金市場ニュース

ニュースレター(2022年9月30日)英国金融市場混乱の中で金価格は週間で上昇

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1670ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.6%高と2週ぶりの週間の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.1%高のトロイオンスあたり19.02ドルと上昇しています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.1%安のトロイオンスあたり864ドルと2週連続の週間の下げとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は5.2%高のトロイオンスあたり2207ドルと2週連続で上昇しています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週は英国発のポンド安と債券価格安(利回り高)が発端となった、ドル高と米長期金利高でドル建て金相場は一時2年半ぶりの水準まで下げる中、ポンド建て金価格は史上最高値をつけていました。

英国発となった危機については、「英国政府の小型補正予算がなぜ英国国債市場を混乱に陥れたのか」で詳しくまとめていますが、財源なき英補正予算のためのさらなる借入金の規模への懸念の高まりが、英国債売りとポンド売りを起こし、IMFの警告がその動きを加速させ、イングランド銀行が介入せざるを得なくなるまでの嵐となっていました。

しかし、先週金曜日からの大きな動きへの自律的反発もあり、ドルと長期金利が若干下げているものの高止まりする中で、本日貴金属はほぼ堅調な動きを見せています。

ちなみに、本日は月末、四半期末となりますので、ポートフォリオの調整による動きもあるとも考えられます。

そこで、本日は貴金属の9月の月間の価格の動きを他の資産と比較してみましょう。

貴金属と主要資産の9月の月間の価格の変化の比較 出典元 LBMA等のデータをもとにブリオンボールトが作成

ここで、今月長期金利が急騰し、ドルインデックスの上げ幅がほぼドル建て金価格と相対的であることが分かります。そのような中で、金と並びドル建て資金の代表的な原油が、景気後退の懸念などからも大きく下げていることも分かります。

そして、今月共に中央銀行が市場介入した対ドル大きく下げた日本円と英国ポンド建て金相場は、堅調に推移していることも見ることができます。

日々の金相場の動きと背景について

週明け月曜日は、ポンドが対ドル史上最低値を付けたことで、ドルインデックスが20年ぶりの高値を再更新し、ドル建て金相場はロンドン時間早朝にトロイオンスあたり1627ドルと2年半ぶりの低値を付けていました。

このポンド安ショックが同日は他の金融商品にも及び、世界株価とコモディティ価格はほぼ全般下げることとなりました。

なお、ポンド安は前週金曜日に英国政府が発表した減税を含む小型補正予算による財政懸念、国債大量発行への懸念がある中で、週末クワーテング財務相がさらなる減税に言及したことが背景となっていました。

また、イタリア選挙で右派が勝利したことによる懸念も先の金融市場のセンチメントを悪化させていました。

そこで、ポンド建て金価格は今年3月のウクライナへのロシア侵攻時につけた史上最高値を上回るトロイオンスあたり1580ポンドをつけていました。

火曜日金相場は、市場が前日のポンド安ショックから落ち着く中で、ドルインデックスが20年来、米長期金利がほぼ14年ぶりの高さから若干下げたことで、ロンドン昼過ぎにトロイオンスあたり1648ドルまで上昇したものの、その後長期金利が再び4%へ向けて上昇したことで上げ幅を失って1629ドルで終えていました。

この背景は、セントルイス連銀のブラード総裁が2%の物価目標を緩和すればFRBの信用が失墜し、「世界中に混乱をもたらす」と述べたこと、また同日発表の米耐久剤受注、消費者信頼感指数、リッチモンド連銀製造業指数、新築住宅販売件数等も予想を上回り、FRBがより長期の利上げをすることが可能という観測が広がることとなりました。

水曜日金相場は、ロンドン時間早朝に20年来の最高値をドルインデックスが更新したもののその後下げ、米長期金利が2010年来の高さの4%を超える水準から下げたことで、トロイオンスあたり1662ドルへと一時上昇していました。

