高のトロイオンスあたり1067ドルと3週連続の上昇でLBMA価格では2023年5月以来の高さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から0.3%安でトロイオンスあたり991ドルと週間の下げとなっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、水曜日の予想を下回る米消費者物価指数(CPI)の発表で、インフレ鈍化からもFRBによる利下げが年内に行われるという観測が広がり、FRBの高官による早期の利下げに慎重なコメントの中でも、米株価指数が史上最高値をつけ、金相場も主要通貨で上昇をして、取引時間内価格ではドル建てでは史上最高値に次ぐトロイオンスあたり2418ドル、日本円では円が対ドル下げたことからもgあたり12,079円と史上最高値をつけています。

そこで、本日は主要通貨建て金価格の動きを指数化したチャートをお届けしましょう。日本円建て金相場がドル建て金価格の上昇と円安によって大きく上昇していることが分かります。ちなみに昨年末からのそれぞれの通貨建て金価格の上昇幅は、ドル建て金価格が15.6%、英ポンド建てが16.2%、ユーロ建てが17.9%、日本円建てが27.5%となっています。

主要通貨建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

そこで、銀価格は取引時間内の価格で11年ぶりの高値をつけ、プラチナ価格は今週プラチナ需給レポートで2年連続の供給不足が伝えられていることからも一年ぶりの高値をつけています。パラジウムは、ロンドン時間午後に3週間ぶりの高さまでは上昇していますが、8割がガソリン車の排ガス処理装置で使われることからも、将来的な需要減の警戒感からも上値は重い状況となっています。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日は金価格が今週の重要指標である水曜日の米消費者物価指数発表前に、前週金曜日にFRB高官が立て続けにタカ派的コメントを発していたことからも、前週に達したほぼ3週ぶりの高さから下げて、トロイオンスあたり2336ドルで終えていました。

火曜日金相場は市場注目の米卸売物価指数(PPI)がまちまちである中、トロイオンスあたり2355ドルと前日の下げ幅を削って上昇して終えていました。

ちなみに、同日発表の4月のPPIは前月比で0.5%上昇と、市場予想の0.3%を上回っていましたが、前月数値は0.2%から-0.1%へ下方修正されていました。

そこで、ドルインデックスと長期金利が下げていることに金価格は反応することとなりました。

水曜日金相場は市場注目の米消費者物価指数(CPI)がほぼ予想通り鈍化していたことでトロイオンスあたり2391ドルと3週ぶりの高さに上昇して終えていました。

CPIは前月比0.3%と前回と予想の0.4%を下回り、前年同月比も3.4%と前回の3.5%を下回り予想通りとなっていました。コアにおいても前月比0.3%と予想と同水準で前回の0.4%から下げ、前年同月比は3.6%と予想と同水準で前回の3.8%から下げていました。

また、米小売売上高は前月比0.0%で前回修正値の0.6%と予想の0.4%から下げ、自動車を除く数値も0.2%と前回修正値の0.9%から下げていました。

そこで、インフレと消費活動鈍化でFRBの利下げ観測が進み、長期金利とドルが4月初旬の水準に下げていたことが金を押し上げていました。

木曜日金相場は、米主要株価指数が前日に続き最高値を更新する中で、ドルと長期金利が前日の4月初旬以来の低さから上昇し、ロンドン早朝に3週半ぶりの高さのトロイオンスあたり2397ドルまで一時上げたものの、2377ドルへ下げて終えていました。

同日発表の米新規失業保険申請件数は前回修正値から下げていたものの予想を多少上回り、フィラデルフィア連銀製造業景気指数、米鉱工業生産は共に予想を下回っていました。

しかし、米FRBの政策金利決定メンバーが早期の利下げを否定するコメントを発していたことからも、ドルと長期金利が上昇して金価格を押し下げていました。

本日金曜日金相場は、ドル建てではロンドン時間午後に上げ幅を広げて、4月12日に達した史上最高値のトロイオンスあたり2431ドルに次ぐ高さの2418ドルを一時つけていました。

この背景は、水曜日の予想を下回る米CPI後、米FRBによる年内少なくとも1回の利下げの観測が、FRB高官のタカ派的コメントの中でも広がっていること、 本日中国が総合的な不動産支援策を発表したことによる中国需要への期待、また週末を前にイスラエルとハマス紛争やウクライナ戦争関連の地政学リスクもあり、ショートカバー等のポジション整理も進んでいる模様です。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に5月7日のデータが発表され、前週の予想を下回る米雇用統計後に、金を除くすべての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2.4%減の507トンと減少し、価格はこの際0.6%高でトロイオンスあたり2319ドル。

  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、3.4%増の5430トンと2週ぶりに増加いたこと。価格は2.3%高のトロイオンスあたり27.26ドルと2週ぶりに上昇していたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、2週ぶりにネットロングで8.5トンと強気ポジションを増加させていたこと。価格は3.8%高でトロイオンスあたり975ドルと上昇していたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、0.3%減の36.7トンと3月上旬以来の高さから若干減少していたこと。価格は3.7%高でトロイオンスあたり977ドル上昇していたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては1.44トン(0.17%)増で833.36トンと先月25日以来の高さで、2週連続の週間の増加の傾向。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.74トン(0.19%)増で381.76トンと週間の増加傾向で、5月8日以来の高さであること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで55.43トン(0.42%)減で13,046.06トンと4月19日以来の低さで、3週連続の週間の減少傾向であること。

  • 金銀比価は、今週83台前半で始まり本日80台前半まで下げて終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)

  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1341ドルで始まり、昨日1317ドルと3月末以来の低さへ下げて1322ドルへと若干上昇していること。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。

  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換し、本日77ドルと2017年9月以来の高さとなっていること。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。

