ニュースレター(2022年7月8日)20年来のドル高の中、金はサポートラインを割ることで9ヶ月ぶりの低値へ下げる
週間市場ウォッチ
今週水曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1738ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から3.3%安と、4週連続の下げで昨年9月以来の低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から2.7%安でトロイオンスあたり19.20ドルと6週連続の下げで2020年7月以来の低さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.1%高のトロイオンスあたり881ドルと4週ぶりの上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は7.5%高のトロイオンスあたり2057ドルと3週連続の上昇で2ヶ月ぶりの高さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金、銀相場は大きく下げる中、プラチナとパラジウムは上昇することとなりました。
金と銀の下げは、早い利上げ観測が広がり、ドルが20年来の高さへ上昇する中で、ドル建て資産は通常負の相関関係にあることからも、この貴金属は下げが下げを呼ぶこととなったことが背景のようです。
また、コンピュータープログラム等で行われるアルゴリズム取引で大量の売りがでたという観測もありますが、今週金と銀ののETFは残高を減少させて、銀の最大銘柄のiShareシルバーの週間の減少量はほぼ16ヶ月で最も大量で、2年ぶりの低さとなっていますので、センチメントも悪化しているということかとも思われます。なお、金よりも市場規模が小さい銀はボラティリティが大きくなりがちですが、金銀比価が今週2年ぶりの高さ(金に対して銀が割安)に上昇していました。
つまりは、金融市場で言われる「Don't try to catch a falling knife(落ちるナイフを止めようとするな)」という言葉のように、市場は下げきるのを待つということではあるようです。
アナリストは、ドル建てベースでは、2020年の夏に2000ドルを超えて以来重要な水準とされる1690ドルが次のサポートラインとしていますので、これが守られなかった場合、さらなる下げが起こる可能性があるようです。過去5年間の金価格の動きのチャートを下記に添付します。ここで、1690ドルを割ったところで戻していることを見ることができ、サポートラインを築いているのが分かります。
そのような中、プラチナとパラジウムは上昇しており、プラチナは景気後退による需要減少懸念がある中で、工業大国の中国が購入を進めている可能性があるとも分析されています。
また、パラジウムはロシアが世界の産出分の4割を占めていますので、長期化するウクライナ戦争による供給懸念がじわじわと広がり上昇している模様です。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、米国が独立記念日の祝日で休場の中、狭いレンジでの取引で前週終値を多少下回るトロイオンスあたり1809ドルで終えていました。
火曜日金相場は、世界株価が軒並み下げる中で、ドルインデックスが20年来の高さへ上昇し、トロイオンスあたり1769ドルと、2021年末以来の低さへと下げて終えていました。
株価の下げはロシアからの天然ガスの供給懸念で欧州のエネルギー高が景気減速につながるという味方が広がり、欧州株とユーロが大きく下げたことで米株価も当初下げて始まり、ドルも相対的に上昇していたことが背景となっていました。
水日金相場は、前日に続きドルインデクスが20年来の高さへ上昇する中で、トロイオンスあたり1740ドルと2021年9月末以来の低値へと下げて終えていました。
前日の大きな下げを誘った欧州株価は、バーゲンハンター的買いが入り上昇していたものの、為替市場でドルが一人勝ち状態であったことから、ドル建てで値がつけられている金などのコモディティ価格が押し下げられることとなりました。
なお、同日はニューヨーク時間に前回のFOMCの議事要旨が発表され、景況悪化も恐れず大幅利上げを強行する姿勢が確認されたことで、景気後退を示唆するとされている長短国債利回りが逆転する逆イールドが4月以来初めて起きていました。
そのような中で金が押し下げられているのは、速いペースの利上げ観測、それによるドルの強さですが、アルゴリズム取引による大量の売りとも分析されていました。
木曜日金相場は、ドルインデックスが20年来の高さで高止まりする中で、前日までの下げ幅をほぼ維持して狭いレンジで動き、多少ながら上昇してトロイオンスあたり1741ドルで終えていました。
金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は37.2万人と予想の26.8万人を上回り、失業率は予想と前回と変わらず3.6%、平均時給は前年比5.1%と予想の5.0%を上回ったものの、前回修正値の5.3%は下回っていました。
このデータ発表後米長期金利が再び6月末に達した3年半ぶりの高水準と、とドルインデックス20年ぶりの高さへ上昇したことで、トロイオンスあたり10ドル弱下げることとなりましたが、その後下げ幅を取り戻し、ロンドン時間午後に1742ドル前後で推移しています。
なお、昨日FRB高官二人が、高インフレを抑制するために7月の0.75%の利上げを支持すると述べたことが伝えられており、本日の非農業部門雇用者数と平均時給が予想を上回ったことで、より速いペースの利上げ観測が広がっている模様です。そのような中、金は今週大きく下げたこともあり、ある程度のサポートが入っている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週28日火曜日に、FRB高官のコメントで速いペースの利上げ観測が広がり貴金属価格が下げる中でパラジウムを除く貴金属は弱気ポジションを増加させていたこと。 -
