金市場ニュース

ニュースレター(2022年3月4日)ウクライナ情勢悪化でユーロ建て金相場は史上最高値を更新

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1951ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から3.5%高と昨年1月以来の高さつけています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から4.1%高でトロイオンスあたり25.20ドルと5週連続の上昇となっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.8%高のトロイオンスあたり1095ドルへと上昇しています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は28%高のトロイオンスあたり2969ドルとほぼ史上最高値へと大きく上昇していました。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属価格は、ウクライナ情勢の緊張が高まったことで、ユーロ建てでは金は史上最高値を更新し、主要通貨建てにおいて全ての貴金属で数カ月ぶりの高さへと上昇することとなりました。週初めはロシアへの経済制裁が世界経済へ与える悪影響の懸念でリスクオフ基調が強まりましたが、本日のロシアによるウクライナの原子力発電所への攻撃は経済へのインパクト以上に欧州諸国が巻き込まれる地政学リスクへの懸念を更に高めることとなりました。

なお、今週パラジウムは世界最大の産出国であるロシアへの経済制裁で供給が絶たれる懸念が高まり、二桁の上昇をし、本日ロンドン夕方にはトロイオンスあたり3000ドルを超えて史上最高値を更新しています。

今週のチャートとしては、ロシアの中銀が経済政策を受けて、金準備を増加させることを週末発表していますので、ロシアの金準備の推移のチャートを下記に添付します。

ロシアは、2014年のクリミア半島制圧後に西側諸国による経済制裁からも、年間200トン近い金を2019年まで積みまして、昨年末の段階で約2300トンと世界の中央銀行の中では中国を抜いて第5位となっています。この背景は、経済制裁で売却ができない国内の金産出分を中央銀行が購入するということですが、それとともに金を含む外貨準備のドル建て資産の割合を減少させるという近年行っていた政策を再開したということとなります。

ロシアと中国の金準備の推移 出典元 ワールドゴールドカウンシル

日々の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は、週末からロシア向けのより強化な制裁が発表されたことから、市場明けにドル建てで2%ほど上昇した後、ドルが強含んだことで押し戻されてトロイオンスあたり1905ドルで終えていました。

新たな制裁はロシア中銀の外貨準備使用阻止、ロシアの中銀を含む銀行のSwift国際決済網からの締め出しなどが含まれており、月曜日はルーブルが史上最低へと急落し、ロシア関係のコモディティーである原油、パラジウム等の価格が急騰していました。

また、週末にはロシア中銀がクリミア半島制圧時に行った大規模な金準備購入につづき、金準備増加を開始することを発表していました。

火曜日金相場はトロイオンスあたり1949ドルへと上昇後に1935ドルで終えていました。

これは、ウクライナ情勢緊迫からも、世界株価が全般下げていたことで、安全資産として金が買われていたことと、ドルも安全資産として買われて強含んでいる中で、国債も買われて長期金利が6週ぶりの低さへ下げていたことも背景となっていました。

また、長期金利の下げは、ウクライナ情勢悪化による経済への悪影響懸念からも、FRBによる3月のFOMC時の利上げが0.5%の予想が前週の40%超えの確率から2%へと、急激に下げて、0.25%利上げ確実視されていることも背景となっていました。

水曜日金相場は、前日に続きトロイオンスあたり1950ドルをトライしたものの超えられず、ロンドン時間夕方に1929ドルで終えていました。

この背景は、同日行われたパウエルFRB議長の議会証言で、「今月の会合で利上げが適切」、「0.25%の利上げを支持する」と述べたことが伝えられたことで、ウクライナ情勢で利上げ無しの観測も広がっていたことから、金融関連株を筆頭に株価が反発し、国債が売られて利回りが上昇したことが背景となりました。

また、同日発表の米雇用統計の先行指標と見られているADP全国雇用者数は、予想の28.8万人を上回り47.5万人で、前回の-30.1万人も50.9万人へと大幅に上方修正されたことも、リスク資産の上昇をサポートすることとなりました。

木曜日金相場は、トロイオンスあたり1930ドルを一時割っていましたが、1947ドルと前日終値比上昇で終えていました。

これは、ウクライナ情勢への懸念、ブレント原油がバレルあたり119ドルと9年ぶりの高さをつけたことによるインフレ懸念が金をサポートする中で、前日のパウエル議長の3月のFOMCでの0.25%の利上げが示唆されていることからもドルインデックスが一時2020年6月以来の高さに上昇することで金の頭を抑えるという綱引き状態であったようです。

そのような中でイールドカーブはより平坦化しており、経済の先行き値の懸念は広がっていました。

本日金相場は、ロシアのウクライナ原子力発電所攻撃のニュースでリスクオフが広がって株価とユーロが大きく下げ、ユーロ建てで金相場はトロイオンスあたり1798ユーロと史上最高値を更新していました。

ユーロは対ドル2020年5月以来の低さで、週間の下げ幅は7年ぶりとなっています。

この間ドル建て金相場は、トロイオンスあたり1962ドルへと2月24日以来の高さを一時付けていました。

本日は平常時には重要指標である米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数が67.8万人と予想の40万人と前回修正値の48.1万人を上回っていましたが、米長期金利はウクライナ情勢によるリスクオフで1.7%へと下げて、2月半ばにFRBの利上げペースが早まる観測からも30ヶ月ぶりの高さをつけていた水準から0.3ポイント低くなっています。