  • 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が30.11ドルと3週ぶりの高さで、前週の29.50ドルから上昇していたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。

  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は11%減、銀は22%増で3週ぶりの高さ、プラチナは32%増で5週ぶりの高さ、パラジウムは27%増で12週ぶりの高さ。

  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は5月14日から負の相関関係へ転換し-0.52と関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は5月15日から負の関係で本日は-0.53と関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は5月15日から正の相関関係で木曜日に0.23と今週その関係を強めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週市場は水曜日の米消費者物価指数に注目をし、インフレ軟化でFRBの政策金利の早期の引き下げ観測が広がり、発表後に大きく動くこととなりました。

そこで、来週の重要イベントはFRBの利下げタイミングの観測に絡み水曜日発表の前回FOMCの議事録となりますが、木曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI、金曜日の米耐久財受注なども重要となります。

詳細は主要経済指標(2024年5月20日~24日)ご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週月曜日の時事通信社の〔NY金分析情報〕ポジション調整の売りに軟調=上げ一服、15日の米CPIに注目で弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。

この記事では、弊社の先月の金投資家インデックスのデータからの欧米投資家の金投資が、3月に大きく落ち込んだ後4月に急回復したことを紹介し、その投資家行動の背景として「アジア、特に中国の投資家や貯蓄家の金需要が強い。ウクライナとガザでの戦争が、大国間の地政学的・金融システム上の緊張を悪化させる中で、新興市場の中央銀行も金準備を増やし続けている」と指摘していると伝えています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続きイスラエルのラファ全面侵攻の可能性、激化するウクライナ戦争が大きく伝えられていますが、野党労働党のスターマ党首が、来年1月までに実施される総選挙を前に主要政策を発表し、それを批判するスナク首相のコメント等が伝えられています。

そのような中、世界のプラチナ業界関係者がロンドンに集まるプラチナウィークが行われ、私も参加してきましたので、その様子をお伝えしましょう。

プラチナウィークは毎年5月の第2週に行われていますが、主となるイベントは火曜日のロンドン・プラチナ・パラジウム市場(LPPM)が主催するセミナー、そのカクテルパーティー、そして水曜日のディナーとなりますが、月曜日からの3日間は、多くのプラチナ関連会社やリサーチ会社がネットワークイベント、需給レポートのローンチ、ランチやディナーを主催します。

私は月曜日に行われたプラチナ業界で働く女性の会の(Women in PGMs:WiPGMs)のブレックファーストミーティング、Metals Focusのプラチナ需給レポートのローンチのネットワーキングイベント、火曜日のLPPMのセミナーとカクテルパーティーに参加してきました。

WiPGMsは、プラチナウィークのキックオフミーティングとなりますが、「サステイナビリティ、カーボンニュートラル、チェーン・オブ・カストディーが、企業の投資戦略や製品開発戦略にどのような影響を与えるか」という議題で、PGMs関連企業に投資をするファンド会社AP Venturesの会長、PGMsを含む工業資源を取り扱うAnglo Americanのサステイナビリティ関連のマネージャー、グリーン水素のリサーチ及び開発を主としているJolttech Solutions の研究主任がパネリストとして、それぞれの立ち位置からサスティナビィティの観点からのPGMsの将来について話し合われました。このミーティングは、常にパネリストは全て女性となっていますが、昨年からは、より多くの女性がこの業界へ入り活躍するためのメンター制度も導入しており、昨年この制度に参加した女性の7名すべてはより自分の希望する分野や役職に就くことができたとのこと。

Metals Focusのネットワーキングイベントは、参加者のみが持ち帰ることができる需給レポートも目当てに多くのリサーチャーやプレス関係者も参加しますが、翌日のLPPMのイベントを前に世界の業界関係者と親睦を深めることができる常に人気のあるイベントで、開催場所のレストランの中で一時は動きが取れないほどの人々が集まっていました。

翌日のLPPMのセミナーは今回は、第一部で南アフリカで鉱山会社関係で22年間勤めている地質学者でもあるSouthern Africaの地域代表が白金族業界の今後をリスクと機会に観点を置いて話し、リサイクル会社のHensel Recycling社のマネージングディレクターは、PGMsグループメタルの二次市場の今後をリサイクルの観点から解説していました。

第2部ではプラチナグループメタルの供給先である自動車業界を代表してBMWのストラテジストが、限られた資源や産出地を持つレアメタルを含めて同社の長期的動きについて、そして、最後のスピーカーはエネルギーや電気自動車等のリサーチ会社であるGlobalData社の代表が、自動車業界のEV車、ハイブリッド車、燃料電池車等の現状と将来について講演を行いました。

昨年までは、プラチナの水素エネルギー等の再生可能エネルギー需要への期待が大きく感じられていましたが、今年は白金族が供給不足にもかかわらず長期で価格低迷をしていることから、そして金利の高さからローンを抱えて新車を購入する需要が減少しているとのことで、リサイクル業界もその影響を感じていること、また水素エネルギーへの期待はあるものの、かなり先の話であるといったダウンビートな内容で、参加者からもプラチナ価格がもう少し上がってくれればというコメントが多く聞こえていました。

しかし、白金族の需給レポートが今週多くの会社から発表されて、供給不足がニュースになっていたことからも、プラチナ価格が今週火曜日から上昇して昨年6月以来の高さへ上昇していたことは、多少明るいニュースとはなっていたようです。

フォートナム・メイスンで行われたWiPGMsのブレックファーストミーティングとギルドホールで行われたIPPMのカクテルパーティーの写真を添付します。

プラチナウィークのブレックファーストミーティング 出典元 ブリオンボールト

プラチナウィークカクテルパーティー 出典元 ブリオンボールト

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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