ニュースレター(2022年6月10日)40年来のインフレ高で金は一週間ぶりの高さへ
来週から私は日本に一時帰国の予定です。そこで、来週から3週間ほどは簡易版のニュースレターとなることをご了承ください。
週間市場ウォッチ
今週水曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1832ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)からほぼ1.4%安と2週連続の下げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から2%安でトロイオンスあたり21.58ドルとやはり2週連続の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から5.0%安のトロイオンスあたり969ドルと3週ぶりの下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は4.9%安のトロイオンスあたり1905ドルと2週連続の下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週市場は昨日の欧州中央銀行の金融政策発表と本日の米国5月消費者物価指数に注目する中でレンジ内で動いていました。
これまでもここで述べてきたように、高インフレはインフレヘッジの役割を持つ金、そして金ほどではないものの銀にとっては追い風となるものの、主要中央銀行の政策金利引き上げは、金利を生み出さない貴金属にとっては向かい風となります。
そこで、この2つの要因によって異なる方向へ引かれることでレンジ内の動きとなっていました。
欧州中央銀行は、予想通り来月からの0.25%の金利引き上げを示唆し、7月1日からの量的緩和引き締めを発表しましたが、これは米国中央銀行のFRBが示唆している6月と7月続けての0.5%引き上げを下回るもので、米長期金利が上昇しドルも強含んだことで、昨日発表後に貴金属はほぼすべて押し下げられていました。
本日の米消費者物価指数は3月の40年来の最高値の8.5%を上回る8.6%と4月の8.3%でインフレがピークアウトした観測を後退させるものとなったことで、米長期金利がひと月ぶりの高さへ上昇したことで、一時貴金属は押し下げられたものの、その後金は下げ幅を取り戻して前週末比上昇となっています。
しかし、高インフレによる速いペースの利上げによる景気後退懸念からも、より工業用途の多い銀、プラチナ、パラジウムの上げ幅はそれぞれロンドン時間午後4時半の段階で前週終値比、LBMA価格比よりも下げ幅を縮めているものの0.6%安、4.6%安、3.2%安と頭を抑えられています。
なお、ドルインデックスがほぼ1月ぶりの高さへ強含んだことで、他の主要通貨建て金価格は本日急騰しており、前週終値比ドル建てで0.6%高である中で、ポンド建てで2%高、ユーロ建てで2.6%、円建てで3.2%高と急騰しています。
今週のチャートは再び今週20年ぶりの安値を更新した日本円建て金相場の動きをご覧ください。本日の最高値のgあたり8043円は、今年4月18日の史上最高値の8174円を1.6%下回るのみと高い水準となっています。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場はロンドン時間昼過ぎまでは前週終値比上昇分を維持してトロイオンスあたり1850ドル前後を推移していましたが、その後長期金利が5月半ば以来の3%を超えて上昇し、ドルも強含んだことで、1839ドルで終えていました。
この長期金利とドルの上げは、FRBによる速いペースの利上げ観測が前週の米雇用統計が予想を上回っていたことからも広がっていたころからでした。
また、世界株価は中国がよりコロナ規制を緩和する方向を示したことや、中国配車アプリの滴滴出行(ディディ)等の中国企業への規制を緩めることが伝えられたことで上昇していたことから、金からの資金の流出が促されていた模様です。
火曜日金相場はトロイオンスあたり1853ドルと、ほぼ前週終値の水準へと戻し、前日の下げ幅を取り戻すこととなりました。
これは、前日金を押し下げた1月ぶりの高さの長期金利と強含んだドルが同日多少ながら下げていたことがこの背景となりました。
これは、同日米株価が小売大手のターゲットが利益率が低下する見込みと発表し、消費関連株を中心に売りが先行していたことが要因となりました。
また、今週は木曜日に欧州中央銀行の金融政策発表、金曜日に米消費者物価指数の発表があることからも、動きが取りにくい状態となっていました。
水曜日金相場はドルと長期金利が高止まりする中で、トロイオンスあたり1859ドルへと一時上昇した後に、1852ドルへ戻して終えていました。
この背景は欧州金融大手のクレディ・スイス・グループが2022年第2四半期に赤字に転落する見通しを発表し、企業収益悪化の懸念からもダウ工業株30種平均が3営業日ぶりに反落し、リスクオフ基調となっていたことからでした。
