ニュースレター(2022年3月25日)長期金利が2年ぶりの高さへ急騰する中で金は安全資産の需要で週間の上昇を記録
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1953ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.9%高と上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.5%高でトロイオンスあたり25.62ドルと上昇しています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.9%安のトロイオンスあたり1015ドルへと3週連続で下げています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は1.2%安のトロイオンスあたり2505ドルと3週連続で下げています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は金と銀においては、ウクライナ情勢長期化による高インフレの懸念、そして長短金利の平坦化が示唆するとされる近い将来の景気の後退への懸念による安全資産的需要の増加で上昇し、プラチナとパラジウムにおいては、景気後退懸念による工業需要減少懸念で下げるという二極化傾向を見せることとなりました。
ちなみに、今月に入り特に金への需要の高さを見ることができるのは金ETFの残高の推移ですが、世界最大の金ETFのSPDRゴールドシェアと第2規模のiShareゴールドはそれぞれ、7週と4週連続で週間の残高増を記録しており、特にSPDRゴールドシェアの今月の増加量は約59トンと、史上最高値を付けた2020年8月の直前の7月の月間増加量63トンに次ぐ量と急増し、2021年2月末以来の高さとなっています。そこで、SPDRゴールドシェアの残高の推移を示すチャートを今週のチャートとして下記に添付します。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場はロンドン時間昼過ぎに伝えられたパウエル議長のコメントで金融市場は大きく動き、トロイオンスあたり1931ドルへと上昇して終えていました。
そのコメントはインフレ抑制のためには0.5%の大幅利上げを排除しないというもので、これを受けて米株価指数は全般下げて反応し、長期金利は上昇していたものの、景気後退の前兆とされている2年物と10年物国債の利回りの差が20ベーシスポイントを割って平坦化が進んでいたことからも、金相場をサポートすていた模様です。
火曜日金相場は、前日のパウエルFRB議長のタカ派的コメントで長期金利がさらに上昇する中で、トロイオンスあたり1918ドルと今週の上げ幅を失って更に下げて終えていました。
同日は前日のパウエル議長の発言で直近の金利に影響を受けやすい2年物利回りは2.16%まで上昇し、10年物も2.38%と2019年5月以来の高さとなっていました。
金利を産まない金にとって金利上昇はネガティブですが、高インフレ、スタグフレーション、地政学リスクへの懸念もあり、下げた際の買いが入ることで金のサポートとなっていました。
水曜日金相場は、欧州株が5営業日ぶりに下げるなど、世界株価が全般下げる中で、トロイオンスあたり1946ドルへと上昇して終えていました。
この間、前日2019年5月以来の高さに上昇した米長期金利も若干下げていたこともあり金を押し上げることとなりました。
株価の下げは、本日再び原油価格がブレントとWTIが共に4%を超えて上昇しており、経済への悪影響の懸念と分析されていました。
これは、欧州訪問中のバイデン大統領がロシアへのさらなる経済制裁を欧州諸国と協議しており、原油への制裁観測が広がっていたことが背景となりました。
木曜日金相場は、世界株価が全般上昇する中で、トロイオンスあたり1962ドルと前日終値0.8%高、前週終値2.1%高と上昇していました。
この株高の背景は、同日発表された米新規失業保険申請件数が1969年以来の低い水準で、米製造業PMIの7ヶ月ぶりの高さであったことで、米経済の底強さがFRBによる利上げペースの加速の中でも十分耐えうるという認識となっていたようです。
同日米長期金利も多少ながら上昇し、火曜日に達した2019年5月以来の高さに近づく中で金が上昇していたのは、雇用が好調による賃金インフレ観測、そして高インフレへの懸念広がったことが背景となりました。
また、バイデン大統領が欧州訪問しロシアへの経済制裁について協議する中で、ロシア中銀が保有する金準備も制裁の対象と確認されたことで、2000トンあまりの金が市場に放出される懸念も後退したことも金をサポートしたとも分析されています。
ちなみに、日本円は対ドル今週急落していますが、日本円建て金相場は、3月初旬に更新した史上最高値を更に更新し、同日gあたり7730円を記録していました。
金曜日金相場は、長期金利が2019年4月以来の高さへと上昇する中で、トロイオンスあたり1956ドルと前日終値比押し下げられて推移しています。
