ニュースレター(2023年6月2日)FRBの利上げ一時停止観測と経済停滞懸念の金価格の上昇を良好な米雇用統計で削る
私は来週から休暇と仕事で一月英国を留守にしますので、来週からのニュースレターは、英国からのニュースを除く簡易版となることをご了承ください。
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1963ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.8%高と2週ぶりの週間の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から3.2%高のトロイオンスあたり23.89ドルと3週ぶりの週間の上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.6%安のトロイオンスあたり1008ドルと3週連続の下落で4月半ばの低い水準となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は1.3%高のトロイオンスあたり1423ドルと3週連続の下げで4月上旬の低さとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、安全資産とみなされる金とその価格に連動する傾向のある銀と、工業用途の割合が高いプラチナとパラジウムは異なる動きをすることとなりました。
本日は良好な雇用統計で今週の金と銀の上げ幅を若干失っていますが、金と銀はそれぞれ2週と3週ぶりに週間の上げ傾向となっています。
これは、米債務上限協議が合意され、法案も可決される中で、すでにこの結果を織り込んで下げていた金と銀価格は、FRB高官の6月利下げ一時停止のコメントや製造業関連の経済指標悪化からも景気後退の懸念などからも、ドルと長期金利が下げて上昇をすることとなりました。
なお、プラチナとパラジウムは、中国の経済指標の製造豪PMIが予想を下回り、好不況の境目である50も下回っていたことで、押し下げられることとなりました。
今週のチャートは、FEDWatchツールの6月のFOMCでの政策金利予想ですが、前週の6割強が利上げで3割強が据え置きから、今週は6割強据え置きで、3割強が利上げとほぼ逆転していますので、そのチャートを下記に添付します。
今週の金相場の動きと背景について
米国と英国の祝日明けの本日金相場は、ドルインデックスと米長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり1963ドルへと上昇後、1959ドルで終えていました。
長期金利の下げは、バイデン大統領とマッカーシー共和党下院議長が27日に連邦政府の債務上限問題を巡って合意に至ったことで、最もリスクが高いとされていた6月上旬満期の国債の利回りが下げたことが背景となりました。
なお、先の債務上限協議の合意については、ほぼ価格に織り込まれていたことからも、このニュースの金価格への影響は限定的となっていました。
水曜日金相場は、ドルが強含む中で長期金利は前日比下げ、トロイオンスあたり1974ドルまで上昇後に1966ドルで終えていました。
同日は、アジア時間に発表された中国の製造業PMIが48.8と市場予想の49.7を下回り、経済の縮小と拡張の境目の50も下回っていたことで、中国経済回復への懸念、そして発表された米雇用動態調査(JOLT)求人件数が1010.3万件と予想の937.5万件を上回り、FRBによる利上げ観測も広がり、景気後退懸念で株価が全般下げて、リスクオフとなっていることが背景となっていました。
また、今週土曜日からのFRB高官がコメントを控えるブラックアウトを前に、多くの高官が発言し、6月のFOMCで金利据え置きをして状況を判断後、再び利上げを行うことを検討が示唆されたことも、長期金利を押し下げてようです。
そのような中、日本円対ドル下げていたことで、日本円建て金相場はgあたり8868円と5月初旬の高値まで上昇していました。
木曜日金相場は、ドルインデックスと長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり1977ドルと前週の下げ幅を取り戻して終えていました。
同日は翌日の米雇用統計の先行指標と見られているADP雇用統計が発表され、27.8万人と前回修正値の29.1万人を下回っていたものの、予想の17万人を上回っていました。また、新規失業保険申請件数は23.2万件と、前回修正値23万件を上回って、予想の23.5万件を下回っていました。
しかし、米製造業PMIとISM製造業景況指数は、共に50を割って予想を若干下回り、雇用市場の根強さを示唆しながらも、経済がスローダウンしていることも示唆しており、FRBによる金融政策予想が難しいながら、前日FRB高官数人が6月の利上げ停止に言及したことで、ドルと長期金利は下げていた模様です。
しかし、6月の利上げ停止はFRBの中でコンセンサスが取れつつあるとしながらも、7月以降の利上げの可能性は、FRB副議長候補のジェファーソン氏は残し、そして、ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁は、米雇用統計のデータ次第とも述べていました。
そこで、FEDWatchツールでは、6月のFOMCでは7割強が据え置き、3割弱が25ベーシスポイントの利上げと、1週間前の利上げが5割強の予想から変化していました。
本日金曜日金相場は、米雇用統計発表後にドルと長期金利が上昇し、トロイオンスあたり1965ドル前後へ下げて推移しています。
本日発表の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が33.9万人と予想の19万人と前回修正値の29.4万人を上回り、失業率は3.7%と前回の3.4%と予想の3.5%を上回りっていました。また、平均時給は前月比0.3%と予想と同等で、前回修正値の0.4%も下回り、前年前月比は4.3%と前回と予想の4.4%を下回っていました。
そこで、米経済が堅固で賃金インフレが大きく改善されていないとの判断の模様で、FRBの6月利上げ一時停止観測がFEDWatchツールで前日のほぼ8割から6割強へと若干後退していることがドルと長期金利の上げの背景のようです。