この早朝の動きは、IMFが英国の減税政策に警告をしたことで、ポンドが史上最低値を更新し、30年物国債利回り20年ぶりの高さの5%を超える水準へ急騰したのですが、この急激な動きを受けてロンドン時間昼前に英中銀が市場の安定のために長期国債購入を同日から行うことを発表したことで、英国債利回りが下げてポンドが強含んだことで、米長期金利も下げて米ドルが相対的に弱含み金を上昇させる背景となっていました。

英中銀の国債購入は10月14日まで量を限定することなく続くとのことで、一部メディアはその間に英国政府が何らかの措置を行うという観測も出していましたが、同日夕方に英国政府は補正予算を取り下げることはないと発表していました。

木曜日金相場は、金融市場が前日のイングランド銀行の介入で下げたドルインデックスが引き続き下げ、前日下げていた米長期金利は多少上昇する中で、トロイオンスあたり1664ドルと上昇して終えていました。

同日トラス英首相は補正予算の撤回は無いと述べ、また同日発表された新規失業保険申請件数は予想を下回ったこと、そしてセントルイス連銀のブラード総裁が、「投資家は今後の追加の利上げから逃れないことを理解したはずだ。」とタカ派的コメントをしていることも、FRBによる継続的な金利引き上げ観測が広がる中で長期金利は上昇していました。

しかし、イングランド銀行が今後必要であれば日々最大50億ポンドの国債購入を行うというスタンスはポンド安の歯止めとはなっているようで、ドルインデックスが下げていました。

本日金曜日金相場は、ドルと米長期金利が弱含む中で一時トロイオンスあたり1675ドルへと上昇したものの、ロンドン時間午後に発表されたFRBが注目するインフレデータが予想を上回り、前日終値の1664ドルまで下げてロンドン夕方に推移しています。

このデータとは米個人消費支出(PCE)物価指数で、エネルギーと食品を除くコア指数が前月比0.6%上昇と前月の0%から伸びが加速していました。

また、本日ブレイナードFRB副議長が、借り入れコスト上昇が世界的な金融安定に与えるリスクを警戒する必要性を認めながらも、インフレ抑制のために政策金利をしばらく高く維持する必要があると述べたことが背景となっていました。

一週間のドル建て金価格チャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週20 日火曜日に翌日のFOMC後の発表を待つ中で、金を除くすべての貴金属で弱気ポジションが減少していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションのネットポジションは6週間のネットロング後、前週のネットショートを継続して、225%増の102.5トンと2018年11月27日の週以来の高さとなっていたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比2.4%安で2020年4月以来の低さとなっていたこと。建玉は前週比4.3%増であったこと。
  • コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、12週連続でネットショートで5%減の1103トンと、2週連続の減少で4週ぶりの低さとなっていたこと。この間LBMA銀価格は3.1%安となっていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、15週連続のネットショートで、そのポジションは81%減の3.1トンと2週連続で減少して14週ぶりの低さとなっていたこと。。LBMA PMプラチナ価格は4.4%高と4週ぶりの高さ。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは2週連続のネットロングで310%増の0.9トンで、LBMA PM価格は0.23%高で5週ぶりの高さ。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに6.1トン(0.6%)減で941トンで9週連続の週間の減少で、昨日2週ぶりに0.03%増加しているものの、2020年3月24日以来の低さであること。週間の増加は6月17日の週以来無く、月単位では5ヶ月連続の減少傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに9トン(1.9%)減で479トンと2020年7月23日以来の低さで、5週連続の減少傾向であること。月単位でも5ヶ月連続の減少傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに8.6トン(0.06%)減の14,958トンと、3週ぶりの週間の減少傾向となっていること。月単位では4ヶ月ぶりに加傾向。
  • 金銀比価は、今週火曜日に87台へ下げた以外は88台と銀の割高傾向へ上げて9月12日の週以来の高さを維持していること。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週700台後半へと上昇し、本日は791と2週ぶりの高さへ上げていること。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週1227ドルで始まり、昨日1301ドルと8月12日以来の高さへ上げていること。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。
  • 上海黄金交易所(SGE)の週平均は、前週の41.40ドルから43.23ドルへと上昇し2016年以来の高さ。この間人民元建て価格が8月末以来の高さへと上昇し、人民元が対ドルで2020年7月以来の低さの水準へ下げている中で堅固な動き。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は17%高で10週ぶりの高さ、銀は16%高で4週ぶりの高さ、プラチナは8%減で前々週以来の低さ、パラジウムは27%増で2週ぶりの高さ。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は英国政府の補正予算が発端となったポンド安、債券安が市場を揺るがしていますが、来週は米雇用統計が発表され、この内容でFRBの金融政策の観測が動きますので重要指標となります。
その他、月曜日の主要国PMIと米ISM製造業景況指数、水曜日の主要国サービス部門PMIと米ADP雇用統計、木曜日の米新規失業保険申請件数等へも市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2022年10月3日~7日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