しかし、その後長期金利が上昇し、ドルが強含んだことで金は上げ幅を多少失うこととなりました。
木曜日金相場は、注目の欧州中央銀行の政策金利発表が行われ、予想通り7月に量的緩和を終了し、同月中に0.25%の利上げに踏み切る方針が発表され、ユーロ圏国債利回りが上昇し、米長期金利もひと月ぶりの高さへと上昇したことで、トロイオンスあたり1840ドルへと一時押し下げられていました。
しかし、この水準では買いが入るようで1847ドルへ戻して終えていました。
この間ユーロは、ECBの利上げペースが市場が予想するFRBの今月及び来月の0.5%利上げに劣るものであることから対ドル弱含み、ユーロ建て金価格はトロイオンスあたり1739ユーロと0.6%上昇して終えていました。
本日金曜日は、市場注目の5月の米消費者物価指数が発表され、前年比8.6%と3月の8.5%の40年ぶり水準を更新したことから、金相場は長期金利の上昇で一時1827ドルまで下げたものの、その後ロンドン時間夕方に1858ドルと下げ幅を取り戻して前週比終値を上回る水準で推移しています。
その他の市場のニュ―ス
- 貴金属専門コンサルタント会社のMetals Focusが今週水曜日に発表した最新の金の需給レポートによると、2022年の供給は前年比2%増、需要は2%減で、2022年の金価格平均は1830ドルを予想し、これは史上最高値とのこと。ちなみに2021年の平均価格は1779ドルで、これも過去最高値となります。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週31日火曜日に、FRB高官のタカ派的コメント、原油価格の高騰、ユーロ圏の予想を上回る消費者物価指数で、主要中央銀行の速いペースの利上げによる景気後退懸念で株価が下げ、ドルインデックスと長期金利が上昇する中で、金を除くすべての貴金属でネットロングポジションを増加、もしくはネットショートポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、19%減の195トンと前週5週ぶりに増加後減少していたこと。この間金価格は前々週比1.6%安。建玉においては、前週比11%減。
- コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、前週2019年6月以来初めてのネットショートからネットロングへ転換し、497トンとなっていたこと。この間銀価格は1.5%安。
- コメックスのプラチナ先物・オプションは、6週連続のネットショートで、そのポジションは20.5%減の8.8トンとなっていたこと。この間プラチナ価格は0.8%高。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは10週連続でネットショートで、8.4%減の4.9トンと1月18日の週以来の大きさから減少していたこと。この間価格は1.8%高。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに5月25日以来初めて資金の流入を見たものの、0.6トン(0.1%)減で1065トンと、2週連続の残高減少傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、やはり昨日5月25日以来の資金流入があったものの、今週木曜日までに1.2トン(0.2%)減で517トンと2週連続の残高減少傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高も、5月4日以来初めて資金の流入が昨日あったものの、今週木曜日までに60トン(0.35%)減の16,959トンと5週連続の週間での減少傾向となっていること。
- 金銀比価は、今週83台前半で始まって5月20日以来の低さをつけたものの、本日は85台半ばの高さと今月最も高い水準となっていること。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、900を割った水準であるものの本日は870と今月一番の高さで推移していること。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週1000ルを割り951と1月19日以来の低さ。
- 上海黄金交易所(SGE)の水曜日までの週平均は2.79ドルと前週の3.37ドルのプレミアムから上昇していたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの取引量は、今週木曜日までの平均で、前週比金が19%減、銀が22%増、プラチナが10%減、パラジウムが12%減であること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週金相場は、本日のECBの政策決定会合後の発表とともに、米消費者物価指数、そして引き続き企業決算結果を受けた長期金利とドルの動きに反応をしていますが、来週は主要中央銀行の金融政策発表がたてつづきありますので、この内容に市場は注目することとなります。