この間株価は金利上昇からもテクノロジー株が下げ、原油の上昇が嫌気されてS&P500種も当初の上げ幅を削っていることは、金のサポートにはなっている模様です。
金利の上げは、今週のFRBメンバーによる速いペースでの利上げ支持のコメントなどから、FRBによる速い利上げペースを織り込む中でのことですが、その結果2年物と10年物国債の利回りの差が再び17ベーシスポイントへと下げており、近い将来の景気後退の懸念は金を支えている模様です。
また、原油価格の上昇は、イエメンのフーシ反政府勢力によってサウジアラビへの攻撃が激化する可能性が背景とされています。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週15日火曜日にリスクオン基調で世界株価が上昇し、米長期金利が2019年7月以来の高い水準へと上昇した際に、全ての貴金属で強気ポジションが減少していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、16%減の459トンと2020年7月以来の高さから5週ぶりに減少していたこと。この間金価格は前々週比6.2%安。建玉においては、前週比6%減と5週ぶりに減少。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週から5.7%価格が下落する中で、1.6%減で7,537トンと2020年2月25日の週以来のの高さから減少していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションは、前週プラチナ価格が12.6%前々週比下げていた際に、8週連続でネットロングで40%減の24トンと、2021年2月16日以来の高さから減少していたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは3週連続でネットロングであったものの、45%減の1.5トンで、昨年9月7日の週以来の高さから下げていたこと。この間価格は19.4%安と前週の史上最高値のトロイオンスあたり3000ドルから下げていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの週間で5.2トン(0.5%)増で1,088トンと昨年2月後半以来の高い水準で、7週連続の週間の増加傾向であること。3月の増加量は50トンを超え、2020年7月以来の高い水旬。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までの週で3.9トン(0.8%)増で515トンと4週連続の週間の上昇傾向。その規模は、昨年3月末以来の高さであること。なお、2月4日以来残高減少は無し。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに63トン(0.4%)増の17,179トンと、2週連続の週間の増加傾向であること。 -
金銀比価は、火曜日に77を超えた以外は全般76台で推移。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週900ドルから935ドルへと上昇し、2021年11月以来の高さとなっていたこと。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。 -
プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、1500ドルで始まり1400ドル代へと下げて終える傾向。ウクライナ危機で3月初旬に2000ドルを超えた水準から下げていたものの、今年1月には1000ドルを割っていたこと。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対して火曜日に一時ディスカウントとなったものの、週の大部分はプレミアムで推移し、週平均は1.64ドルのプレミアムと、前週の3.18ドルのディスカウントから転じていたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドルのプレミアム。 -
コメックスの先物・オプションの取引量は、前週比金で2%、銀2%、プラチナ16%、パラジウム49%減と、前週同様に前前週にそれぞれ数週間から数カ月ぶりの高さを記録していた水準から2週連続で減少していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は、ウクライナ情勢に加えて、パウエルFRB議長の50ベーシスポイント利上げの可能性が示唆されたコメントで市場が動くこととなりましたが、来週も引き続きウクライナ情勢、そして主要中央銀行の金融政策に影響を与える経済指標で市場は動くこととなります。
そこで、金曜日の米雇用統計が最大イベントですが、その先行指標の水曜日のADP全国雇用者数、第4四半期GDP、木曜日の米個人消費支出データ(PCE)、金曜日のユーロ圏消費者物価指数等は重要となります。