なお、昨夜米上院も政府の債務上限の効力を停止する財政責任法案を可決し、米国のデフォルトが回避される見通しは、ほぼ価格に織り込み済みということで、株価は全般上昇していますが、金市場への影響は限定的になっています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの5月23日分が発表され、前日にタカ派的FRB高官のコメントで下げていた金価格が多少戻していた際に、金と銀は強気ポジションを減少させ、プラチナは強気ポジションを増加させ、パラジウムは2週連続で弱気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から11%減で365トンと3週連続で減少して3月21日の週以来の低い水準であったこと。この間建玉は、6.1%減と2週ぶりに減少し、価格は前週比1.9%安でトロイオンスあたり1969.20ドルと下落していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは2週連続で減少し、前週比2%減の2049トンと3月28日の週以来の低さ。価格は2.7%安でトロイオンスあたり23.15ドルと2週連続で下げて3月28日の週以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、12.7%増で34.68トン。価格は前週比0.37%安でトロイオンスあたり1066ドルと2週連続で下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、2.97%減の2.97トンと2週連続で減少していたこと。価格は前週比4.01%安でトロイオンスあたり1460ドルと2週ぶりの低さへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で3.2トン(0.3%)減で938.11トンと、2週連続の週間の減少の傾向。5月は月間で13.3トン(1.4%)増で、2023年は2回目の月間の増加。年間では5月末までに21.9トン(2.95%)増。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.5トン(0.11%)減で455.20トンと、3週間ぶりの週間の下げの傾向。5月は月間で2.3トン(0.5%)増で2ヶ月連続の増加で、年間でも6.6トン(1.5%)増。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で40トン(0.3%)減で14,526トンと、3週連続の減少傾向。5月は月間で10.3トン(0.07%)減、年間では14.7トン(0.3%)増。
- 金銀比価は、今週83台半ばで始まり、本日82台と5月半ばの低い水準へ下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、915ドルで始まり、本日961ドルまで上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、403で始まり、翌日380と5月初旬以来の低さまで下げたものの本日392へ上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が5月半ば以来の高さへ上げる中で、週間の平均では14ドルと前週の8.6ドルから上昇して3月末以来の高さ。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、前週平均比金は17%減で4週ぶりの低さ、銀は29%増で4週ぶりの高さ、プラチナは37%増で9週ぶりの高さ、パラジウムは62%減で3週ぶりの低さ。
来週の主要イベント及び主要経済指標
債務上限を2025年1月まで停止する法案が水曜日米下院、木曜日に上院で可決されたことから、市場は再び6月半ばに行われるFOMCとそれ以降の政策金利の動きとそれに影響を与える経済指標へ注目することとなります。
そこで、来週は月曜日の主要国のサービス部門PMIと米ISM非製造業景況指数、水曜日の中国の貿易収支、木曜日の米新規失業保険申請件数等が重要となります。
なお、今週もFRB高官のコメントが市場を動かしていましたが、今週土曜日からFRB高官がコメントを控えるブラックアウトの期間に入ります。
詳細は、主要経済指標(2023年6月5日~9日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年5月29日~6月2日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年6月5日~9日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、未だ続いている電車のストライキについて、ウクライナ戦争の状況について、コロナ危機下の政府対応を調査している委員会からのジョンソン元首相と関係者の証拠提出に関して、そして14年ぶりに大きく下げている住宅価格等が大きく伝えられています。
そこで、今週は英国の住宅事情についてご紹介しましょう。
今回の住宅価格の下げ幅は、前年比3.4%で2009年7月以来の最大の下落率とのことです。
そして、これは英中銀のイングランド銀行が高インフレに対応するために、政策金利を2021年末のほぼゼロ金利から4.5%へと急激に引き上げ、2年固定金利の住宅ローンが平均金利が一年前の3.25%から5.49%へと上昇した等、住宅ローン金利の上昇が背景にあるとのことです。
そこで、高い住宅ローンの金利の支払いから、住宅ローンの借入額がコロナ危機でロックダウンが入っていた2020年4月を除いて、過去最低の水準となっていることからも、住宅需要が激減していることで価格が下落しているようです。
とは言っても、Nationwideによると英国の住宅の平均価格は260,736ポンド(約4500万円)で、ロンドンに限って言うと、Halifaxによると昨年の平均価格は526,842ポンド(約9160万円)と前年比0.9%下げたとは言え、かなり高い水準となっています。
これは、当然需要が供給を上回ってきているためですが、多くの経済学者は、供給不足よりも銀行の融資に問題があり、また地価が高いために社会的住宅(低所得層向けの住宅)の建設が少なくなっていることとも指摘しています。
不動産融資と不動産価格の関係は、不動産融資が行われることで、信用が供給され、信用需要が高まり、住宅ローンが増加し、不動産価格が上昇するというサイクルを生み出すということ。そこで、過去数十年、英国では不動産は下がらないものという不動産神話ができており、価格の高騰を起こしているようです。
しかしそれに対し、住宅ローンを返済できる人が少なくなると、貸出が止まり、不動産市場が下落する観測が広がり、価格が下げるという逆のサイクルが起こるとのこと。
そのような中で、近年の不動産価格高騰と、パンデミック後に在宅勤務から週3日のオフィス出社が定着する中で、ロンドンへ戻ってくる人々が増加して、供給と需要のバランスが崩れて賃貸価格はいまだ高騰して4月に最高値をつけています。
ロンドン中心部の月額平均価格は3138ポンド(約55万円)で、ハウスシャアをした場合の一部屋でも1000ポンド(約17万円)とのこと。
今回の不動産の売買価格下落が、賃貸価格を下げることになるかはやぶさかですが、ロンドンの不動産市場がより手頃な価格水準へと下げる始まりなのかを注目したいと思います。