ブリオンボールトは5月20日から今週末10月2日まで大英図書館で行われている「金(Gold)」のエキジビションのスポンサーをさせていただいています。ご興味があれば下記のリンクでご覧ください。

http://bl.uk/events/gold

今週金相場が大きく動いたことで、主要メディアで弊社リサーチダイレクターのコメントが取り上げられています。

ブルームバーグ

木曜日金が米国のデータで上げ幅を多少失ったことを伝える記事で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュは、木曜日の米国の第2四半期コアPCEや新規失業保険申請件数等の主要経済データが良好であったこと、そこでFRBによる継続的な利上げ観測が広がり、長期金利が上昇していることに注目し、「実質金利上昇は金にとっては強い向かい風となる」と述べています。

MarketWatch
金価格が今週一週間ぶりの高値をつけたことを伝える記事でエィドリアンは、「金は今後もドルの動きに左右されることになる。」と英国の補正予算を発端として大きく動いた為替市場が今後も要注意となると述べています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では市場を揺るがした先週金曜日の小型補正予算とその後の市場の反応とイングランド銀行の介入、ウクライナ情勢などについてがトップニュースで伝えられています。

英国政府の補正予算への市場の反応は先の貴金属市場の動向でもまとめていますので、今週はチャールズ新国王の「ロイヤルサイファー(紋章)」やコインの肖像画が発表されていましたのでお伝えしましょう。

チャールズ国王のロイヤルサイファー(紋章)

この「C」はチャールズ「R」はラテン語の国王を意味する「Rex」で「III」は3世を表しているとのこと。これは、王室の服喪が終わる27日から使用される予定で、バッキンガム宮殿の郵便室で王室からの書簡でまず使われる予定とのこと。

ちなみに、この王冠のデザインはイングランドのもので、スコットランドで使われるロイヤル・サイファーにはスコットランドの王冠が載っているとのこと。

また、現存の郵便ポストでは引き続きエリザベス女王のロイヤル・サイファーが使われ、取り替える必要が生じた際にのみチャールズ国王のロイヤルサイファーとなるとのことです。

そこで、イギリスにある7万基の郵便ポストのうちエリザベス女王の治世に設置されたものは全体の60%とのことで、ヴィクトリア女王やエドワード7世、ジョージ5世、ジョージ6世時代の郵便ポストも現存しているとのことですが、短い在位で1936年に退位したエリザベス女王の伯父にあたるエドワード8世の時期のものは170基のみとのこと。

また、記念コインとして発売される5ポンドコインと50ペンスのチャールズ国王の肖像画入のものは下記のように発表されています。

チャールズ国王のコインのデザイン

現在使われている紙幣や硬貨は引き続き使用が可能とのことですが、チャールズ国王の描かれた紙幣のデザインは年末までにイングランド銀行が発表し、流通は来年半ばからとのこと。

英国の郵便ポストの40%がエリザベス女王のロイヤルサイファー入ではないものというのは、今回初めて知りましたので、これからは気をつけて他の君主のロイヤルサイファー入のポストも見つけてみようと思います。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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