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • ロシアのウクライナ侵攻を受けた経済制裁による、ロシアからの供給不足懸念から、ブレント原油が3日に9年ぶりの高さへ上昇したこと。アルミニウムが過去最高値、ニッケルはほぼ10年ぶりの高さ、亜鉛は15年ぶり、小麦は14年ぶりの高値をつけていたこと。

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週22日火曜日にウクライナ情勢の緊張が高まる中で、パラジウム以外の貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、28%増の501トンと3週連続で増加し、11月16日の週以来の大きさへと増加していたこと。この間金価格は前々週比2.8%高。建玉においては、前週比2.8%増と3週連続で増加していたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週から3.1%価格が上昇する中で、48%増で4,057トンと3週ぶりの高さとなっていたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、前週プラチナ価格が7.1%前々週比上げていた際に、5週連続でネットロングで157%増の24トンと、11月16日以来の高さとなっていたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは24週連続でネットショートで、0.004トンと、引き続きほぼ最小のネットショートであったこと。この間パラジウム価格は7.3%高。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの週間で23.2トン(2.2%)増で1,050トンと、昨年6月半ば以来の高い規模で、4週連続の週間の増加傾向であること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までの週で5.29トン(1.06%)増で503.5トンと、昨年7月初旬以来の高さであること。なお、2月4日以来残高減少は無し。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに6.17トン(0.04%)減の16,987トンと、2週連続の週間の減少傾向であること。

  • 金銀比価は、78前半で始まり、水曜日と木曜日に76まで下げた後に本日は77前半を推移していること。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消)

  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週840で始まり、徐々に上昇して860で終える傾向。2021年平均は708.82で5年平均は564.76。

  • プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、1428ドルで始まり、本日は1725ドルと昨年7月以来の高さとなっていること。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対して今週プレミアムで、人民元が対ドル2018年4月以来の高さへ週後半強含み、人民元建て金価格が2021年1月以来の高さに本日上昇する中で、週間の平均が3.67と前週の4.11から下げていたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドルのプレミアム。

  • コメックスの金と銀とプラチナとパラジウムの先物・オプションの取引量は、今週ウクライナ情勢悪化で価格が緩やかに上昇する中で、週間平均が28%、47%、16%、62%へと前週比減少していたこと。これは、前週がそれぞれ4週ぶり、1年ぶり、5ヶ月ぶの高さとなっていたことからで、金とプラチナは引き続き前年平均を上回って推移。

来週の主要イベント及び主要経済指標

本日は早朝のロシア軍によるウクライナ南部にある原子力発電所攻撃を受けて、株価が大きく下げてユーロが対ドル弱含み、ユーロ建て金相場が史上最高値を付けていますが、来週もウクライナ情勢に市場は注目することとなります。また、再来週にFOMCを控えて、FRBの金融政策に影響を与えると思われる木曜日の米消費者物価指数、そして、同日の欧州中央銀行政策金利も注目指標となります。

詳細は主要経済指標(2022年3月7日~11日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

ゴールドニュース:ゴールド関連ニュースを日本語で網羅しているこのサイトで、弊社が毎月発表している金投資家インデックスの2月分の詳細記事「ロシアのウクライナ侵攻による金価格急騰で 金地金現物の売却が進み金需要減少」が掲載されました。

ファイナンシャル・タイムズ:毎年同紙が発表している、欧州を基盤とする企業の成長ペースをランク付けした2022年のトップ1000企業のリストでブリオンボールトが972番にランクされています。

大英図書館:5月20日から始まる新たなエキジビションの「Gold」をブリオンボールトがサポートさせていただくこととなりました。ここでは、歴史的に金が使われた写本や本が展示されるとのことです。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続きウクライナ情勢、そして関連の経済制裁、そしてスポーツや経済界でもロシア選手や企業への制裁等もトップニュースで伝えられています。

そのような中で、多くのチャリティー団体がウクライナの人々をサポートするために動き出すとともに、様々な場所でウクライナのサポートを行っていますので、ご紹介しましょう。

まず、英国の多くの都市ではウクライナの国旗の青と黄色で首相官邸やロイヤル・フェスティバル・ホール、ロイヤル・オペラ・ハウス等の著名な建物をライトアップしています。

英国政府とロンドン市は、どのようにウクライナのサポートができるのかというサイトを立ち上げ、チャリティー関連の情報を提供しています。

そして、本日は英国のDisasters Emergency Committeeという、英国赤十字を含む著名な15のチャリティー団体が共に立ち上げた組織で、一日で5500万ポンド(83億円ほど)の寄付を集めたことがニュースになっていました。

この団体には、エリザベス女王、チャールズ皇太子、ウイリアム王子と英国王室の3世代がそれぞれ寄付をしたとのことです。

また、英国政府も人々の寄付金と同額を寄付するというスキームで2000万ポンドの寄付をしたとのこと。

すでに100万人のウクライナの人々がロシア侵攻下にあるウクライナから国外に避難しているとのことから、この寄付金はそれらの人々を含むウクライナの人々のために使われるとのことです。

生まれ育った国から、他国の侵攻のためにやむを得ず去らなければならない人々を思い、同じ欧州に暮らす人間として、何かをせざるを得ないと思う気持は共通するものがあります。

状況改善の糸口は未だ見えていませんが、実質的なサポートをせめて行おうと思います。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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