その他詳細は、主要経済指標(2022年3月28日~4月1日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
日本貴金属マーケット協会(JBMA)のYouTubeチャンネルのプラチナ投資関連番組で、昨年10月に続きお話をさせていただきました。今回は特に「ウクライナ危機下の欧州貴金属投資動向」として弊社顧客動向も含めて解説しています。
米主要経済サイトのMarketWatchの「ロシア中央銀行によるの金取引を防ぐ努力に関して専門家の意見を聞く」の記事で、弊社リサーチダィレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
この記事では、今週木曜日に米国がロシア中銀による金関連取引を経済制裁に含むとしたことに対し、金市場への影響などを専門家へ尋ね、エィドリアンの「ロシアの膨大な金準備はウクライナ戦争を経済的に支えることが理論的には可能だが、売却先を見つけるのは困難だろう。」というコメントがまず引用されています。
そして、「ロシアは2021年に世界の地金市場の中心のロンドンで流通している金の25%を供給しているものの、すでに地金専門市場や先物市場はロシア産の新たな金の流通を禁止しており、今週の取り決めが大きな影響を与えるとは思えない。」とし、「しかし2014年のクリミア半島併合時の経済制裁でロシアからの供給が絶えた際に市場に影響を与えなかったものの、今回の経済制裁のニュースの見出しはコモディティ全般の供給懸念から価格を引き上げている。」いうコメントも紹介しています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2022年3月21日~25日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2022年3月28日~4月1日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2022年3月21日)金先物のネットロングが減少し金ETFが増加する中で金は上昇
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週も英国のニュースはウクライナ情勢がトップで伝えられ、新型コロナウィルスのオミクロン感染が英国全土で再び急激に広がっていること、また今週発表されたスナク英財務相によるエネルギー価格高騰への対応策なども大きく伝えられています。
そこで、今週は英国のエネルギー価格の高騰の背景と、発表された対応策について簡単に紹介しましょう。
エネルギー価格高騰は世界で起きており、その背景は①パンデミック後に経済活動が正常化することによるエネルギー需要の急増、②パンデミックによるサプライチェーンの毀損、③ウクライナへのロシア侵攻に対する経済制裁によるロシア産エネルギーの供給減が主要な理由となります。
英国においてはそれに加え、④2020年が厳冬で備蓄量が減少、⑤コロナ下で保守計画が延期されて2年分の補修が行われた稼働休止期間の長期化、⑥原子力発電の老朽化、⑦悪天候で風力、太陽光発電供給量減少、⑧備蓄施設が政府の補助金切れで閉鎖等、悪条件が重なったことも背景となりました。
英国は消費者保護の目的でエネルギー価格上限を設置し、年に2回2月と8月に見直し4月と10月に上限を発表しています。今年2月の見直しで4月からの上限は標準的な家庭のガス・電気使用量の場合、54%の引き上げ(年間1971ポンド/約30万円)になることが伝えられていました。
そこで、今週発表された2月の物価上昇率は30年ぶりの高さの6.2%とされていましたが、政府の予算責任局(OBR)の見通しでは、今年更に上昇して今年平均は7.4%と予想されています。
今週発表された家計の負担を和らげるための施策は下記のようになります。
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4月からの社会保険料引き上げは予定通り実施するものの、課税最低所得を7月から2700ポンドへ引き上げる。 -
燃料税減税として今後1年間1リットルあたり5ペンス引き下げ。 -
所得税の主要減率は2024年に20%から19%へ引き下げ。
野党労働党や消費者保護団体は、先の対応策が十分ではないと批判し、少なくとも4月からの社会保険料引き上げを延期すべきとしています。しかし、政府にとってもパンデミック中に経済を支えるために行った様々な施策による財政悪化の中で、コロナ患者対応のために、他の慢性疾患患者等のウェイティングリストが巨大なものとなっている国民保険サービスや、疲弊化している社会保障制度を立て直すための財源としての社会保険料引き上げは必要とのことで、エネルギー価格急騰に対応する画期的な案は生まれていないようです。
しばらくの間は、世界の多くの国々の人同様に英国の人々にとって実質賃金が目減りすることは確実のようです。