コメックス金の先物・オプションのネットポジションは25%減の145トンと2021年9月28日の週以来の低さへと再び減少していたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比1.2%安。建玉においては、前週比2.7%減。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、87%減で154トンと前週の5月3日の週以来の高さから下げていたこと。この間LBMA銀価格は2%安。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションは、3週連続のネットショートで、そのポジションは150%増の15.8トン。LBMA PMプラチナ価格は1.4%高。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは14週連続でネットショートで、3.3%減の8.3トンと前週の1月18日の週以来の大きさから減少。この間LBMA PM価格は0.5%安。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに17.5トン(1.7%)減で1024トンと2月22日の週以来の低さで、3週連続の週間の減少傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに2トン(0.4%)減で508トンと、3月10日の週以来の低さで、6週連続の残高減少傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに541トン(1246%)減の16,227トンと、週間の重量ベースの減少量は2021年3月8日の週以来の大きさで、2020年7月16日の週以来の低さで、9週連続の減少傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週水曜日にほぼ92と2年ぶりの高さへ上昇後、本日は91へと下げていること。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週火曜日に2ヶ月ぶりの高さの930へ上昇後、本日は870まで下げていること。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。 -
プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週1070ドルで始まり、本日一月半ぶりの高さの1134ドルへと上昇していること。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。 -
上海黄金交易所(SGE)の週平均は、前週の4.16ドルのプレミアムから今週は4.30ドルと1月28日の週以来の高さへ上昇。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。 -
コメックスの先物・オプションの取引量は、価格が全般下げる中で金を除く貴金属全てで前週比減少し、金は5ヶ月ぶりの高さ。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は主要中央銀行のより速いペースの利上げによる景気後退懸念による20年来のドル高で多くの金融資産が下げると共に、貴金属も大きく押し下げられています。
そこで、来週も主要中央銀行の金融政策に関わる可能性のある指標へ市場は注目することとなります。
それは、水曜日の中国の貿易収支、ドイツと米国の消費者物価指数、木曜日の米国卸売物価指数、金曜日の中国のGDP等の主要指標、米国の小売売上高、鉱工業生産、ニューヨーク連銀製造業景気指数やミシガン大学消費者態度指数等となります。
詳細は下記のリンクでご覧ください。
詳細は主要経済指標(2022年7月11日~15日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
ブリオンボールトは5月20日から大英図書館で始まる「金(Gold)」のエキジビションのスポンサーをさせていただいています。ご興味があれば下記のリンクでご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2022年7月4日~8日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2022年7月11日~15日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2022年7月4日)景気停滞懸念で株、銀、債券、銅が上半期下げる中で金は1800ドルを維持 -
【金投資家インデックス】2022年の株価低迷の中金投資は堅固に推移
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ジョンソン首相の辞任を求めて多くの閣僚が辞任し、そしてついに昨日はジョンソン首相が辞任したことが大きく伝えられています。
そのような中、本日は安倍晋三元首相の死去のニュースが英国メディアでもトップニュースで伝えられています。
弊社経営陣を含むスタップもこのニュースに驚いており、安倍首相のご逝去を悼み、心から哀悼の意を表します。
それでは、今週はジョンソン首相が辞任せざるを得なくなった経緯を簡単にまとめてみましょう。
1. ロックダウン中のパーティー問題
昨年来ここでもお伝えしている、新型コロナ感染を防ぐための厳しいロックダウン下で、首相官邸や官僚事務所でパーティが行われたことに対し、独立機関による調査でパーティーが行われていたことが事実とされ、ジョンソン首相及び当時のスーナック財務相は警察による捜査後罰金を課されましたが、ジョンソン首相はこの結果が発表されるまで長期間にわたりパーティが行われたことを否定し、結果が発表されても辞任を否定していました。
2. 下院議員の倫理規定の審査ルールを改正を試みる
昨年11月にオーウェン・パターソン下院議員が関連企業に便宜供与したロビー活動が議会規則違反にあたると議会基準委員会が報告し、30日間の議員資格停止処分が勧告された事に対し、政府が議員行動を審査する同委員会の手順が不公平として、見直しを議決していました。しかしその後、与党内からも強い反発が起こり方針を急遽転換。
3. 2選挙区の補選で敗れる
総選挙前に行われる補欠選挙では、有権者が与党へのお灸的投票をして、敗北するケースは多いものの、度重なる不祥事が要因と考えられていた模様です。この結果を受けて与党共同議長のオリバー・ダウデン氏が責任をとり辞任。
4. 前院内副幹事の任命に関する疑惑
クリス・ピンチャー前院内副幹事は、痴漢行為などの問題行動で6月末に辞任へ追い込まれていましたが、ジョンソン首相が任命する前に問題行動があることを報告受けながらも同職に任命をしたという疑惑が報道されたことに対し、パーティー疑惑同様に、その事実を否定し続けた結果、今週になって一転事前に報告を受けていたことを認めたこと。
そこで、ジョンソン首相の援護に入っていた閣僚もこれまでの積み重ねがある中で、流石に先の4の事実は受け入れ難かったようで、5日にジャビド保健相とスーナック財務相が辞任を提出後に雪崩のように閣僚からの辞表が出されることとなりました。
現段階はジョンソン首相は次期首相が選出されるまでは「世話役」として首相として継続任務するとされていますが、一部与党議員と野党は即座に辞任してドミニク・ラーブ副首相が「世話役」首相となるべきという声も上がっています。
2019年に行われた前回総選挙で、ジョンソン首相が率いる与党は欧州連合からの離脱を2020年1月末までに実行することを公約として、大幅に議席を増やし単独過半数を獲得したものの、先の1、2、4等の不祥事とその対応の悪さ、それを問題とも見ていないジョンソン首相のモラルの欠落が結果的には彼が退陣せざるを得なくなった要因であるように思います。
秋には選出される予定の次期首相が、有権者と同等水準のモラルを少なくとも持ち合わせた人となることを望みたいと思います。