そこで、水曜日のFOMC終了後の政策金利発表とパウエル議長の記者会見の内容、木曜日のイングランド銀行金利発表、そして金曜日の日銀の金融政策決定会合後の発表内容が重要となります。
その他の金曜日にはユーロ圏の消費者物価指数も発表され、40年来の高インフレがピークアウトしているのか等、注目指標となります。
詳細は主要経済指標(2022年6月13日~17日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
「インフレが急騰する中で金価格は史上最高値の2075ドルを超えるのか」という英主要経済サイトのThis is Money記事で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。
ここでエィドリアンは「金価格は2つの相異なる要因に挟まれて3ヶ月前とは異なり下げている」と述べ、記録的なインフレが上昇要因でありながらも、金利を産まない貴金属にとって金利の上昇は下げの要因となることを説明しています。
ブリオンボールトは5月20日から大英図書館で始まる「金(Gold)」のエキジビションのスポンサーをさせていただいています。ご興味があれば下記のリンクでご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2022年6月6日~10日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2022年6月13日~17日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリレポート(2022年6月6日)FRBによる利上げとインフレの綱引きの中で、金ETFの残高は減少
- 【金投資家インデックス】度重なる危機の中で金価格は下落し、金投資需要は増加
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、先週のプラチナムジュービリーの様子、ボリス・ジョンソン首相の不信任投票の結果について、そしてウクライナ戦争でロシアの捕虜となった英国人が死刑判決を受けたこと、そして英国政府が違法移民をルワンダへ移送する政策が違法がどうかを審議する裁判について大きく伝えられています。
そこで、本日は先週に続きプラチナムジュービリー関連ですが、国営放送のBBCがプラチナムジュービリーの王室関係者の最高の瞬間トップ6とランク付けして伝えていましたので、ご紹介しましょう。
1. ウィリアム王子とキャサリン妃の2男ルイ王子のお茶目さ
初日2日木曜日の英空軍による儀礼飛行時に、バッキンガム宮殿のバルコニーに観衆に答えるために現れたエリザベス女王陛下の隣で子供らしい様々なお茶目な表情を見せたルイ王子、そして最終日5日日曜日のプラチナム・ジュビリー・パジェントのパレードでチャールズ皇太子の膝の上に座ったり、キャサリン妃の前でかなりやんちゃな行動をしていた彼にすっかり英国の人々は魅了されたようです。ただ、一部しつけが十分でないという声も出ているようでしたが。
2. エリザベス女王がウィンザー城で行ったかがり火の点灯である「ジュービジー・ビーコン」
直前まで体調不良などが心配されていた女王陛下が同日の行事を無事こなされたことで安堵感もあったようです。
3. ヘンリー王子とメーガン妃が2年ぶりに英国の公式行事に参加したこと
2日目の行事であるセントポールだ聖堂での特別礼拝に参加され、メーガン妃が選択した洋服がクリーム色の落ち着いたものであったことで、控えめさが好感されていたようです。
4. エリザベス女王とパディントンベアのお茶の模様
これは、最終日のパレードの後のコンサートの始まりに放映されたビデオですが、英国人がこよなく愛するパディントンベアが女王陛下と一緒にお茶をし、女王陛下がパディントンベアの大好物のマーマレードサンドイッチをハンドバックに入れてい持ち歩いていると話すユーモアあふれたものとなっています。因みに、このビデオの後に著名英スーパーマーケットではマーマレードの問い合わせが急増したとのことです。
5. チャールズ皇太子のお礼の挨拶
3日のバッキンガム宮殿前のコンサートで国民代表としてエリザベス女王へ祝いの言葉を述べる際に、まず「女王陛下、そしてお母さん」と親しみを込めて呼びかけたことで、観衆から大きな歓声が上がっていました。
6. 最終日に女王陛下がバッキンガム宮殿のバルコニーに現れたこと
プラチナムジュービリーの4日間の中日2日間は移動時の不快感を理由に参加されなかった女王陛下が最終日のパレードの際に再びバルコニーで観衆に答えたことで、多くの人々は安堵されたようでした。
4日間という長い祝賀行事を無事終えた女王陛下が少しのんびりできる日々があることを願うばかりです。